日々草子 円舞曲 3

円舞曲 3

今までの疲れが一度に出たのか琴子は高熱を出し、しばらく寝込んでしまった。
漸くベッドの上に起き上がれるようになったのは、寝込んでから三日経っていた。

ある夜、裕樹が自分の部屋へ入ろうとした時、背後に気配を感じたので振り返った。
「うわっ!」
後ろには寝間着姿の琴子が立っていた。
「な、何だ?」
大声を出しかけた裕樹の口を琴子は塞いで、部屋の中へと押し込む。
「…何だよ、突然!幽霊かと思ったじゃないか!」
「ごめんね。ちょっと聞きたいことが。」
「お前…起きてていいわけ?」
琴子は倒れてから部屋から出てこなかった。というより、直樹に出してもらえなかった。
「まだフラフラするけど、平気。」
「ふうん。」
そして裕樹と琴子は並んでベッドへと座った。
「で、聞きたいことって?」
三日ぶりに見る琴子は、面やつれしている様子である。
「…あのね。披露宴のことなんだけど…。」
「はあ!?」
裕樹は琴子がまさかもう一度披露宴をしたいのかと思った。
「ああいうのって…その…やっぱりたくさんの人を呼んでやるもの?」
「…まあ。結婚しましたってお披露目するわけだから。」
「考えてみれば、お義父様たちもよくご招待受けてるなあって。」
「そりゃあな。」
裕樹には琴子の質問の真意が今一つ理解できない。

「ところで…。お前、ここに来てるって兄様に言ってあるんだろうな?」
「その…直樹さんがお風呂へ入っている隙に部屋を抜け出してきたから。」
おどおどと答える琴子を見て「まるで監禁状態だな。」と、裕樹は思った。
「だって…。寝ているの飽きちゃったのに、起きちゃだめって。直樹さん、食事も運んでもらって部屋で食べているし、勉強も傍でやっているの。」
想像を遥かに超える直樹の過保護ぶりに、裕樹は言葉を失った。余程琴子が倒れたことがショックだったということなのだろうが。
「よかったじゃん。いつも“直樹さんが冷たい。意地悪”ってお前騒いでたことだし。まあ、今のうち甘えるだけ甘えれば?」
ところが琴子の表情は冴えない。
「…それだけ心配かけたってことなんだよね。悪いことしちゃったな。」
意外な琴子の言葉に裕樹はまたもや驚いた。いつもの琴子なら喜んで尻尾を振って甘えるところだと思うのだが。

その時、裕樹の部屋の扉が開いた。
「部屋にいないと思って探したら…ここにいるとは。」
そう言いながら、直樹は部屋の中へ入ってきた。
「お前、まだ微熱はあるんだからな。おとなしく寝てろよ。」
そう言いながら、ひょいと琴子を抱き上げる。
「お前も…琴子に用があるなら、お前から来い。病人を呼びつけるな。」
今度は裕樹を睨みながら直樹は言う。
「違うの…。あの、これは私が押し掛けて…。」
琴子は言い訳をしつつ、足をばたつかせた。
「戻るから!自分の足で歩けるから下ろして!」
「だーめ。」
そして直樹は琴子を抱きかかえたまま、部屋を出て行った。
「…何だあれ?」
一人取り残された裕樹は茫然としていた。
「で、あいつは披露宴の相談に来たわけ?そんなの…二人でしてくれ!」
開いたままの扉を裕樹は音を立てて閉めた。

強制的にベッドへ放り込まれた琴子はフランス語の本がほしいと直樹にせがんだが拒否された。
「だって…勉強遅れちゃう。」
心配そうな琴子のおでこを軽く直樹は小突いた。
「お前の稽古事、全部やめさせたから。」
「ええ!?」
そんな勝手なと琴子は抗議しようと起き上がったが、直樹に再び倒された。
「一度に始めたって身に付かないし、それに今度の病気の原因はそれなんだから。」
「大丈夫だもん。今度は無理しないから。」
「だめ。始めたくなったら、今度は一つずつやっていけばいいだろ。」
「じゃあ…私、何をして過ごせばいいの?」
不満そうな琴子に直樹は言った。
「飯食って寝てろ。今はそれがお前の仕事。」
「…それじゃ豚になっちゃう。」
口を尖らせる琴子を見て、直樹は笑った。久しぶりに琴子の冗談が聞けたことが嬉しい。
「豚になったら…その時は食べてやるよ。」
そう言って、直樹は琴子の体に布団をかけ直した。

