日々草子 君がため 10

君がため 10

琴子は直樹の顔に汗が滲んで、息を切らしていることに気がついた。
「…すごい汗。」
思わず拭おうとしたが、その手を引っ込める。
そんな琴子の仕草には気づかず直樹は、
「…馬で駆けてきたからな。」
と答えた。
「牛車ではとても間に合わないと思って。」
「ご公務は?」
琴子は直樹の束帯姿を見て、ハッとする。そんな琴子を見て、
「大丈夫。お前は心配しなくていいよ。」
と、直樹は琴子を安心させるように微笑んだ。

琴子はそれまで黙って直樹に抱かれていたが、急に気がついたように直樹から離れた。そんな琴子の態度に直樹は怪訝な顔をする。
「私、汚いから…。」
まさか…と直樹は、先程自分が投げ飛ばしたため、転がっている青木を睨んだ。
「あ、違うの。そういう意味じゃなくて。ここ、埃だらけで汚いのに、さっきあいつから逃れようとして走り回ったから…。直樹様のせっかくの綺麗な衣装が汚れちゃう。手も汚いし…。」
と琴子が説明する。
琴子の説明に安心して、直樹は再び琴子を抱きしめた。
「いいよ。汚れたって。」
その言葉を聞き、琴子は安心して目を閉じて、うっとりと幸せを漸く感じ始める。

「遅くなってごめん。よく頑張ったな。」
直樹が琴子の顔を両手で挟んで、優しく言った。
「桔梗が励ましてくれたし、後、これがあったから。」
琴子は懐から横笛を出して直樹に見せる。

「…やっぱり違う。」
直樹に顔を挟まれたまま、琴子が呟いた。
「あいつとは違う。直樹様の手は綺麗で温かい。」
琴子は笑った。が、それを聞き、直樹は転がっている青木へと近寄った。
「直樹様?」
どうしたのかと琴子が見守っていると、そこへ桔梗が駆けつけた。琴子と直樹の姿を見て、安堵する。
一方、直樹は青木の襟を掴んで物置の中から引きずり出した。
「直樹様。こいつ、姫様の胸に手を突っ込みましたよ。」
多少の脚色をして、桔梗は直樹へ囁く。それを聞き、冷酷な表情で直樹は青木を見た。

「ヒィッ!」

琴子は不気味な音を耳にした。何だろうと不思議に思っていると、再び直樹が戻ってきて、琴子の顔を袖でゴシゴシと拭いた。
「あ、やっぱり汚れてた?」
恥ずかしそうにする琴子を直樹は優しく抱きしめる。
「今、何か音がしなかった?」
「…風の音だよ。」
「随分強い風が吹いているのね…。」
直樹に抱きしめられながら、また琴子は目を閉じた。

「さすが蹴鞠の名手よね…。」
桔梗は目を回している青木を見下ろしながら呟いた。
「鞠よりずっとデカイし重いけどな。」
直樹に蹴飛ばされた青木の巨体を、鴨狩は木に括り付け始める。桔梗も手伝う。

「…行くぞ。」
直樹が立ち上がった。
「どこへ?」
「俺の別邸。これからお前と暮らす邸に。」
それを聞き驚く琴子。
「一緒に来るよな?」
少し直樹の顔を見ていた琴子は、
「う、うん!」
と頷き、それを見て直樹も笑う。そして琴子へと手を差し伸べた。が、琴子は手を伸ばして来ない。
直樹が不思議に思っていると、
「…腰が抜けて立てないの。」
と琴子が恥ずかしそうに呟いた。

直樹が琴子を横抱きにして出てきた姿を見て、桔梗と鴨狩は笑顔を見せた。
先に車に戻る琴子たちを見送って、桔梗と鴨狩はとある部屋へと急いだ…。

直樹が用意した邸に入り、琴子はあまりの豪華さ、広大さに目を見張った。
「ここが今日からお前の部屋だ。」
そう言って直樹が案内した部屋は、今まで琴子が与えられていた部屋とは全然違い、広く、上品な調度品に飾られていた。
着替えてくると直樹は言い残し出て行き、琴子はその部屋に一人残される。
「すごいなあ…。」
あまりの素晴らしさに、琴子は自分のみずぼらしさが恥ずかしくなった。

