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2009.08.12 (Wed)

円舞曲 17


【More】

啓太の話を聞いた琴子は沈んだ気持ちで帰ってきた。
「お帰りなさい。」
家では紀子が笑顔で迎えてくれた。思えば直樹の両親も弟もよくぞ自分を家に迎えてくれたものだと思う。もしかしたら自分も啓太の母親と同じ運命だったかもしれない…。
「どうしたの?」
考えに耽っていた琴子を紀子が心配した。
「あ、いえ…。」
慌てて琴子は取り繕った。最近、直樹と琴子の仲がうまくいっていないことを紀子が心配していることは琴子も気が付いていた。なのでこれ以上心配はかけたくない。
直樹はと訊ねると先程までどこかへ出かけていたが、部屋に戻っているとのことだった。とにかく今のうちにきちんと仲直りをしておこうと琴子は思った。
二人分のお茶を淹れて琴子は部屋へ急いだ。湯呑はあの瀬戸物市で買った藍色の夫婦湯呑。直樹も選んだ琴子を褒めてくれた。

「直樹さん…お茶持ってきたんだけど。」
なるべく邪魔をしないように部屋に入る。
「少し休憩しないかなって思って。」
差し出した湯呑を直樹が取った。大丈夫、この様子ならこれ以上仲がこじれることはないと琴子は少し安心する。
「大変だね。課題多くて。」
「まあね。」
安心したのも束の間、やはり会話は続かない。

「…うまいよ。」
直樹が口を開いた。
「え?」
「お茶。」
「本当?」
そういえばこの湯呑を買った時、おいしいお茶をと直樹に言われたことを思い出した。どうやら合格点が出たらしい。
「そういえば…どこかへ出かけていたんでしょ?どこへ行ってたの?」
お茶を褒められて気分も良くなり、琴子は話を続けようとした。だがそれを聞いた直樹は啓太との会話を思い出し、逆に気分を悪くする。
「別に。お前に関係ないし。」
その結果、素っ気ない返答となる。
「そう…。」
落ち込む琴子。そんな琴子を見て悪いことをした気分になる直樹。

しかし今日は何としてでも仲直りをしたい琴子。これくらいでめげている暇はない。なぜだか理由は分からないが、今日が最後の機会のような気がしていた。

その時ふと琴子は思った。直樹は口は悪いし冷たいことも多いが、それを覆い被せる優しい所があることは、琴子が一番よく知っている。何より、周りの視線を気にせず自分と結婚してくれた。
「…啓太くんも直樹さんの良さを知ったら、気持ちが和らぐかも。」
そんな考えが頭をよぎった。何より知り合いが増えることは悪いことではないし、もしかしたら…二人は仲良くなれるかもしれない。
今日はまだ時間があることだし、琴子は自分のことは後回しにしてそちらを優先することにした。

「あの…あのね、直樹さん。」
琴子は湯呑を近くの台に置いて顔を上げた。
「今度、お店…鴨屋に食べに来ない?」
「何で俺が?」
鴨屋という名前を聞いた途端、不機嫌になる直樹。しかし一生懸命な琴子はそれに気がつくことはない。
「おいしいのよ!啓太くんの料理!」
啓太という名前を聞いてますます不機嫌になる直樹。
「何で突然?」
「え?それは…その…だって直樹さん、一度もお店に来たことないから。」
「それはお前の雇い主がくだらない貼り紙してるからだろうが。」」
あの『華族お断り』の貼り紙を琴子は思い出した。
「でも…。」
仲直りをしたい気持ちは直樹も同じだった。が、啓太の名前を聞いた今、どす黒いもや自分の中に充満していることを感じていて、しかもそれを抑えることは到底無理だということも気づいていた。
そしてそのもやはとうとう爆発する。
「自分の妻がコマネズミのように働かせられている姿なんて、好き好んで見に行く気になんてならない。みっともない。」
その言葉は刃となり、琴子をズタズタにした。

「みっともないって…言った?」
「ああ言ったね。」
「そんな言い方しなくたっていいじゃない!それに…働くことは全然恥じゃないって、お義母様だって言ってくれたもの!」
しかし直樹の刃は容赦なく琴子に向けられた。
「どこの馬の骨だか分からない男に、顎でこき使われている姿を見に来いなんてお前も変わってるな。」