漸く床払いができたのは(というより起きてもいいと直樹の許可が下りたのは)それから更に三日後のことだった。

「はい、お弁当!」
琴子は直樹が学校に復帰してから弁当を作っていた。初めて弁当を作った日、直樹は「もしや芋が入っているのでは…」とそっと弁当箱を振って、ゴロゴロと音がしないか確認したものだった。
しかし、芋のほうがましだった内容ではあった。
「…何か臭わないか?」
学校で級友たちがひそひそと言い出した。もしや…と直樹は思い、自分だとばれないうちに学校の裏庭へ一人出て、弁当箱を開けた。
「こんなの、普通入れるか?」
弁当箱の中は…ネギをまぶして炊き上げたネギご飯がギッシリと詰められていた…。
「微妙な味だな…。」
ネギご飯を口に運びつつ、直樹は呟いた。
とにかく琴子は自覚はしていないのだろうが、匂いのきついものをおかずにする癖があるらしく、ネギは常に入れられ、そのほかにもニンニクなどが弁当に入れられていた。
おかげで直樹はお昼は一人で裏庭で食べるという癖がついた。

しかし、その弁当も琴子が夜食に蒸かし芋を出さなくなったと同時に変わった。
琴子が毎朝手渡す弁当の中身は見事な幕の内弁当へと変化を遂げていた。勿論、琴子が作った訳ではない。料理人にでも作ってもらったのだろう。
「お花見御膳みたいだ。」
と級友たちからは感心されたが、直樹は琴子のネギご飯の方がなぜかおいしく感じられる。

病後も琴子は相変わらず夜食や弁当の世話をしてくれるのだが、その中身はやはり自分で作ることはなかった…。

そして琴子は再び退屈な日々を送ることになった。
病み上がりということで最初2週間くらいはおとなしくしていたが、だんだん退屈さが増してくる。
そんな琴子を見て紀子は心配をしていた。

「どこに行くんですか?」
黙ってついてきてと紀子に言われ、琴子は歩いている。
「ここ!」
紀子が止まったのは、とある一軒の店だった。
「ここって。」
その店は、琴子が稽古事の帰りに休憩に立ち寄って居眠りをしてしまった店だった。
「あのね…琴子さん。このお店で働いてみない?」
紀子の提案に琴子は驚いた。
「働くって…あの…また大変なんですか?」
また重樹の会社が危ないのかと琴子は心配になり、紀子に訊ねた。
「違うの、違うの。」
紀子は慌てて手を振る。
「あのね…琴子さん、もともと体を動かすこと、好きでしょう?前に直樹さんのためにあんみつ屋さんでお仕事してたこともあったでしょう?」
直樹の学費のために働いたことを紀子は知っていたらしい。
「だからどうかなって思って。少しは気が紛れるんじゃないかなと思ったんだけど。」
「だけど…。そんなことしていいんですか?」
働くのは楽しそうだが、華族の人間が仕事をするなんてことが話題になったりしたら直樹どころか、今度は入江家全体の恥になるのではないかと琴子はそれが心配だった。
それを聞き紀子は、
「働くことを恥じる方がおかしいのよ!」
と一喝する。

「それにね。このお店、御主人も奥さんもいい感じなのよ。」
「お義母様入ったんですか?」
「勿論。だから募集の張り紙を見た時、ここなら琴子さんも安心して働けるんじゃないかって思ったの。」
琴子は紀子の行動力に驚く。
「ほら!見て!」
紀子が指をさした入口には、『店員募集。ただし既婚者に限る』と一風変わった内容の張り紙がされている。
「既婚者だし、いいじゃない?」
「そうですね…やってみようかな。」
琴子も気分転換になるかもと思って、話に乗ることにした。
…なぜ既婚者限定なのかは首を傾げるが。

ただし、直樹には内緒にしてもらうことを紀子に頼んだ。隠すこともないのにと紀子に言われたが、あれだけ心配をかけたからこれ以上余計な心配をかけたくないと琴子が主張し、紀子も納得する。
「でも、裕樹さんにだけは言っておきましょう。あの子を巻き込んでおけばいろいろ便利だし。」
紀子はそう言って笑った。

ちなみにその店の看板には『鴨屋』と書かれていた。



♪あとがき
たまには…ラブラブが書きたかったんです…。
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comment

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原作をベースにして上手くパラレルワールドを書かれてる水玉さんの作品が大好きです♪

過保護な直樹、素敵です!!
原作の直樹では過保護って有り得なさそうですもんね…
二人のラブラブっぷりが見れて楽しいです♪
そして、やっぱり裕樹はこの夫婦に巻き込まれるんですね(笑)

これから働き始める琴子。
直樹に内緒って所で、これから、どうなって行くのか楽しみです!

お店の名前がとっても気になるーーーっ!!
もしかして水玉さん、キタキタキターーーっと思っていいのかしら??
続きはお楽しみですね♪
本当に続きが楽しみです♪
けど今回のお話、いつもの水玉さんに比べたら
裕樹の被害が少なくてよかったわ(笑)←被害大も好きだけど・・・
うんうん優しい直樹さんも素敵♪
琴子ちゃんこれからもがんばってね!!

