日々草子 Mosquito

Mosquito

とある休日のこと。
好美が入江家に遊びに来ていた。目的は…勿論、裕樹。
裕樹はこの春知り合ったばかりの好美をうっとおしっているのだが、紀子と琴子が家に上げるので結局相手をさせられることになる。

この日、家には琴子と裕樹、好美の三人だけだった。

「へえ、こんなものが出てるんだ。」
琴子がまじまじと見ているもの。
それは好美が持ってきたポケムヒだった。
「あたしなんて、ムヒと言えば、チューブに入っている白いクリームのものしか知らなかったな!」
可愛らしいデザインの液体ムヒを琴子は見ている。
「可愛いでしょう?それなら持ち歩いても、落としても変に思われないし。」
「うん、可愛いね。」
騒いでいる女性二人を横目に、裕樹は、
「…何が可愛いだ。所詮薬に変わりはないよ。」
と冷たい視線を送っている。

「つけてあげようか?琴子先生。」
好美がポケムヒのキャップを外しながら言った。
「え?」
「これ。」
「あたし、虫さされなんてないよ?」
「だって…先生の首の所の赤いの、蚊に刺されたんでしょ?」
無邪気な好美の言葉に、琴子は思わず言われた場所を手で押さえ、顔を真っ赤にした。
「あ…だ、大丈夫…。」
「でも…痕になっちゃったら大変だし。先生の首、白くて綺麗だから目立つよ?」
「いや、本当に大丈夫…。」
それを見て、裕樹が口を開いた。
「分かった。しみるのが嫌なんだろ?」
「え?そうなの?大丈夫だよ。これ、あんまりしみないから。」
「いいよ。こいつなんてキンカンで十分だよ。あの痛さでそのボケッとした脳も刺激されて、少しは頭の回転も速くなるかもしれないし。」
無邪気な中学生二人の会話に、琴子はますます顔を赤くした。

そんな雰囲気のリビングに、これまたタイミングよく直樹が帰宅する。
「あ、あたし…ちょっと用事思い出しちゃった。好美ちゃん、ごゆっくり!」
そう言い残し、琴子はバタバタと出て行ってしまった。

「何だ、あいつ?」
琴子が二階へ駆け上がる音を聞きながら、直樹が呆れる。
「…無理強いしちゃって嫌われちゃったかな?」
しゅんとする好美を見て、直樹が裕樹に何があったのか訊ねる。
裕樹の的確な説明を聞き、直樹は笑いをかみ殺すことに苦労する。
そして、
「大丈夫だよ、好美ちゃん。」
と好美に優しく言った。そして、
「あいつは痛みに弱いからなあ。」
と何とも意味深な言葉を残し、直樹も二階へと上がっていった。

「優しいなあ。直樹先生。」
好美は直樹が出て行った後を見ながら、呟く。
「そういえばさあ…。」
裕樹はずっと抱いていた疑問について口を開いた。
「お前、何でお兄ちゃんのこと、先生って呼ぶの?琴子はまあ…実習で知り合ったからっていうことは分かるけど。」
「え?あ、あの、それは…。直樹先生、お医者さんになるんでしょ?それなら今から先生って呼んでもいいかなあって。」
慌てて誤魔化す好美。中間試験の時に直樹に勉強を教わったことは、琴子にも裕樹にも、未だに秘密だ。
「ふうん。」
裕樹はそれ以上、突っ込まなかった。

「せっかく髪で隠してたのに…。」
琴子は鏡でその個所を見ながら溜息をつく。
「あーあ。それにしても…無邪気すぎてさすがに困ったよ。」
「よく見てもらえば、それが虫刺されじゃないって分かってもらえたのに。」
直樹の言葉に琴子がキッとなって振り向く。
「そんなこと、させられるわけないでしょ!」
「唾つけとけば治るかも。」
「それは擦り傷とかだよ!それも迷信!お医者さんになる人がそんなこと言っちゃダメ!」
直樹の目的が分かり、琴子は絶対させまいと、首をカバーする。
「火傷を味噌で治そうとした人間に言われたくないね。」
「とにかく、これ以上はダメ!禁止!」
琴子は真っ赤になって断固拒否した。

翌週。
再び好美が入江家にやってきた。
「先生…暑くないの?」
好美が琴子を見て心配する。
「う、うん。大丈夫。」
琴子はこの汗ばむ陽気に、なぜかハイネックを着ていた…。

「こいつ、また蚊に刺されたんだよ。」
今日は最初からいる直樹が、好美に教える。
「ええ!やっぱり、買ってきてよかった!」
好美はバッグから何かを出して琴子へ差し出す。それは新品のポケムヒだった。
「先生、虫に刺されやすいんだね。持ってた方がいいと思う!」
虫刺されと信じて疑わない好美を見て、
「ありがとう…。」
と受け取る琴子。それを見てまた直樹は笑いを噛み殺している。

「窓開けたまま、寝てるんだろ?」
裕樹が言った。
「だから蚊が入ってくるんだよ。うずまきの蚊取り線香でもつけとけよ。お兄ちゃんが刺される前に。」
「そ、そうかな…?」
琴子は気まずくてしょうがない。
「今年の蚊は、しつこいからなあ。そんなもんで効くかどうか。」
直樹が面白そうに言った。琴子は真っ赤になって睨む。
「え?そうなんですか?やだ。あたしもうずまきの蚊取り線香、買わなきゃだめかな。」
直樹の話を聞き、好美は本気で心配する。
「ほら。」
裕樹が琴子に箱を投げた。慌てて琴子は受け取る。それは、黄色い箱に赤字で『キンカン』と書かれていた。
「この僕が買ってやったんだ。すごいんだ、こいつ。首のまわりにバババッって!」
「え?そんなに刺されちゃったの?先生、可哀想!」
好美が心配して琴子を見る。
「…い、いつ見たの?裕樹くん。」
琴子が顔を赤くしたまま、訊く。
「昨夜。お前、寝ぼけた感じでトイレに行ってただろ?僕も起きたんだよ。」
「ああ。確かにこいつ、心ここにあらず、夢うつつって感じだったもんな。」
直樹が面白そうに言った。

