日々草子 比翼の鳥 13

比翼の鳥 13


翌朝、目覚めると直樹は一人だった。同じ布団で眠っているはずのお琴の姿はない。さては今までのことは全て夢だったのかと、思わず反対側へ寝返りを打った。そしてある物が直樹の目に止まり、それが夢ではないことを教えてくれる。

そこには…相変わらず下手な生け花が飾られていた。その花を見て、直樹は思わず笑顔になる。
布団から起き上がり、脱ぎ捨てた寝巻を拾い上げて身につける。
襖を開け、次の間へ行くと、お琴が障子の前に座っていた。その姿はいつか直樹が言った、撫子色の着物姿だった。やはり直樹が思った通り、お琴によく似合っている。

ところが、どうもお琴の様子がおかしい。
どうやらまた障子に穴を開けたらしく、千代紙を貼っているようなのだが、どことなくしょんぼりしている。
「また破いたのか…。」
後ろから声をかけると、お琴が振り向いた。
「あ、おはようございます。直樹さん。」
そして笑顔を見せるも、やはり様子がおかしい。新婚一日目の妻の顔ではない。
「私…押しかけ女房だと思われて、呆れられちゃったのかしら?」
しょんぼりしたまま、お琴は直樹に言った。

「髪…。」
直樹はお琴の髪に目をやった。まだ娘の髪型のままだったが、それは結い立てだと一目で分かる。
「あ、おば…じゃない、義母上様が髪結いさんを呼んで下さっていて…。」
恥ずかしそうにお琴が説明した。昨夜、洗い立ての、まだほんのりと湿っていたお琴の黒髪に何度も触れたことを思い出す。恐らくお琴も同じことを思い出しているのだろう。首筋まで、着ている着物と同じ撫子色にたちまち染まった。

「でも…髪結いさんも終わると、そそくさと行ってしまったし。それだけじゃなくて、義父上様も、義母上様も、裕樹さんですら、挨拶しても目を合わせてくれないの…。」
どうやら家族の態度がおかしいらしく、お琴は悲しそうに言った。直樹は俯くお琴を見ていたが、やがて家族の態度の理由が分かった。そして思わず噴き出した。
「え?何?どうしたの?」
笑う直樹に驚いて、お琴が声を上げた。
「来てみろよ。」
お琴の手を引き、直樹は昨夜のうちにこれだけは必要だろうからと、唯一運び込まれたお琴用の鏡台に、お琴の背を向けて座らせる。そして手鏡を持たせ、合わせ鏡をするように言った。

お琴は素直に直樹の言うとおり、合わせ鏡をした。途端に顔を真っ赤にする。
「な、何?これ!?」
お琴が顔を真っ赤にするのも道理、お琴の首の後ろには、昨夜直樹が付けた痕がはっきりと浮かんでいた。
「い、いつの間に!?」
真っ赤になってお琴が直樹に聞く。

直樹はお琴が昨夜眠った後、しばらくお琴の顔を見ていた。
もう誰にも気兼ねすることもなく、ずっと一緒にいられるのだと思うと嬉しさが込み上げて来て…思わず所有の証と言わんばかりに、お琴のうなじのすぐ下に口を付けたのだった。
こんなものを朝から見せつけられたら、誰でも気を遣って目を反らすだろう。

「どうしよう…これじゃ…手ぬぐい巻いているのもおかしいし…。」
困るお琴を見て、
「何なら、前にも付けてやろうか?」
と直樹はからかう。
「それ、余計に変!」
お琴は叫んだ。
白粉をつけようか、いや却って目立つと手鏡を手に、あれこれと悩むお琴の姿を見ていると、直樹は再び、押し倒したくなってきた。とりあえず、手を伸ばしてお琴を抱き寄せる。
「…結い立ての髪ってのは、男心をそそるもんだってことを、初めて知った。」
耳元で、悪戯っぽく甘く囁かれ、お琴は今にも湯気を吹き出すのではないかというくらいに、赤くなっていく。
「またばらばらにしたくなるよな…その髪。」
「い、今、結ってもらったばかりなのに…。」
腕の中であたふたするお琴の首筋に、痕はつけないよう、唇を当てる。
「何なら…今度はそっちが俺の髪をばらばらにする?」
「!?」
これ以上からかうと、お琴は卒倒しそうになるので、直樹はそこで解放してやる。お琴は助かったと言わんばかりに、深く息をついた。

「…直樹さんってそんな人だったんだ。」
お琴は上目遣いで、意地悪と言わんばかりに直樹を睨む。
「知らなかった。」
「そりゃそうだろう。だって俺たちは知りあって三月も経っていないんだから。」
何を今更と、直樹はお琴に言う。
「これからもお前の知らない俺、俺の知らないお前が次から次へと出てくるぜ?」
「私の知らない直樹さん…。」
お琴は少し不安な色を顔に浮かべた。
「だけど。」
「だけど?」
「どんなお前を知っても、俺は嫌いにはならないけどな。」
そして直樹はお琴の不意を突き、口づけをする。お琴の桜色の唇は見る度に引き寄せられ、そうせずにはいられないことを直樹は知った。
「私も…嫌いにならない。どんな直樹さんを知っても。」
お琴はニコッと笑顔を見せた。やっぱり顔を近づけたくなる。今日からはこの笑顔が自分だけのものになるのかと思うと、直樹は嬉しかった。

