日々草子 比翼の鳥 4

比翼の鳥 4

直樹の夢の話を聞き、お琴は少しだけ、直樹を見る目が変わった。

「お帰りなさい。」
朝だけじゃなく、直樹が帰って来た時、出迎えるのはお琴の役目になっていた。
いつもなら、無愛想に「ただいま」と返事だけはする直樹だったが、この日は何も言わずに家の中へと入って行く。
「お夕食ができてますけど…。」
慌てて後を追いながら、お琴が言った。だが返って来た言葉は、
「いらない。」
の一言だけ。その一言を残し、直樹はさっさと自室へと入ってしまった。

どこか具合が悪いのかと、心配するお琴に、家族は全員「ああ…。」とあまり嬉しそうな表情を見せなかった。
「何かあったんですか?」
お琴が心配そうに、紀子へ訊ねた。
「多分…患者さんが亡くなったのよ。」
紀子は辛そうに答えた。
「長崎へ行く前から…お医者様になった時からそうなの。直樹さん、診ていた患者さんが亡くなると、夕食を取らずにお部屋に入ってしまうの。」
だから心配しなくていいと、紀子はお琴を慰めた。何か食べなきゃと言うお琴に、紀子は首を振った。
「最初は私もそう思って作ったけど…全然食べないの。」
「そして、一晩中、兄上は医学書を読み続けるんだ…。」
いつもは生意気な裕樹も、この夜ばかりは悲しそうに呟いたのだった。

そうは言っても、何も食べず、一晩中起きているのは体にあまり良くない。お琴はそう思い、握り飯を握り、皆が寝静まった夜更け、直樹の部屋へと足音を忍ばせ向かった。握り飯にしたのは、本を読みながらでも食べられるようにと、お琴がない知恵を絞って思いついたことだった。

部屋の中からは、行灯の光が漏れている。裕樹の話の通りだった。
お琴は静かに、音を立てないよう、すっかり千代紙の花に彩られてしまった障子を開けた。
「あら…。」
直樹は机に突っ伏して、眠っていた。
「そのままじゃ…風邪を引いちゃう。」
起こさないよう、抜き足差し足でお琴は、押し入れから布団を出し、そっと直樹の背中に掛けた。
そして行灯の油を足す。

「…後で食べて下さいね。」
小声でそっと囁くと、お琴は食事を直樹の傍に置き、静かに部屋を出て行った。

「寝てしまったのか…。」
お琴が出て行って少しした後、目を覚ました直樹は掛けられた布団に気がついた。行燈の油も足してあり、そして握り飯の皿と、土瓶に入ったお茶が置かれていた。
紀子には持って来なくていいと、昔言ったことがあるので、おそらくお琴の仕業だろうと直樹はすぐに分かった。
握り飯なのは、本を読みながら食べられるようにと考えたのだろう。
「意外に気がつくな…。」
直樹は一つ手に取り、口へ運ぼうとした。が、その握り飯はボトリと直樹が広げていた書物の上へとこぼれた。その後も食べようとするとボトリ、ボトリと落ちて行く。結局、直樹は片手で握り飯、片手で皿を抱えて食べる羽目になった。
「握り飯の意味、ない…。」
そう言いながらも直樹は、握り飯を完食したのだった…。

翌日、いつものように見送りに出たお琴に、直樹は言った。
「昨日は…ありがとう。」
「え?」
「…握り飯。」
お琴は食べてくれたことを知り、とても嬉しくなった。それが自分でも驚くくらい喜んでいたことに、お琴は驚いた。
「よかったら、また…。」
嬉しそうに言うお琴。だが、直樹は、
「だが…ちゃんと握り方を母上に習え!」
と付け加えた。
「はーい…。」
それでも、また食べてくれることが分かり、お琴は大はしゃぎでいつもより大きく手を振って、直樹の姿が見えなくなるまで見送っていた。





☆あとがき
7月から全然書いていなかった!!
今度は江戸にチェンジです!
そして、今度はお芋からおにぎりです(笑)
何か差し入れをさせないと、気が済まない私(笑)
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comment

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わーい、待ってました!