その瞬間、琴子の怒りも爆発した。
「馬の骨って…何て失礼なことを言うの!?」
今日聞いた、啓太の身の上話を思い出す。直樹が啓太の事情を知らないにしてもそれは言い過ぎだと琴子は思った。
「直樹さんて…人を見下すような…そういう人だったの!?」
「見下す…別にそんなつもりはないけど。」
「見下してるじゃない!啓太くんに謝ってよ!」
完全に啓太寄りになった琴子に、直樹は更に腹が立った。
「見下す、見下すっていうけど、壁を作ってるのはお前だろ?」
「壁…?」
もはや口が止まらない直樹は続けた。
「お前が身分をどうこう気にして、勝手に壁を作ってんだよ!俺との間に!」
「そんな…。」
まさか直樹にそう思われていたとは琴子は思っていなかったので、衝撃のあまりに立ち尽くした。

「じゃあ…何で?」
琴子は涙を溢れさせながら言った。
「何で…お友達の結婚式の時、嘘をついたの?」
「嘘?何だ、それ?」
今度は直樹が驚く番だった。
「この間のお友達の結婚式…どうして私は風邪を引いて欠席するなんて嘘をついたの?」
「それは…。」
いつ琴子が真相を知ったのだろうと直樹は思った。
「この間…買い物に行った時、そのお友達に会ってそう言われたの…。」
だからあの後、突然消えたのかと直樹は理解した。が今はそれどころではない。
「一人で行きたいのなら…最初からそう言ってくれれば…ちゃんと正直に言ってくれればよかったのに。」
「それはそういう訳じゃなくて…。」
直樹の言葉を遮って、泣きながら琴子は言った。
「そんなに…私ってみっともないの?一緒に歩いたりどこかへ行ったりするのが恥ずかしい?」

さすがに言い過ぎたと思い、直樹は琴子に触れようとした。が、琴子はその手を振り払った。その拍子に台に置かれていた二つの湯呑が床に音を立てて落ち…割れてしまった。
琴子はそれを見てハッとしたような表情を見せたが、それも一瞬だけだった。
「琴子…。」
「もしかして結婚の披露宴を身内だけにしようって言ったのも、他の人に私を見せたくなかったから?身分が違う結婚をしたことが恥ずかしかったから?正式な場へも一緒に行かないのも…?」
「琴子!」
直樹は琴子の両肩に手を置き、落ち着かせようとしたが琴子は体を離し、涙でぐしゃぐしゃになった顔を直樹に向けた。
「私だって…できることなら華族に…直樹さんと同じ世界に生まれたかった!でも無理なんだもの!だから…だからお嫁さんにしてくれた直樹さんが恥をかかないようにって頑張ったけど…もうこれ以上は無理!!」
そして琴子は泣きながら部屋を飛び出して行ってしまった。

後に残された直樹は、割れてしまった湯呑の欠片を茫然と見ていた…。

「琴子!?」
家を飛び出した琴子が向かった先…それは鴨屋で、入口にボロボロの姿で立っている琴子を見て、啓太は驚いた表情を見せた。



♪あとがき
パスワードを見つけられて、がっかりした皆さま、申し訳ございませんでしたm(__)m
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*Comment

★こじれたね

これは・・・原作よりもこじれてないかい?
どうやって大団円に持っていくのかしら??(←大団円と決めつけていいのかしら?いいのよ・ね・・・?)

夫婦茶碗が落ちて割れるシーンは、まるでスローモーションのように目に浮かんだよ。割れたその夫婦茶碗の姿が切ないよぉぉぉぉ・・・。
泣いて飛び出した琴子の行った先が啓太のところってのが・・・。やばいよぉ、やばいよぉぉぉ、直樹さん早く琴子の心を助けて~~!!このままじゃ、啓太に流れちゃうよ~~!!

車や金ちゃんは「円舞曲」にはいないんだよね。原作のあの学食シーンの立役者はいないということで、展開が全然読めないです・・・。

それにしても、割れた夫婦茶碗が目に焼き付いているのはなぜ?見てもいないのにね、不思議だ。
アリエル |  2009.08.12(Wed) 00:53 |  URL |  【コメント編集】

★縺れた糸を解くのは・・・・

どんどん糸が縺れていく。
「みっともない」と言うのはかなりぐさっと来る言葉ですよね。ちょっと酷くないかい直樹!
アリエルさんの仰る様に、私もスローモーションで夫婦茶碗が割れる様子を見ました。水玉さんのお話って時々映像や漫画のコマワリが見えるのです。
読み返してみると、そんな表現はないのに・・・不思議です。
さくや |  2009.08.12(Wed) 01:17 |  URL |  【コメント編集】

★双方爆発!

