日々草子 君がため 7

君がため 7

「ああ、あのデブのせいで、夕べは肩こりに悩まされたわ。」
朝になり、桔梗は疲れた様子で琴子の部屋へ向かっていた。琴子も疲れているだろうから、少しゆっくりと休ませてあげようと、いつもより遅い時刻だ。
「おはようございます。姫様。」
琴子は几帳の向こう側で横になっているはず。几帳の向こう側に顔を出した桔梗は、
「昨夜はお互い大変でしたわね…。」
と言いかけ、言葉を失った。

「姫様はまだお休みなんだけど。」
なぜか眠っている琴子の横には直樹が上半身を起こして微笑んでいた。
「色々“大変”だったから、もう少し寝かせておいてほしいんだが。」
「は、はい!かしこまりました!」
慌てて桔梗はその場を後にする。

「な、何で直樹様が姫様の部屋に?え?あのお姿って、そういうことになったってこと?」
何が何だか分からず、取りあえず至急鴨狩を呼びつける。

「話は分かったわ。つまり漸くお二人は…。」
「男と女の関係になった。」
桔梗は鴨狩の頭を叩いた。
「そういう下品な言い方はおよしなさい!」
「じゃ、一線を越えた。」
また桔梗は鴨狩を叩く。
「だからそういう露骨な表現止めろって言ってるの!」
そう言いながらも桔梗は嬉しくてたまらない。
「そうすると…後はお餅の準備をしないとね。」
「餅?」
桔梗に叩かれた頭を摩りながら、鴨狩は訊ねた。
「そうよ。三日夜の餅。…アンタ、罰として準備しなさいよ。」
桔梗は鴨狩に命じた。
「何の罰だよ!」
「大事なことをアタシに黙ってた罰よ!つべこべ言わず、明日の夜までに用意してくるのよ!それから…。」
「それから?まだ何かあるわけ?」
「…後朝の文も、ちゃんと直樹様に書いていただくこと!」
「ああ。それは言わなくても書くだろう。」
「今日の午前中必着でね。」
「はあ?だってまだ二人は部屋にいるんだろ?」
「帰ったらすぐに書けば間に合うから。分かったわね!」
結局、鴨狩は桔梗の命令を全て引き受けることになった。

「午前中ね…。」
邸に戻り、直樹は筆を取った。
「午前中に届かないと、男性の誠意が伝わらないことになるそうです。」
桔梗に言われた通り、鴨狩は告げる。
「それから…姫様にすぐに意味が分かっていただける内容でとのことでした。」
「ああ。あいつ、洒落た歌なんて贈っても首傾げるだろうしな。」
そんな会話をしながらも、直樹はあっという間に文を書き上げた。

「どうぞ。」
その日の午前中に後朝の文は琴子の手元へと届けられた。
「今日こそは普通の恋人らしいことが書かれているだろう。」
「あの直樹様が一体どんな恋文を…。」
鴨狩と桔梗はわくわくしながら、琴子が読むのを待っている。
琴子も頬を染めながら、文を開き、目を走らせた。が、やがて耳まで真っ赤になり、几帳の陰へと隠れてしまった。
「え?どうされました?」
琴子の様子に桔梗が驚いた。そして琴子が落とした文を拾う。
「もう、姫様はうぶでいらっしゃるから…。」
そんなことを思いながら、桔梗も文に目を走らせた。が、桔梗も琴子同様、顔を真っ赤にした。
「何?どうしたの?」
二人の様子が可笑しいので、鴨狩も文を読もうとする。が、すぐに桔梗が自分の懐へ入れてしまった。
「絶対読んじゃだめ!」
そう言って、隠れてしまった琴子を桔梗は慰め始めた。
「何なんだ、一体…。これじゃ返事をもらえないじゃないか。」
一人蚊帳の外へ置かれた鴨狩は、口を尖らせた。

