日々草子 祖父襲来 1

祖父襲来 1

「ただいま戻りました!」
熱海から戻った二人が元気よく玄関に入ると、
「お帰りなさい!」
と紀子が出迎えた。
「ちょうど二人の部屋も仕上がったところよ。」
紀子に案内されるがままに、二人は新しい部屋へと入った。

「わあ!」
部屋へ入るなり、琴子が歓声を上げた。
部屋の中央には、外国製と思われる大きなベッドが置かれている。
「すごい!外国のお姫様みたい!」
琴子はベッドに上がり、転がる。その様子を紀子は嬉しそうに見つめ、直樹は呆れて見ていた。
「これだけ大きければ、どんなに寝相が悪くても大丈夫!」
その一言を耳にした紀子と直樹は、琴子が何か勘違いをしていることに気がついた。
「私一人でこんな大きなベッド、勿体ない!」
それを聞き、紀子は「あ、琴子さん…。」と説明しようとしたが、それを遮って、
「それじゃ俺はどこで寝るんだ?」
と直樹が声を出した。
「へ?どこって?」
「お前はベッドで、俺は床か?…俺は結婚して1週間経たないうちに文字通り嫁の尻に敷かれる生活ってわけ?」
「あ、そのベッドは…二人が一緒に寝るために用意した物なのよ。琴子さん。」
紀子が二人を取りなすように言葉を足した。それを聞き琴子は、
「二人が一緒って…え!?一つのお布団で一緒に!?」
と顔をたちまち赤くした。
「だって外国ではそれは珍しいことじゃないらしいから。その方が孫の顔も早く見られるかなあと。」
「ま、孫!?」
「とにかくそういうことだから。じゃ、私は下で飲み物でも用意して待っているから。」
紀子は笑いながら部屋から出て行った。

「あ、あの…直樹さん。」
琴子はベッドに正座して、荷物を片付ける直樹に声をかけた。
「あたし…いいお嫁さんになるよう頑張るね。」
本当は旅行中に言いたかったのだが、なかなか言えなかったことを琴子は今、漸く口にした。
「見放されないように頑張るから…。」
直樹は琴子の傍に座り、顔を近づけて言った。
「期待してねえからそのままでいいって、夕べも言っただろ?」
琴子はそれを聞き笑顔を見せ、何となく二人がいい雰囲気になった時…。

「兄様!お帰りなさい!」
部屋のドアが勢いよく開けられ、裕樹が入ってきた。直樹は琴子の傍からスッと立ち上がり、裕樹の方へ歩いた。
「母様がお菓子を焼いて待ってたんだよ。一緒に早く食べよう!」
そう言って、裕樹は直樹の手を取り部屋を出て行ってしまう。後に残された琴子が呆気に取られていると、裕樹が再びドアを開け、
「一か月。」
と、言った。
「一か月って何?」
琴子が尋ねると、
「兄様に見放されて、お前が離縁されるまで一か月だってこと。」
と裕樹は憎たらしく言い残し、ドアを閉めた。
「裕樹!!」
琴子は裕樹の名を呼び捨てにして、枕を閉まったドアへ投げつけた。

翌朝、新しいベッドで琴子が目覚めた時、隣に直樹の姿はなかった。
フカフカなベッドの寝心地が良過ぎて、ぐっすりと眠ってしまったらしい。
慌てて下へ降りていくと、身支度を済ませた直樹が玄関を出ようとしていたところだった。
「直樹さん!」
琴子は直樹の腕を掴んで、呼び止めた。
「ごめんなさい。私、寝過ごしちゃって!」
半泣きになりながら謝る琴子に直樹は一言、
「…琴子。」
と呼びかけた。
「何?明日からちゃんと起きて、お見送りするから…。」
てっきり叱られるか呆れられるかすると思った琴子は弁明しようとしたが、直樹の口から発せられた言葉は、
「みんなが目のやり場に困ってるんだけど。」
といった意外なものだった。琴子は、寝巻き姿だったことを思い出した。傍にいる使用人たちも琴子を見ないよう、視線をわざとらしく外している。
「あ、あたしったら…!」
琴子は顔を真っ赤にし、慌てて二階へと駆け上がった。そんな琴子の様子を見ながら直樹は出かける。

「…何かおかしいことでも?」
車の中で運転手がバックミラー越しに直樹を見ながら訊ねた。直樹は笑いをこらえていたからだ。
「いや…。うちの若奥様は見ていて本当に飽きないなと思ってね。」
寝巻き姿の琴子と周囲の人間、その様子を思い出すと直樹は笑いが止まらなかった…。

そんな風に始まった新婚生活もあっという間に一ヶ月が経とうとしていた。
そして、入江家の面々は大磯の別荘にて一週間を過ごすという計画を立てていた。病み上がりの重樹をゆっくりと休ませることが主な目的である。

「直樹さんが話していた大磯…素敵ですね!」
その計画を聞かされた琴子は目を輝かせた。熱海で見た海を思い出す。
「でしょう?みんなで楽しみましょうね。」
紀子が琴子の手を取ってはしゃぐ。

ところが、
「悪いけど、俺と琴子は行かない。」
と直樹が言い出した。
「え!?」
琴子はその言葉に驚いた。
「どうして?」
それは琴子だけでなく他の家族も同じ思いだった。

