日々草子 幸運の女神 第3話

幸運の女神 第3話

売店で買った食事を手に直樹が屋上へ向かったのは、琴子が気になったからだった。琴子が悩んだり落ち込んだりすると屋上へ行くという癖は直樹も知っていたので、食事しながら話をしようと思っていた。

屋上への入り口にさしかかった時、直樹の目に飛び込んできたのは琴子と啓太の後姿だった。入口から離れているところに2人は座っているので、何を話しているのかは聞こえない。2人が大声で騒いでいるようなら、間に割って入っていけるのだが、近寄りがたい雰囲気が2人と直樹の間に漂っていて、しばし直樹は入口に立っていた。それから、2人に声をかけず、気づかれないように直樹は屋上を後にした…。

「…確かに、あたしって厄病神なんだよね、昔から」
手つかずのサンドイッチを啓太へ押し付けて、琴子がポツリポツリと話し出した。
「入江くんの大学入試のセンター試験、お守り作って渡したら、それが原因で入江くんは松葉杖ついて帰ってきたの」
「はぁ?何でお守りで?松葉杖?」
啓太の疑問に答えず、琴子は更に話を続けた。

「T大の入試の時、入江くんを会場まで送って行ったら、あたし、盲腸で倒れちゃって…あたしを病院へ連れて行ったから、入江くんT大の入試受けられなかったんだよね」

「それから、大学の学祭、あたしがきちんとガスボンベを片付けなかったばっかりに爆発しちゃって、2人でケガしちゃったことも…」

「あ、2人でボートに乗って池に落ちてずぶぬれになったこともあった」

「急きょあたしと結婚することになったから、入江くん、作るのに1年くらいかかるゲームソフトを会社に泊まり込んで、寝ないで2週間で仕上げるはめになったことも…」

琴子の口から出る思い出話を聞きながら、啓太は、
(入江って今までよく無事に生きていたな)
と半分直樹に同情していた。

琴子の話は続く。

「この間、船津くんに聞いたんだけれど、お医者さんってやっぱり人間関係とか大切みたい。うまくいかないと、出世どころか、開業したりできなくなっちゃうって…」

「あいつは出世欲があるように見えないけどな。病気に対する闘志は結構ありそうだけれど」

看護師を下に見る医者が多い中、直樹はきちんと対等に看護師や他の職員と向き合っていることを啓太も知っていた。直樹みたいな医者が少ないことも看護師になってわかったことだが。

「入江くん、裕樹くんが入院したことをきっかけに理工学部から医学部へ編入したんだよ。少しでも病気の人を治したいと思ったんじゃないかな?」

「でも編入した時、会社のことでお義父さん…入江くんのお父さんと揉めちゃって、お父さん、ショックで心臓発作で倒れちゃったんだよね。でも最後は入江くんがお医者さんになることに賛成してくれだんだ。」

琴子の話に、啓太は直樹が医者になったのは頭がずば抜けて良かったため、周囲の勧めに従って、何となく、一番難しい医学部が入ったのかと想像していた
ことが間違いだったことに気付き始めていた。

「だから、入江くんが私のせいで医者として活躍できなかったら、入江くんだけじゃなく、応援してくれた入江家のみんなにも申し訳ないの!入江くんの頭脳やお医者さんとしての技術はたくさんの人に役立てることができるんだもん!せめて、足を引っ張らないように頑張ろうと一生懸命やってるんだけれど…」

直樹の医者になった経緯を聞かされた啓太は直樹を見直していた。
顔がよくて何でもこなせて、家も金持ちでと恵まれているように思ったが、それなりの苦労はしてきたらしい。一番の苦労は何度も命を危険にさらしながら琴子と一緒にいたことのような気がするが…。

「なら、今のまま頑張ればいいじゃん」
啓太は琴子にそう言い、「サンドイッチごちそうさん」と言い残して屋上を後にした。

この調子だとそのうち立ち直るだろう、そう啓太は楽観的に考えていたが、その考えが間違っていたことに後に気付くことになる。
琴子の突拍子のないパワーは予想外の方向へと向けられることに、直樹をはじめ周囲の人間はまだ気づかないままだった…。
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