日々草子 君がため 1

君がため 1

時は平安の世。
中納言家には数人の姫がいた。その中で一人だけ、今の北の方の生んだ姫でない姫がいた。
その姫は継母に疎まれ、粗末な部屋を与えられ暮らしていた。

「姫様。」
「ああ、桔梗。」
姫の名は琴子といった。そしてその姫に仕えるのは幼い頃より傍にいる桔梗という名の女房。
「また縫物を押しつけられたのですか?」
姫は裁縫がほどほどにできたため、家族から縫物をさせられていた。
「うん。でも大丈夫。適当に手を抜いたから。ばれない程度にね。そうでもなきゃやってらんないわよ。」
そして意外とちゃっかりしている姫だった。
「それにしても…お気の毒な姫様。こんな調度類もないお部屋でお暮らしなんて。」
桔梗はそう言ってオヨヨと泣く。
「仕方ないわよ。」
姫は明るく素直なのが取り柄だった。
そんな姫を何とか幸せにしたい、誰かこの家から姫を連れ出してほしいと、桔梗は常々考えていた。

「ちぃーす。」
今日もやってきたのは、桔梗の友人の鴨狩。この鴨狩はとある貴族に仕えている。
「遅かったわね。」
「こっちも色々忙しいんでね。で、用って何?」
「ああ、実はね。うちの姫様にふさわしい男君を探してるんだけど。」
桔梗はストレートに話した。
「とにかく、生涯姫だけを幸せにしてくれる男君がいいわ。アンタ、心当たりない?」
「突然言われても…その姫君はどうなの?見た目は?」
「…絶世の美女ってわけじゃないけど、それなりに可愛いわね。素直で明るい。そして…結構世渡り上手かも。ちゃっかりしてる所あるし。」
「そんな性格の姫を幸せにって…無理あるだろ?」
「一緒にいて退屈はさせないわ。」
鴨狩はしばらく考えていた。そして、
「…俺が仕えている少将様は一人だなあ。」
と口にする。それを聞き、桔梗は目を輝かせた。

「いいじゃない!どんな方なのよ?」
「名前は直樹様。幼い頃より白氏文集はもとより、漢文等はすべてマスター。蹴鞠の腕も一番。容姿端麗。当然帝の覚えもめでたい。」
「ちょっと…アタシがお相手したいわね。何、その上物。」
「ただ…。」
鴨狩はそこまで説明すると、口をつぐんだ。
「ただ、何なのよ?」
「…性格が、ちょっと。」
「ちょっとって?」
「あまりよろしい性格とは言えない…かな?」

しばらくの間、二人の間を沈黙が流れた。

「…だからそんな上物が独身なの?」
「ああ…。」
ちゃっかりしている姫と性格悪い少将…。考えてみればこれほど恐ろしい組み合わせはあるまい。

「でも…マイナスとマイナスをかければプラスよね。」
桔梗はプラス思考に進んだ。
「とりあえず、その少将様…直樹様にうちの姫様…琴子様のことを話してみてくれない?」
「まあ、うちの北の方様にも何とか結婚させろって言われてるしな。」
そして二人の間で商談が成立した。

「今日はいいお天気ですね。直樹様。」
直樹の邸へ戻った鴨狩は、まずは主人の機嫌を伺うところから始めた。
「お前の頭もめでたそうだな。」
早速容赦ない返事が来る。鴨狩は慣れっこになっており、これくらいではめげない。
「たまには…外へ花などを愛でるのはいかがでしょう?色々な“花”が咲き乱れておりますよ?」
謎かけをしてみる。すると直樹は黙って扇を庭へ向かって指した。
「花なら庭に咲いている。」
庭には色とりどりの花が咲き乱れていた…。

「実は…素敵な姫君の御噂を耳にしまして。」
鴨狩は直球勝負で行くことにした。
「いかがでしょう?一度お会いするのは?」
「女なんて面倒臭い。」
即答である。
実はこの少将直樹、大の女嫌いであった。都で一番の出世頭なので、当然あちこちの貴族から、婿にと申し込みが来るのだが、どれ一つ相手にすることはない。

「しかし…北の方様、お母上様も大層ご心配で。」
「あの人は勝手にピーチクパーチク言わせておけばいい。」
自分の母親に対してもこの言い様である。

「て、わけなんだけど。」
桔梗の元へ来て、鴨狩は一部始終を話した。
「…情けないわね、アンタって男は。」
桔梗は深いため息をついた。
「だって、あの人、マジで怖いんだぜ?お前、一度前に出てみろよ!」
「出られるもんなら、出てみたいわ!」
桔梗にまでやり込められ、鴨狩は何も言えない。
「うちの直樹さまは諦めた方がいいかも。」
「何言ってんの!!」
桔梗の剣幕に鴨狩はたじろいだ。
「アンタの話を聞いて、アタシ、考えたのよ。その直樹様はきっと姫様の運命のお相手になるって予感がするの!何が何でも、絶対モノにするわよ!」
「…どうやって?」
「そこを考えるのが、アンタの仕事でしょ!」
鴨狩は幼い頃から何かと助けてもらった桔梗に、正直頭が上がらない。
「あ…!ある。一つ方法がある。」
そうして鴨狩は邸へと戻った。

