日々草子 祖父襲来 5

祖父襲来 5

「琴子、爺様は?」
翌日の夕食時、直樹は姿を見せない祖父が気になった。
「お昼寝するって、お座敷に行ったけど?」
「昼寝って…もう夕方だぞ?」
琴子も気になり、座敷へと向かった。
「お爺様…お夕食ですよ。」
障子の向こうへと琴子は声をかける。が、返事がない。思い切って琴子は障子を開けた…。

「直樹さん!」
血相を変えた琴子が直樹の元へと走ってきた。
「お爺様、凄い熱なの!」
それから夕食はそっちのけで、医者を呼んだりと、琴子と直樹は大慌てとなった。

医者の診立てによると、祖父は疲れが出たことと風邪だという。熱もすぐに下がるとのことだった。

「一晩そこにいるの?」
座敷で祖父の傍についている琴子に、直樹が声をかけた。
「うん…。心配だし。」
あれだけ苛められたのにと直樹は苦笑した。
「直樹さん、先に寝ててね。」
「…分かった。頼むぞ。」
「うん。」
琴子は笑顔で頷いた。それを見て直樹は安心して、座敷を出て行った。

「直樹…。直樹…。」
熱にうなされて、うわ言を繰り返す祖父の額の手拭いを取替える。
「直樹さんの名前ばかり。」
琴子は額の汗を拭きながら、ふと思った。
「もしかして…私に直樹さんを取られたと思ったのかな?だから私にあんな風に接したとか?」
琴子は漸く自分に対する祖父の態度の理由が分かった気がした。
「直樹、直樹…。」
琴子は苦しむ祖父に優しく語りかけた。
「直樹さんとは朝になれば会えますよ。朝までゆっくり眠りましょう、お爺様…。」
琴子の言葉に安堵したのか、やがて祖父の呼吸が楽になり始めた。
「可愛いとこあるのね、お爺様も。」
琴子は笑いながら、祖父の寝顔を見つめた。

「う…ん。」
祖父が目を覚ました。部屋の中は明るい。動こうとするが重しを載せられているように身動きが取れない。
「わしの体に…漬物石でも乗ってるとね?」
…見ると、琴子が頭を乗せて眠っている。

「起きんね!!このダメ嫁!!」
祖父が耳元で叫んだ。
「はい!」
琴子は耳を押さえながら、体を起こした。
「あれ?」
目の前の祖父を見て琴子は…頭突きをした!
「痛い!何するね!」
「熱もうないですね。」
どうやら熱を測るために頭突きをしたらしい。
「もっと違う測り方があるやろ!」
祖父は抗議したが、琴子は、
「良かった!いつものお爺様だ!」
と祖父に抱きついた。
「離さんね!」
祖父は琴子の体を離そうとするが、琴子は抱きついたままだ。
漸く祖父の体を開放し、琴子は、
「お腹空いたでしょう?お粥でも作って持ってきますね!」
と座敷を後にした。

しばらくして、琴子はお粥の入った土鍋などをお盆に載せて戻ってきた。
「私もお腹空いたから食べちゃおう!」
ちゃっかり自分のお椀も用意している。
「はい。お爺様。」
お椀を渡され祖父は、
「あんたのお粥なんて病人には…。」
と言いながら恐る恐る口にした。
「うまか!」
「おいしい!」
二人は同時に叫んだ。味の良さに驚く祖父を更に驚かせる言葉を琴子は発した。
「やっぱり直樹さんてお料理も上手なのね!」
祖父は目を丸くした。
「こ、これ…直樹が作ったと?」
「はい。そうです。」
「あの直樹が…厨房へ入ったとね?」
「はい。」
祖父はお粥を見つめた。そして傍でおいしそうに食べる琴子を見て、
「あんた…ほんとに変わったおなごけん。」
と言う。
「何でですか?」
「このお粥を自分が作ったことにして、わしの点数を上げようとか思わんかったとね?」
祖父の言葉を聞き、琴子は目をパチクリさせたが、すぐに大笑いした。
「何を言い出すかと思えば…そんなことするわけないじゃないですか!」
「何でたい?」
「そんな嘘ついてまで、お爺様に気に入られようなんて思いませんもん!」
そしてまた琴子は大笑いをした。

