日々草子 君がため 14

君がため 14

さて、二番の君の恋はどうなったか?
直樹に見捨てられ、ここまで来たらもう後戻りできないと決心し、二番の君…船津は真里奈姫の部屋へと足を運ぶ。
部屋はしきたりどおり、暗く、傍に控えている女房からも、船津からも姿は見えないので、女房達はこれが噂の少将かと胸をときめかせている。
当の本人、真里奈は寝所にて待っていた。
もっとも、彼女は直樹にはそんなに興味があるわけではなかった。確かに眉目秀麗な彼に興味がないわけではない。でもこの結婚が楽しみかと問われると首を縦には振れなかった。
「親の決めた結婚かあ…つまらないなあ。」
それが一番の理由だった。金持ち、仕事ができる、外見もよい、そんな相手だというのに、どうも今一つ胸がときめかない。でもこの時代、親のいいなりになるのが一番無難だということも分かっていたので、流れに身を任せるような気分で、この夜を迎えていた。

そしていよいよ直樹が入ってきた。
「背は高いのね…。」
闇夜にぼうっと映る人影を見つつ、そんなことを思う。
しかし、いつまで待っても几帳の中へ入ってこようとはしなかった。
「ちょっと待って。女から誘えって意味?」
真里奈は眉を潜めた。噂よりもしかして…うぶってことなのだろうかと思う。
そんなことを思っていると、突然、
「す、すみません!」
と相手が謝り始めた。
「はい?」
いきなり謝るって…どんな人なのだろうと真里奈は驚いた。
「僕は…直樹殿ではないんです!」
「ええ!?」
相手の突然の告白に真里奈はますます驚く。じゃ、この人は一体誰なのだろう?
「僕は…船津といいます。」
船津…どこかで聞いたことがある名前…真里奈は思い出した。
「船津って…あの変な意味不明の漢文を毎晩贈ってきた人よね?」
「そうです…。」
真心こめて書いた漢文を意味不明と言われ、少々落ち込む船津。
「何であなたがここにいるわけ?」
「それは…その…。」
船津は正直に事情を話した。今まで自分がどれだけ真里奈を想っていたかということと、それから最初は直樹のふりをしていようと思っていたが、真里奈を騙すことに耐え切れず、正直に話すことにしたことを、真摯に話した。
「ふうん…。そういうわけね。」
事情を一通り聞いた真里奈だったが、不思議と腹は立たなかった。船津が自分をからかっているとも思えなかったし、何よりも本気で自分を好きらしいということが伝わってきたから。
「そういうわけなので…僕はやっぱり帰ります。ごめんなさい。後できちんと家の方にもお詫びを…。」
そう言って帰ろうとした船津を、真里奈は、
「待って!」
と引き止めた。そして几帳の中から出てきた。

「あなたの漢文…私ちゃんと読んでいたわよ。」
「本当ですか?」
突然の真里奈の言葉に、船津が喜びの声を上げる。
「眠れない時にあれ読むといいのよね。」
そんな使われ方かと思い、肩を落とす船津。
その時、雲が晴れ、月が出てきた。そしてその光は二人を淡く照らした。

「あら…よく見たら、船津様って結構ハンサムじゃない?」
真里奈は船津の顔にしばし見とれた。一方船津も、
「やっぱり…想像以上に美しい人だ。」
と思っている。

「…帰らなくてもいいかも。」
真里奈が口にした。
「で、でも…僕は…。」
「ここまで来たんだから、覚悟を決めなさいよ。」
真里奈はそう言って、船津の袖を引いた…。

「…と、ここまでが昨夜のご報告です。」
船津は満足そうに笑った。
「…わざわざ報告に来なくてもいいのに。」
朝早くたたき起こされた直樹は不機嫌そのものだった。
「でも…うまくいったんだ。よかったな。」
「おかげさまで!」
何がどう転ぶか分からないものだと直樹はつくづく思った。
「じゃ、今夜も頑張れよ。」
そう言って、立ち上がろうとしたその時、船津が引き止めた。
「…んだよ。まだ何かあるのかよ?」
「これ、見てほしいのですが。」
船津はそう言って、直樹に文らしきものを見せた。他人の後朝の文など見たくもないと思ったが、見ないと帰りそうにもないので、さっと目を通す。
「…何だ、これは。」
そこには漢詩らしきものが書かれていた。
「何って…後朝の文ですよ。見れば分かるでしょう?」
「どこの世界に漢詩で贈る人間がいるんだ?」
漢詩を放り投げて直樹は疲れた様子で言った。
「どうでしょうかね?結構頑張って書いたんですが…。」
「知らねえよ!」
付き合ってられないといわんばかりに、直樹は怒鳴る。
「そんな…君だって数々の後朝の文を書いたでしょう?そこは経験豊かな君にと…。」
直樹の怒りは頂点に達した。
「俺に聞いてくる限り、お前は永遠に二番だな。」
「二番…何ですって!?」
船津は“二番”という言葉を聞き、怒りを露にした。
「そうだよ!二番、二番、二番の君…。」
直樹はそう言いながら、船津の前から立ち去った。「僕は二番なんかじゃない!」と叫び続ける船津を残して…。

