日々草子 円舞曲 8

円舞曲 8

「…で、どういうことなのよ?」
鴨屋にて琴子は啓太と幹に事情を当然求められていた。
「何で伯爵家の若奥様がこんな店で働いているんだ?」
「…ちょっと色々あって。それで体を動かしてみたくて。」
途中まで話して、琴子は顔を上げて語気を荒げた。
「あ!でもふざけた気持ちで働いていたわけじゃないの!ちゃんとまじめな気持ちで働いていたのよ?それは信じてほしいんだけど…それにここ、とっても居心地がよくて二人のことも私大好きなの!だから…これからも働かせてほしいのだけど。無給でもいいから!」
「無給ってアンタ…。」
呆れる幹はどうするのかといった風に啓太を見る。
「…いいよ。働いてもらうから。」
「本当?」
「え?」
琴子と幹は同時に声を発した。
「勿論、給金は払う。払わないとお前をこき使えないからな。」
そう言って啓太は笑った。
「ありがとう!」
喜ぶ琴子に啓太は念を押す。
「亭主にちゃんと正直に話したんだろうな?」
「うん!直樹さんにも許可もらった!」
「それなら…アンタがここにいるってことは…入江様もいらっしゃるってことよね。」
途端に幹が嬉しがる。
「あ、モトちゃん。」
そんな幹を見て琴子が思い出したように言った。
「直樹さんがね、次のニシン漁に出る船の出航時間はいつだって言ってたよ?どういう意味なの?」
「嘘…!」
途端に青ざめる幹。その様子を自業自得と言わんばかりに見つめる啓太。

店の周りを掃除しに琴子が外に出た後、幹は突っ伏していた顔を上げた。
「ねえ。」
開店の準備を始めようとした啓太に声をかける。
「…アンタが琴子をクビにしなかったのは意外だったわ。」
「どこが?」
「琴子の素性を知ったら絶対クビにすると思ったのに。」
さっきまでの態度とは変わって、無表情で問いかける幹。
「…別に。今までのあいつを見てたら、お遊びで働いているわけじゃないことはお前だって分かってるだろ?」
「そりゃそうだけど…まあ琴子がいれば色々と助かるし、入江様の顔を拝めることも多いだろうしね。」
釈然としないまでも、幹もすぐにいつもの様子を取り戻した。

「それでね、今までどおり働かせてもらえることになったよ。」
その夜、絵を描く直樹の傍で夜食の支度をしながら嬉しそうに報告する琴子。
「ふうん。」
自分で承知しておきながら、どこか面白くない直樹。

「…なあ。」
サンドウィッチを差し出す琴子へ直樹が言った。
「俺、お前の芋、そろそろ食いたいんだけど。」
とうとう痺れを切らした直樹。
「あ、それはだめ。」
そしてあっさりと拒否する琴子。
「何でだよ?」
「…だって、お芋は直樹さんに似合わないもん。」
「何だ、それ?」
琴子の返事に直樹は納得できない。
「別に芋と一緒に写真を撮るわけでもないし、似合わないって意味が分からない。」
「直樹さんは…サンドウィッチとか、お洒落な食べ物の方が似合ってるよ。」
琴子はそう言いながらサンドウィッチを押しつけてくる。仕方なくそれを受け取った直樹は、琴子の笑顔を見ながらサンドウィッチを口に入れた。

数日後、直樹が高校時代の友人の結婚式に招かれた。
「じゃあ…二人で出席かな?」
少し胸を躍らせる琴子に直樹は一人で行くからいいと言った。理由を訊ねる琴子に直樹は、招かれたのは自分だけだし、男子校だから客も男が殆どだろうからと答える。
「そっか…。」
がっかりした琴子だったが、すぐに気を取り直して当日に直樹が身につける衣装の準備に張りきるのだった。

そして当日。
正装の直樹に琴子は胸をときめかせた。その姿を見てやっぱり隣にいたかったと思うが、招待されていないのだから仕方ない。
「あのね…。」
出かけようとする直樹を捕まえて琴子は何かを言いかけた。
「何だよ?」
「あのね…何でもない。」
そんな琴子の様子を見て「ばーか。」と直樹は一言を残し出かけて行った。
「…本当は女性に声をかけられたら、妻がいるってちゃんと答えてねって言いたかったのだけれど。」
琴子はそんなことを呟き、そして小声で続ける。
「直樹さん、私たち二人で正式の場に出かけたことがないって…知ってるかなあ?」
だからこそ、今回二人で一緒に出かけられることに期待していた琴子だった…。