「…あんた、わしのこと大嫌いやろ?」
祖父はお粥を食べながら琴子へ訊ねた。
「あれだけあんたをこき使って、直樹を取り上げたりしたけんね…。」
「いいえ。」
琴子の即答ぶりに、今度は祖父が目をパチクリとさせる。
「嘘やろ!」
「嘘じゃないですってば!」
琴子はむきになって答える。
「感謝こそしても、嫌いにはならないです。」
「感謝?」
祖父は琴子の言葉の意味が分からない。

「だって…お爺様がいらしたから、お義母様がいらして、そして直樹さんがこの世に生まれたんですよ?今私が直樹さんと出会えて、結婚して、幸せなのは元を辿ればお爺様のおかげですもの。感謝してもしつくせないです。」
優しい笑顔で語る琴子を、祖父は黙って見つめた。

「それに…将来直樹さんもお爺様みたいになるのかなあと、まあ、予行練習のつもりでお世話してますし。あ、でも直樹さんはああ見えても優しいからお爺様みたいにはならないかなあ…。うん、髪の毛だけは残ってほしい…。あ、でも例えツルツルになっても直樹さんは直樹さんだからなあ…。」
「…あんたは本当に口の減らんおなごや!」
祖父はお粥をかきこむと茶碗を琴子へと押し付けた。
「お腹いっぱいですか?」
「もういらん!」
琴子は茶碗をお盆へ載せ、座敷を静かに後にした。

「気分どうです?」
琴子が出て行った後、直樹が姿を見せた。
「お前の作ってくれたお粥ば、食べたら元気になった。」
「そりゃよかった。」
直樹は枕元へと座る。
「お前が…厨房へ立つなんて。男が厨房へ立つなんて、わしらの年代には考えられんことばい。」
祖父の言葉を聞き、直樹は笑った。
「そりゃ…可愛い妻に手を合わせて“私の作った料理じゃまた体を壊すからお願い”と言われれば立たないわけにはいかないですから。」
「…お前ものろけることがあるとは。」
祖父の言葉に直樹はまた笑う。

「…最初は財産狙いかと思ったと。」
少し間を置いて、祖父が呟いた。
「え?」
「突然結婚する、相手は平民だなんて言うけん…絶対お前の顔か財産が目当てや思ったばい。」
「…俺がそんな女に騙されると思います?」
直樹の言葉に祖父は返事をしなかった。

「だからお前が珍しく手紙ば寄越して、しかも“嫁の顔を見に来て欲しい”なんて…。どれだけの嫁か興味ば持ったけん、来てみれば…。顔は普通、不器用この上ない、何でこんなおなごを選んだのかさっぱり分からんかった。」
琴子が聞いたら激怒しそうなことを祖父は言った。
「俺が選んだ理由、分かりました?」
「…不器用ばってん、裏表のない素直なおなごたい。わしがどれだけこき使っても、嫌味を言っても全然へこたれん。根性は相当のもんたい。」
祖父の話を聞き、直樹は微笑んだ。
そして、
「あいつは財産なんてこれっぽっちも考えてないですよ。俺が売れない画家になっても、自分が働いて支えるって言ってるくらいですし。」
と続ける。
祖父はそれを聞いて、そして暫く黙っていた。

「…直樹。」
しばらくして漸く祖父が口を開いた。
「はい?」
「披露宴ばやってなかと?」
「ええ。あまり派手なことは好きではないので。二人とも。」
直樹の言葉を聞き祖父は言った。
「それなら早いうちに琴子さんを世間へお披露目せなあかんたい。…あの嫁ならその辺の華族のアホ娘たちに引けを取らんやろ。」
その言葉を聞き、直樹は、
「アホ華族へあいつを見せるのは、勿体無いですから。」
と言った。
「本当に…お前は変わったと!」
祖父は笑った。
「直樹…。」
「はい?」
「お前の見る目は確かばい。さすがはわしの孫けん、よかおなごば、嫁に選んだ。」
「でしょ?」
そして二人は顔を見合わせて微笑んだ。



