日々草子 万華鏡 27

万華鏡 27

「な、直樹さん…?」
一番驚いているのは琴子だった。
「今…何と言ったかね?」
重雄も耳を疑っている。
「琴子さんと結婚させてほしいと言ったんです。」
直樹は表情一つ変えずに、繰り返した。
「冗談だ…。」
「冗談ではありません。」
重雄の言葉を遮って直樹が言った。
「だって、君は婚約をしたんじゃ…。」
「解消します。」
直樹はキッパリと重雄に告げた。
「琴子の婚約者…彼にも話します。土下座してでも分かってもらいます。」
あまりの直樹の真剣さに、周囲は何も言えなくなった。

「だけど…。やはり琴子とは結婚させられないよ。」
重雄が言った。
「俺の人間性に何か問題がありますか?」
「いや。君は頭も良く、何でも完璧にできて、素晴らしい男性だ。だけど…。」
重雄は一息つくと、言った。
「君と琴子では…身分…住む世界が違う。」
その言葉を聞いて、琴子も俯く。それはどうしても越えられない壁だ。
「身分が違うから、結婚できないんですか?」
そう重雄に言うと、直樹は、
「裕樹。」
と、突然裕樹に声をかけた。
「何?」
突然名前を呼ばれ、思わず裕樹は体を緊張させた。
「…お前がこの家を継げ。入江の家も、爵位もお前が継いでくれ。」
「ええ!?」
突然の直樹の言葉に、裕樹は目を白黒させている。
「それから…勿論、財産の相続権も放棄しますよ、父上。」
今度は重樹と紀子が驚いて目を向く。

「これで、俺は身分も、財産も、何一つない、ただの入江直樹という男です。これでしたら、琴子と結婚させてくれますか?」

重雄と琴子は同時に叫んだ。
「一体、何を…直樹さん!」
「君は…この家の長男だぞ!」
そんな二人に直樹は言った。

「構いません。俺が必要なのは、爵位でも財産でもない、琴子ただ一人です。琴子と一緒に生きていけるなら、全て捨てたって全く後悔しません。」

直樹の毅然とした態度に、全員、何も言えなかった。

「だが…。」
重雄はまだ何か言いたそうだった。その様子を見て直樹が言った。
「まだ何かありますか?琴子の相手が俥屋でなければだめだというのなら、俺は明日から人力車引きます。」
「い、いや、そういうことでは…。」
慌てる重雄を見て、更に直樹が続ける。
「それとも…琴子が相原家の一人娘だからだめですか?それなら俺が相原家に入ります。」
直樹の言葉に、重雄はただ呆然とするのみだった。

「直樹…。」
それまで黙って直樹の話を聞いていた重樹が、口を開いた。
「先程から聞いていると、お前の気持ちばかり言っているが、琴子ちゃんの気持ちはどうなんだ?お前が琴子ちゃんと結婚したくても、琴子ちゃんはどうなのか…。」
「…そういえば、聞いてなかったな。」
直樹の台詞に、重樹は苦笑した。
「琴子ちゃん…。こんな自己中心的な息子だが、直樹の嫁に来てくれるかい?」
その言葉を聞いて、紀子と裕樹が笑顔を見せた。
「こいつは、態度は大きいし、性格もいいとはいえない。そして…絵描きなんて仕事を選ぶから、苦労するかもしれないけど…。」
それを聞き、琴子が叫んだ。
「おじ様!それじゃ、直樹さんが画家になること、許して下さるんですか?」
琴子にとっては、自分との結婚より、直樹が自分が進みたい道を進むことの方が重要だった。
重樹は頷いた。そして、直樹に言った。
「好きなことをして生きていけ。…別に画家の伯爵がいたっておかしくはなかろう。」
それを聞き、直樹も笑顔を見せた。

「琴子…。」
その様子を見ていた重雄が琴子へ話しかけた。
「お前の気持ちはどうなんだ?」
「私は…。」
琴子は傍にいる直樹の顔を見上げた。手はずっと繋いだままだ。
そして、重雄を見て、はっきりと言った。