高揚した気分を落ち着けるため、お琴は、障子に千代紙を貼る作業に戻った。直樹は黙って見ていたが、ふとした考えが頭に浮かぶ。
「貸して。」
お琴から千代紙と鋏を受け取ると、何か変わった形に切り、器用に糊で貼り付けた。
「ひよくのとり。」
そう言い残し、風呂場へと向かった。
「…?」

お琴が首を傾げていると、紀子がやってきた。
「直樹さんもやっと起きたのね。」
そして障子に目を止め、紀子は言った。
「あら!素敵、こことここ、合わせると鳥に見えるわね。」
紀子が指をさした二か所を見て、お琴は気がついた。今、直樹が貼ったものと、以前お琴が貼ったもの、二つ合わせると、確かに紀子の言うとおり、鳥に見える。
「直樹さんが貼って、ひよくのとりって…。」
お琴が説明すると、紀子は更に嬉しそうな顔をした。紀子には意味が分かったようだが、お琴には“ひよくのとり”の意味が分からない。
「肥沃…それって土地に使う言葉じゃ?」
お琴が口にすると、紀子は噴き出した。
「違うわよ、お琴ちゃん!肥沃じゃなくて…比翼よ。」
紀子は畳に指で漢字を書いて見せる。それでもお琴には意味が分からない。

「あのね、比翼の鳥というのは、雄と雌が一つずつ、翼と目を持っていて、常に一体となって飛ぶ鳥のことなの。ほら、この千代紙の鳥も、目はないけれど、それぞれ翼が一つで、二つ一緒になると鳥に見えない?」

「確かに…。」
紀子の言うとおりには見える。
「それでね…比翼の鳥はそういう所から、男女の仲が深い…契りが深いっていうことに使われるのよ?」
「契り…。」
お琴はまた顔を赤くする。紀子はそんなお琴を目を細めて、嬉しそうに見つめた。
「直樹さんったら、はっきりお琴ちゃんに言ってあげればいいのに。遠回しにしか、自分の気持ちを言えないのね。」
そして紀子は部屋を出て行った。

「比翼の鳥…。」
お琴は嬉しそうに、何度もその千代紙の鳥を指で撫でていた。






♪あとがき
とういわけで、次回が最終話となります^^
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comment

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比翼の鳥の意味はそんな意味が!!!

水玉さん、こんばんは。
更新ありがとうございます。
翌朝目覚めた直樹の横にはお琴の姿がありません。
夢だと思った直樹。活けてある花を見て夢ではなかったと、安心を。
着替えを済ませ襖を開け次の間へ、そして障子を開けた直樹の前に撫子色の着物を着たお琴が。似合っているお琴に直樹は喜んでいますが、お琴が元気がないのです。
障子でも叉破いたのかと思う直樹。原因は直樹がお琴につけた印でした。髪結いの方もこれを見たら声が出ませんよね。直樹は前の方にも何て。
もう愛に溢れているお二人さんなのだから。
これからはまだまだ、知らない直樹が、叉お琴が出てくると。でも俺は知らないお琴でも俺は嫌いに成らないと。私も嫌いにならないと。
高揚した気分を落ち着かせる為に千代紙を張る作業に没頭。直樹何を思ったか千代紙と挟みで切り取り、糊で貼り付け。紀子ママのこことここを貼り付けたら、鳥に見えると。鳥の名は比翼の鳥です。
比翼の鳥は、雄と雌が一つずつ、翼と目を持っていて、常に一体となって飛ぶ鳥のこと。
だから、比翼の鳥はそういう所から、男女の仲が深い、契りが深いっていうことに使われると。
契りで、お琴は顔を赤くしていますよ。
直樹も面と向かっては言えないのですね。
可愛いですね。そういう鳥だったんですね。
叉一つ習得しました。
次回が最終回ですか。
楽しいような、寂しいような複雑な気持ちです。




ほぉ~~~

…と、思わずため息の漏れる回。
いつも楽しみなんだよね、タイトルの由来がどう登場するのかが。
今回もお見事でしたわ!花を散らした障子に、比翼の鳥が舞うとは?!
粋な直樹さんに拍手!(←実際は粋な水ちゃん)
もう最終回なのね…。名残惜しいわぁ!
あ、直樹さんより先に起きれたお琴に拍手喝采!!

早速、お琴は直樹が言ってくれていた撫子色の着物を着たんですね。
その姿を見て、直樹も嬉しかったでしょうね。

お琴は家族に呆れられたと思ったみたいだけど、
確かにそんな痕を見せつけらたら誰だって目を反らさずにはいられないですよね…(苦笑)
それにしても直樹ってば、独占欲の塊だな~(笑)
お琴を独占出来る権利が得られて嬉しいのはわかるけど!
焦って困るお琴を見てからかうなんて、やっぱり直樹って意地悪ですね~
直樹にとっては、そんなお琴が可愛くて仕方ないんでしょうけどね(笑)

題名の由来は此処から来てたんですね。
障子に、千代紙で出来た比翼の鳥。
まるで、直樹とお琴の二人のよう…
素敵です!!
遠回しでも直樹がそう思ってくれてる事がお琴にとっては何より嬉しいでしょうね。

さすが!