「ふうん。」
琴子の返事を見て、直樹は意味あり気に笑った。
「姫様も桔梗も顔を真っ赤にしてました。」
「だろうな。」
その時の琴子の様子を想像すると、直樹は可笑しくてたまらない。
「お前は読まなかったのか?」
「読ませてもらえなかったんです。」
「だろうな。」
自分一人だけ、事情が分からないので鴨狩は面白くない。

「琴子の返事。」
直樹は琴子の文を鴨狩に渡した。
『いじわる』
そう一言だけ書いてある。
鴨狩は首を傾げるばかりだった。

「直樹様のいじわる!」
琴子はまだ顔を赤くしていた。
「絶対、私が何も知らないからってからかってるに違いないわ!…昨夜の感想なんて絶対後朝の文になんて書かないわよ!しかも、あんなに事細かく!もう知らない!」
その夜、直樹は琴子の機嫌を直すのに少し苦労したという…。

とうとう、今夜は三日夜の餅の儀式を行うという日がやってきた。
鴨狩は桔梗の命令どおり、餅を調達してきた。
「すごいじゃない!立派なお餅!どこで手に入れたの?」
「…親戚の叔父さんに頼んだ。」
「へえ。気前のいい叔父様がいるのね、アンタ。」
桔梗は餅に添えられていた文を読んだ。

『暫く顔を見せないので心配してました。突然餅が欲しいと言われ、驚きましたが、大切な貴方の為、心を込めて用意させました。他に欲しいものがあれば、遠慮なく言って下さい。最愛の鴨狩くんへ。貴方の叔父、大蛇森より愛を込めて。』

「…随分、愛されてるわね。」
若干、引きながら桔梗は鴨狩へ言った。
「…その愛が重くてさ。独身で子供もいないから、俺を養子にほしがってるんだけどね。でも養子になったら最後な気がして…。」
何となく鴨狩の気持ちが分かった桔梗は、それ以上は追求しなかった。
そして綺麗に餅を飾りつけた。

「素敵!」
美しく整えられた餅を見て、琴子は歓声を上げた。
「で、これは何か意味があるの?」
ニコニコしながら琴子は訊ねる。

「…意味を知らないのか。」
と直樹が溜息をつけば、
「お前、説明しておかなかったのか。」
と鴨狩が桔梗を睨んだかと思えば、
「だって…。直樹様が悪いんですよ。こんな急な展開になるとは思ってなかったから、説明する暇がなかったんです!」
と桔梗は直樹を逆恨みした。

「ねえ。何?知ってるなら教えて。」
直樹は琴子に説明した。
「それは、三日夜の餅というんだ。」
「ミカヨ…?」
聞きなれない言葉に琴子は首を傾げる。
「殿方が、姫君の元へ通われ始めて三日目の夜に、お二人で召し上がるんです。召し上がれば晴れてお二人はご結婚…ご夫婦になられたことになるんです。」
桔梗の説明を聞いて、
「結婚…夫婦…。」
と琴子はまたもや顔を赤くし、几帳の陰へ隠れてしまった。
「お前、またそれかよ。」
直樹は溜息をついた。
「で、どうやって食べろって?」
直樹は桔梗へ訊く。
「花婿様は三つ。花嫁様は数に決まりはございません。」
「つまり俺は三つ食って、琴子は何個でもいいんだな?分かった。後は俺がするからもういいよ。」
部屋を下がった二人は、
「こんな儀式でいいのだろうか…。」
と首を傾げていた。

「使っていない邸があったよな…。」
帰りの車の中で直樹が呟いた。
「お母上から頂戴した二条のお邸ですか?」
鴨狩は返事をした。今は家族と同居している直樹だが、母から譲られた邸を持っていた。
「あそこ…きちんと整えて、庭も色とりどりの花を植えて、あいつを迎えるか。」
それを聞き、鴨狩は笑った。
「きっと姫様、お喜びになりますよ。」
直樹もそれを聞き笑った。
「あいつのあんな顔を見ながら別れるのは辛くてさ…。別れなくてもいいよう、一緒に暮らしたくなった。」
先程、出て行く直樹を、柱の陰に隠れて、大きな目に涙を沢山溜めて見送る琴子の姿を思い出しながら、直樹は言った。
「まだあいつには黙ってろよ。」
「かしこまりました。」
二人は顔を見合わせて笑った。

