日々草子 君がため 12

君がため 12

「最近どう?」
参内している直樹に西垣が声をかけてきた。
「どうって…普通ですけど。」
あまり相手にしたくないので、さっさと逃げたい直樹。
「俺の方はさ、もう散々なんだよね。」
しかし西垣にまんまと捕まってしまった。
「見てよ、これ。」
西垣は袴を直樹に見せた。どうも左右の丈が違っているように見える。
「この間、腕のいいお針子が妻の実家にいるって言ったじゃない?」
そのお針子は今や直樹の妻。
「それが…鬼に攫われちゃったんだよ!一家総出で祭り見物している間に!」
「…はあ?」
どうやら自分は鬼にされているらしい。ちょっと直樹はおかしくなってきた。
「ま、本当のところは強盗か何かだと思うんだけど。そういうわけで今や妻の実家は、縫物に困ってるってわけ。」
「それはそれは。」
しかし、次の西垣の一言が直樹を怒りへと導いた。
「こんなことなら、さっさと手をつけときゃよかった。」
「え?」
「いやね。どんなお針子なのかなってこっそり部屋を覗きに行ったことがあるんだよね。ボロを着てたけど、結構可愛くてさ…。」


「どうだった?着心地は?」
邸に帰ると琴子が笑顔で訊ねてきた。
「悪くなかった。…ありがとう。」
お礼を言われ、照れる琴子。
今日、直樹が身に着けていた袴は、琴子が心を込めて縫い上げたものだった。
「そういえば…私がいなくなった後、西垣様とか困ってるかしらね?」
ふと西垣のことを思い出す琴子。それを耳にし、直樹は眉を寄せた。
「…今日会ったけど。」
「え?本当?お元気だった?ちゃんとしたもの、着てた?」
あれだけこっぴどくいじめられた邸の人間を心配する琴子の心の優しさに直樹は少し感動を覚えた。
「さっきまで元気だったけど…怪我したみたいだな。」
「へ?」
直樹の言葉の意味がよくわからず、琴子は変な声を出した。
「…俺の目の前で階段から落ちたんだ。」
「ええ!大変じゃない!お見舞い、お見舞い行かないと!」
「いいよ。別にそんなに親しくないし。」
直樹は表情を変えずに、淡々と話す。…右足を摩りながら。


「そうだ。俺、明日から当分実家へ行くから。」
直樹が思い出したように言った。
「お前も一緒に行くか?」
直樹の言葉に首を横に振る琴子。さすがにまだ直樹の家族へ会う心の準備はできていない。
そして直樹も無理強いはしなかった。
そして直樹は翌日、実家へと戻って行った。

「静かですよね…鴨狩も付いて行っちゃったし。」
桔梗が退屈そうに呟く。
「そうね…。」
琴子も暇そうに呟いた。
「姫様、一人で寝るのが寂しいんでしょ?」
桔梗がちょっと退屈しのぎに琴子をからかった。
「そ、そんなことないわよ!一人でだってちゃんと寝られるもん!」
琴子は顔を真っ赤にして答える。
「ふうん。」
桔梗はニヤニヤしながらそんな琴子を見ていた。

「随分今朝は早いんですね。」
普段より早く起きた直樹に、鴨狩が声をかける。
「…一人だから…ですか?」
直樹はまたもや鴨狩を睨んだ。
「乳母さんが待ってますよ。」
それを聞き、直樹は溜息をついた…。

「ですから!いい御縁談なんですって!」
語気を荒げる乳母の細井を見ながら直樹は、
「…しばらく見ないうちに巨大化したよな。」
と見当違いなことを考えていた。
「よろしいですか?こちらの中納言家の真里奈姫は本当に、直樹様とお年も合っていて、お家も釣り合うし…。」
もはや琴子という妻がいるので直樹は細井の話を右から左へと聞き流している。ましてや最愛の琴子を苛めぬいた中納言家の縁の人間なんて相手にする気はない。本当は琴子のことを実家で公表したいところなのだが、琴子が言うなと口止めしたので、我慢している。

細井の話を聞き流していた直樹だったが、突然ある考えが閃いた。
「聞いていらっしゃいますか!?」
怒鳴る細井に、
「聞いてるよ。そうだな…悪い縁談じゃなさそうだな。」
と突然乗り気になった。
「それなら…早速お文を…。」
途端に機嫌を良くする細井。
「まあまあ。今はそんなまどろっこしいこと、流行らない。文なんてあっちに通うようになってから出せばいいさ。話、進めとけよ。」
直樹の前向きな態度に細井はすっかり機嫌を良くし、いそいそと出て行った。

「どういうことかしら…?」
その日の午後、細井から一部始終を聞いた母紀子から直樹は呼び出されていた。
「どういうことって?」
「あなた、乗り気になったらしいじゃない?あの縁談。」
どうやら母は機嫌が悪いらしい。
「そりゃいい話でしょうよ。家も姫も俺と釣り合ってることですし。」
直樹はそれが何かを言わんばかりの態度を見せる。

