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2009.08.28 (Fri)

円舞曲 28


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直樹は荷物だけを先に違う船便で送っていたので、持ち主のいない荷物だけが遭難後に届いていた。
琴子はそれらの荷物を、直樹が帰ってきたらすぐに使えるようにと、全て箪笥などの中へ丁寧にしまっていた。
そしてその荷物に入っていたある物が、今、琴子の手にあった。

「それも?」
裕樹が琴子へ訊ねる。
「直樹さん、フランスで大事にしていてくれたみたい…。」
それは琴子のうさぎの着物だった。どこも汚れていないし、解れもしていない。琴子はその着物を直樹の棺へ入れてもらうつもりだった。
「それから、これとこれも…。」
それは琴子が初めて直樹に縫った着物と、この間まで直樹の帰りを待ちわびながら縫った寝巻。
「入らないかな?」
心配する琴子に裕樹は、
「そんなことないよ。…どうせ空の棺なんだから。」
と返事をした。その声は未だ、兄の死を認めていない声だった。

重樹と紀子は琴子へ、直樹の物は何でも持っていっていいと言ったが、琴子は首を横へ振った。

「直樹さんは…私を…頭も悪くて不器用で何もできない私をお嫁さんに…入江琴子にしてくれたから。直樹さんが私に贈ってくれたこの名前、これ以上の贈り物はないです。」

それを聞き、紀子は涙を堪え切れずに俯いた。
「ただ、一つだけお願いが。」
琴子は湯呑を紀子へ差し出した。それは出発前、二人で出かけた折に直樹が買ってくれた夫婦湯呑の、直樹用のものだった。

「お仏壇に…直樹さんにお茶を上げるときはこの湯呑を使っていただけますか?私は私用の物を持っていきますから。そうすれば…いつも二人でお揃いの湯呑でお茶を飲めるから。」

とうとう紀子は声を上げて泣き出してしまい、琴子も泣き出してしまった。

琴子は直樹が名義を書き換えた財産も、全て置いて行くことにした。そして絵の管理は裕樹に頼んだ。
「それは…琴子が頼まれたんだから。」
「でも、私はこの家を出てもう入江家の人間じゃなくなるから。裕樹くんは私より頭もいいし、直樹さんも安心してくれるから。」
そう言う琴子へ、裕樹は風呂敷に包まれた物を差し出した。中から出てきたのは、直樹が描いた琴子の絵だった。
「これは持って行けよ。」
琴子はじっと絵を見つめた後、微笑んで言った。
「そうね。この家の人間じゃない私の絵なんて…。」
「そうじゃなくて!この絵は兄様が琴子への愛を込めて描いた大切な絵なんだから!お前が持っていないと…。」
そこまで話すと、裕樹は声を詰まらせながら呟いた。
「…兄様が悲しむだろ。」
そして泣いていることを琴子に見られないよう、裕樹は横を向いた。
「うん…。ありがとう。」
琴子は直樹が作った万華鏡とその絵だけを持って行くことにした。

「あのね、裕樹くん…。」
横を向いたままの裕樹に、琴子は話しかけた。
「お義父様たちを悲しませたくないから黙っているけれど…私、死ぬ時まで、心は入江琴子でいようって決めてるの。その時まで、直樹さんの奥さんでいようって。」
琴子はそこまで話すと、涙をぬぐった。
「でも…その時はおばあちゃんになってるから、直樹さん、気がついてくれないかも。せめて可愛いおばあちゃんになっていないとね。そうしないと、“誰だ、この小汚いばあさんは?”って直樹さんに冷たくされちゃう。」
「…大丈夫だよ。お前なんて今以上小汚くならないし。それに、兄様はお前がどんなに姿が変わってもすぐに分かるよ。」
それだけを言うのが精一杯で、裕樹は琴子に抱きついた。
「名前が変わっても…琴子は…一生、僕の義姉様なんだから。」
いつも憎まれ口ばかり利いていた裕樹を、琴子は優しく抱きしめた。
「ありがとう…。裕樹くんだって一生、私の可愛い義弟だからね。」

直樹の葬儀を待たずに、琴子は入江家を去ることに決めた。葬儀に参列してしまうと、直樹の死を認めることになってしまうので、それだけはまだ耐えられそうにもなかったからである。
そして、明日、長年暮らした入江家を去るという日、琴子は直樹の絵を描く道具を手に、こっそりと出かけた。

「お母様が亡くなって初めて来た場所で、直樹さんとの思い出の場所…。」
そう呟きながら琴子は腰を下ろす。直樹と初めて二人きりで出かけた日、ここで芋の味を教えたことを思い出し、つい笑った。
「さて、と。」
琴子は直樹の画帳を広げた。
「まずは手慣らしに…。」
大福の絵を描く。
「うん!美味しそうに描けた!さすが、賞を獲っただけあるな、私!」
そして次のページをめくる。
「えーと…確かこうだって言ってたわよね。」
鉛筆を走らせて描くのは、かつて二人で練習した直樹の顔だった。
「あれ?うまくいかないな?」
一枚描き上げては、お守り袋の中に入れてある、初めて琴子が描いた直樹の顔を見比べる。
「うーん…これじゃ…怒られちゃう。」
そしてまた一枚、一枚と鉛筆を走らせる琴子。