三日夜の儀式も終え、一応夫婦になったこともあり、直樹は琴子の元へ通う回数を増やし始めた。

「もしかして、またあいつのか?」
琴子が縫っている直衣を見ながら、直樹は訊ねた。
「そう。西垣様の直衣。」
今夜の琴子はどうやら仕事優先らしい。
「派手だな、それにしても…。」
「そう?いつもこんな感じだけど?」
そう言いながら琴子は一生懸命手を動かしている。
暫く黙って琴子の仕事を見ていた直樹だが、この間に比べてどうも丁寧なようだ。
「この間と違って丁寧だな。」
思わず口に出してしまう。
「うん。幸せのおすそ分けだから。」
「おすそ分け?」
意味が分からず直樹は訊き直した。
「そう。私、今、とっても幸せだから。だから今までとは違う気持ちで、ちょっと丁寧に仕上げようと思って。」
琴子の言葉を聞き、直樹は、
「あんな奴にそんな気を遣う必要ないのに。」
とぼやいた。
「え?何?」
よく聞こえなかったらしく、琴子は訊き返す。
直樹は琴子の手から直衣を取り上げた。
「とりあえず、夜毎お姫様の元へ通う俺にもその幸せのおすそ分けをしてくれたら嬉しいんだけど。」
やがて、琴子の部屋の明かりが消された…。

「どういうこと?一体…!」
明かりが消された部屋を見て、北の方は憎憎しく言った。
追加の縫い物を届けがてら、いつものように琴子をいじめてやろうと部屋に向かったら、男性の声が聞こえてきたので、耳を澄ませた。そしてそっと中を伺うと、幸せそうに笑う琴子と、自分の娘婿の西垣より遥かに容姿が優れ、気品がある公達がいたことに驚いたのだった。
しかも二人の会話から、その公達が昨日今日通い始めた訳ではないということも知った。

「居候の分際で、男を引きずり込むとは…。しかも私が勧めた婿を袖にして!」
青木からは琴子の部屋に入ろうとしたら転んで頭を打った為、琴子とは何もできなかったと報告を受けていた。
「絶対このままにしておかない!あの娘、不幸のどん底へ突き落としてやる!」
北の方は琴子の部屋を見ながら言った。



♪あとがき
先程、この『君がため』の全データが消えました…。
書き上げた7話も全てパアに…(涙)
7話だけ何とか書き直しました。
結果的に余計な部分を省けて、ちょっとスッキリしたかも…とポジティブに考えます。
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新しい展開?!

あんなにラブラブなのに、また一波乱ありそうですね。直樹様、琴子姫にメロメロ(言い方古い?)じゃないですか!甘甘大好き!にしても、今回ゲスト出演は大蛇森なんですね。しかも文のみ…でもその文にキャラが見事に表現されてて、さすが大蛇森を知り尽くしている水玉さんです!

琴子がたまらなくかわいいです!影に隠れたり、涙をためて直樹様を見送るところとか、きゅんきゅんです(//∀//)直樹様もなんてお優しい(*/ω\*)
万華鏡につづき、haって実は時代ものスキだったんだと水玉さんに気付かせてもらいました☆

いやぁ、速い展開!