♪あとがき
実は…最後まで先日書き上げてるんです^^;
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水玉さん、更新ありがとうございます。
お爺様熱がでたのですね。
琴子お爺様に付き添いますが、朝方お爺様に起こされます。
余り重たいので、漬物石かと(^^)
熱を測るのに頭突きをしたようですね琴子。
抗議するお爺様に琴子感激です。
いつもの意地悪お爺様に戻ったから。
直樹さん特性のお粥を琴子が持ってきました。
お爺様はそこで何で自分で作ったと言わないのだと。
正直に嘘をついてまで、気に入られようとは思わないと。
琴子格好いいよ。
お爺様には感謝していますと。
直樹さんという人に巡りあえて一緒になれた事に。
お爺様は直樹に琴子の事、財産目当てで一緒になったんだと思っていたと。
直樹はお爺様に琴子を見て欲しかったんですね。
不器用で裏表の無い琴子を。
直樹は本当に琴子のこと大好きなんですね。
披露宴をしなさいというけど、アホ華族に見せるのは勿体ないですって。
もう直樹ときたら。
琴子の前で言って欲しいよ、その言葉。
お爺様も琴子の事を気にいってくれたようですね。
よかったぁ(^^)/

いつもコメント長文でごめんなさい。
簡単に書けたらいいなぁと、いつも思うのですが。

直樹さんの愛がとてもよく伝わるわ~
琴子ちゃん!!とても可愛くて、素直で、けなげで・・・
だから、誰からも愛されるのよ~
直樹さん!!良い嫁に感謝!だよ←何様、私。
けど直樹の愛がお爺様にも伝わってとても嬉しい!!
心がほんわか~となっちゃう!!
読んでいて原作の絵が浮かんで、1人でにやけちゃうけど、直樹さんのツルツル頭だけは想像できないわ(原作のときも思ったわ)

こんな展開だったのですね~。琴子の健気なところ満載って感じでよかったです。ボケボケの琴子も可愛かったし。なにより、直樹のノロケが最高!!原作では、ちょっと冷た過ぎじゃないの~と思ってただけに、凄く嬉しかったです。

原作エッセンス楽しいっ!

九州編と実習編の原作エッセンスがそこここに忍ばせてあって、読んでいるととても楽しいです。
宝探しをしているようで面白いですねぇ。
「おっ!こんなとこにも・・・」とか、うれしくなっちゃいます。
結構はまってます。万華鏡シリーズ。

おおおおお

そんなこと言われるとラストが気になるじゃないかぁぁぁぁ!!!(笑)
でもせっかくだから、じっくり楽しみたいとも思うんだなぁ。
楽しいよ、ホント!原作エピソードが水玉アレンジでそこかしこにちりばめられていて、とても素敵v-352
一つ一つのエピソードをそうやって発見していくのがとっても楽しい。そこに水ちゃんのエッセンスがちゃんとあるから、な お さ ら!!!
それにしても最後のお爺のセリフ、嬉しいわぁぁぁ!娘も孫も琴子にぞっこんなんだもの、その大元のお爺が琴子にぞっこんになるのは時間の問題よね!!うふっv-290

コメントありがとうございます♪

tiemさん
いえいえ、琴子の前でめったに言わないからこそ、強烈な武器になるんですよ、直樹の言葉は(笑)。
それにしても…たまには意地悪な直樹を書いてみたいものです。

ゆみのすけさん
うれしい!入江くんの愛が伝わって!
本当だよ、感謝してよ、入江くん!って感じ(笑)←私こそ何様(笑)
でも入江くん、頭の形はよさそうだから、結構禿頭もイケるのでは…と密かに思っている私^^

くみくみママさん
のろけ、書くの楽しいですよ~!
一度書いたらやめられません(笑)!
ボケボケ琴子もたまには入れておかないと…と焦ってみました(笑)

KEIKOさん
宝探し!
そんな風に楽しんでいただけるなんて幸せです!
よかった!原作ベースだと気づいてもらえて!大分外れてるので…。嬉しいです!ありがとうございます!

アリエルさん
エッセンス…。もう、本当に上手なんだから、アリエル!
だから調子にどんどん乗っちゃうのよ、私!
楽しんでもらえて書いた甲斐があります。ありがとう!
そして、今回もお爺に笑わせてもらったわ!
直樹さん、こう呼ばせればよかったくらいだわ!

ちゃっかり自分のお椀も用意している琴子が可愛いーー^^
パクパク食べる琴子が目に浮かぶわっ♪

直樹さんのノロケも最高っ^^
ニタニタしちゃいました♪

おじい様へ♪
やっと琴子を認めて下さったのねんvv
ありがとう♪
流石、直樹さんのお爺ですたい^^

さあやさん
さあやの九州弁、可愛くて笑っちゃった。
ノロケ、もう大判振る舞いですたい(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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