日々草子 別冊ペンペン草 4

別冊ペンペン草 4

サイン会。
漫画家にとって晴れの舞台。人気があるという証。

漫画家にサイン、握手をしてもらい興奮に頬を染める少女たち…。
その光景を満足気に見つめる編集者と書店員…。

勿論、それは別冊ペンペン草編集部の相原琴子も同じ気持ちである。
そして、担当する入江直樹のサイン会でもその光景は繰り広げられるはず…だった。

会場で耳にするのは、「キャーッ」という声ではなく、濁点がつき、語尾が伸びない「ギャッ」という声。
頬を染めるファン…のはずが、サインを終えるファン達は一様に首を傾げている。

それもそのはず。
今日、初めてベールを脱ぐはずだった、別冊ペンペン草の看板作家、入江直樹の素顔は…なぜかター●ネーターのマスクに覆われていたのだった…。

話はサイン会開始前にさかのぼる。
その日、会場で落ち合うことになっていた琴子と直樹。
少し先に会場に到着していた琴子の目の前に現れた直樹は、スーツに身を固めていた。
いつもと違う直樹の姿に、ちょっと胸をときめかせる琴子。そして同時に、
「…こんなにカッコいい先生をファンの子たちに見せたら大騒ぎになるわ。」
という考えが頭をよぎった。

そこで急遽、琴子は会場の隣にあるTハンズへ駆け込み、パーティーグッズとして売られていたター●ネーターのマスクを購入した。

「先生。これどうぞ!」
突然出されたマスクに、直樹はたじろいだ。
「先生は今まで素顔を晒したくない、マスク作家でいたいって仰ってましたよね。やはりそこは担当として、先生のお気持ちを尊重しなければと思いまして。」
もっともらしい言い訳をペラペラと喋る琴子。
「それを言うなら覆面作家だろ?」
「どちらでもいいです。」
「顔を出すのは、覚悟の上だ。」
そう言って、マスクを琴子へ押しつける直樹。
「いえ!サイン会をしていただくだけで、こちらは十分ですから!後は先生のお望みどおりに…。」
琴子は一歩も引かず、無理やりマスクを直樹に被せ、そして会場へと背中を押したのだった…。

「あの…今月号から出てきた新キャラのカエル、その食い意地っぷりが面白いです。」
「ありがとう。」
マスクをしたまま、返事をし、サインをし、握手する直樹。
そして握手を終えたファン達は、
「思っていたよりも体は細かった。」
「指はきれいだった。」
「声も悪くなかった。」
と、顔以外のことを口にしながら帰って行ったのだった…。

「お疲れ様でした。先生!」
サイン会を終えた直樹に琴子は声をかけた。
「うっ!」
突然目の前が真っ暗になる琴子。どうやら直樹がマスクを琴子へ被せたらしい。
何とかしてマスクを外した琴子の目の前には、
「お前は…やっぱり地コレに異動した方がよかったな。余計な情けをかけるんじゃなかった。」
と、携帯電話を取り出し、今にも編集長へと電話をかけようとする直樹の姿があった。
「そんな…。それだけはご勘弁を!」
携帯電話を取り上げようとする琴子と、逃げようとする直樹。もみ合っていくうち、琴子のバッグが落ち、中からメガホンが飛び出したのを直樹は見た。

「何だ、これは?」
メガホンと琴子を交互に見る直樹。
「あ…その、それはですね…。」
モゴモゴと誤魔化そうとした琴子だが、直樹の冷たい視線に耐え切れず白状した。
「…整理券は全てさばけたとはいえ…“メタボのおじさんのために出かけるなんて、電車代が勿体ないわ”と当日になって、みんなが思うのではないかと。で、会場に誰もいなかったら先生がガッカリするのではないかと思って。その時はメガホン使って、“今なら待たずにサインがもらえます!”とお客さんを集めないといけないかもなあと、準備してたんですけど…。」
琴子の頭上にそのメガホンが振り落とされたことは、言うまでもなかった。

せっかく書店に来たので、資料を探すという直樹に付き合って琴子も移動した。
本を見ている直樹の傍で、
「先生。私、活字を見ると眠くなるので、コミックコーナーに行ってもいいですか?」
と琴子が言った。
「お前…本当に出版社の社員かよ。」
呆れた直樹の許可をもらい、琴子はコミックコーナーへと移動した。

一応、腐っても散米社の社員。琴子はペンペン草コミックス(略してPC)の棚へと向かう。
そして、平積みになっている『それいけ!ナオキン』を見て、満足そうな顔をした。
「もうちょっといっぱい並べないとね。一応、入江直樹の担当なんだし。」
そう言いながら、隣に並んでいる西垣マドレーヌの『愛はオホーツク海の彼方に』をどけて、ナオキンを並べ始める、書店の営業妨害をする出版社員、琴子。

