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2009.05.03 (Sun)

君がため 5


【More】

「来てもらったのは他でもないわ。」
その日も鴨狩は桔梗に呼び出されていた。
「何だよ?」
「単刀直入に訊くけれど、直樹様はなぜ姫様に手を出さないの?」
「はあ?」
「いい?寝所へこっそりと忍び込む、これ今の時代の常識。普通の男性ならそうするでしょ?」
「あの人、普通じゃないから。」
「それは分かってるわよ。でも顔を合わせるようになっても全然、何も起こらないじゃない!」
桔梗は鴨狩の襟首を掴んで詰め寄った。
「もしかして、直樹様…そっちの世界の方?…もしやアンタ達…?」
鴨狩はブルブルと首を振った。
「違う違う!そんなこと一切ない!俺は無傷だ!」
それを聞き、桔梗は鴨狩を解放した。
「そう?それにしてもあまりに何もないしねえ。」
「まあまあ。男女の仲は簡単にいかない。」
「それは分かってるけど…。」
桔梗は溜息をついた。

「今日は琴の日だったよな…?」
琴子の部屋に入ってきた直樹は、またもや琴子が広げている物を見て言った。
「あ、すぐに終わるから。」
琴子は裁縫をしていた。
「…もしかして、それは西垣って奴のか?」
先日西垣の言葉を思い出して、直樹は訊ねた。
「そう!直樹様、西垣様をご存じなの?」
「まあな…。」
西垣の話していたお針子というのは琴子のことだったのかと、直樹は知った。
「どんな方?西垣様って。」
琴子は手を止めずに訊ねる。
「どんなって…。宮仕えの女房全員のデータが頭に入っているような男。」
直樹は見たままの西垣の姿を伝えた。

「ふうん。文はとても素敵だったけどな。」
琴子が漏らした一言に直樹は反応した。
「もしかして…もらったのか?」
「うん。ちょっと待ってて。」
そう言って琴子は綺麗な文箱を出してきた。
「ほら!見て!」
それは薄様で、とても洒落た感じの文だった。中を開くとこれまたやたら飾り立てた、いかにも女たらしの書きそうな言葉が並んでいる。
「紙だけじゃないの!香りもとてもいい香り…。」
琴子はそう言って、文をクンクンと嗅いでみせる。
直樹は改めて西垣という男のマメさに舌を巻いた。

「そんなに雑な縫い方でいいわけ?」
直樹は琴子の手の動きを見ながら言った。その縫い方は裁縫など全く分からない直樹の目から見ても雑だった。
「うん。これくらい手を抜いて、適当にやらないと数こなせないもの。この間なんて西垣様の直衣を縫った時、針刺したまま渡しちゃった!大丈夫だったかしらね?」
そう言って琴子はケラケラと笑う。直樹は西垣が少し哀れになった。
「数こなすって、そんなに沢山仕事あるのか?」
「まあね。こういうことしないと、私ここ追い出されちゃうから。このために置いてもらっているようなものだし。お針仕事の腕だけは自信あるんだ!良かったらいつも色々教えて下さるお礼に簡単な縫い方とか教えましょうか?どこかほつれたりしている所が見つかった時、便利よ?」
「俺はそんな繕いが必要なボロは着ていない。」
直樹はその瞬間、自分の失言に気がついた。琴子は所々繕った後のある着物を着ている。
「…そっか。そうね。」
琴子は寂しそうに笑い、黙々と手を動かし続けた。
そして、結局その晩、直樹は琴子に何を教えることもなく、立ち去った。

「…あーあ。余計なこと言っちゃった。」
仕事を終えた後、琴子は溜息をついた。
「また呆れてるだろうな。一緒にするなって感じよね。」
「そんなこと気にされる方じゃないですって。」
桔梗は落ち込む琴子を優しく慰めた。

「失言したな…。」
直樹もその頃、反省していた。だか、こちらのお付きは琴子のお付きと違い、
「直樹様にも“反省”という二文字があったんですね。」
と口走り、直樹に睨まれていた。

数日後、鴨狩がいつものように直樹からの文を持ってやって来た。
「今日の文は違いますよ。」
そう言って、琴子と桔梗の前にいつもよりちょっと豪華な文箱を出した。
「素敵。」
あんなことがあったにも関わらず、愛想を尽かさなかった直樹の態度に琴子は安堵しつつ、その見事さに見とれる。
「外見だけじゃないですよ。」
鴨狩に促されるまま、琴子は中を開けた。
「見て、見て!桔梗!」
「まあ!素敵…!」
それは西垣が寄越した文とは比べ物にならない、とても上品な紙に書かれた文だった。しかも花まで飾られている。
「いい香り!」
そして香りまで焚き染められていた。

「これはもしかして…“今夜はぜひ…”とか熱烈なことが?」
桔梗がそんなことを思い、鴨狩も、
「きっと素晴らしい恋の歌が…。」
と期待する。そして二人は琴子が読み終わるのを今か今かと待っていた。