「比翼の鳥」そんな意味があったのですね。
素敵なタイトルですね。さすが水玉さん!お陰で私もひとつお利口になりました。(笑)

朝起きた時、お琴がいなくて焦る入江君もたまにはいいですよね。そして、入江君の選んだ撫子色の着物を着たお琴もかわいいですよね。
新婚初日に皆の態度がおかしいと悩むお琴、そしてその理由を知り赤面.....全く入江君も罪な人(笑)

「どんなお前を知っても、嫌いにならない」
「私も、嫌いにならない」いいですよね、この言葉!

じ、次回が最終回ですか!?(ショック)

せ、せめて三話ほど伸ばすとか(迷惑です)直樹さんが病気になって琴子さんが介抱するとか(迷惑です)作者急病とか(迷惑です!)
すみません。ショックのあまりについつい迷惑なことを言ってしまう暢気猫でした。

ようやく出てきました、比翼の鳥! 直樹さんのむっつりが程よくいいです。私は君のむっつりにそそられますよ(笑)
お琴さんの鈍感が最強にそそられますが(黒笑)

ところで首筋の痣はもうどうでもいいのか。紀子ママよ。。。それともお琴さんが上手く隠したのでしょうか。
しおらしい、心の優しい奥方様になってくれるよう、心よりお祈りしております。よかったね^^
……個人的には直樹さんにはお琴さんを押し倒してほしかった!(蹴)
(しくしく)だって、男なら後ろから抱いたのなら、押し倒しなさい。という話でして。ああ、でもお琴さんが逃げちゃうか(笑)
お琴さんのこういう欲のない綺麗なところも好きです。

比翼の鳥って、中国の空想上の鳥なんですよね。別名が極楽鳥。雌雄一体って夫婦喧嘩の時、ちょっと楽しそう……げふんげふん。
素朴な疑問ですが、生まれた時はどんな感じなんでしょうかね。雌雄は一体何時頃から一緒になるのでしょうか。
あれですかね、深海魚の鮟鱇みたいに雄が雌を見つけるとかみついて一体化する。
ということは、こっちは猪突猛進の大激突ですか!?(蹴)

ご馳走様でした^^ 美味しゅうございました。

鬢付け油

今ではお相撲さんからしか匂わなくなったけど
甘いやさしい匂いですよね。
きっと結い上げたばかりのお琴ちゃんの髪からもこの鬢付け油の匂いがしたんだろうなぁ。
甘いと言うより色気のある今回ですね。
「・・・結いたての髪ってのは、男心をそそるもんだってことを、初めて知った」
ここ最高に色っぽい表現でぐっときました(目がハート)
今に思えば「比翼の鳥」ってタイトルからして色っぽかったんだ(鈍いヤツですいません)

ありがとうございます

コメントありがとうございます。

tiemさん
最終話をさびしいと思って下さってありがとうございます^^
もう最後の最後でラブラブ度を、しつこいくらいに上げてみました(笑)やっぱりこういう二人を書くのが一番楽しいです♪

アリエルさん
いやあん(照)粋だなんて^^ありがとう。
タイトルは毎回悩むんだよね。そんで毎回こじつけ(笑)
たまには直樹さんを焦らせないと!!
名残惜しいと言ってくれてありがとう♪そんなに思ってくれた方がいらして、とても嬉しい!

眞悠さん
ありがとうございます。
独占欲の固まりな直樹を書きたかったんです!!!お琴ちゃんを愛しくて愛しくてたまらない…!っていう様子が書きたかったので、そう言っていただけて嬉しいです。本音を言うと、まだ書き足らないのですが(笑)
『比翼の鳥』はちゃんと後で辞書に載っている意味を書いておきますね。私も自分の解釈に自信が…^^;

るんるんさん
いやいや。ちゃんと後で辞書から写しておきます『比翼の鳥』!
書いている時に、「この二人って知り合って三月にもならない、超スピード婚だ!」って気が付き、あまりお互いのことを知らないのではと思って、後から付け加えたセリフなんですよ^^ありがとうございます。

暢気猫さん
そこまで言っていただいてありがとうございます!
私もお琴ちゃんの鈍感なところは好きです(もち、原作で!)
痣は、初めて見た時こそ驚くけれど、あとは「もうどんどんつけちゃって~!」っていう勢いなんです、紀子ママはきっと(笑)
伝説の鳥だから、生まれる様子は謎なんですよ、きっと!!
あと直樹さんは夜までは我慢しているんだと思います(笑)

さくやさん
鬢付け油…確かに今はお相撲さんくらいかもですね。花嫁さんはカツラですし…(ですよね?)
でもきちんと、乱れずに結いあげられた髪を見たら…またぐちゃぐちゃにしたくなるんじゃないかなあって(笑)
ありがとうございます。色気を感じると言って下さって!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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