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2009.09.14 (Mon)

比翼の鳥 14(最終話)


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新婚生活も三日目を数えた頃、お琴は直樹に黙って、とある場所へと向かった。

「お琴…。」
そこは啓太の家だった。啓太は明日、奈良へと旅立つことになっている。
「ごめんなさい!啓太さん!」
お琴は深く頭を下げた。一度謝らなければいけないと、お琴は思って、そして決意して来たのだった。
「…いいよ、もう。」
啓太はお琴の肩に手を置き、身を起させる。
「お前が…俺を思うのは恋愛感情じゃないことは知っていたんだ。」
「…。」
お琴には何も言えない。
「そして…お前があの医者に惹かれていたことも…薄々知っていたよ。」
「ごめんなさい…。」
何度も謝るお琴。そんなお琴を啓太は黙って見つめる。そして…思い出していた。

昨日、実は直樹が啓太の家を訪れていた。
お琴を奪ったことを、手をついて謝り、そして言った。
「お琴は…多分明日ここへ来るだろう。勝手な願いだが、あいつを許してやってほしい。そのかわり、俺を殺したいくらい憎んでも構わないし、どれだけ殴りつけてもいいから。頼むから、お琴には冷たい言葉をかけないでやってほしい。」
頭を下げ続ける直樹のいさぎよさに、啓太は憎む気持ちが薄れる。
「いいよ…もう…。お琴が幸せになるならそれが一番だから。」

啓太は頭を下げるお琴の髪を見る。まだ娘のままの髪型なのは、啓太への遠慮だろう。お琴はそういう人間であり、そこが啓太は好きだった。
「…お琴。」
啓太は優しく、お琴の名前を呼ぶ。
「…あいつはきっとお前を幸せにしてくれるよ。」
お琴は啓太の顔を見た。そこには嘘偽りのない、啓太がいた。
「啓太さん…。」
「幸せに、お琴。」
そして笑う啓太。
「啓太さんも…立派な宮大工になってね。ううん、なれるわ!」
「ありがとう。」
啓太は手を差し出した。お琴も差し出し、二人は…別れの握手を交わす。
「あの時…お琴が腹が痛いって騒いだ時に…あの医者が現れたことで分かったよ。二人は離れることができない運命なんだなって。」
お琴の手を握りながら、啓太はそんなことを考えていた。

その頃、お琴の父親の元には、重樹と紀子が訪れていた。
「大事なお嬢さんをお預かりしておきながら…。」
「息子がとんでもないことをしでかしまして…。」
紀子もお琴たちの前ではあんなことを言ったものの、ここは親として、他人の娘を預かっていた身として、きちんとお詫びをしなければと思い、重樹と共に訪れたのだった。
「…頭を上げてくれよ、イリちゃん。」
お琴の父は、かつて幼少時に呼んだ名前で重樹を呼ぶ。
「申し訳ない!」
しかし重樹と紀子は頭を上げようとしなかった。

暫く二人を困った様子で見ていたお琴の父だったが、
「蛙の子は蛙とはよく言ったもんだ…。」
と呟いた。
「蛙の子?」
突然の父親の言葉に、重樹たちは思わず顔を上げた。見るとお琴の父は笑っている。
「実は…俺とお琴の母親も…駆け落ちだったんだ。」
「ええ!?」
紀子が声を上げた。
「女房の親からは、店も持てないような板前に娘はやれないって反対されて。それでも一緒になりたいからって…女房を見合いの席から連れ出しちまった。」
驚く事実に、重樹たちは言葉が出ない。

「でもそのまま、女房は一度も親の顔を見ることなく逝っちまったよ…だから、お琴にはそんな真似させたくはなかったんだけど…。祝言までこぎつけたから胸を撫で下ろしていたら、まさか土壇場でかっさわれちまうとはな。」
そう言うと、お琴の父は声を立て笑った。

「本当に、本当に、うちの息子がとんでもないことを…!」
その話を聞き、重樹たちは再び頭を下げた。
「いいんだ。やはりお琴は俺たちの娘だったってことだし。俺も女房の親と同じ気持ちを味わうことになるってことよ…。」
お琴の父は寂しそうに言った。