水玉さん、今回は何とお早く琴子姫をおとしましたね。
直樹様も琴子に参ってしまわれたのですね。
桔梗と鴨狩は流石に速い展開の行動に驚いています。
急いでお持ちの用意です。
大蛇森様が叔父様で登場とは。
三日夜の儀式も終え二人は夫婦に。
直樹様は琴子の許に頻繁に通うように。
しかし、面白くないのが北の方です。
自分の娘婿よりも容姿端麗、気品がある。
この方、琴子をどん底にと。
一体何を企んでおいでになるのやら。
直樹様の怖さを存じ上げられ無いようですが。
琴子姫大丈夫でございましょうか。
心配でごじゃる。(おじゃるまるでは無いです)
桔梗はどうするでおじゃるかなぁ。
次回を楽しみしてこの辺で失礼いたします。

こんばんは。
健気で、可愛い琴子に入江君、惚れちゃったんですよね。
三日夜の儀式も無事終わり、よかった、よかった。
新居も決め、後は琴子を迎えるばかり、でも、意地悪な北の方がどうでるか?頑張れ、二人!
オタッキーの青木や大蛇森、西垣など、キャスト使い方が上手ですね。流石、水玉さん、楽しませて頂いてます。

吹いた(ぷっ)

大蛇森より愛を込めて・・・で思わず吹いてしまいました。
三日夜餅とか後朝の文とか「へいあん~!」って感じですね。
北の方の陰謀に負けるな琴子&直樹!!

ううう

琴子姫の可愛さに萌え萌え~~(←アタシ、もしや青木レベル?!)
直樹様の素直さにキュンキュン☆
後朝の文が読みたくて仕方ないんですけど・・・。直樹様の細かい感想・・・非っっっ常に興味あります!はいっ!!

直樹も含めた桔梗、鴨狩のやり取りがたまらなく好きだわ!
北の方方面からの暗雲が若干怖いけど、土砂降りになってもイリコトだもんね!雨は吉兆だもんね!!・・・?

おおおお!!!

ラブラブ♪っと喜んでると何やら北の方の不穏な動きが・・
まだまだ目が離せません!
しかし・・・データが消えたって・・・凄い大変じゃないですか!!!おつかれさまです~

萌え萌えキュンキュンはここにもいまぁーす^^

さあやも北の方のお考えが怖いけど、
琴子と思っているのが大間違いですわね^^ぷぷぷ
(相手は直樹様よっ)

『幸せのお裾分け』なんて、琴子も直樹も本当に心が
綺麗でうっとり。

ますます、のめり込ませて頂きます^^




ありがとうございます

コメントありがとうございます^^

くみくみママさん
メロメロ、OKです(笑)
ここではもう死語をバンバン使っていきましょう!(笑)←ただ単に、自分の仲間を増やしたいだけ
いや、自分の中の大蛇森の愛情にちょっと今回気づかされました(笑)

haさん
これを時代物を呼べるかどうか…(^_^;)
退屈していません?
もし大丈夫でしたら今後もお付き合いいただけるとうれしいです。

tiemさん
おじゃる丸!笑ってしまいました!
お公家さんって自分のころ、「まろ」って呼ぶんですよね(笑)
直樹が「まろは…」ああだめ、想像できないです(笑)

るんるんさん
今までで一番、キャラを出しているかもしれないです!
しかも初顔のキャラまで(笑)
まだこの後出ますよ^^

さくやさん
一番愛があるのは私かも(笑)
このあたりの事情(しつこいようですが大したこともないのですが)、あとがきにて書きますね。
久しぶりに「あさきゆめみし」読み返しました^^

アリエルさん
ちょっと意地悪な直樹様が書きたかったの(笑)
普通、後朝の文って歌なんだけどね。まあこれもイリコトらしいかなと勝手に解釈^^;
本家の落窪ファンには怒られそうだけど(ペロッ)

ミルクさん
時間かけて書いていたので…消えた時は真っ青になりました~
何とか7だけは思い出して書きましたが、いろいろ余計な部分をカットできたので、最初よりはスリムになったかも(笑)

さあやさん
琴子ってそういうところあるかなあって。
あのちゃっかりしたところとかも大好きなんだけど、放っておけないところとか、人のために頑張るところとか、大好きなのよね♪
のめり込むなんて言ってもらえて、とっても嬉しい^^
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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