何をして待っていればいいのか分からず、ポツンと中央に座っていたが、それも落ち着かない。
「どうしよう…。」
琴子は困り始めていた。

暫くして、直樹と桔梗がやってきた。
「姫様。お待たせしました。」
桔梗が声をかけるが、部屋の中には誰もいない。
「まさか…連れ戻された?」
桔梗が青ざめる。
「そんな馬鹿なことが…。」
直樹も見回す。

「直樹様…。」
桔梗が直樹に声をかけた。
「…変わったインテリアですね。」
桔梗が示す方に直樹は目をやった。
そこは不自然な形で几帳が立てられていた…。

「何してるんだ?お前。」
几帳をめくって、直樹と桔梗は驚いた。几帳で四方を囲み、その狭いスペースに琴子は隠れるように座っている。
「かくれんぼですか?」
桔梗も琴子とは長い付き合いだが、琴子の不可解な行動に首を傾げる。

「だって…こんなに広いお部屋、初めてなんだもん。」
恥ずかしそうに琴子は言った。
「誰もいないし…一人だし…。心細くて…。狭い所だとちょっと落ち着くかなって。」
直樹は溜息をつき、几帳の中へと入った。
「狭い。」
長身の直樹は窮屈そうだった。
「悪かった。あんな恐ろしい目に遭って一人になったら、心細いよな…。」
琴子の頭を撫でながら、直樹は謝る。
「…慣れるまで、ここにいていい?」
琴子は直樹の顔を見て頼む。
「だめ。」
直樹の返事を聞いてしょんぼりする琴子に、
「ここじゃ狭すぎて、一緒に寝るのに窮屈。」
と答える直樹。それを聞いて琴子は真っ赤になり、几帳から出てまた陰に隠れてしまう。
「お前…その癖やめろ!」
直樹が琴子の着物の裾を掴んだ。

こうして、直樹と琴子の新生活は何とか始まった。



♪あとがき
王子様は馬で登場がセオリーですから(笑)。
束帯姿は…私が想像したかったんでそうしました(笑)。
『落窪物語』、もう少し続くんです…。ごめんなさいね。


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comment

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水玉さん、こんにちは。
落窪物語と言うんですね!
教えていただいてありがとうございます!
タイトルは聞いた事がありますが、読んだことはなかったです。
今度読んでみますね!
ようやく二人の新婚生活が始まったようでよかったです!
青木に迫られているときは、直樹が間に合うのかハラハラしながら読ませていただいていました。無事でなにより!さすが王子様ですね!
琴子のおねがいに、だめと答える直樹がとてもかわいかったですvv

衣冠束帯

直樹の束帯姿萌え~!!
几帳で四方を囲うなんて可愛らしい琴子。
ところで、表題の「君がため」ですが下の句は
「春の野にいで・・・・」なのか「おしからざりし・・・・」
なのか、毎日悩んでます。(暇人)

何故謝る?!

もう少し続く・・・いーーーーじゃなーーーーい!
もう終わりかと思って寂しくなってたんで、ガッツポーズかましたわよ!
直樹様、かっこいいねぇ。琴子姫もちょ―――――キュート☆
几帳で囲った狭いスペースに納まってる姿想像して、くすっってなっちゃったわ。で、また几帳の陰に逃げちゃう・・・もう、ウリウリしたくなっちゃうくらいかわいいよ~ン。

ところで、時折入るカタカナ外来語(インテリアとか)、これ絶対わざと入れてるよね?けっこうツボ・・・

ヒヒーーン!!

やっぱり王子様にはお馬様よねぇv-230
元にしてるという「落窪物語」は題名しかしらない(←古典は苦手でした><;ぃゃ他もだけど・・・・)けれども、「あさきゆめみし」と「なんて素敵にジャパネスク」で培われた?知識?が無知なあたしに映像を流してくれてます♪
うんうん。映像が浮かぶお話を描かれる水玉さん!シャーペンを握りつぶして(→青木の如く)突き進んでくださいね♪
ハ●ズに行き新たなシャーペンあたしが探してきますわよ(笑)

か、かわいい…///几帳に隠れるのやっぱりスキです!!
全然飽きてませんよ!!むしろくらいついています。
haも元のお話が気になっていたので、読んでみたいと思います^^

琴子姫命!!!