「一つ頼みがあるんだが。」
お琴の父が、重樹に言った。どんな頼みだろうと、重樹と紀子は不安になる。
「…お琴を嫁にやる代わりに、俺が具合が悪くなった時は、先生には、一生、ただで診てほしいんだが。何しろ医者代も馬鹿にならないからな。」
重樹と紀子は緊張の糸がほどけた。
「そんなこと…お安い御用だよ。夜明けだろうが、真夜中だろうが、遠慮なく呼びつけてやってくれ。」
そして三人は漸く、心から笑った。

「必ず、お琴ちゃんと直樹、二人揃って挨拶に行かせます。だから…その時は会ってやって下さい。」
紀子がお琴の父に頼んだ。
「そうだな…暫くは噂で大変だから、落ち着いたら顔を見せに来いって言っておいて下さい。」
「はい。」
「…女房の親が俺たちを追いかけて来なかった理由が今になって分かりました。娘が幸せになるのならって許してくれたのでしょうね。」
お琴の父は仏壇に目をやりながら、微笑んで言った。


そして七夕がやってきた。
紀子とお琴が張り切って飾りを作ったため、いつにもまして賑やかな笹飾りとなった。
「はい!これ、みなさんの短冊です!」
既婚女性の髪型、丸髷を初々しく結いあげたお琴が嬉しそうに、家族に願い事を書いた短冊を配る。重樹には「健康祈願」、紀子には「夫婦円満」、そして裕樹には…。
「これは僕への嫌味か!?」
裕樹が怒るのも、もっとも。裕樹の短冊には「武運上達」と書かれている。

「直樹さんと私は二人で一つ!」
嬉しそうにお琴は直樹に短冊を渡す。直樹は短冊を見て目を見張った。
「一番高いところにつけてね!願い事が叶うように!」
お琴が直樹にせがむ。
「…本当につけていいんだな?」
「勿論!そのために書いたのよ?」
お琴は早く早くと、直樹にせがんだ。
「…知らないぞ。」
直樹はお琴の言うがまま、笹の一番高い所に短冊を飾る。飾られた短冊を見て満足な表情を浮かべるお琴をよそに、重樹、紀子、裕樹は直樹同様、目を見張った。
「お、お琴ちゃん…。」
重樹が恥ずかしそうに言う。
「あら、まあまあ…。」
滅多なことには動じない紀子も、さすがに驚いている。
「恥ずかしい奴…。」
裕樹は一番顔を赤くしている。
そして直樹は平然としていた。

「さ、腹が減ったな。」
重樹はわざとらしく言った。
「そうね、お食事、お食事。」
紀子が言うと、お琴が「私も手伝います」と後を追う。が、紀子に「いいからいいから」と止められた。裕樹も両親の後に続いて部屋の中へと入ってしまった。
「どうしたのかしら?皆さん、遠慮してくれたとか…?」
そんなに気を遣わなくていいのにと、お琴は申し訳なく思いつつ、直樹と二人きりになれたことが嬉しい。

「そりゃあ、あんなこと書かれればな…。」
直樹は短冊を見ながら呟いた。
「あんなこと?どこかおかしかった?」
お琴は首を傾げる。
「…お前、あの意味、知っていて書いたんだろうな?」
「勿論、馬鹿にしないでよ!“夫婦いつまでも仲良く”って意味でしょう?」
確かに、あの短冊の言葉にはその意味もない訳ではない。直樹が思った通り、お琴は深い意味を知らずに書いたらしい。

直樹は、自信満々なお琴に、そっと本来の意味を耳打ちした。たちまちお琴は耳まで真っ赤になる。
「外して!直樹さん、お願いだから外して!」
と直樹にしがみついた。
「嫌だよ、面倒くさい。お前が一番高い所に飾れって言ったんだろう?」
「そういう意味だって知らなかったの!お願い!外して下さい!」
「断る。」
お琴は自分で外そうと、笹に手を伸ばすが全く手が届かない。
「直樹さん!」
「…仕方ないな。お前の願いを聞いてやるよ。」
と、直樹は意地悪く笑う。
「意地悪!」
お琴は叫んだ。

笹の上に飾られ、風にそよいでいる短冊…そこには、

『夫婦和合』

と、元気よく大きな字で、墨も黒々と書かれていた。


                                          (終)
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00:15  |  比翼の鳥  |  TB(0)  |  CM(8)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

やっぱり、なんて潔いんでしょう啓太!
二人を許す寛大で優しい心!!
啓太、良い奴!!
きっと他の人と幸せになって欲しいと思わずにはいられません!