「…私、知ってるのよ。直樹さんが別邸に女性を迎えていること。」
それを聞き、直樹は少し驚いた。
「突然ここを出て行って、それも戻って来ない。調べさせるわよ。そしたら、まさか女性と暮らしているとはね…。」
紀子の目が光るのを、直樹は黙って見ていた。
「可哀想でしょ、その女性が。このこと、知ってるの?」
「知りません。」
「じゃあどうするの?」
「別に珍しいことじゃないでしょ。この時代妻は何人持っても誰も文句を言わないのだから。俺の先輩なんて1年365日、違う女性の元へ泊まれるくらいの数をめざすとか言ってますよ?」
直樹は西垣の顔を思い浮かべながら平然と言ってのけた。
「そんな先輩、縁を切りなさい!!」
紀子は激昂した。

「とにかく…あなたが迎えた女性が泣かないようにしておあげなさいよ。…本当にあなたは顔だけじゃなく、性格もお父様に似なかったのね。お父様は浮気などしないというのに…。」
紀子は溜息をついた。

翌日。
直樹はとある邸へと出かけた。

「何か御用ですか?僕は漢詩を作ってるんですが。」
そこは何をやっても直樹に敵わない、船津という男の邸だった。いつも直樹の次なので、宮中からは“二番の君”と呼ばれている。そして船津はそう呼ばれることが何よりも嫌いだった。

「面白い話を持ってきたんだけど。」
直樹はそう言って、ニヤリと笑った。
「俺、結婚することになって。」
「…別に僕にとってはそんな話、面白くないですが。」
「相手が中納言家の真里奈姫でも?」
その途端、船津が真っ青になった。
「え…!」
船津は真里奈姫をずっと思い続けており、何度も文を贈っているが相手にされていないことを直樹は知っていた。
「そんな…君という人は…僕の気持ちを知りながら…。」
真っ青を通り越し、真っ白になる船津。
「しょうがないだろ。うちの乳母が乗り気なんだから。」
追い打ちをかけるように直樹は言った。
「来月なんだよな、結婚。」
直樹の言葉は、船津の耳にはもはや届いていない。

「だけど、俺は結婚しない。」
その瞬間、今にも倒れそうだった船津がバネのように起き上った。
「え?」
「だから、俺は結婚しない。」
「…どういうこと?」
全く理解できていない船津に、直樹は面白そうに話を続ける。
「お前はいつも、何をやっても俺の次、そう、二番の君だ。」
その言葉を聞き、船津は今度は顔を真っ赤にして直樹に食ってかかった。
「君は…僕に喧嘩を売りに来たんですか!?」
青くなったり白くなったり赤くなったりと忙しい奴だなと直樹は思いながらも、話を続ける。
「だから…今から俺が提案することを聞けよ。…結婚するのは俺じゃない、お前だ。」
「はい!?」
素っ頓狂な声を船津は上げた。
「いいか。今から俺が話すことをお前が成功させてみろ。お前は俺を出し抜いて姫を手に入れた男として有名になる。一番の俺を出し抜くんだ、この件ではお前が一番だ。」
「一番…。」
「そう、一番。」
この一番というフレーズが何よりも船津をくすぐることを、直樹は知っていたので、殊更、ここを強調する。
「…それで、どうすればいいんですか?」
どうやらその気になったらしい。直樹は船津の耳にそっと作戦を告げた…。



♪あとがき
読まれて…意味が分かるといいのですが…。
それが少し心配です。
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二番の君!!!

バカうけ!船津に細井、原作キャラの当て方が本当に絶妙!!

バネのように起き上がる・・・て表現に、原作そのまんまの船津くんが頭に浮かんだよ。
その脳内平安船津、時代考証的にあり得ないけど・・・メガネかけてます(笑)

アリエルに続いてニ番のさあや!!

バネのように起き上がる→そして、細胞ダンスを
思い出してしまったわ(大爆)

直樹と船津君のやりとりと、西垣先生とのやりとり
も大好きなので同時に読めて嬉しかったわ^^

てか傑作です^^
今日も笑い過ぎてお腹痛い…

ニ番ニ番…ニ番の君~^^

サブキャラてんこ盛り~

凄い!こんなにたくさん出てくるなんて!しかも絶妙~。どんな作戦かわからないけど、二番の君頑張れ!

乳母が細井婦長さんだなんて、水玉さんならではですね。
そして「二番の君」船津・・・上手い!!
なにげに直衣が似合いそうで怖いわ。
蹴鞠をしたらずっこけそうですよね・・・・船津(笑)

私もキャスティングに脱帽ですっ。
“二番の君”に満点大笑い!!
なにやら先の展開が楽しみな回ですね。ワクワクして待ってます。


いいですね~

楽しく読ませていただいております。
直樹が堂々と琴子を守る・・・
このお話はここがたまりません・・

今回、直樹母様が登場でキタ~~!!感が・・(笑)

こんばんは。キャスト、続々登場ですね。
二番の君の船津君に細井婦長、真里奈、そして入江ママまで、本当楽しいですね。
今度はどなたが登場するのか?楽しみです。

パスワード、まだわかりません。小学生に戻って修行してきます。(笑)でも「君がため」を読む
のには支障がないので、ホットしています。いつか分かる日が来ればいいと、気長に探します。

おぉ!!こちらの二番の君は違う意味でバイーーンだ!!
↑本当にごめんなさい!!水玉さんが大事にされている作品に!!このようなコメを。。。。
私もこのお話大好きです!!

でもでも船津君の姿が目に浮かぶ浮かぶ!!
どのキャラも皆すぐ絵になって現れるの!!
紀子ママ、ニッシーの直樹様とのやり取りもとっても好き!!
これからどんな話になるのかとても楽しみです♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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