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2009.04.09 (Thu)

天使と悪魔 12


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「俺はあなたとはここで初めてお会いしましたが?」
脅威の記憶力を持ってでも、哲也の顔に見覚えはない。たとえ、髭をなくしたとしても、だ。
「うん。だけど俺はずっと前…高校生の君を知っている。」
哲也は話し始めた。
「俺と琴子ちゃんが家が隣同士の幼馴染だって…琴子ちゃんから聞いてるよね?」
「一応。」
「琴子ちゃんの高校入試の時、家庭教師をしてたってのも?」
「一応。」
「本当、琴子ちゃんは頑張ったよ。あの成績で斗南に入れたのは奇跡的だった…。」
哲也の言葉に、直樹はそこは納得した。

「高校の入学式が終わって…琴子ちゃんが家に戻るなり、俺の所へ来て言ったんだ。“哲ちゃん、あたし、王子様に会ったの!”って。」
「…それが俺ですか?」
入学式で自分に一目惚れしたということは、琴子からも何度も聞かされている。
「うん。」
哲也は頷いた。

「それからは毎日、その王子様の話ばっかりさ。王子様の名前は入江直樹くん。クラスはA組。容姿端麗、運動神経抜群…ってね。」
あいつはそんなくだらないことばかり話してたのかと直樹は少々呆れる。
「“入江くんが写っている写真が手に入った!”って遠足か何かの写真を持ってきてさ。“ここにいるのよ”って、それはもう嬉しそうに。どんな男だろうって見てみたら…。」
そこまで話すと、哲也は堪えきれずに笑った。
何が可笑しいのだろうと直樹が怪訝な顔をすると、
「いやごめん、ごめん。だってその写真…豆粒くらいの小ささで、虫眼鏡でも君の顔が分からないくらい写真だったんだよ。」
と、哲也は大笑いをした。

「それから…こんな話も聞かされたな。いつだったか琴子ちゃんと親父さんが大喧嘩をしていて、俺がどうしたんだって訊ねたんだよね。親父さんが、琴子ちゃんが制服をクリーニングに出そうとしないって言い張ってるって。琴子ちゃんに理由を訊ねたら…。」
また大笑いをしながら、哲也は話を続けた。
「…“入江くんが座った視聴覚室の椅子に、この制服で座ったから、洗うと入江くんの温もりがなくなっちゃう!”って。」
「…ただの変態だな。」
直樹はそれだけ言った。

「だから、この病院で君の胸のIDカードを見て、君の名前が入江直樹って分かった時、すぐに思い出したんだ。そして琴子ちゃんが見事に王子様のハートをゲットしたこともね。」
「…。」
「で、そこまで追いかけてゲットした、最愛の王子様を置いて、どうして琴子ちゃんが家出してるわけ?」

「ご主人と喧嘩でもしたのかしら?」
祖母は琴子に優しく問いかけた。
「…これ以上、気を遣わせるのが悪くて。一緒にいるのが辛くなったんです。」
琴子は祖母に話を聞いてもらおうと思った。
「嘘をこれ以上つかせる訳にいかないし。」

「…あいつ、琴子は、気にしてるんです。自分に子供ができないことを。」
直樹は哲也へと話し始めた。
「結婚したばかりの頃は、妊娠騒動もあったんだけど。最近はそんな兆候もないし。だんだん家族もその話題を避けるようになって。琴子も子供の子の字も口にしなくなって、終いには、友達の子供の顔を見に行った話すら避けるようになって。」
そこまで話して、直樹は溜息をついた。

「この間なんて産婦人科の外来を、何ともいえない表情で見てたんですよね。それ見てたら何も話しかけられなくて。…どうしてあいつは一人で全部抱え込むのかと。」
哲也は直樹の話に黙って耳を傾けている。
「多分、あいつは子供ができないのは自分のせいだって思ってるんだろうな。そんなの俺が原因かもしれないのに。」
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