「直樹様。何をしておいでで?」
「見ればわかるだろ。写経だ。」
じじくさい…鴨狩はそう思ったが、そんなこと、主人へは口が裂けても言えない。
「ところで…先日お話した姫君のことですが。」
「しつこいな。そんなに会いたいなら、お前が会いに行けばいいだろうが。俺は止めない。」
本当に興味がないらしい。鴨狩は奥の手を使うことにした。

「…いいんですか?そんなこと言っても。」
鴨狩の言葉に、直樹は顔を上げた。
「直樹様が幼い頃の秘密、その姫君の女房へ話しちゃいますよ?女房は口が軽いからすぐに都中へ広まるでしょうね。もちろん、帝にも…。」
「何…!」

幼い頃、姫が欲しかった母親に女として育てられ、元服直前に男性に戻ったことは直樹のトップシークレットだった。鴨狩はそれで脅して、何とか直樹を琴子の元へと連れ出す方法に出たのだった。
「…いいんですね?」
少し汚い方法だと鴨狩は思ったが、仕方ない。
それに鴨狩にも、直樹と琴子の出会いが悪いものにはならないのではという予感がしていた。
直樹に幸せになってほしいと鴨狩も考えていた。

「…明日だ。」
「え?」
「聞こえなかったのか?明日一晩だけなら、そいつのために空けてやる。」
その言葉を聞き、鴨狩はすぐに桔梗へ文を書いた。

「…明日ですって!?」
鴨狩からの文を見て、桔梗は叫んだ。明日の晩なんて、とてもじゃないが準備ができない。
しかし、このチャンスを逃すと終わりだ。桔梗は腹をくくった。

「あ、桔梗!どこへ行ってたの?」
琴子の部屋へ戻ると、琴子がニコニコしていた。
桔梗は改めて琴子と部屋を見る。ボロボロの着物を着せられて、とても姫君には見えない。
そして部屋…!琴子の生母が遺した調度類は全て北の方に取り上げられており、何一つない部屋だった。

「姫様…御髪を梳かしましょう。」
せめて琴子の唯一の自慢と言える髪を桔梗は手入れすることにした。少しでも直樹の目に止まるようにと心を込めて。そして琴子が幸せを掴めるようにと祈りながら。

そしていよいよ、その日の夜がやってきた…!



♪あとがき
旅行前から考えていた話なんです^^
御所を見たらちょっと想像が膨らんだかな?
さて、何の物語がベースか(これでも一応ベースなんです)分かる方いらっしゃいますか?
…ただし結末はナイショで一つよろしくお願いしますね^^
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もしかして・・・

こんばんは!
このお話ってもしかして「落窪姫」ではないですか?
相当古いんですけど、気に入ってる話なのでいまも文庫で持ってます。
もとちゃんは女房だから当然女役だし、これでいくと、受領のおやじとかをだれを振るのか、とかすっごく気になるんですけど(笑)
ああ、でもラストがハッピーエンドだから安心して続きを楽しみにしていられます。
相手が、直樹だから色々とありそうですけど(笑)

お帰りなさいませ!!

 お待ちしておりましたっ!
お話のベース【落窪物語】かなぁと・・・。合ってますか?
京都いくと妄想しまくりですよね!!
特に、御所は色々なお話の舞台になっているから。
私も先々週二条城で夜桜見ながら幕末イリコト妄想してましたもん!
幹ちゃんと啓太のやりとりジャパネスクの小萩と守弥連想しちゃいました(←わかるかな・・?)
じじむさ直樹少将と小ずるい琴子姫。
直樹少将はどう落とされるのでしょうかっ!

久しぶりにコメントします☆☆
万華鏡とはまた一味違った時代モノに大変ドキドキしております☆☆
これからの展開がすごく楽しみです☆☆

ありがとうございます

takieさん&花祥さん
そうです!『落窪物語』です!
小学校の時に読んで以来、好きなんですよね!
…今となっては『落窪』を離れてしまった書き方になってしまってますが…名場面だけは再現できたらなあ…無理だろうなあ…←すでに後ろ向き

花祥さん、二条城で夜桜見られたんですね!
二条城の夜のライトアップって有名らしいですものね!私は見られませんでしたが…(涙)

maikoさん
ありがとうございます!
パラレルばかりで申し訳ありません(^^ゞ
でもそうおっしゃっていただけると、励みになります。
頑張りますね←何気に後ろ向き(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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