日々草子 幸運の女神 第9話

幸運の女神 第9話

「あ、えっと、えっと…」
「奈美や!椎名奈美!相変わらず物覚え悪いなあ」
琴子の「食いだおれ姉ちゃん」と呼んだのは、直樹が研修医としてこの病院にいたときに心臓の手術をした奈美だった。
「あ、そう、奈美ちゃん!うわぁ、元気そうだね!」
「もうバッチリや。今日は定期検診で来ただけやし」
「そっか」
「姉ちゃん、そのカッコ、もしかしてほんまに看護師さんになったん?」
「そうよ」
「うわぁ、ようなれたな!奇跡や!どんな手つこうてなれたん?信じられん」
さすが、琴子命名『関西版・女・裕樹』である。口の悪さは変わっていない。

琴子は奈美にジュースをおごらされ、病院の庭のベンチに腰掛けて2人は話すことになった。
「姉ちゃんがここにいてるいうことは、入江先生もいてるんやろ?どこ?どこにいてるの?」
きょろきょろと周囲を見回す奈美に琴子は答えた。
「ううん、ここは私だけ。入江くんは東京」
「えー?何で?姉ちゃんとうとう先生に愛想つかされて、追い出されたん?」
「違う違う。ここは研修で来ているの」
奈美は琴子の胸の身分証を見て叫んだ。
「あ!何で相原琴子?先生の奥さんなら、入江琴子やん。やっぱり姉ちゃん離婚されたんやろ?」
「だから、違うって!女の人は、結婚しても元の苗字で働くことが多いのよ。いろいろ面倒がないしね。」
「ふーん…」
怪しむ奈美の視線を交わしながら琴子が答えた。

「奈美ちゃん、本当に元気になったんだね。」
話題を変えようと琴子が話を向けた。
「これも入江先生のおかげやな。あたし、この間林間学校も行ってきたし、運動会ではリレーの選手もやったんよ。ほんま、入江先生が手術してくれたから毎日がごっつ楽しいわ。年に何回か病院で検査受けるのは面倒やけど」
そう話す奈美の目はいきいきしている。
「あの時手術受けといてよかったわ」
「そうだね。」
琴子も元気になった奈美の様子がうれしくてたまらない。
「今頃まで手術嫌がってたら、姉ちゃんの世話になるはめになったやろ?姉ちゃんの看護なんて命がいくつあっても足りんわ。」
「…失礼な!」
「けど、そのカッコしてると、ほんまもんの看護師さんに見えるから不思議や」
「だから本物なんだってば」
奈美と軽口を叩き合っていると、気分が晴れてくる。

「それにしても、ほんまによく先生と離れられたな、姉ちゃん。今頃先生の周りえらいことになってるで」
奈美が続ける。
「どういうこと?」
「先生、ここでもモテモテやったからな。あたしが入院してたとき、普通他のお医者さんが病室に来るときは看護師さんが1人くらいしかついてこないんやけど」
「うん、うん」
「入江先生が来るときは、化粧がケバい看護師さんが3人くらいついてきたわ。その上、部屋の入り口をたくさんの看護師さんがウロウロしてうっとおしいの何のって」
その様子が想像でき、琴子は吹き出した。

「そういや姉ちゃん、言っとたな。入江先生を好きなパワーは誰にも負けないって。」
「そんなこと言ったっけ?」
「その言葉聞いたとき、思った。『この姉ちゃんはスッポンのように入江先生に吸い付いて絶対に離れんやろうな』って。だから、身を引いてやったんや。」
「スッポン…」
「それに先生も姉ちゃんにゾッコンやし」
奈美の言葉に琴子は目を見開いた。
「えっ?」
「だって、先生がお医者さんになったのって、姉ちゃんに言われたからなんやろ?」
「???」
「先生言ってたで。先生が何をやろうか迷ってたとき、姉ちゃんがお医者さんになれと言ったから、お医者さんになったって。」

琴子には初耳のことだった。直樹が途中で医者になるといったとき、多分裕樹の入院がきっかけになったんだろうとは思っていたが自分の言葉が理由だとは想像もつかなかった。
「普通、嫌いな人間にああしろこうしろ言われて、従う人間はおらんやん。けど、姉ちゃんが言ったから、入江先生お医者さんになったんやろ。姉ちゃんの言葉で入江先生、人生決めたってことは、先生は姉ちゃんにゾッコンってことや」
「あたし、そんなこと言ったのかな?」
奈美はため息をついた。
「姉ちゃん、やっぱ物覚え悪いなあ。あんまりアホやと、ほんまに先生に捨てられるで!」
「うっ…」
「姉ちゃん、アホなんやから入江先生の足引っ張らんように頑張らなあかんで!」

その後、合流した奈美の母親と挨拶を交わし、琴子は奈美たちと別れた。奈美の言葉は琴子の胸に温かいものを残していた。
「うん!決めた!」
琴子はそうつぶやいて、病院内に戻っていった。
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