はじめまして

鴨屋…続きが楽しみです。

デレな直樹に萌え~!

今日は携帯なので、こちらからおじゃまします。
あまあまですね~!食事も運んでくれるってことは「あ~ん」とかもやってくれちゃったりして~~と一人妄想…。そして裕樹はまだまだ被害に遭うはず!と、またしても一人ニタニタ…。
新たな展開で、ますます続きが楽しみです!

こんばんわ

タイトル円舞曲になったんですね!ステキです。

私は、ふかし芋しか浮かばなかったです!

万華鏡好きなお話だったので、続きが読めてうれしいです。

鴨屋?何かありそで続きが、気になります。

こんばんは。
テンプレートが変わって、すっかり夏本番て感じですね。

琴子に甘ーい入江君もたまには、いいですよね。
琴子、愛されてますね。

入江君には、どんな豪華なお弁当や美味しそうな夜食より、琴子の作った葱入り弁当やふかし芋が最高なんですよね。

退屈そうな琴子をみかねた入江ママ、「鴨屋」で働くことを勧めてくれましたね。

その「鴨屋」って?次回が気になります。

鴨屋、そこでどんな出会いがあるのでしょうか!!!

続き楽しみにしています。

鴨屋ですかっ

お姫様抱っこですね!!
「その時は食べてやるよ」って
きゃあああああ~~~(//▽//)。
ラブラブっつうか、入江くんがっ入江くんがっ!!
(私が壊れてしまいそうです・・・爆)
弁当はネギご飯のほうがいいってか?ニンニクも平気か?
さすが入江くんです。
でも旦那のお弁当のおかずに豚さんや鶏さんをピーマンや玉ねぎとエバ○やきにきのたれで味付けしたものやの冷食の「牛かルビマヨネーズ」を入れる時は、開けたら臭いそうとか、午後は客先に行くかもとか考えても、入れてしまっている私です。

「鴨屋」ですかっ。
妊娠騒動の次は、とうとう万華鏡シリーズにあの仲間たちが現れる予感ですね。
でも何故「既婚者限定」?
「鴨屋」ならご主人はあの人でしょう!でも「奥さん」は誰????
期待に胸がふくらみます!
何かヒントはないかと前回の琴子ちゃん爆睡シーンを見直すも特に発見できず・・・。
店員も誰????
続きが気になります!!
全然展開がよめません。楽しくてしかたないです。

コメントありがとうございます!
…私にはラブラブは早うございました涙

眞悠さん
ありがとうございます!原作ベースと分かっていただけるだけでもうれしいです!
たまには過保護もいいかなあと思って^^
でも…ラブラブな雰囲気が今一つ足りませんでした!
絶対リベンジ、この話の中でしてやる~と決意してます(笑)

ゆみのすけさん
いいわよお!!!←入江ママ風(笑)
キタキタキターって思ってえ!!!(笑)
そうなんです!書いた後、「裕樹、被害少なっ!」って気づきました(笑)
こちらも、リベンジ、リベンジ(笑)

mayumiさん
はじめまして!コメントありがとうございます!
鴨屋…そのまんまですよね(笑)
それにしても何て色々使いやすい名字なんでしょう、鴨狩も桔梗も…と感謝でいっぱいです(笑)

くみくみママさん
まだ遭いますよ~(笑)
こんなものでは手ぬるい…あ、でもやっぱり手ぬるいままかも(笑)
やっと、書き方を思い出し始めました(笑)
私が変な欲を出さなければ、いいんですが…
いつも欲を出して失敗するので汗

kobutaさん
牛鍋よりいいですよ!ふかし芋!
それ、本当、案外いいかも…(笑)
万華鏡、好きだと仰っていただけてうれしいです。
ありがとうございます!

るんるんさん
テンプレ、ありがとうございます!
飽きっぽいのでまたすぐに変わる可能性大ですが(笑)
夏らしいのがいいなあと思って変えてみました!
琴子が原作でやたらとネギを弁当に入れるのが、結構好きなんですよね、私^^
…私自身はネギは大嫌いなのですが(笑)

サリサリニャーエマさん
…誰かと思ったよ!(笑)
えまの大好きなあの人が出てくるよ~(笑)
…こうしてオーバーに言って失敗するんだ、あたしって奴は(笑)

KEIKOさん
お弁当は濃い味になりますもんね!
冷めてもおいしいし!
私もお昼にガーリックがほんのりと漂うパスタとか食べて、焦る時あります。
牛カルビマヨネーズ…冷食でそういうものがあるんですね^^
私なんてクリームコロッケとかしか…^^;
この話は、実は万華鏡を書いていたとき、既に最後まで内容は浮かんでいたんです。
…あとは私が変な欲を出さずに、想像に忠実に書ければいいだけなのですが…。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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