「何て書いてありました?」
桔梗が訊ねた。
「これ…。」
琴子は文を二人に見えるように広げた。
「え?」
「嘘…。」
二人は同時に首を傾げた。そこには、
「笛の袋を縫うように。」
と一言書かれているだけだった。
「生地も一緒に入ってる。」
琴子は一緒に入っていた生地も広げた。
「縫うようにって…。せめて縫ってほしいとか書けばいいのに。」
と、桔梗が溜息をつけば、
「散々、俺に文に使う紙を探せだの命じて、中はこれかよ。」
と鴨狩は呆れていた。

そんな二人の気持ちをよそに琴子は、
「初めてだわ。直樹様に頼まれるなんて。私でもお役に立つことがあるのね。」
と嬉しそうにしている。その琴子の様子を見て、
「頼んでないわ…。」
「それは命令って言うんだよ…。」
と桔梗と鴨狩はまたもや溜息をついていた。

「ん?待てよ?笛の袋…?」
鴨狩は何かに気づいたが、黙っていた。

「手は抜いてないみたいだな。」
届けられた笛の袋を直樹は裏返したりして観察していた。
「そりゃ西垣様の身につける物とは違って、丁寧に心を籠めて縫っておいででしたから。」
鴨狩が教える。
「…しゃれた文を送った西垣様に張り合ったんだよな。うちの御主人様。」
と内心思いながら。
「ところで…直樹様。」
「何?」
「…笛の袋は確か、帝から拝領した素晴らしい袋をお持ちだったと記憶しておりますが。」
鴨狩は琴子の前で思い出したことを直樹へ問いかけた。
「ああ。」
直樹も否定しない。
「それなのに、なぜ姫君に袋を?」
「…この間の失言のお詫びだよ。あいつに恥をかかせたことへのお詫び。」
直樹は素直に答えた。その答えに鴨狩は首を傾げる。
「それなら…お召し物を普通はお送りするのでは?」
直樹は袋に笛を入れ直して、再びそれを見つめた。

「そんなことしたら、あいつのプライドが傷つくだろうしな。自分は人から着る物をもらわないといけないくらい貧しいのかって。そして俺に会わせる顔がないと更に恥ずかしく思うだろ。だったらあいつの得意な裁縫で何かしてもらった方がいいかと思ったんだよ。俺の役に立つって分かれば、自分のしていることは恥じることではないって、自信つくだろうし。」
そう言うと、直樹は久しぶりに母親のご機嫌伺いに行くと言って出て行ってしまった。
一人残された鴨狩は、
「凄い人だな…。俺には考えも及ばないことを考えてる。」
と感心していた。

その頃、琴子の邸では事件が起きていた。
桔梗が琴子の部屋に入ると、琴子が突っ伏して泣いている。どうしたのかと驚いていると、周囲に何か破いたようなものが大量に散らばっていた。
「これって…。」
それは琴子の為に直樹が書いた手習いの手本を破いたものだった。
「一体、なぜこんなことに…。」
桔梗は青ざめた。そして琴もないことに気づいた。
「一体、これはどうしたんです!?」
泣いている琴子に桔梗は駆け寄った。
「…北の方様が。手習いなんてしている暇があったら…もっと働けって。」
「お琴は?」
「…私には勿体無いから持って行くって。」
「そんな…!あれは姫様のお母上の形見なのに!」
自分が傍にいたらそんなことはさせなかったのにと、桔梗は悔しい思いで一杯だった。
「お可哀想な姫様…。あんまりです。」
桔梗まで泣き出した。
「せっかく…直樹様がお忙しい中書いて下さって、お琴も教えて下さったのに…。」
琴子はそう言って泣き続けていた。


数日後の夜、何も知らない直樹が訪ねてきた。琴がないことにさすがに気づく。
理由を訊ねる直樹に、桔梗が怒りを込めて真実を話そうとした時、
「妹が貸してほしいっていうから。」
と琴子が嘘をついた。
「ふうん。」
直樹は信じたのかどうなのか分からない態度を見せる。

「何だ、これ?」
暫くして、落ちているものに直樹が気づいた。
「あ、それは…!」
全部拾い集めたはずの破られた破片だった。さすがにそれが何なのか、直樹は気づいた。
「私…。うっかりして他の紙を破く時、お手本も一緒に破いてしまって…。ごめんなさい。せっかく書いていただいたのに…。」
そう言って琴子は俯いた。
「…お琴もないし、お手本もないし。もう直樹様にいらしていただく理由がなくなってしまって…。」
そこまで話して琴子は涙をこぼし始めた。

「…え?」
鴨狩が思わず声を出す。隣に座っている桔梗も驚いた顔をした。
「…?」
琴子も顔を上げた。

―――部屋には直樹が吹く横笛の音が響いていた。

「何年振りだろう?直樹様が笛を吹かれるのは。」
鴨狩はそんなことを思い、
「何て素晴らしい音色…。」
と桔梗がうっとりと聴き惚れている。
琴子は黙って横笛を吹く直樹を見つめていた。

