日々草子 幸運の女神 第4話

幸運の女神 第4話

その日、琴子が帰宅したのは夜9時を過ぎていた。
寝室のドアを開けると、風呂上がりの直樹がいて、琴子に問いかけてきた。

「日勤の割には、随分遅かったな」
「あ、そうだね、遅くなっちゃったね。ちょっと師長と話してたから」
いつもと同じ様にふるまう琴子に、更に問いかけた。
「お前、何か隠していることないか?」
「…何で?」
「最近お前の様子が違う気がするんだけど」
「成長したと言ってほしいんだけど。あたしだっていつまでも未熟なままじゃないんだし。あ、お風呂入ってこようっと。」
慌てて部屋から出て行こうとする琴子の後姿に、直樹が言った。

「…鴨狩には話せるのに?」

ドアを開けようとした琴子の手が止まった。直樹は『え~入江くんまた啓太のこと誤解してるの?』と慌てる琴子の様子を想像してたが、琴子からの反応は予想外のものだった。

「看護師にはね、お医者さんに話せない看護師同士しか分からないいろいろな悩みとかがあるの!入江くんはそんな細かいこと気にしないで、もう寝た方がいいよ。また倒れると大変だし。」
琴子の答えに、直樹は頭にきたらしく、

「わかった。なら看護師同士、鴨狩と仲良く内緒話でもしてろよ」
と一言言うと、ベッドにもぐってしまった。その晩、琴子は書斎で夜を明かした…。

「入江先生、琴子さん最近すごい成長ぶりですよね」
ケンカから数日たったある日、直樹に師長が声をかけてきた。成長ぶりって子供じゃないんだしと思いつつ、直樹は答えた。
「どうですかね。今までが今まででしたし」

そういえば、ケンカをした日に師長と話をしたとか琴子が言ってたなと直樹は思い出していた。

「技術的にはなかなかすぐにどうなるものではないですけど、精神面は見違えるようですね。ここに実習に来ていた時とすごい違いで。それにしても、あの琴子さんがよく先生と離れる決心しましたね」

師長の最後の言葉に直樹は耳を疑った。

「離れる?どういうことです?」

「えっ、先生ご存じないのですか?この間琴子さん、私のもとへ神戸の病院への3か月の研修に応募したいと言ってきたんですよ」

「…神戸?」

「看護師として、もっといろいろ習得したい、一回り成長したいって。入江先生と一緒にいると頼ってしまうから一人で少しやってみたいと。」

その日夜勤だった琴子が病院に来るのを直樹は待ち構えていた。最近は時間ギリギリでなく、ある程度余裕を持ってくることを知っていたので、話をする時間は十分あった。

「ちょっと話がある」
病院へ来た琴子の腕をとり、直樹は無理やり屋上へ連れ出した。

「神戸ってどういうことだ?」

夕暮れの屋上には誰もおらず、2人だけだった。
「俺、何もお前から聞いてないんだけど。説明してくれないか?」

「…3か月の研修の募集があって、それに応募して、行くことにしたの」
「俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
「じゃ、他に何を説明しろと…」

「俺たち結婚してたんじゃなかったけ?何でお前が神戸に行くことを俺が赤の他人から聞かされなきゃならないのかってことだよ!俺、お前の口から神戸の『こ』の字もきいたことないけどな」

「あたしなんかの話で、入江くんの時間とらせるのが悪かったから。」
「鴨狩に話はできても、俺にはできないわけか」
「啓太は関係ない!」

琴子の言葉もだんだんと激しい口調になってきていた。お互いに引っ込めなくなっている状態だ。

「大体、お前が他の病院でやっていくなんて無理だ」
「無理って何よ?あたしこの頃失敗だってしないし、師長や主任から怒られることもないのよ?立派な看護師よ」

「今のおまえはようやく普通の看護師レベルになっただけだろ?何思い上がってるんだ!」
「そこまで馬鹿にすることないじゃない!」

「お前は俺のそばにいないと何にもできねぇんだよ!」

「そんなことない!入江くんがいなくても、一人でやっていけるわよ!」
琴子が叫んだ最後の言葉に、直樹は驚いたが、それを顔に出さないよう、そして言った。

「…わかった。神戸でもどこでも勝手に行けよ。」
そう言い残し、直樹は屋上を後にした。


屋上に一人取り残された琴子は、
「…だって、だってしょうがないじゃない。入江くんのためなんだから」
と涙を流していた。

直樹は神戸行きの話を琴子が話さなかったことに一番ショックを受けていた。琴子は何でも隠さずに直樹に話をする。最近様子がおかしかったことは気づいていたが、自分から離れることを考えていたことは夢にも思わなかった。

「あいつの突拍子もない行動には慣れたつもりだけれど、今回は今までの中で最大だな」
壁にもたれてそんなことをつぶやいていた。大学を落第したとき、やっぱり今のようにケンカになり、1週間家を出たことがあった。友達の家を転々とすることは想像ついたが、「自立のため」と定食屋に住み込みを始めたときはさすがに驚いた。琴子の桁はずれのパワーは時にとんでもない方向へ向かうことがある。

「あの時は俺が一応折れた形になって迎えにいったんだよな」
定食屋で働く琴子の姿を思い出し、ちょっと直樹は笑った。しかし、すぐに真顔になりつぶやいた。

「でも、今度は遠すぎて簡単に迎えにいけねぇぞ…」
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初めてコメントさせていただきます☆☆
水玉さんのサイトには何回も足を運んで読ませて頂いてます☆☆
琴子が一人で神戸に行く話を聞いて動揺する入江君にキュンv-238と胸が締め付けられてしまいましたv-119
第六話以降の二人を楽しみにしてますv-237

はじめまして、maikoさん!
読んで下さってありがとうございます。
はずかしさで読み返せないので、加筆修正もできませんが(何か誤字脱字があったら教えてください)、この続きもUPする予定です♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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