水玉さん、直樹様馬にて登場ですね。
琴子救出に。もうカッコウいいんだから。
青木を蹴鞠の要領で蹴飛ばされたのですね。
なされる事が粋でございますね。
木に括り付けですか。
その後腰の抜けた琴子を抱き上げ自分の家に。
部屋を見た琴子は余りの広い部屋に動転していますね。
ここで直樹様と暮らすのですから。
でも直ぐには慣れませんよね。
几帳で四方を囲み、その狭いスペースに琴子はいるのですから
。直樹様も驚かれていますが。
さらにこんな狭い所では、琴子姫を抱く事が出来ないと。
新婚生活が始まるのですね。
琴子、大丈夫でしょうか。
桔梗も鴨狩もいるから心配は無いですね。

落窪物語を読んで見ないといけませんね。

続くなんて・・・とっても嬉しいです。謝らないで下さーい。
もっと、もっと続いて欲しいぐらいです。
水玉さんの作品は一度完結しても、またそこからお話を書いて欲しい作品ばかりです。と言うか、全部書いて欲しい作品です。
続き楽しみにしてます。

連休明けて水玉さん宅に遊びにきたら、
話がいっぱい進んで!!しかもとっても面白い!!

どうしてそんなに格好いいの!!!
直樹様!!
本当に王子様みたい!!うっとりよ~
あー琴子ちゃんがうらやましい!!
もう水玉ワールドにどっぷりはまっている私。これからも宜しくね♪

やっぱ馬よね~

馬に跨っている姿を思い浮かべただけで萌え~だわ!
直樹様は蹴鞠もお出来になるのね・・・素晴らしい。
二人の新婚生活も楽しみだけど、北の方はどうするの?まだサブキャラは出てくるの?と楽しみ満載でドキドキです。
どんどん続けて下さいね~~~!

素敵

馬の乗った入江君、想像しただけで素敵。
琴子を助け、一緒に新居で暮らせるようになって、本当によかった。広い所は慣れないので狭い所にいく琴子、可愛い。琴子の頭を撫で、「ここじゃ狭すぎて、一緒に寝るのに窮屈」入江君のせりふ、最高!

サブキャラ

お久しぶりです。
原作ではパンダイの経営の立て直しに(ちょっとは)役立った青木も、ここでは原典のあのじじいの役なんですね。
その役もまたハマってます。

私としては、今後 まだサブキャラが出てくると思います。
入江ママももちろんですが、、、。

ありがとうございます。

みおさん
ぜひ読んでみてください♪
結構笑いもあって、源氏物語より軽く読めますよ。
直樹のだめ、可愛いと言って下さってありがとうございます♪

さくやさん
どちらの歌もいいですね~←今調べてきました笑
「あなたのためならば」という意味でつけてみましたが。
束帯姿、とにかくこの姿になってほしかったんです^^

アリエルさん
そうなの。もう少し先があるんだわ。
意外に手ごわい、『落窪物語』(笑)。
カタカナは…もちろんわざとです!軽いタッチにしてみたかったので!気づいてくれてありがとう。

ヒロイブさん
これ書き始めて、久方ぶりに読みました、あさきゆめみし。
結構間違った言葉を書いていたことに気が付き…^^;
私の好みのシャープペン、見つけられます?(笑)

haさん
几帳はいろいろ便利な使い方ができたみたいです。
飽きてないとおっしゃっていただいて、ありがとうございます。

tiemさん
いえ!もう落窪は忘れてください(笑)
かなり私が勝手に付け加えています。というより設定自体も…。
読んだら驚かれますよ!
「全然、違うじゃない!」って!(笑)

うーちゃんさん
嬉しいです!ありがとうございます!
そんなこと言われると、調子に乗って「こいつ、またこの続き書くのか」とあきれることになりますよ(笑)
でもそう言っていただけた時が書いて良かったなあと思える瞬間です。

ゆみのすけさん
連休お疲れさまでした←?
忘れないでいてくれて嬉しい♪
ぜひとも今後も末永いおつきあいをば…(ぺこり)
直樹いじめをしてないので、ちょっとストレスが(笑)

くみくみママさん
何でもできるんです!だって貴公子だから(笑)
まだいろいろと出る予定です…うまく書けるか自信ないけど。
頑張ります!

るんるんさん
馬にも乗っちゃうんです←だって貴公子だから←しつこい(笑)
その辺は完全にオリジナルです^^;
ちょっとラブラブに書きたかったので♪

tomoさん
あ、原作をご存じなんですね!
そうです。あのおじいさんの役です(笑)。
彼にはかわいそうなことをしました…(涙)
一応、あの辺りまでは書く予定です^^

皆さま、読んで下さり、ありがとうございました。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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