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2008.12.01 (Mon)

幸運の女神 第8話

「入江先生ー!飲んでますか?」
「やだー先生のコップ空!」
直樹の周りには看護師たちが群がっている。飲み会の場は無法地帯と化している。幹もその先鋒に立って騒いでいた。直樹の前のコップは3本、4本と増えていく。
数時間騒いでお開きとなり、やっと直樹は看護師たちの騒ぎから解放された。
「入江先生!」
幹が追ってきた。
「アタシ、こっちの方角なんで途中まで一緒に帰っていいですか?」
直樹は無言で歩き始めた。


【More】

「琴子から聞いていたけれど先生って、お酒強いんですね。今日何杯飲みました?」
幹は話しかける。
「今日は家まで連れて帰る大虎がいないからな」
幹は気づいた。今まで琴子と直樹と一緒に飲んだことは数回あったが、琴子がいるときは直樹は1杯多くて2杯しか飲んでいなかった。それは必ず酔っ払う琴子をしっかり家まで連れて帰る直樹の気遣いだということに。自分まで飲み過ぎると、琴子を連れて帰れなくなってしまうから。
「今日の飲み会って、賭けの金額が寄付されてるんですよ」
「賭け?」
「そう。みんなで琴子が何日で帰ってくるか賭けてたんです。一番オッズが高かったのが2週間。アタシは1ヶ月に2千円。でもあの子、思った以上に根性見せてくれちゃったから全員負け。」

「高校の時から一緒に暮らして、あいつの声を聞かない日ってなかった。途中、あいつが家から出て行ったり、俺が一人暮らししたりしたことはあったけど、大学に行けばあいつは必ず俺の居場所を探し当ててつきまとってたし。」
直樹が話を始めた。
「想像つきます」
「唯一姿を見なかったのは、俺が神戸へ行っていた1年間だったけど、でもあいつは毎晩電話かけてきて、俺がいなくても留守電のテープ使い切るくらい、声を吹き込んでいたから声だけは毎日聞いてたな」
「…」
幹は黙って聞いている。

「だから、こんなに長い間、あいつの声を聞かない、姿を見ないのは初めてなんだ。いなければ静かになる、面倒に巻き込まれないと昔思ってたけれど、あいつがいないとどうして毎日を過ごせばいいのか分からない。退屈でしょうがない。今夜飲んだのも、騒いで気を紛らわせたかったんだろうな」
「それ全部琴子に言ってあげないんですか?」
「あいつは今、俺に頼らずに一人で頑張ってるんだろ?こんなこと言ってあいつの邪魔したら俺は夫失格。」
直樹はそう言うと、ちょっと微笑んだ。

「相原さん!今度合コン行かない?」
同僚の看護師に声をかけられた。
「うちに出入りしている薬品会社の社員と合コン!どう?」
「あ~、あたしは遠慮しとく。」
琴子はそう答えた。「一応、人妻だし」と心の中で思いながら。
「うちの医者たちって、イマイチなんだよね。外部へ望みを託さないと」
隣に座って同僚たちが話し始める。
「あ、でも何年か前にうちに研修にきていた研修医の先生、めちゃめちゃかっこよかった。」
琴子は「まさか…」と思いながら、話に耳を傾ける。
「何て言ったけ?あの先生」
「確か…入江先生!」
「やっぱり…」と琴子は思った。
「入江先生、すっごい頭良くてね」
「そうそう、あたしたちが医者に言えないことも、察して言ってくれたし」
「腕も良かったしね!それに研修医って大概、生意気で頭でっかちが多いんだけれど、入江先生はそんなことなかったね。あたしたち看護師にも丁寧な態度で接してくれて」
「1年くらいで東京に戻っちゃったんだよね」
「そういえば相原さんって、斗南大病院から来たんだよね?じゃ、入江先生知ってるでしょ?」
話の矛先が自分に向けられて、琴子はビクッとした。
「…い、入江先生ね。うん、そうね、いたわね」
「何か昔もこんなことがあったわ」と、琴子はデジャヴを感じながら答えた。「やっぱり、相原にしておいて正解だった」と思いながら。

「あーあ、入江くんの思わぬ評判を聞いてしまうとは…」と思いながら、琴子は歩いていた。
「でも、入江くんの神戸での様子がちょっとわかったな。こっちでもモテモテだったんだ。フフ…」
そんなことを考えながら歩いている琴子の前方から声が響いた。

「あー!食いだおれの姉ちゃんや!」
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