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2009.04.21 (Tue)

祖父襲来 4


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こんな調子で琴子は祖父に腰を揉めだの、あれをしろ、これをしろと扱き使われる日々を送ることになった。時に祖父と言い争いになることもあり、それを直樹が呆れた目で見ているという日が数日過ぎた。

退屈を始めた祖父は、屋敷内を探検して回っていた。
「何ね、この部屋は?」
使われていなさそうな部屋を見つけて、祖父は扉を開けた。
「あ!」
そこには琴子がいた。
「あんた、こんな所で遊んでいると?」
てっきり琴子が家事をサボっているのかと思って、祖父は言った。
「違います!お爺様、何か御用ですか?…フンドシならきちんと洗って畳んでお座敷に運んでおきましたよ。」
琴子は祖父の姿に驚いたが、すぐに平然とした。
「…フンドシを探しているわけじゃなか。」
「それじゃ…もしかして夕食食べてないとか言い出すんじゃないでしょうね?先程食べたの覚えてますよね?」
「…わしはそこまでもうろくしてなかと!」
相変わらず腹の立つと思いながら、祖父は部屋の中へと入った。

「…歩いていたらこの部屋を見つけたとよ。」
その言葉を聞き、
「じゃあ、私と同じ理由で見つけたんですね。」
と琴子は笑った。

「…それは直樹の絵ね?」
傍らに置かれた絵を見ながら、祖父が訊いた。
「はい、そうです。」
答えながら琴子は丁寧にはたきをかけていた。
「…あんた、そげなこと、いつもしとるとね?」
その様子を見ながら祖父は言った。
「はい。埃だらけになったら絵が可哀想だから。直樹さんが心を籠めて描いたものだし。」
「そげなこと、女中にやらせればよかことじゃなかね?」
「このお部屋は直樹さんと私しか知らないお部屋なんです。鍵も直樹さんが持ってるし。だからこれは私の仕事なんです。」
はたきをかける手を止めずに、琴子は答える。

「…それは直樹がうちに来た時に描いてた絵たい。」
祖父に言われ、琴子ははたきをかけることを中断した。その絵は美しい田園風景が描かれている。
「直樹が子供の頃に描いたと。」
「子供の頃?すごい、その頃からこんなに上手だったんだ…。」
琴子は絵を手に取り、感心する。
「絵はもっとたくさんあったんですよ。」
琴子は祖父に説明を始めた。
「色々あって、今は少なくなっちゃったけど。」
少し琴子は寂しそうに言った。

そんな琴子の様子を黙って見ていた祖父だが、
「そろそろ風呂に入りたかね。年寄りは夜が早かばってん。」
と、話題を変えた。
「はいはい、お風呂の支度してきます!」
祖父にもすっかり慣れた琴子はハタキを手にしたまま、部屋を飛び出していった。祖父はしばらく色々な絵を手にとって眺めていた。

「そこにいたんですか?」
今度は直樹が顔を覗かせた。
「琴子は?」
「風呂ば支度に行った。」
祖父は絵を手にしたまま答えた。
「あのおなごは…。」
「はい?」
「…変わっとる。」
祖父の言葉に直樹は苦笑した。
「ま、かなり変わってはいますけどね、あいつ。」
「埃一つ、この部屋には落ちてなか。」
「そりゃあいつが毎日掃除してますから。」
直樹の言葉に祖父は驚いた。
「毎日?」
「それが生き甲斐らしいです。」
「やっぱりよう分からん。あのおなごは…。」
祖父は首を傾げた。

そんな祖父の様子を見ながら、直樹は、
「その絵…。端が焦げているでしょう?」
と言った。祖父が見ると、直樹の言うとおり、確かに端が焦げている。他にも同じように焦げている絵が多数ある。
「俺が絵を止めるつもりで燃やしていた時、あいつが炎の中から拾ったんです。だから焦げてるんですよ。もっとも焦げたのは絵だけじゃなく、あいつの髪もでしたが。」
直樹の言葉を聞いて、祖父は更に驚いた。
「髪って…何を考えてるおなごね?」
「さあ?とにかく一生懸命なのは確かですけど。」
直樹は笑顔を浮かべて答え、部屋を出て行こうとした。が出る前に立ち止まり、
「爺様。」
と話しかける。
「変わってるけど、あれでも俺の大事な若奥様ですから。」
「だから?」
「…あんまり苛めないで下さいね。」
そう言い残し、直樹は出て行った。
「ふん。何を抜けぬけと…。」
祖父は閉められた扉を見ながら、呟いた。