並べ終わった琴子の肩を誰かが叩いた。
「あ!西垣先生!」
そこには笑顔で西垣マドレーヌ(男性)が立っていた。
「今日、ここで入江先生のサイン会が行われるっていうから来たんだけど、人が多くて肝心の先生の姿、見えなかったよ。」
そう言いつつ、チラリと平台に目を落とす西垣。
「あーあ。何だよ。僕の本、こんな隅っこに置いて。もうこの本屋でサイン会してやらないからな。」
「…ひどいですねえ。」
誤魔化す琴子。

そんな琴子の様子を気にせず、西垣は『それいけ!ナオキン』33巻を手に取る。
「しかし…こんな絵が売れるとはなあ。でもどうせ書いている人間もこんな男なんだろ?琴子ちゃん。」
「え?」
「髪の毛も波●みたいに一本くらいで、それを後生大事にしているんだろう?で、ステテコ姿で、いつもワンカップ●関をチビチビ飲みながら、描いているんだろ?琴子ちゃんも可哀想にね。いくら仕事が得意じゃないからって、そんな胴長短足のメタボ親父の担当させられて。」
「あ、あの…。」
琴子は西垣の背後にいる人物を気にしながら、西垣の妄想を止めようとする。さすがに西垣も琴子の視線に気づき、振り返った。
「あれ?こちらは…琴子ちゃんの彼氏?あ、もしかしてデート中?サイン会終わったら自由だもんね。」
西垣の背後には、いつの間にか直樹が立っており、どうやら西垣は直樹を琴子の彼氏だと思ったらしい。

「そちらが…『それいけ!ナオキン』の原作者の入江直樹先生です。」
琴子の紹介に、西垣は、
「嘘…。」
と呟いた。
「…入江先生、こちらは西垣マドレーヌ先生です。」
「はじめまして、西垣先生。」
直樹は無表情で西垣に挨拶をする。
「はじめまして…。」
西垣も消えそうな声で挨拶を返した。

「西垣先生。」
直樹は西垣の名前を呼んだ。まさしく一触即発の状態である。琴子は直樹が何を口にするのか緊張の面持ちで見ている。
「俺は“ワンカップ●関”よりも、“い●ちこ”の方が好きです。」
そこ訂正するとこなの?と琴子は心の中で突っ込んだ。
「あ、そ、そう?」
西垣も若干、拍子抜けしたかのような返答をする。
「それから…ステテコは持っていませんから、履きません。」
先生、その綺麗な顔でステテコとか口にしないでと、またもや心の中で突っ込む琴子。
「うん…僕も持ってない。」
こんな所でステテコ談義は…と突っ込む琴子。
「そして、俺の髪の毛は地毛です。」
それはカツラですと言っているようなものですと更に突っ込む琴子。
それだけ訂正すると、直樹はスタスタとエスカレーターと歩き始め、慌てて琴子も西垣に挨拶をすると、後を追った。

西垣は直樹の背中を見ながら呟いた。
「胴は、短いね…。」



☆あとがき
前回、コメントにてサイン会に並ぶと仰って下さった、心優しき方々、ごめんなさい。
…こんな入江先生でも並んで下さいますか?(笑)
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comment

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マスク!

サイン会でター●ネーターのマスクをした先生がいたら
逆になんか気になって本を持って列に並びそうです。(笑)

西垣先生の呟きにウケました。
続きたのしみにしております。

並びます!「入江直樹」と言う名前だけで。
いいちこ持って並びます!
サインと握手で昇天できます!!(殴ってもいいです私のこと)
実はひっそり「手フェチ」なので、長い指の肉付きの薄い手に弱いんですぅ。
(あ!いまサアーっと引く音が・・・・・)

コメントありがとうございます。

ゆんさん
確かに、そんな怪しいマスクしていたら却って並びますよね(笑)
入江くんにかぶり物させて、ファンに怒られる!ってちょっと内心ヒヤヒヤしてます^^;
何か入江くんと琴子が逆転している気がします…(ボケと突っ込みが)

さくやさん
私も好きですよ!手!
指のきれいな人が、手を組むとみとれちゃいます!
だから全然引きません!!
安心して、どんどん心の内をさらけ出してください!さあ!(笑)
いいちこ…下町のナポレオンですが(笑)入江くんは本物のナポレオン飲みそうだな、今考えると(笑)

まるで黄家のあの人の様…と楽しく読ませていただきました!

ちなみに私も手ふぇちです。
男性もですが、女性の素敵な指先とか…とっても魅かれます。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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