「何だこれ?」
働く琴子の様子を見ようと、学校帰りに直樹は鴨屋へ立ち寄った。が、入口に貼られた一枚の紙に言葉を失った。
「どういう意味だ、これ。」
入口で立ち尽くしていると、
「キャーッ!入江様!」
と叫び声が聞こえた。勿論、声の主は幹。
「さ!つまらないちっぽけな店ですがどうぞ、どうぞ!」
そう言って手を取る幹に、直樹は黙って貼り紙を指さす。
『華族様 おことわり』
それは力強い筆文字で書かれていた。
「何なの?これ!」
幹は叫んだ。どうやら書いたのは…啓太らしい。
「モトちゃん、声大きいよ…。」
外での騒ぎを聞きつけ、中から琴子が出てきた。
「あ!直樹さん!」
直樹の姿を見つけ、弾んだ声を出した琴子だったが、幹に教えられ貼り紙を知る。
「え?何、これ?」
琴子も不思議な顔をして直樹の顔を見た。が、
「でも…啓太くんがそう言うなら仕方ないね。」
と言い、直樹と幹を更に驚かせる。直樹は琴子が「そんなことは気にしないで」と言ってくれるものだと思っていたので余計に驚いていたが、勿論、そんな様子は外に出さない。
「そんなことだめよ!」
そう言って幹が貼り紙を破ろうとした時、啓太が店から出てきた。
「ちょっと、これどういうことなのよ!」
詰め寄る幹に啓太は、
「どうもこうも…華族様は他にもっと高級な店があるだろうしな。」
と直樹に冷たい視線を送る。
「そういう訳なのでお引き取り願います。」
啓太はそう言い残し、店内へと戻った。

「あ、私も戻らないと。じゃね、直樹さん。」
琴子も啓太の後を追う。
「何なのよ!あの二人は!」
幹の叫び声を聞きながら、直樹は琴子の態度に衝撃を受けていた。帰ってきたら問い正そうかとも思ったが恐らく、「だって直樹さんにあのお店、似合わないもん。」という答えが返ってくることは容易に想像できたので、何も聞かないだろうと自分で分かっている。

…こうして少しずつ心がすれ違い始めていることに、琴子も直樹もまだ気が付いていなかった。

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comment

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こんばんは

こんばんは、お邪魔します。
凄く続きを楽しみにしていました。
直樹、琴子のすれ違いは嫌です・・・・・。
でも、ラブラブが来るのなら。
続きを楽しみにしています。

すれ違ってくの~~

お互いの気持ちがすれ違ってく~~~!
相手を想いすぎるのね、きっと。
ラブラブ欠乏症になっちゃうよぉ~!!

お帰りなさい!!

水玉さん、お帰りなさい!!
5月の休止以降、1ヶ月は休むといったのにもかかわらず、毎日、のぞきに来ていたのですが、今月は忙しく遠のいていました。今朝、久しぶりに来てみたらびっくり!!すごく嬉しくて、まだ読んでいないのですが、まずはこのうれしさを伝えたいと思いコメさせて頂きます!!遅ればせながら、お帰りなさい!!新しいお話はゆっくり大切に読ませて頂きますね。これからも楽しみにしています。

やっぱり幹ちゃんは直樹に会えれば、それで納得するのね(笑)
とうとう琴子手作りの芋が食べられない事に直樹は痺れを切らしましたね。
でも琴子は「似合わないから」と即刻拒否。
直樹、哀れ……
いつになったら食べられるようになるんでしょう?
琴子も正式な場に直樹と二人で行った事がないなんて可哀相です…
啓太も直樹に対して敵意を剥き出しにし始めたし、二人の歯車がますます食い違って行きそうで…、これからどうなるのかハラハラドキドキです!!!

NoTitle

コメントありがとうございます♪

rinさん
コメントありがとうございます。
ああ…実は私、直樹いじめ同好会の副会長なもので(笑)
いじめていじめていじめるのが好きなので…
万華鏡は琴子に尽くさせたので、今回はちょっと直樹に悩んでもらおうかと…
そんな気持ちで書いています。

くみくみママさん
そうなの~すれ違ってすれ違ってすれ違って~(笑)
やっぱり私の原点、これだから(笑)
欠乏になった分、ラブラブがお粗末でもごまかせるかなあと(笑)

こっこさん
ありがとうございます!戻っております!!
お忙しい中来て下さりとてもうれしいです!
素敵なお帰りなさいコメント、受け取りました!!
ぜひこれからもお暇な時でよろしいので足を運んでくださいね!
とてもうれしかったです^^

眞悠さん
しかし…芋…たかが芋…
私ももうちょっとましな食べ物を考えればよかった(笑)
考えれば笑えるネタではありますね(笑)
本当に哀れだ、直樹…(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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