日々草子 天使と悪魔 8

天使と悪魔 8

「パパ、ぞうさん!」
動物園ではしゃぐ薫にカメラを向けながら、哲也がポツリと呟いた。
「…今日撮った写真の、どれかを使うことになるのかな…。」
その言葉を耳にし、琴子が「え?」と聞き返す。
薫は象に夢中になっており、二人の会話は耳に入っていない。
「いや…。こうやって何枚も何枚も撮っているとさ、もしかしてって考えちゃうんだよね。」
哲也の言葉の意味が琴子にも分かり、
「何言ってんの!そんなこと考えちゃだめだよ!」
と哲也の背中を叩く。
その励ましに哲也は少し笑ったが、
「毎晩不安なんだよな。俺、とうとう一人ぼっちになっちゃうのかなって。」
とすぐに暗い表情になってしまう。
「そんなことないって!絶対助かるわよ!薫くんは強い子なんだから!」
琴子は哲也を一生懸命、励ました。
「うん…。そうだな。琴子ちゃんも…入江先生もついているし。」
「そうよ!入江先生は世界一の名医なんだから!」
琴子は胸を張った。
「琴子ちゃーん。お腹すいちゃった。」
象に夢中になっていた薫が、二人の傍へ駆け寄ってきた。
「よーし。じゃ、お弁当にしようか。」
琴子は持ってきた弁当箱をテーブルに出し、広げ始めた。

「琴子ちゃん、このウィンナー、タコさんだ!」
「そうよ!薫君のために頑張っちゃった。」
なんて、頑張ったのは入江くんなんだけどなと琴子は、今朝ウィンナーに包丁を入れている直樹の姿を思い出しクスッと笑ってしまった。
「何?」
哲也が不思議そうに琴子の顔を見る。
「ううん。何でもない。」
天敵直樹の料理をおいしそうに頬張る薫を見ながら、琴子もウィンナーを口に運んだ。

その頃、病院では、
「薫くんのお父さんって、シングルファーザーだったわよね。」
と看護師たちが噂していた。
「…じゃ、ありかもね。」
「うん。」
クスクスと笑う看護師たちの会話は、傍らにいるパソコンに向かっている直樹の耳にも入ってきた。
「薫くん、相原さんに懐いているものね。」
「うん。いいお母さんになるんじゃないかしら?」
その後、看護師たちの話は先の先まで進む。
「お祝いと準備しておいた方がいいかも…。」
「もしかしたら、来年にも薫くんの兄弟とか…。」
そこで直樹が咳払いをした。看護師たちは無駄なおしゃべりのし過ぎに気がつき、各々持ち場へと戻って行った。
「…何が兄弟だ。冗談じゃない。」
これも琴子があの悪魔に入れ込み過ぎているからだと忌々しく思いながら、パソコンから離れた。

幸い、体調には何の変化もなく薫は無事に病院へ戻って来た。
診察をし、異常がなことを確認した直樹に、薫が何かを差し出した。
「先生のおかげで僕、動物園に行けたから。」
可愛らしい手から直樹はそれを受け取った。…何か仕掛けがあるのではとちょっと用心する。
「それ、先生にそっくりだと思って。僕が選んだの。」
…それはラクダのキーホルダーだった。
「…ありがとう。気を遣ってくれて。」
直樹は笑いを噛み殺している琴子を横目に、大人としてお礼を言った。
「僕はこれを琴子ちゃんに買ってもらったの!」
薫が出したのは大きめのパンダのぬいぐるみだった。
「僕、このパンダに琴子ちゃんって名前つけて、毎晩抱っこして寝るね!」
そう言って嬉しそうに薫はパンダをギュッと抱きしめた。

「本当に許可を出してくれてありがとうね!」
その夜、琴子は洗濯物を畳みながら、直樹の何度目かのお礼を言った。
「別に…。お前に礼を言われる覚えはないし。」
本から目を離さないまま、直樹はぶっきらぼうに答える。
「嬉しそうだったなあ。今頃、あの縫いぐるみを抱っこして寝ているかしら?」
そう言って琴子は笑った。

そんな琴子を背後から、直樹がそっと抱きしめた。
「い、入江くん…?」
乾いたシャツを手にしたまま、琴子が声を出す。
「あの悪魔に負けたくないなあ。」
「悪魔って…。そんな言い方…。」
「俺は本物の琴子を抱っこして寝たいんだけど?」
ところが、琴子の口から出てきた言葉は、
「…今日はそういう気分じゃないの。ごめんなさい。」
という、直樹の予想外のものだった。

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☆あとがき
覚えていらっしゃる方、おいででしょうか…って、この挨拶も今日限りにしたいです。
私が更新を怒涛にする時…それは早く話を進めたい時です。
それなのに進まない…。ごめんなさい。
でも決して無理をしているわけではないので、大丈夫です!
本当にダメな時は何も更新しませんから…!
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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