「それじゃ、うまくいったんだね。良かった!」
直樹から船津と真里奈の話を聞き、琴子は安堵した。
「…一応な。」
「幸せになるといいね。二人とも。…私たちみたいに。」
琴子は直樹の顔を見つめながら、幸せそうに言った。
「…そうだな。」
そう言って直樹も琴子を抱き寄せた…。

「これで終わり…なわけじゃないよな。」
鴨狩は桔梗と二人だけの部屋で呟いた。
「そうよ。これじゃ直樹様、ただの恋のキューピッドじゃない!」
桔梗は面白そうに言った。
「全ては…船津様が三日通った後に明らかになるって寸法よ!」
「…直樹様もお前も怖いよ。俺は。」
鴨狩は溜息をついた。

「ところで…。」
桔梗は思い出したように声を出した。
「アンタ、最近姫様の前に姿を出さないでしょ?姫様が心配してたわよ。どこか体調でも悪いのかって。」
それを聞き、鴨狩はうんざりといった表情を見せた。
「…言われたんだよ。」
「誰に?」
「…直樹様に。」
「何て?」
少し間を置いて、鴨狩は小声で答えた。
「…姫様はもう人妻だから、夫以外の男が姫様の前に簡単に姿を見せるなって。」
それを聞き、桔梗は一瞬きょとんとしたが、すぐに、
「何?それ?」
と叫んだ。
「今まで散々姿を見せておいて、何を今更…。」
呆れる桔梗に鴨狩は言った。
「…直樹様って、意外と嫉妬深い。」

桔梗の言葉を聞き、琴子は驚き、早速直樹に詰め寄った。
「何で今更!?」
琴子に詰め寄られた直樹は、
「今までが間違ってたんだよ。」
と相手にしようとしない。
しかし、琴子が次に発した言葉は直樹を驚愕させるものだった。

「それなら…桔梗はどうなるの?」

「何だって?」
琴子の言葉の意味が分からず、直樹は怪訝な顔をした。
「だから、桔梗はどうなるのって言ったの。」
「なぜ桔梗がそこに出てくるわけ?」
「…だって桔梗は男性よ。私、言わなかった?」
「聞いてないぞ。」
直樹は桔梗の顔を見た。桔梗はニッコリと笑う。
「こいつが…男?」
「そうですよ!ほら!」
桔梗はそう言いながら、直樹の手を取り、自分の胸へと触らせた。…確かに男だった。
「ね?」
琴子が確認を求める。
「…本当だ。」
直樹はまだ信じられない。
「何でそんな…。」
直樹は何とか声を振り絞って出す。
「私ってこんな人間だから、周囲になかなか受け入れられなかったんですよね。」
桔梗が説明を始めた。
「でも姫様のお母様は全部分かって下さって、私を姫様の遊び相手にと受け入れて下さったんです…。」
「そうそう。お母様も実の娘のように桔梗を可愛がってたわよね。」
琴子は懐かしそうに言った。
「そんなお優しい奥方様の忘れ形見の姫様ですもの。」
「私も桔梗がお姉様みたいに思えるわ。」
「ね!」と二人は嬉しそうに両手を合わせて笑った。直樹はなぜ桔梗が琴子に忠実な理由が漸く分かったのだった…。

「お前…知ってて言わなかったのか?」
直樹は鴨狩を見つけて訊ねた。
「桔梗のことだよ。」
「ああ…とっくにご存知かと思ってました。」
全然悪びれた様子のない鴨狩に、直樹は腹が立ったが、何とか堪えた。
「お前を遠ざける理由がなくなったから、もう琴子に会ってもいいぞ。」
「はあ。」
直樹の態度の変化に鴨狩は戸惑ったが、そこはあまり気にしないことにする。
「ただし…。」
直樹は鴨狩の襟を掴み、顔を近づけた。
「…琴子に変な気を起こしたりするなよ。」
その恐ろしすぎる雰囲気に、鴨狩は真っ青になり首を横に振るだけで精一杯だった…。

中納言家では真里奈から船津と三晩過ごしたと聞き、北の方が真っ青になっていた。
「というわけなので、お婿様には船津様ということで。」
あっさりと言ってのける娘に、北の方は、
「冗談じゃないわ!よりによって…二番の君と娘が夫婦になるなんて!うちまで二番と思われてしまうじゃないの!」
と激怒した。
「せっかく…せっかく帝の信任厚い少将様を婿にするって親戚中に知らせたというのに…。」
「それはお母様が勝手に決めたことでしょう?私は自分でお婿様を見つけたの。」
「お前は…なんて親不孝な娘なの!」
北の方の怒りの言葉も、真里奈は何とも感じなかった。
「とにかく、絶対に認めないませんから!二番の君が婿として通うなんて…冗談じゃない!」