「あ、あたし…お茶を用意してくるね。」
先週よりはるかに顔を赤くし、琴子はキッチンへと逃げ出した…。

直樹は俯いて笑いを必死で噛み殺していた…。



★あとがき
突然、この4人が書きたくなりまして…
5月はクリーンなハートを取り戻そう月間にしたかったのに、なんか無理そうです。
虫さされにキンカン…この痛みが「効く!」って感じでいいんですよね。
付けた後、息を吹きかけてしまいますが(笑)
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comment

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何連敗???

もうかれこれ何連敗なんでしょう?水ちゃんのあとがきにヤラれたの。
覚悟してるのに・・・絶対笑わせられるとわかっているのに吹き出してしまう。クリーンなハートってあなた・・・くくく
いや~、直樹いじわるだね~~。きって睨む琴子の描写がとっても可愛い!笑いをかみ殺す直樹の姿とともに明瞭に絵が浮かんでくるよ。
それにしても、無邪気の攻撃とはげに恐ろしきかな。琴子が気の毒で・・・(くっくっく)

ポケムヒは発売当初からアリエルの夏の必需品です。浜に行くとき非常に重宝するのよン♪

mosquito直樹~!

相変わらず意地悪ですね~直樹。私もmosquito直樹だったら刺されたい!!ずーーっと痕残ってそうだなぁ・・・。無邪気は罪ですね~。4ショット面白かったです!ポケムヒ、娘も夏の部活には欠かせないと携帯してます。私の頃はチューブでしたよ。変なところから出てきたりしてあせったものです。。。

かわいいわぁ~

よかったです。「蚊」の話
弟君たちが絡むのもいいですね・・
日常のなにげない風景って感じで・
その中に直樹が琴子を大好きだって事が
よーーーく表現されているから
かわいいけどドキドキで
今日も楽しく読ませていただきました!!

私もウケてしまいました

私も「クリーンなハートを取り戻そう月間」に大ウケしていまいました。
大蛇森せんせのピグモンもうけましたが・・・(苦笑→爆笑)。
私はウナコーワ派です。実家の父は断然きんかん派でした。
子供が生まれてから、ベビームヒが大人にもかゆみ止めとしては意外と効くことも発見しました。
意地悪直樹ですが、ほほえましくていい感じなお話ですね。

キンカン

懐かしい響きですね・・・キンカン。
キンカン塗ってまた塗って♪そんなコマソンをつい
歌ってしまいました(遠い目)
四人が絡むのは珍しいですね。なんか可愛い!
入江くんのイタズラっぽい顔や赤面して慌てる琴子の顔
相変わらず脳内スクリーンに浮んできます。

こんにちは。
四人の様子が目に浮かんできます。
好美ちゃんと裕樹の無邪気な様子と琴子のあせって逃げる様子を想像すると、可愛いですね。
やっぱり入江君、琴子が可愛くて、可愛くて仕方ないのですね。

好美ちゃんと裕樹君、後で本当の事を知った時の事を想像してしまいました。

なんてこんなに口元がだらしなくニヤニヤしちゃうんだろう><

本当、KEIKOさん同様、直樹のイタズラな意地悪がなんとも
言えなく(ぷぷぷ)
琴子が慌てる様子が目に浮かぶのに微笑ましいの^^

裕樹と好美ちゃんのウブさもとっても可愛いかったです♪

可愛いお話をありがとう♪

さあやは蚊にもさされない女です^^;

日常の幸せな風景いいですね!ほのぼの、ニヤニヤ、私まで幸せ気分味わえました。
裕樹君はいつ気づくのかなぁ・・・気付いた時の裕樹君を想像して又ニヤニヤしてしまいました(笑)
ムヒ・キンカンからこんなに素敵な可愛いお話!!
さすが水玉さんですね!

キンカンも悪くはないです(笑)

アリエルさん
いや!まだあきらめてないから!クリーンなハート!(笑)
好きなんだよね、睨む琴子の顔、私が(笑)
ちょっと意地悪な入江くんが書きたくなったら、こんな話に…^^;
私もポケムヒ、愛用してるわよん。

KEIKOさん
なぜ、そんな!私だってまだ、ほんの少しクリーンさを残してますってば!(笑)
ベビームヒ…肌に優しそうですね。私も使ってみようかな?
キンカンのあの痛さはやみつきになります^^

くみくみママさん
本当。ポケムヒって一見リップとかに見え…ないかな(笑)
でも私もかゆみがひどい時はチューブ式の昔ながらのタイプを使います。
いえ、中一くらいだったら知らないかなあと…私は当時知らなかったんですが、恥ずかしながら。

るんるんさん
後で知った時…どうやって知るんだろうと考えてしまった私の心は、もはやダーティーです(笑)
琴子が可愛くてたまらない…そういう感じに書きたかったのでそう言ってもらえると、とてもうれしいです!ありがとうございますね!

さあやさん
今回のテーマは意地悪な入江くんと、何も知らない二人にからかわれて焦る琴子ちゃん…だったりします。
ですので、そんな気持ちを持ってもらってうれしい!

うーちゃんさん
ありがとうございます!
私もあの2本からここまで書けるとは思ってませんでした(笑)
よかったです!たまには私だってこういう話も書くんだよとアピールできて(笑)

皆さま、読んでくださってありがとうございました!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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