「…やっぱり下手くそだな、私。」
そう言いながら、琴子は段々と自分が描いた直樹の顔が歪んでくることに気がついた。
「ちっとも上手に描けないよ。」
そして手元の紙にポツリ、ポツリと涙が落ちる。
「やっぱり…亡くなったなんて思えない。まだこんなに顔も声も覚えているのに。」
とうとう手が動かせなくなり、琴子は顔を伏せて泣き崩れた。

「…あれだけ丁寧に教えてやったのに、全然覚えてないのかよ。」

泣き崩れた琴子の耳に、懐かしい声が飛び込んで来て、琴子は振り返った。






♪あとがき
話数、『万華鏡』を超えちゃったー!
琴子ちゃんの、直樹さんを想う気持ち、少しは出ているでしょうか?
それだけが心配…。
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*Comment

最初の一行を読んで??????えっ!!!!!!!
読んでいくにつれて、ワクワク、うるうる、ソワソワ
最後の一行で、ヤッター!直樹!
で、ん!なんで一年後?水玉さん罪作りですねー
kobuta |  2009.08.28(Fri) 14:41 |  URL |  【コメント編集】

初めまして!愛美(あゆみ)と申します。
「円舞曲」更新ありがとうございます♪
も~、続きが気になって×2(>_<)
この後の続きが気になります☆☆
愛美 |  2009.08.28(Fri) 14:52 |  URL |  【コメント編集】

★ちゃんと足ありますか?

本人ですよね?
幻や幽霊じゃないですよね?
もうっ。いいところで切るんだからっ。
水玉さまのいけずっ。
読者の心をわかってらっしゃる。
明日から日本一の山にチャレンジなのに・・・。
携帯でチェックしますよ~。
KEIKO |  2009.08.28(Fri) 15:04 |  URL |  【コメント編集】

待ってましたっ!!水玉さん、直樹なの?直樹なの?
続きがきになるう~!!待ってますよ~!!
がっち |  2009.08.28(Fri) 15:51 |  URL |  【コメント編集】

涙がぼろぼろです・・・
琴子の直樹を思う気持ち、ちゃんと出てますよ!!私は、「・・・その時はお婆ちゃんに・・・直樹さん気づいてくれるかな・・・」でドッと涙が・・・その気持ち良くわかります!!自分は歳とるけど、亡くなった人はそのままですもんね。ジーンときました。水玉さんさすがです!!
で、最後の一行!!あーん気になるー!!!
楽しみにしていますね。
emi |  2009.08.28(Fri) 15:55 |  URL |  【コメント編集】

琴子の入江君を思う気持ち、よく出てますよ。
うさぎの着物といい、湯呑み茶碗といい、特に、「その時はおばあちゃんになっているから...」の琴子とそれを慰める裕樹の会話には泣けました。

でも、最後の一行、とても気になります。希望を持っていいのでしょうか?
るんるん |  2009.08.28(Fri) 17:23 |  URL |  【コメント編集】

あれっ?なんか・・目が・・曇って・・・・・先が読めません。
シニアグラス(老眼鏡とも言う)外しても曇ってる・・・・。
だめだ・・・こりゃ・・・コメント無理です!
キーボードが濡れないうちに撤退します。
さくや |  2009.08.28(Fri) 17:46 |  URL |  【コメント編集】

マックで無料珈琲飲みながら、この大河ドラマに涙する所を踏みとどまりました。←だって携帯見て泣く子なんて痛すぎでしょ(爆)
それも@マック(笑)
なので夜また読み直します。何度でも!
続きぃ~ドキドキドキドキワクワクワクワク
ヒロイブ |  2009.08.28(Fri) 19:02 |  URL |  【コメント編集】

★えっ、まさか?