「俺たち、新婚なんだぜ?」
突然直樹の口から、予想もつかない言葉が飛び出し、一同は更に驚く。
「みんながいない間、二人きりでのんびり過ごしたいのが普通だろ?」
直樹が優しい笑顔で言った。
「直樹さん…。」
二人きりなどと言ってもらえて、琴子はたちまち夢心地になる。他の人間も、
「そりゃそうだ。新婚さんの邪魔をしては野暮というものだ。」
と納得した。
とにかく二人きりで過ごしたいという直樹の希望もあり、使用人たちも全員休みを取らせ、一週間、この屋敷には直樹と琴子だけということに決まった。

「じゃ、行ってくる。」
「この分じゃ孫の顔も早々に見られそうね。」
と重樹と紀子が口々に言い、
「僕が帰ってきたら、お前が荷物と共に消えていたなんてことにならないように祈ってるよ。」
と裕樹も言い残し、三人は大磯へと旅立った。勿論、使用人たちもそれぞれ休暇を過ごしに家を出て行った。

「広いなあ…誰もいなくなると。」
急に静かになった屋敷を見て、琴子は呟いた。ちょっと寂しさも感じるが愛する直樹と二人きり、そんなことはすぐに忘れる。
「今夜は外で食事しようね。」
途端に直樹に甘える琴子。そんな琴子の前に、直樹は一通の手紙を取り出した。
「何、どこからのお手紙?」
首を傾げる琴子に直樹は告げた。
「俺の爺様が、今日の午後から数日間泊まりに来るから。」
「お爺様って…?」
「俺の母方の祖父。」
「何しに?」
「俺の結婚相手の顔が見たいらしい。結婚式は来なかったから。」
「ああ、ギックリ腰で寝込んでたのよね?でも、なぜ今日なの?誰もいないのよ?」
琴子の頭は疑問だらけになっている。
「今日来るっていうんだから、仕方ないだろ。」
直樹は素っ気ない。

「…もしかして、だから残るって言ったの?」
漸く琴子は直樹の真意に気が付き始めた。
「私と二人きりになりたいから残ったと思ってたのに…。」
せっかく二人きりで過ごせると思った琴子は落胆の色を隠せない。

そんな琴子に、
「琴子…。」
直樹が琴子の目を見つめて話しかけた。

「この一週間、この家は俺たち二人きり。この家の主人は俺で、女主人は俺の妻であるお前だ。客をもてなすのは女主人の役目だ。お前ならできる。」

「直樹さんが主人で、私が女主人…。」
琴子は途端に顔を輝かせた。
「そうね!一週間、私はこの家の女主人なのよね!任せて!私、立派にお爺様のお世話をさせていただくから!頑張るね!」
そう言って、琴子は張り切って、客間の支度をしに二階へと上がった。その琴子を見ながら、
「本当に単純な奴…。」
と直樹が笑っていることにも気づかずに。



☆あとがき
脳内失恋祭り、閉幕(笑)。
そして…またこれかい!って感じですが…。
明るい話っていうとこれしか思い浮かばなんだ…。
続き、ぼちぼち書けたらいいけれど。

追記
さすがに続きは、早すぎか!と恥ずかしくなり、一旦下げましたが…。
素敵なコメントを早々に頂戴したので、嬉しくなったので再UPします(笑)。
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あらら~

さっき、続く?とコメして戻ってきたら閉幕…私タイミング悪っ!!
でも、こっちの続きがもっとうれしいかも(^O^)
祖父って、あの方ですよね?わぁ~一騒動ありそうな予感!

NO TITLE

いつも、素敵なお話をありがとうございます。
続き楽しみにしてます!!

祖父が来る~~♪

、のくだりで噴きました。
そう来たかっっ!!!さっすが水ちゃんだぜ、すべて原作にシンクロしている。
その力量たるや、お見事の一言ですわ!

「さぁて、次回の琴子さんはぁ~!」(←サ〇エさんのノリで)
何やらかしてくれるのか、いやはや楽しみっす♪

どうなるのでしょう?

水玉さん、こんばんは。
熱海の新婚旅行から、帰ると部屋には大きなベッドです。
夫婦だから一緒に寝るのですが、琴子は勘違いを。
まもなくして、紀子ママ達は直樹さんの父上の静養を兼ねて大磯へ。
家には二人だけだと喜ぶ琴子。
ところが、直樹さんより紀子ママの父が泊まりに来られるとのこと。
張り切る琴子ですが。
直樹さんは笑っていますよ。
確か大変なお爺様の筈。
楽しみにしています。

ありがとうございます

くみくみママさん
さすがに3つ書いたら閉幕してくれました(笑)。
最初は書く予定なかったのですが、突然寝る前にあのおじいさんの顔が浮かんだんです(笑)楽しみといってもらえてうれしいです♪

ちゃあさん
ありがとうございます!また途中で休みそうですが気長に待っていて下さるとうれしいです♪

アリエルさん
私はあなたのコメントのタイトルで噴いたわ(笑)でもおかげでタイトル決まってよかったよかった♪
…乗っちゃったよ。

tiemさん
本当になぜこの話を書く気になったのか、自分でもわかりませんが…。
おじいさん、九州弁が難しいです。かなり忘れかけてきてます(>_<)

皆さま読んでくださってありがとうございました。

しかし?祐樹君も、直樹に、にって、かわいくないね、子に倉石いね、入江君も、やさしいのか、なんなのか、わかんない?
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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