水玉さん、おはようございます。

こんなにこじれてしまった二人の関係はどうなるのでしょう。
琴子も一生懸命頑張ったいたのに。
お互いが傷つく事を言いましたね。
言ってはいけないような言葉を。
直樹は直樹で琴子の事を想って配慮している事が、琴子には
理解できないのでしょうね。
二人とも本当に辛い状況ですよ。
ましてや琴子、啓太の店に行ってますよ。
泊まるつもり、それはしてはならないこと。
夫婦関係がぎくしゃくしていても。
直樹、どうするの。
このままでいいの。
tiem |  2009.08.12(Wed) 06:35 |  URL |  【コメント編集】

★第一の山場よ~

原作よりかなりヤバそうな感じ…行った先が啓太なんだったら取り返すの大変だわ!さぁ、第二の山場よ~~~!!
くみくみママ |  2009.08.12(Wed) 07:10 |  URL |  【コメント編集】

★NoTitle

確かに直樹さんより琴子ちゃんのほうが身分を
かなり気にしているのは確かだね。
けど琴子ちゃんの立場なら当然気にしちゃうよね。。。。
それにしても直樹さん!相当きついお言葉を発したもんだ!!
しかも本人は、しまったぁ~と気づいているのに。。。
後の祭り状態だわ!!
で、鴨屋の前とは。。。。
今後の展開がとぉぉぉっても気になります♪
ゆみのすけ |  2009.08.12(Wed) 09:55 |  URL |  【コメント編集】

★とうとうやってしまいましたね。

おはようございます。

あ、あ、ふたり日頃の思いが爆発して、
とうとうやってしまいましたね。
折角、二人の関係が修復するかと思った矢先、啓太の
名前に過敏に反応して、ついにはお互いに相手の傷つく
事を言ってしまって...
ついに、琴子が家をでて、でも、行った先は啓太のいる
鴨屋だなんて...
これからどうなってしまうのでしょうか?
るんるん |  2009.08.12(Wed) 11:06 |  URL |  【コメント編集】

遂にお互いの思いが爆発して言い合いになっちゃいましたね。
琴子にとっては「みっともない」という言葉が1番気になっていたこと。
それを言って直樹も後悔したけど、時既に遅し…。
しかも、琴子は啓太の所に行っちゃった!
これから、いったいどうなるのぉ~~!!!

眞悠 |  2009.08.12(Wed) 12:48 |  URL |  【コメント編集】

★NoTitle

コメントありがとうございます^^

アリエルさん
え?そう?
まあただの嫉妬じゃ済まない問題に発展させてしまったからねえ~^^;
大団円…どうかしら?????
なあんてね。
そうなのよ、金ちゃんがいないからねえ。原作はほんと、金ちゃんに足を向けて寝るな、入江くんと言いたかったくらいだし(笑)
しかし、アリエルさんもさくやさんも…ほめすぎです!!!
…嬉しい、えへっ♪

さくやさん
ありがとうございます!相変わらずほめ上手なんだから、さくやさん♪
確かに言いすぎだろと書きながら自分でも思いました(笑)
黒直樹…加減が難しい^^;
そんなに褒められると、ものすごい調子にのっちゃいますよ(笑)

tiemさん
本当にぎくしゃくという言葉がぴったりで…
私もさっさと終わらせたいのが本音なのですが^^;
これがなかなか…なんか書くのに時間がかかるんですよね、この円舞曲。
大風呂敷広げすぎでしょうか(笑)

くみくみママさん
そう、原作よりやりすぎた感じです(汗)
まあやってしもうたものは仕方ない(笑)
こうなりゃ最後まで突っ走るしかない!って感じですがな(笑)
ほんと、私にとっても山場(笑)

ゆみのすけさん
でしょ!きついよね~←自分で書いておいて…
いや、言ったのは私じゃないのよ、私はこんなに黒くないわ~!と弁解(笑)
ゆみのすけさんの前では白い私でいたいの…♪←気持ち悪くてごめんなさい(汗)

るんるんさん
そう、とうとうやってしまったんですよ!
やっとここまで来たか~という気持ちで私はいっぱいですが(笑)
皆さま、鴨屋に反応するお姿が…ちょっと楽しいとか言ったら怒られちゃうかな?

眞悠さん
そうそう、みっともないはNGワードなのに!それをなぜ言う~という感じです。
二人がやっと爆発して、こちらはちょっとすっきりしてます…なんて言ったらやっぱり叱られちゃいますか?(笑)
水玉 |  2009.08.13(Thu) 00:34 |  URL |  【コメント編集】

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