日々草子 母への報告

母への報告

結局、今年のお墓参りも二人で行くことになった。
12月。
それは相原親子にとっては特別な月。大事な人の命日の月。
無理にでも、首に縄をつけてでも、直樹を連れて行けと紀子は言ってくれたが、仕事が忙しいのだからいいと重雄が手を振る。
琴子は新婚旅行後、殆ど合わせてもいないのだからと既にあきらめていたので、例年通り、父と二人で行くことになってもさして落胆はしていなかった。

12月は重雄の店にとっても忘年会シーズンで大忙しであり、どうしても12日は予約が立て込んでいて、店を若い者に任せることはできないということで、悦子には申し訳ないが、11日早朝に東京を発ち、お墓参りをして、12日の午前中に帰京するという、慌ただしいプランになった。

仕事の邪魔をしてはいけないと思い、琴子もあえて直樹に連絡はせず、そして11日、重雄と琴子は秋田へと向かった。

悦子の田舎の駅に到着し、二人は辺りを見回す。
「よし。ばれてないみたいだな。」
「今年も静かにお母さんと話ができそうだね。」
二人は胸をなでおろし、そして真っ直ぐにお墓へと向かう。

綺麗にされたお墓を見て、お世話をしてくれている親戚に感謝しつつ(それでも会うと大変な騒ぎになるので会おうとしない二人)、手を合わせる。

「母さん。もしかしてこいつは一生1人じゃないかと思ってたけど、予想外に早く嫁にいったよ。」
そう言いながら、重雄は持参した、琴子と直樹の結婚写真を墓前に供える。
「持ってきたんだ…お父さん。」
知らなかった琴子が呟くと、
「当たり前だろ。母さんにお前の晴れ姿、見せてやらないと。」
そう言って、重雄は長い時間、手を合わせていた。

次は琴子である。
「ちゃんと母さんに報告しろよ。」
「分かってる。」
手を合わせて、
『お母さん…。私、大好きな人のお嫁さんになれたんだ。今日は一緒に来れなかったけど、いつかお母さんにも会ってもらうからね。…お父さんより百万倍かっこよくて、お母さん、悔しがるかも。』
と、重雄が耳にしたらがっかりするようなことを心の中で母に話しかける。

その後しばらく墓前で時間を過ごし、二人は宿へと向かった。

夕食時、重雄にビールを注ぐ琴子。
思えば、突然決まった結婚、慌ただしく過ぎて行った日々、親子水入らずの時間は本当に久しぶりだった。
「お前とこうやって差し向かいで飲むのは、もうないかもなあ。」
飲みながら重雄がしんみりと言う。
「同じ家に暮らしてるのに?」
「ばーか。お前はもうあっちの家の人間なんだから、俺じゃなくて、イリちゃんと直樹くんとこういう時間を取らないとだめなんだよ。」
「そういうものかなあ?」
首を傾げる琴子。入江の両親はそんなことを気にする人間とは思えないし、むしろ夫の直樹は帰ってこない。もしやこのまま離婚…なんて考えすら琴子の頭によぎっているくらいだ。

「今は直樹くんも忙しいだろうから、お前も黙って待っていてやらないと。俺だって母さんと結婚したばかりの頃は、仕事仕事だったけど、母さんはお前と違って店に乗り込むような真似はしなかったぞ。」
「…だけど、家には帰ってきたでしょう?お母さんを1人で放りっぱなしにはしてなかったでしょう?」
さすがの重雄も言葉に詰まる。
「このままじゃ…入江くん連れてくる前に離婚かも…。」
溜息をつく琴子に、重雄は「とにかく今夜は飲め」とビールを注ぐ。
「女は港、男は船だ。」
「何それ?」
「信じて待ってろってことだ。」
よく分からないまま、琴子はビールを口にした。

翌日、二人は午前中のうちに東京へ戻った。
そのまま店へ行くという重雄の荷物を受け取り、琴子は一人で入江家へと帰る。
この時間は重樹は会社、裕樹は学校、家には紀子1人だけだろう。
鍵を取り出し、玄関の扉を開けようとした琴子の前で、突然扉が開いた。
「わ!」
ぶつかりそうになり慌てて身をよける。
中から出てきたのは、スーツに身を包んだ直樹。
「あれ?どうしたの?」
会社にいる時間なので驚く琴子。
「ちょとね。」
それだけ言うと、直樹は慌ただしく出かけて行った。
せめてお墓参りの様子とか、行けなかったのは残念だとか、それくらいの会話をしたかったが、琴子はすぐにあきらめ中へ入る。

どうやら紀子も出かけているらしい。買い物にでも行ったのだろう。
琴子は荷物をまずは自分の部屋へと運んだ。
そして、重雄の部屋に置かれている仏壇へ線香を手向けることを思い立つ。
きちんとしている重雄のことだから、恐らく仏壇も綺麗にされているだろう。