お江戸シリーズ読みたかったぁ!復習のため1から読みかえしました。そうそう・・お琴ちゃんは婚約者がいたんですよね。
おお、これまた展開が楽しみになってきました。
おにぎり上手に握れるように・・・頑張れお琴ちゃん。

ゆる握り

コンビニのおにぎりにもたまにあるのよね、ゆる握り(←そういう商品ではない、念のため) こぼれてイライラするったら!

でも、イライラしても愛がこもってるから、きっとこのゆる握りはおいしかっただろうなぁ。
ラストシーンの琴子が相変わらずリアルに目に浮かぶアタシです。琴子、もといお琴、かわいい・・・。

今回は啓太とは、どういうもんちゃくになるのかな??楽しみなような、怖いような・・・。

お握りの勉強?

水玉さん、おはようございます。
久々にこのお話更新ですね。
直樹が帰ってきて食事はに、いらないの一言。
患者さんが亡くなったという事らしい。
でも何も食べないでいるのは駄目だと感じた琴子。
自分なりに一生懸命に作ったお握りを。
でもこれがポロポロこぼれるお握りです。
でも直樹これ全部食べちゃいましたね。
ちゃんと朝、琴子にお礼を言っていましたね。
琴子、良かったね、喜んでくれて。
嬉しいよね。
でも握り方をお袋に習えとは。
旦那様ですね、これだと。
でも琴子、元気よく、行ってらっしゃいと。
お見送りです。
段々いい雰囲気になっていますよね。
でも琴子には許婚がいるんですね。

水玉さんの琴子ちゃんは優しくて好き♪
それにしても今後の展開は???
ちょっとどうなっていくのかドキドキです♪

あっ私も炊きたてのご飯でおにぎり作ると琴子ちゃんレベルだわ。特に中に具を入れたあかつきには・・・・あはははっ情けない。。

わーい、お江戸シリーズだ!

お江戸シリーズ、お待ちしていました。

普段クールな入江君でも患者さんが亡くなった時は、やっぱりショックですよね。
そんな入江君を心配したお琴はお握りを...ボロボロにこぼれても、気持ちは伝わりますよね。
この間の夢の話を聞き、入江君を見直したお琴と、自分の事を心配してくれたお琴に対して入江君、気持ちが軟化してきましたね。
そして、朝のお見送り、これは...これから二人はどうなって行くのでしょうか?今後の展開が楽しみです。

期間を置いてしまったのに、コメントありがとうございます!!

さくやさん
覚えていて下さっただけでも嬉しいのに、復習なんて!!ありがとうございます!!!
おにぎりは…私も苦手です(笑)難しいんだもん…。

アリエルさん
大丈夫、大丈夫。
さすがに連チャンで、あんな重い話は…(笑)
私も気分変えたいしさ!!
コンビニのおにぎりでもあるんだ…幸い、当たったことはないなあ。自分で握るとゆる握りだけど(笑)

tiemさん
そうそう、婚約者がいるんです、お琴ちゃんには(笑)
うっかり私も忘れそうに(笑)
お袋に習えと言ったのは、お琴ちゃんが入江家にいるのは紀子さんに花嫁修業をつけてもらっているからです^^

ゆみのすけさん
炊きたてどころか…私など100円ショップで売っているおにぎりの型愛用しています(恥)
おにぎりって、絶対難しい!!!なかなか三角にならないし…。
ゆみのすけさんにお琴ちゃんをほめてもらえてうれしいです♪

るんるんさん
わ!覚えていて下さってありがとうございます!!
何かで読んだんですよね。夢を語る人間には、男女問わず弱いって(笑)だから前回…(笑)
また読んで下さったらうれしいです!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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