その夜、部屋を訪れた船津に真里奈は母との一部始終を説明した。
「それでは…もうこれでおしまいですね。」
気弱になる船津に真里奈は言った。
「こんなことで終わりにするの?あなたの私への気持ちはそれくらいだったのかしら?」
それを聞き、船津は顔を上げた。
「…私を背負ってここから連れ出すという気持ちはなくて?」
「ええ?そんなことをしたら…。」
戸惑う船津に、真里奈は続けた。
「それくらいしてくれないと、私はあなたと結婚なんてしてあげないわよ。」
それでも戸惑っている船津だったが、
「…僕が二番の君と呼ばれているのは知ってますよね?それでもいいんですか?」
と訊ねた。
「…でも私への気持ちは一番なんでしょう?」
それを聞き、船津の心は決まった。

中納言家から、真里奈姫が失踪したという噂が流れ、そして原因は駆け落ちだったということも続いて流れたのは、それから間もなくのことだった。
北の方は娘の失踪と、少将直樹を婿にするというデマを流す最低な人間だと噂され、ショックのあまりに寝込んでしまったのだった。

それこそが直樹の本当の狙いだった。
北の方のみに仕返しをするという直樹の企みは見事に成功した。勿論、真里奈たちに恨みはないので、その後、船津夫妻を何かと気遣った。

琴子は真里奈の駆け落ちを聞き、驚き、残された北の方を気遣った。
「本当にお前って奴は…。」
直樹はそんな琴子を呆れつつも、それが琴子の良さだと知っていたので何も言わなかった。
「もしかして…直樹様、ここまで考えてた…とか?」
さすがに琴子は気づいたらしい。
「さあな。」
面白そうに笑うだけの直樹に琴子は、
「もう…。もしそうなら今回だけにしてね。仕返しとか、そんなの直樹様にしてほしくないもん。」
と口を尖らせた。
「でも…直樹様は恋のキューピッドをしてあげたのよね。やっぱり優しいわ。」
と、すぐに機嫌を直した。
「キューピッドね。」
面白いことを言うなと直樹は思った。
「それならさ…。」
直樹はそう言いながら、琴子へと唇を落とす。
「…キューピッドに何か御褒美がほしいんだけど?」
頬をほんのりと赤く染める琴子の顔を楽しそうに見ながら、続ける。
「悪いけど、俺は夫婦仲でも船津に負けるつもりはないから。あいつが二番の君なら、俺はもちろん一番の君だからな。」
そして琴子を力強く抱きしめた…。



☆あとがき
『後朝』に頂戴した拍手コメントだけは、随時、『後朝』のコメント欄にてお返事をさせていただいております。本当にありがとうございます!
ところで…ラブシーン(←他になんて表現すればいいのでしょうか笑)多すぎでしょうか?
しつこいかなあ…。
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よくやった!二番の君!

お~~、すべては直樹様の思うがまま!原作シーンも出てきて面白~い。ここでこのシーンを?!と思っちゃっいましたよ。桔梗はやっぱり男だったんですねぇ。勝手に今回は女なんだと思ってました…。嫉妬直樹も堪能できたし、うれしかったです!

大・成・功っ!!(ドッキリじゃあるまいし…^^;)

ニ番の君も真里奈を想う気持ちは一番の君♪
うんうん。いいねん^^すっごくいいわぁ♪

琴子の優しい気持ちと愛らしさも可愛くて、思わず笑みがこぼれました^^
そして直樹様~^^
直樹さまのお口から『御褒美がほしい』なぁ~んてっ!
わんわんっ!
にやけが止まりませぬぅぅぅ^^

ふっふ~、やっぱり男(に間違って生まれてきてしまった女)だったね、桔梗!!
しかし、振り回される鴨狩が気の毒(笑) 桔梗と鴨狩はどういういきさつで知り合ったのかなぁとか・・・スピンオフの期待もしてみたりして(キラ~ン) 
二番の君と真里奈姫の恋、素敵だったわ。真里奈なだけに、やっぱり押しが強いのね。だからこそ、ちょっぴり気弱な船津くんとはうまくいくんだね。末長くお幸せに!!

コメントありがとうございます♪
くみくみママさん
最初は今回は女性にするかと思ってたんですよ!でも、「男だったほうがおもしろいかなあ」とか思ったり、だったら誰かさんにも嫉妬させられるしなあとか勝手に考えて、こっちにしちゃいました♪

さあやさん
なんだかんだいって、好きなんですわよ!!!あたし、入江くんが琴子をからかうところ笑
ふふふ…←ひらがなだと不気味だわ^^;
さあやをどれだけにやけさせることができるのか…念じながら書いてま~す^^
にやけたとこ、写メでもしてほしい…笑

アリエルさん
うん!男(に間違って生まれてきてしまった女)にしたよ!
ちなみに…鴨狩と桔梗の出会い?はこれを書く前にちょこっと妄想したけれどね^^
船津くんのところね…船津くんがハンサム設定(だったよね?)なだけに、ちょいと苦労したわ…

皆様、今回も読んでくださいまして、まことにありがとうございます<m(__)m>
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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