水玉さん、こんばんは。
嘘じゃないですよね。
あれだけ教えてやったのに、全然覚えていないのかという声。
まさか?
琴子が待っていた人。
音信不通になって、お葬式を出そうという段階まで。
そんなときに、聞き覚えのある声です。
もう涙がウルウルです。
tiem |  2009.08.28(Fri) 22:11 |  URL |  【コメント編集】

こんばんは、楽しみにしていました。
昼ドラなみに、ドキドキ、うるうるしながら読ませていただきました。
切ないです。 昔は、だんなさまが居なくなると、実家に帰らなければいけなかったのですね?
勉強になると言うか・・・・ためになります。
あっ、すいません・・話がずれてしまいました。。
直樹の登場、無事の帰郷をまって居ます。
rin |  2009.08.28(Fri) 22:21 |  URL |  【コメント編集】

皆様、コメントありがとうございます…
ああ…これだけの方が読んで下さってコメントを…。
それなのに…ああ…。
とにかく、次回はサラリとスルーで!!←強調!

kobutaさん
罪つくり…ええ…まあそう言えないこともないかも^^;
すみません、先の回から後ろ向きなお返事で。
もうなんか…皆様の期待を裏切るのかと思うと胸が痛くて仕方ありません^^;

KEIKOさん
この時期の富士山って…あの番組と関係ありますか?
明日見ていると映っていたりするのでしょうか?
そう言われてもお顔分からないんだった(笑)
気をつけて行ってらっしゃい!
そんな携帯だなんて…御戻りになってから「あ、そうだ」と思いだした時で十分ですから。

がっちさん
待たなくていいです(笑)いえ、本当、それほどでもないので…^^;
というか、もう…ああ!胸が痛い!

emiさん
ありがとうございます!たまには琴子ちゃんの気持ちも丁寧に書かないと♪と思い、頑張ってみました!
そうなんですよね、亡くなった人は永遠に年を取らないんですよね…なんか悲しいですね。

るんるんさん
裕樹の「それ以上小汚くならない」というセリフが今回の私のお気に入りです(笑)
なんか姉弟愛になってきてますね(笑)この話。
恋愛物より家族物が好きな性格が出てきたかな?

さくやさん
やっぱりオシャレな言い回しです!さくやさん!
ちょっとかっこいい、シニアグラス!
できれば次回は外して下さい、それ(笑)そうすれば、ごまかせる気がする…。

ヒロイブさん
大河…恥ずかしい!そんな大層なものではないのに!
そうそう、マック、無料珈琲やってるんですよね。私も明日飲もうかなあ。
大丈夫、きっと「この人、感動するメールをもらっているに違いない」と周りは見てくれるから!「もしかしたら…プロポーズ?」とかね!(笑)

tiemさん
そうそう、音信不通(笑)。そう書けばよかった(笑)。何度も遭難、遭難連呼しなくても。
ああ…そのウルウルが次回は…あ、また胸が痛いです。

rinさん
私も勉強不足なので、自信はないのですが、たとえば長男が戦死した時などは長男の嫁と次男が結婚するとかあったらしいです。お嫁さんが若かったら実家へ戻って再婚というのもあったみたいで。華族の本なんて読むと、結構離婚も多くて驚きました。




水玉 |  2009.08.28(Fri) 22:39 |  URL |  【コメント編集】

祐樹君と琴子のお別れのシーンでうるっときました。。
やさしすぎ!!
入江君登場!?今までどこ行ってたんだ!ばかばか!(泣)
琴子がかわいそすぎっ
続き気になります!!
maro |  2009.08.28(Fri) 22:47 |  URL |  【コメント編集】

仕事中に涙が止まりません!!
さっすが~水玉さん♪
本当に琴子ちゃんの切なさがジーーーンと
胸に響いてきました。
何だか、気になる終わり方で・・・・続きがとても楽しみです♪
ゆみのすけ |  2009.08.29(Sat) 08:53 |  URL |  【コメント編集】

琴子の切ない思いが痛いほど伝わって来ました!
直樹が遭難してからの時間は琴子にとってどれほど長く感じられた事でしょう…

懐かしい声というのは、もしかして?!

ハッピーエンドである事を切に願います!!

眞悠 |  2009.08.29(Sat) 13:11 |  URL |  【コメント編集】

ごめんなさい!愛美さん!!
初めて頂いたコメントなのに…お返事を!!
初めまして!ありがとうございます!
続きは…あんまり期待せずに待っていて頂けたらと思います(^^ゞ
本当にごめんなさい!!!
こんなうっかり人間な私ですが、今後も見捨てないで頂けたらと思います…。

水玉 |  2009.08.30(Sun) 13:13 |  URL |  【コメント編集】

コメントありがとうございます。

maroさん
そうそう、優しい裕樹なんて初めて書いた気がします(笑)
ばかばか…その言葉はそのままそっくり、私が頂きます(笑)
理由は…次回おわかりになるかと。

ゆみのすけさん
お仕事お疲れ様です!!
そんな中ありがとうございます!…次回、そうですね、次回…。
だからあっちへ逃亡してしまったのよね…(笑)

眞悠さん
そうですよね、よくぞ待っていたって感じです。
どんなに長く感じられたのか…。
かわいそうな琴子ちゃん(グスン)
水玉 |  2009.08.30(Sun) 13:16 |  URL |  【コメント編集】

泣きました・・・
涙が止まりません・・・・・
みなみ |  2012.03.02(Fri) 20:35 |  URL |  【コメント編集】

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