夜中、喉の渇きを覚えた。枕元の水差しの水を飲み干してしまう。飲み足りなかったことと厠へ行きたくなったので、座敷を抜け出した。
廊下の角を曲がったところで、
「わあ!」
「キャアッ!」
と悲鳴が上がった。
「…あんた、こんな夜中に何してると?」
鉢合わせした琴子に、祖父が尋ねる。
「まさか…わしが隣で寝ているのに拘わらず、直樹に夜這いを…。」
「違いますよ!」
「いや、分からん。何といっても昼間から誘っていたばってん。」
「だから、あれはお爺様の勘違いですってば!」
廊下で二人は騒ぐ。
「家の中に異常がないか見回りをしてたんです。これも役目ですから。」
「ふん!どうだか!」

「…お爺様こそどうしたんですか?」
今度は琴子が尋ねた。
「厠へ行って、後、水を飲もうと…。」
空の水差しを祖父は振る。それを見て琴子は納得した。
そして二人は連れ立って台所へと向かう。
祖父が厠へ行っている間、琴子は水差しに水を入れておいた。

「お爺様は、どこが気に入らないんですか?」
「どこって何のことたい?」
突然何を言い出すのかと祖父は首を傾げる。琴子は自分を指差した。
「ああ、あんたのことね?」
琴子は黙って頷いた。
「家事全般ダメ、女らしさのかけらもない、上げたらきりがなかね。全く親の顔が見たかばってん。」
祖父の言葉に琴子は、
「男親ひとつで育てられたから…。」
と少し悲しそうな顔を見せた。それを聞き少しまずいことを言ったかと祖父は思う。

「でも…わしに何を言われても落ち込まん所は唯一の取り柄かもしれんたい。」
一応琴子へ気を遣う祖父。
「そうですね。それが一番の長所かもしれません。」
琴子は笑って言った。そして、
「そして…直樹さんのこと大好きなんですよ。誰にも負けないくらい大好きなんです。」
と続ける。

そして、琴子は席を立った。
「色々ご不満もおありでしょうが、長い目で見守ってほしいです。一生懸命だから。」
「ならもう少し努力せんね!」
琴子は微笑んで「おやすみなさい」と食堂を出て行った。
「何ね、あのおなごは…。雰囲気がちょっとおかしかよ?」
祖父はまた首を傾げた…。
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*Comment

★ガンバレ琴子

水玉さん、こんばんは。
今回も琴子とお爺様の漫才健在ですね。
直樹の絵の部屋にいた琴子、そこにお爺様が。
直樹さんの描いた絵に埃が付かないようにハタキをかけていると。この部屋の鍵は直樹さんと私だけが持っていて誰も入れないと。たくさん描いた絵も直樹が燃やしたと、お爺様に直樹が報告。絵も焦げてしまったが、琴子の髪の毛も焦げた事も報告しましたね。そしてあれでも俺の大事な若奥様だからと。あまり苛めないようにと。
やはり琴子のこと心配しているのですね。
夜中に喉の渇きと厠にと起きたお爺様。
そこで琴子にばったり出合いました。
琴子にお爺様が家事全般などをけなされましたね。
その時親の顔が見てみたいと。
琴子が悲しそうに男手ひとつで育てられたからと(号泣)
その一言お爺様言ってはいけなかったのでは。
でも何を言われても落ち込まない所が長所だと。
よかっつたね、琴子。
直樹さんの事が大好きですと。
今回琴子の男手一つは胸キュンでした。
でもお爺様はいい嫁だと思ってると思うよ琴子。
ガンバレ琴子。直樹さんも僕の大事な若奥様と言ってるから。
次回はお爺様琴子をどう料理するのでしょうか。
楽しみです。


tiem |  2009.04.21(Tue) 19:07 |  URL |  【コメント編集】

ナルホド!こう来ましたか!?
さっすが水ちゃんだわ~~、素敵!
二人の秘密の部屋を毎日大事に掃除する琴子がいじらしくてたまらないよ~~。
そして、さりげなく妻への愛をお爺にアピールする直樹さん。
ナイスっv-354
アリエル |  2009.04.21(Tue) 21:00 |  URL |  【コメント編集】

アリエルに続き、
さっすがーさっすがー水ちゃんだわ~♪
本当水ちゃんの書くイリ琴って、心がとっても
綺麗なんだよねんーー♪

おじい様っ♪
琴子の魅力にだんだん気がついてきたね^^
何度も首を傾げるおじい様可愛いぃ(笑)

さあや |  2009.04.21(Tue) 23:44 |  URL |  【コメント編集】

コメントありがとうございます。

tiemさん
男手一つがtiemさんのツボ?でしたか^^
「若奥様」というフレーズが自分では気に入っていて、直樹さんにやたら言わせてしまっています^^

アリエルさん
私はアリエルの“お爺”に爆笑なんだけど!
いいよいいよ、その言い方!最高!
いや、けなげな琴子を書くのは本当、楽しい!

さあやさん
いやーん♪心が綺麗だなんていわれて嬉しい!!!←私のことではないくせに(笑)
指が動くままに書いているお爺様まで誉めてもらって、感激です!
水玉 |  2009.04.22(Wed) 23:40 |  URL |  【コメント編集】

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