「私…私も直樹さんと一緒にずっといたい。」

その言葉を聞き、重雄が笑顔を見せた。
「それなら…私はもう反対する理由はない。お前が幸せなのが、一番だからね。」
「お父様…!ありがとう!」
重雄の言葉を聞き、琴子は重雄に抱きついた。
重雄は琴子の肩を優しく撫でながら、言った。
「幸せにおなり、琴子…。」
ところが、琴子の様子がおかしい。
「琴子…?」
重雄が琴子の顔を覗く。琴子は真っ赤な顔をし、苦しそうに息を吐きながら目を閉じている。
「…熱がある!」

周りの騒ぎを遠くに聞きながら、琴子は、
「全部夢かも…。目が覚めたら、何も変わっていないのかも…。でもこんなに幸せな気分になれるなら夢でもいいわ…。」
と思い、意識が遠のいていくことを感じていた。
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comment

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凄いよ!

直樹!!!!!!琴子のために人力車引くんですか?
それならぜひに私を乗せて・・・って違う違う
凄いです~もうなんてドラマなの!!!
爵位もなにもかも捨ててでも琴子と一緒になりたいって
のが素敵です。
はぁ~読めて幸せ♪

感動

水玉さん、こんにちは。   相原父に琴子との結婚を申し込みましたが。父は断るの一言。身分が違うと。直樹は身分を捨てても一緒にいたいと。琴子も直樹と一緒にいたいと。良かったね。直樹の父も伯爵の画家がいてもおかしくないと。
本当に本当に良かったね。

素敵

こんにちは。

うわーっ、琴子と結婚できるなら、爵位を捨てても、人力車を引くことも、婿養子にはいることも何とも思わないと言う入江君、本当に素敵ですね。惚れ直しました。(私に惚れられたって、入江君は迷惑でしょうけど)
そして、入江君と一緒にいたいと言う琴子、ああ、二人の気持ちがお互いわかって、よかったですね。
入江パパも、相原パパも二人を認めてくれてよかった。

これからが楽しみです。

熱いぜ、直樹!!

いいぞいいぞーーーー!!かっこいいぞーーーー!!!
ここにきて、一気に爆発したね、直樹さん。
直樹と重樹の和解に一番喜ぶ琴子が可愛くっていじらしくって、もうアリエル・・・きゅううううううううううんっっってなっちゃったよーーーーー!!!

No title

ごめん水ちゃん^^;
待ちに待ってた名場面のところ真剣に読んでたのよぉ!
でも「俺の人間性に何か問題ありますか?」って、
一気に吹いたわよ(大爆)
それから、「明日から俺が人力車ひきます」って
想像しただけでお腹痛いんですけど(大笑)

もうねこんなに切なくさせてくれて感動させてくれて
笑わせてくれて有難うの一言だわっ^^
万華鏡万歳だわよ♪

No title

ほうっ~。よかったね、琴子♪手を繋いだままの二人♪私も泣きながら入江君の決心に笑いました♪
水玉さん大量UPありがとうございました♪
やっと追いつきました(^o^)丿

No title

ミルクさん
引きますよ!直樹さんは琴子のためなら人力車の一台や二台!(笑)

tiemさん
本当に漸くここまでたどり着けました!
ありがとうございます1

るんるんさん
私に惚れられても…の下り、うけちゃいました(笑)
でも一度はそこまで言われてみたいですよね?

アリエルさん
可愛いでしょう!←超自慢(笑)
一度書いてみたかった、直樹さん大爆発!(笑)

さあやさん
あら受けた?^^
確かに人力車を引くには体が細すぎよね(笑)
俺の人間性…問題ありありだっての(笑)

ラテさん
ごめんなさい、一定のペースじゃなくて。
でもついてきて下さって嬉しいです!ありがとうございます1
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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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