「ほら。」
吹き終わった後、直樹は笛を琴子が縫った袋にしまい、琴子に渡した。
「え?私、吹けない…。」
「誰がお前に吹けと言った。持ってろってことだ。」
琴子は笛を受け取る。
「持っててどうするの?」
「ここくらいしかないんだよ。俺が吹く場所は。」
「お邸では?」
「聴く人間もいないのに?」
琴子は鴨狩の方を見た。
「鴨狩がいるのでは?」
「はい?」
突然自分に話を振られて、鴨狩は目を丸くする。
「…男二人で笛吹いて、感想でも述べろってか?…気持ち悪い。」
直樹は呆れたように言った。
「それは俺だって気持ち悪いよ。」
口には出さなかったが、鴨狩も同じことを思ってた。
直樹の笛の音で琴子はすっかり元気を取り戻したようだった。

「あの…直樹様。」
帰ろうとする直樹を、一人見送りに出た桔梗が呼び止めた。
「お手本も…姫様が破ったのではないのです。あれは…。」
「知ってるよ。」
「え?」
「いくらあいつが馬鹿でも、そんなことはしないだろ。大方、琴の件も似たような事情だろ?」
全てお見通しの直樹に桔梗は驚いた。そして帰って行く車を見送りながら、
「直樹様って…素晴らしい方だわ!」
と桔梗は改めて感動していた。



☆あとがき
読んでくださってありがとうございます^^
しかし…啓太、書くのは難しいです。キャラ崩壊の序章が始まってる感じです(笑)
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*Comment

★がんばれ!琴子姫!!

うわぁぁぁぁん、琴子ちゃぁぁぁん、かわいそう~~・・・
でも、直樹様はわかってくれてるね!よかったよ~~!
なんだかんだと、足しげく通って来てくれる直樹様。きっと、知らず琴子に心癒されたくて来てるんじゃないのかしら?それとも、自覚があるのか?!読めないぜ!さすが直樹様!!(笑)
鴨狩と桔梗の心中(←注:しんちゅう)突っ込みがかなりツボ。
そして、男二人だけの部屋で笛吹いてビミョーな空気が流れるさまを想像してプッ!ってなったわぁ。男二人が・・・ていうより、よりにもよって直樹と鴨狩っていう取り合わせがウケル。どっちも不機嫌そーーーー(笑) 


横笛直樹、さぞ麗しいことでしょうね。琴子、直樹、鴨狩・・・までは平安ルックが想像できるんだけど、桔梗の直毛ロン毛(?)だけはどうしても想像できないんです、アタシ。女房ルックにカーリーショート・・・無いよね?やっぱ(笑)
アリエル |  2009.05.03(Sun) 02:01 |  URL |  【コメント編集】

★や~ん♪どきどきの展開の予感

なんかだんだんいい感じになっていってるじゃないですか!!!!直樹と琴子姫
続きが・・・・続きが読みたいです!!!
あぁ・・・禁断症状が!
ミルク |  2009.05.03(Sun) 02:04 |  URL |  【コメント編集】

★気になる眠れない!!

水玉さん、凄い展開になってきていますよ。
西垣に対抗して自分の笛の袋、
文にも香の香りを。
知ってしまわれたのですね直樹様は。
琴子の事を。
しかも琴子の大事な琴まで取り上げられて
文も全て破られて。
それでも琴子は自分のせいにしています。
なんとけなげな琴子
直樹様どうなされますか、琴子の件。
桔梗も鴨狩も二人の為に必死ですね。
tiem |  2009.05.03(Sun) 04:58 |  URL |  【コメント編集】

★タイトル決まったんですね~

直樹、知らず知らずのうちに琴子にのめり込んでますね~!この後の展開が楽しみだなぁ。直樹と鴨狩のコンビ、良いですね~!この際、キャラ壊しまくって下さい!!
くみくみママ |  2009.05.03(Sun) 11:38 |  URL |  【コメント編集】

★じ~ん

私も禁断症状が・・

お話とってもすてきです。今回はじ~んときて
涙がでてしまったのでした・・
ふーちか |  2009.05.03(Sun) 11:48 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

アリエルさん
ごめん、「心中」がこちらもツボに…!
心中、あの二人が心中…プププ!
あ、それからモトちゃんはもちろん、カーリーショートのままよ、私のイメージでも!
それから啓太は烏帽子からあのロン毛を垂らしてます♪
ほかに想像できないんだもーん(笑)

ミルクさん&tiemさん
禁断症状…き、期待にお応えできるよう、頑張ります(^^ゞ

くみくみママさん
やっと決まりました!って叫べるほど大したタイトルでもないのでお恥ずかしいですが…(^^ゞ
直樹&鴨狩コンビ、結構新鮮で面白いです、書いている方は♪

ふーちかさん
嬉しいです!ちょっと伝わったみたいで…。
ありがとうございます!

皆さま読んでいただいてありがとうございました。
水玉 |  2009.05.03(Sun) 21:11 |  URL |  【コメント編集】

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