日々草子 天使と悪魔 11

天使と悪魔 11

翌日、琴子は哲也の家から出勤した。今日からしばらくは直樹とは顔を合わせることのない勤務体制だ。それに琴子は若干安心していた。
が、直樹が薫の担当から外れたことを聞き驚いた。
「患者に信頼されていないから、自分から外れた」と聞かされ、更に驚く。自分からあきらめるなんて直樹らしくない。あれだけやり込められても、我慢していたのに…と琴子はショックだった。

薫の元へ顔を出すと、薫はパッと明るい表情を見せた。枕元のプレートを確認すると、担当医の名前が変わっている。
「新しい先生はどう?」
琴子は薫に訊ねた。
「優しいよ。」
薫は普通に答える。
「…悪魔先生じゃないから、面白くないけどね。」
それでも、何となく寂しそうだ。
「…琴子ちゃんは、僕から離れないでしょう?」
薫が琴子の目を見つめてくる。
「勿論よ。」
琴子は薫の頭を優しく撫でた。

「入江先生はどちらかしら?」
それから一週間経った夜勤の時、主任が誰に聞くともなしに口にした。
「困ったわ。確認したいことがあるのに…。」
その時、琴子の胸にかすかに嫌な予感がした。
「相原さん。手が空いているなら探してきてもらえない?」
やっぱり…と思ったが、琴子は従うしかない。
渋々ながらも、仕事だからしょうがないんだと自分に言い聞かせて探しに出る。…恐らくあそこだろう。

ノックもせずにドアを開ける。直樹はやはりそこに眠っていた。
「何だか散らかしてるなあ…。」
起こさずに琴子はベッド周りに散らかった本を手に取る。
「これ…薫くんの病気に関係あることばかり。」
ページをめくっていると、人の気配を感じたのか、直樹が目を覚ました。琴子が立っていることに少し驚く。
「主任が探してるから…。」
この部屋に来た理由を琴子は説明した。
「急ぎ?」
「そうでもないと思うけど。」
「なら少ししたら行く。」
用件は終わったものの、琴子は立ち去る気配はない。
「まだ何かあるのか?」
直樹が訊ねる。
「随分綺麗にしてるなって思って。一人暮らしに戻ったのに。」
妻に家出されたら夫は身の回りに行き届かなくなるという話を琴子は聞いたことがあったので、率直に思いを口に出した。
「一人暮らし、初めてじゃないからな。」
「そうだったね。」
琴子は学生時代のことを思い出して納得した。
「じゃ、なるべく早く来た方がいいと思う。」
そう言って琴子が出て行こうとしたら、
「お前…今どこに寝泊りしてるんだ?」
と直樹が声をかけた。
「…変な所には泊まってないから。」
それだけ言い残し、琴子はドアを閉めた。

休日、琴子は哲也の家で過ごしていた。哲也は病院、両親は外出中。家には祖母と琴子だけだった。
「お茶をお持ちしました。」
琴子はお茶を手に、祖母の部屋へと入ってきた。
「ああ…ありがとうね。」
仏壇の前に座っていた祖母は琴子の方を見てお礼を言った。何となく琴子は立ち去りがたく、お茶を置いても部屋から出て行かなかった。
「…お祖父さんとお話していたの。」
そんな琴子に祖母が声をかけた。仏壇の写真は、軍服姿のまだ若い男性のものだった。
「戦争で亡くなって…。結婚して二年足らずで。」
「たったの二年で…!」
祖母の説明に琴子は声を失う。
「こうやって、毎日お喋りするの。最近は可愛いお客様もいるんですよって。」
祖母はそう言ってフフフと笑った。が、
「…でもどんなに話しかけても、この人が答えてくれることはないのよね。」
と、少し寂しそうにした。

「お祖母ちゃん…。」
「それでも毎日、お話せずにはいられないのよね。」
琴子はそんな祖母へ話しかけた。
「私…実は結婚しているんです。」
琴子の言葉に、祖母は驚いて目を丸くした。

「こんな所でさぼっているんですか?入江先生。」
直樹が屋上で物思いにふけっていると、哲也が話しかけてきた。
「別にさぼってはいませんよ。」
あまり話したくないなと思いながら、無碍にもできずに直樹は返事をする。
「…琴子ちゃんなら俺の家にいますよ。」
哲也が告げた。
「心配なんでしょ?」
「別に…。」
琴子との関係がばれてたのかと思いつつ、素っ気なく返事をする。
そんな直樹を見ながら、哲也は笑顔を浮かべて、
「素直になればいいのに。…入江直樹くん。」
と、突然直樹を先生ではなく、君付けで呼んだ。
「え?」
さすがにそれには直樹も驚き、哲也を見る。
「俺、君のこと知ってたんだよね。実は。」
そう言って、哲也は舌を出した。

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☆あとがき
コメントありがとうございます。後ほどお返事させて頂きます!
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