日々草子 幸運の女神 第10話

幸運の女神 第10話

琴子が研修へ行ってから1ヶ月半が過ぎた。斗南大病院の外来は今日も混雑している。特に今日は直樹が外来担当ということもあり、患者である子供と念入りにメイクをした気合の入った付き添いの母親で溢れていた。

が、いつもと違う雰囲気が待合室に漂っていた。診察を終え、子供の手を引いて出てくる母親たちの顔が曇っている。ため息をつきながら出てくる母親も多い。曇った表情を見せているのは母親だけではない。一応、患者には見せないようにしているものの、小児外来の受付の女性職員、診察室で働く看護師たちもどこか浮かない顔をしていた。

「ねぇ!外来の子たちの話、聞いた?
「あたしなんて、直接見ちゃったわよ!!」
「ショックだわ~!!」
「信じられない!!」
「嘘でしょ~!!」
外科病棟のナースステーションでもその話題で溢れていた。
「何?何なのよ?」
幹がたずねた。
「入江先生よ!もうあたしショックでショックで~」
直樹の名前が出てくると、琴子の次にアンテナを伸ばすのが幹である。
「入江先生がどうしたっていうのよ?」
そこへ、噂の張本人である直樹がやってきた。
「これ、山下さんの指示書」
「は~い、入江先生」
幹が直樹に近づいて、指示書を受け取ろうとしたその時、
「!?」
幹は見間違いじゃないかと言わんばかりに、目を丸くした。
直樹の左手の薬指に指輪が光っていたのである。

「お前、結婚指輪なんて持ってたんだなあ」
医局で、珍しいもの(実際珍しかったが)を見るように西垣が直樹の手をまじまじと見つめていた。
「そりゃ持ってますよ。一応、結婚してますからね。」
何がおかしいのかと言わんばかりに、素っ気無く直樹が答えた。
「いやあ、お前は指輪とか邪魔だとか言って、絶対作らなさそうだったからさ。ふーん…」
「…処置や手術の時は外しますよ」
「何で急にする気になったわけ?」
「結婚してるんだから、したって別におかしくないでしょう。」
そう言うと、直樹は医局から出て行ってしまった。

直樹の指輪を見て、看護師や患者の母親たちは結婚している事実を突きつけられてショックを受け、外来の雰囲気がおかしくなっていたのである。
ナースステーションでは、指輪の理由を看護師たちが噂していた。
「あれ、絶対琴子が頼んだのよ。」
「『私がいない間、誰も近寄らせないでね!』とか言っちゃってさ。」
「で、1ヶ月以上たって、ようやく入江先生が折れたのよね。」
「でも、琴子の頼みを聞いちゃうなんて、入江先生って琴子に愛があるのね~。」
看護師たちの想像力は、琴子の想像力に匹敵している。直樹と琴子が1ヶ月以上口をきいていないことなんて誰一人、夢にも思っていない。

「そろそろ寒くなってきたから、羽織るもの持って行こう。」
琴子は出勤前に部屋の段ボールからカーディガンをつかみ、そのままバッグへ放り込んだ。思った以上に一人暮らしに苦労し、仕事も不規則なため、神戸に持ってきた段ボールは半分が積み重ねられたままである。とりあえず、普段使うものや着るものは取り出したものの、大半は段ボールの中だった。

「おはようございます!」
琴子は更衣室に挨拶しながら入っていき、制服に着替えて、カーディガンを羽織った。その時、何かが床に落ちたことに琴子は気づいた。
ハンカチか何か落としたかなと思いながら指でつまみあげたその時、
「…何で?こんなものが…?」
琴子は信じられないものを手にしていた。
「これ…、あたしが入江くんにあげた…」

琴子が手にしたもの、それは大学受験時に直樹に渡したお守りであった。
「何で?あたしの服に紛れ込んでいたのかな?それにしても、自分で作っておいて何だけれど、すっごい下手くそ…!」
決して上手とはいえないが、琴子が心を込めて作ったお守り。このお守りを見ていると、直樹の大学受験の騒動が思い出される。
「はぁ、今は見たくなかったな…」
ため息をつき、お守りをバッグに入れようとして握った瞬間、中に何か硬いものが入っていることに琴子は気づいた。
「え、あたし、あの時何か入れたんだったっけ?」
何が入っているのかと、お守りの中に指を入れ、取り出した物は…結婚指輪だった。
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多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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