直樹とお琴は啓太に謝りに、紀子ママと重樹パパはお琴の父に謝りにと、やっぱり各々のケジメをつけに行きましたね。
しかも、お琴の親も駆け落ちだったとは驚きです!
でも、娘に親に会えない同じ思いはさせたくないと…、無事にお琴の父にも許してもらえるようで良かったね。

最後の『夫婦和合』に、皆が恥ずかしがったり驚く意味とは?
ごめんなさい!!私もお琴同様、無知です!!!
お恥ずかしい!
辞書でまた調べます…

これで江戸版イリコトも見納めかと思うと淋しいです…
まだ、もう少し見ていたかった……
また番外編楽しみにしてます♪(←迷惑な…)
眞悠 |  2009.09.14(Mon) 04:12 |  URL |  【コメント編集】

もう!!啓太素敵!!
きっと幸せになれるよ♪うんうん!!
アイちゃんも過去にいろいろあったのね!
蛙の子は蛙
だから幸せになれるってこともよく知っているのよね
琴子ちゃんも直樹さんも、周りの方々が素敵な方でばかりで
本当に幸せだわ♪
それにしても夫婦和合
直樹さんにしたら、願ったり叶ったりの
願い事だわ!!「そりゃ、天高くつけますよ♪

あ~水玉さん比翼の鳥
こんな奥深い意味があったのですね。
やっぱり水玉さん素敵だわ♪
ゆみのすけ |  2009.09.14(Mon) 09:59 |  URL |  【コメント編集】

★私が奈良についていきます

改めて啓太にほれなおしたケイタスキーです。
すべてが幸せに向かって、そして最後はイリコトらしい締め方で…本当に水ちゃんのテキストはネ申!!!

原作のハートウォーミングな雰囲気がそのままで…是非とも比翼の鳥の続編をお願いいたします。
題名は…連理の枝でいかがでしょうか。
ケイタスキー |  2009.09.14(Mon) 13:29 |  URL |  【コメント編集】

★夫婦和合?

水玉さん、こんにちは。
愈々最終話ですね。
お琴は啓太の許に謝りに来ていますね。
啓太はお琴とは恋愛感情は無かったと。
前日に直樹が啓太の許を訪れていたのですね。
多分お琴が訪ねてくるだろうと。
その時にはお琴には冷たい言葉を言わないで欲しいと。
啓太がお琴にあいつはお前を幸せにしてくれると。
直樹の両親もお琴の父の許へ謝りに。
自分も一緒に成った時駆け落ちだった事を話しましたね。必ず二人で挨拶に行かせるからその時は会って欲しいと。
七夕当日に願い事を、皆さん書いていますよ。
お琴は夫婦和合と書いて一番高い所に飾り付けたようですが。重樹、紀子、裕樹も顔を見合わせ照れています。
直樹がお琴に意味を知っているのかと聞いています。
お琴曰く夫婦いつまでも仲よくではないのかと。
もう一つ意味が有るのですね。(*^^*)
あるところでは、夫婦和合というお祭りも(^^)
お琴はもう顔が真っ赤です。
直樹がこれに便乗してお琴の願いを聞いてあげようと。
直樹もお琴も幸せになれて本当に良かったですね。
啓太にも幸せが来るといいですね。
本当に心温まるお話ありがとうございます。
途中で勘違いをしてコメントを入れた場面もありましたが、流石水玉ワールドです。
今回も引き込まれて読ませて戴きました。
ありがとうございます。
tiem |  2009.09.14(Mon) 15:22 |  URL |  【コメント編集】

無事終了お疲れ様でした。
啓太・・・哀れなヤツ・・・でも潔かった!
今回出番の割にはインパクトのある啓太でしたね。
小石川養生所や大川端、時代劇スキーは大満足です。
番外編あればいいなぁと・・・名残惜しげ・・・デス。
さくや |  2009.09.14(Mon) 16:10 |  URL |  【コメント編集】

★さすが!