重雄の部屋へ入り、真っ直ぐ仏壇へ向かう。
すると、仏壇はやはりきちんと磨かれていた。
「あれ?」
それだけでなく、そこには真新しい花が飾られている。
「お義母さんが供えてくれたんだ…。」
自分たちの留守中に、きちんと供えてくれた紀子の優しさに感謝をしていると、
「琴子ちゃん、お帰りなさい。」
と、紀子が部屋に入ってきた。
「ただいま戻りました。」
と琴子は紀子の方へ振り向くと、紀子の手には花束があった。
「そのお花は?」
不思議に思い、琴子が尋ねる。
「ああ。悦子さんの命日だから、お供えしようと思って今日買ってきたのよ。」
そう説明しつつ、紀子も仏壇に供えられている花に気がついたらしい。
「あら?琴子ちゃんがお供えしてくれたのね。じゃあ、このお花は別に花瓶に生けてきましょう。」
どうやら仏壇に供えられた花は琴子の手によるものだと、紀子は思ったらしい。紀子は慌ただしく部屋を出て行った。

「お義母さんじゃなかったら…一体誰?」
首を傾げながら琴子は仏壇を覗きこむ。
「あ…!」
笑顔の悦子の写真の傍には、琴子と直樹の結婚写真が置かれていた。

その写真を見つめて、琴子は思い出していた。先程、直樹が慌ただしく出て行った様子を…。

「入江くん…お母さんの命日、覚えていてくれてたんだ。」
忙しい合間をぬって、花を買い、仏壇へ供えてくれた直樹に、琴子は涙がこぼれる。

「お母さん。私の選んだ人は世界一素敵でしょう?お父さんには悪いけどね。」
琴子は笑顔で手を合わせて、悦子へと語りかけた。

「普段は意地悪だけど、でも実はすごく優しい人なの。だから…信じて待ってみるね。来年はお母さんのお墓に一緒に行けるといいな。」

琴子は、仏壇の前で自分と同じように手を合わせていたであろう直樹の姿を思い浮かべながら、母へ語り続けた。



♪あとがき
数少ないネタ帳からの発掘、第二弾(笑)
ちなみに第一弾は『新婚さん…』です。
もしかしたら、このころは入江くんは琴子の元へ戻ってきてたのかも…
その辺りは、そうだとしても温かく見守って下さるとうれしいです(笑)
時期外れなお話でごめんなさい。
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さり気なく

水玉さん、こんにちは。

直樹の心使いに感謝していました。
一緒に行けなかったことを、一番残念に
思っているのでしょうね。
仏壇にきちんと花を飾って行くなんて。
直樹からはチョット考えられないのでしょう。
でも琴子いい旦那様を持ちましたね。
私も直樹の行動に感動です。(TT)

こんばんは。

入江君、なんて優しいんでしょうね。
シャイで、そっけないけど、ちゃんとお花と二人の結婚式の
写真を飾っておいてくれるなんて....
琴子のお母さんも感激してるでしょうね。

秋田に知らせなかったお陰で、お祭り騒ぎがなくて、久しぶりに
親子水入らずで、ゆっくり話しができたのも、よかったですね。

ちょっとリアル世界で実家がらみの事で色々あって、この話にはホロリとさせられました。

ぅぅ。

ジィ~ンとくるいい話です(涙)「イタキス」でもこのあたりの微妙な
期間は妄想しがいがありますよね。11月29日にハワイから帰ってきたなら
このへんはまだ入江くん会社で奮闘中ですものね。うんうん(ひとりで納得)
きっと新婚初めてのクリスマスはラブラブ(死語?)で過ごした事でしょう。
それにしても、重雄と琴子の会話は原作のどこかにあるんじゃないかと
思えるほどリアルでした。

私、涙もろいので、すぐいっちゃいます。。
とってもとっても感動してウルウルしているのに、
ところどころに出てくる、「お父さんには悪いけど・・・・」みたいな、
重雄と、直樹の比較がプッってなっちゃいます。

そうそう!!!さりげない優しさ。これが直樹なんですね♪
さっすが~♪

ありがとうございます

コメントありがとうございます

tiemさん
行けなくても、きっとその日が命日だって知ってたんじゃないかなあって。
そのあたりはちゃんとやるんじゃないかな、入江くんはと思って書いてみました^^
感動していただけてうれしかったです。ありがとうございます。

るんるんさん
ありがとうございます^^
このころの二人は…気の毒でしたよね(笑)
でも一緒にいたかったのは入江くんも同じだろうと思いまして。
絶対この年はお墓参りも一緒に行きたかったんじゃないかなあと。
でもきっとその後は、入江くんから一緒に行きたいと言われる前に、琴子とお父さんはさっさと逃げるように秋田へ出かけいたのではないかなと勝手に想像してます(笑)あの親族をばらすわけにいかないから(笑)
と、いうことを踏まえ?書いてみた話です^^

えまさん
お忙しそうですよね、えまさん…。
そんな中、来てくださってありがとうございます。
この間は、そんなことを知らなかったので、変なメールを送ってしまってごめんなさい。
落ちついたら、またご連絡くださると嬉しいです。

さくやさん
そうなんですよね!いろいろ他の方も素敵な想像をされていらっしゃる時期ですよね。
確かに、仕事も落ちついたクリスマスはラブラブだったに違いないです(とくに琴子が)
それと…お正月はあの新婚恒例の「結婚しました」年賀状を連名でやっぱり出したのかなあ(笑)

ゆみのすけさん
ゆみのすけさんを泣かせた!(ちょっと嬉しい(笑))
よし!少し調子が戻ってきたかな?←何て奴
何か琴子って、絶対そんなことを言ってそうかなあと(笑)
だって自慢の旦那様でしょうしね!
親戚には隠したくても(騒ぎになるから)、お母さんには紹介したかったんだろうなと思います^^
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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