ああ、啓太の潔ささすが!私の惚れるのも無理ないです(啓太は迷惑でしょうけど)
相原父にも許してもらえて、よかった。
そしてとうとう七夕を迎え、家族の願いを短冊に書き飾り、自分達には「夫婦和合」と...入江君からもう一つの意味を聞き真っ赤になるお琴。入江家の皆さん、いつまでもお幸せに!
水玉さん、お疲れ様でした。ありがとうございます。
happy endでよかったのですが、終わってしまい淋しいです。出来ましたら、ご都合のいい時にでも、番外編を書いて頂けましたら、とっても×2うれしいです。
最後に勝手なお願いをかいてしまい、申し訳ありません。



るんるん |  2009.09.14(Mon) 17:52 |  URL |  【コメント編集】

★二度目は…

最後まで読んでからもう一度読んだら、笑いが止まらなくなった。
さすがお琴!やってくれるね!!そりゃみんなびっくりするわ(爆笑)
まぁ、直樹はびっくりしつつ、してやったり(ニヤリ)て感じでしょう。
きっと、年に一度の逢瀬を楽しむ天の恋人達より、遙かに熱~い夜を過ごすのでしょうね。
ビバ、和合!!!

啓太の優しさに、やっぱり「アタシならこっちだわ」(笑)
もし可能なら、いつの日か『啓太の幸せ物語』をお願いできたらなぁ…。もちろん、相手は琴子以外で、だけどね(ごめん、啓太!アタシならいつでもウェルカムよ!)
アイちゃんが駆け落ちだったってエピには「おおっ!ナイス!!」と感心してしまったわ~。
いつもながら大団円のすてきなストーリーをありがとう&お疲れ様でした。
アリエルから水ちゃんへ、両手いっぱいの愛と感謝を!! 
アリエル |  2009.09.14(Mon) 18:33 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございました!

コメントありがとうございます。

眞悠さん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
番外編、ありがとうございます!
調子に乗って書いちゃいます!!というか、そう言っていただけることを待ってたので…(笑)
夫婦和合…意味は知らない方がいいような気もします(笑)

ゆみのすけさん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!
天高く…あ、その言葉を聞いて、七夕の夜を番外編で書く気がムクムクと…(笑)
今、ラブラブなイリコトを書くのがマイブームなんです(笑)←どんなブームだ
結果オーライな話は相変わらずで、今後も続きそうです…。またお付き合いくださいね!!

ケイタスキーさん
ありがとうございます!!
最後は、七夕で行くって決めていたので、そう仰っていただけると嬉しいです。
それにしても、この話での啓太人気の凄さに驚きました!冬ソナでいうところの…サンヒョク?(笑)
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!

tiemさん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!
優しいお言葉をありがとうございます。
思っていたより、江戸は大変でした…にもかかわらず、続編を書こうと思う、この図々しさ!
またぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。

さくやさん
もう少し、色々調べないと…と思わされた話でした。
深川とか…。食べ物とか…。
読むのと書くのとでは大違いでした!!
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
番外編を書いた時は、ぜひまた来ていただけると嬉しいです。

るんるんさん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
ああ、ここにも啓太に惚れた方が!本当にすごい人気です!
ぜんぜん、勝手なお願いなんかじゃないです。とても嬉しいです。「やった!これで書ける!」って大喜びしていますので!
その時はまた遊びに来て下さいね!

アリエルさん
そうなの、そうなの。そのシーンを書いてみたいわ…ひっそりと(笑)
駆け落ちエピは、これならお琴ちゃんの父も許してくれるかなあと。許してくれない話は…あっちがあるし(笑)
やっぱり大団円にしてしまいます。基本ハッピーエンド好き人間なので!
読んでくれてありがとうね!
水玉 |  2009.09.19(Sat) 19:03 |  URL |  【コメント編集】

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