日々草子 万華鏡 23

万華鏡 23

「…さん。直樹さん。」
直樹はハッとして我に返った。
「…どうなさったの?」
沙穂子が心配そうに、直樹の顔を覗きこんでいる。
「いえ。別に。」
直樹はすぐに笑顔を取り繕った。それを見て沙穂子が安心して前を向く。
「初めてなんですのよ。活動写真なんて。」
二人は活動写真を見に来ていた。沙穂子が一度見てみたいと直樹に頼み込んだのであった。
「あ、始まるわ。」
やがて活動写真が始まった。

直樹は活動写真を見ながら、琴子と二人で見に来ていたことを思い出していた。隣に座っている沙穂子はどんな顔をして見ているのだろうとふと思い、そっと窺ってみる。
…沙穂子は少し微笑んでいるだけの表情だった。時折、観客が爆笑する場面もあるのだが、それでも少し唇の端を上げるだけ。
「…随分違うんだな。同じ女なのに。」
直樹はそんなことを活動写真が終わるまで思っていた。

「面白くありませんでした?」
その後入った喫茶室で、直樹は沙穂子に訊ねた。
「いいえ。とても面白かったです。よかった、お願いして連れてきていただいて。」
沙穂子は嬉しそうな顔をした。
「あまり笑っていなかったようなので。」
「あら。そんな大口開けて笑ったり、泣いたりなんて恥ずかしいわ。それに…はしたない女性だと直樹さんに思われたくないですもの。」
沙穂子は恥ずかしそうに言った。
直樹は、一緒に見に来た時に琴子が大声で笑ったり、自分のハンカチだけでは足りず、直樹のハンカチまで使わなければならないほど泣いたりと、くるくると変わる万華鏡のように豊かな表情を見せていたことを思い出していた…。そんな琴子を直樹は面白い女だと思ったことも。

美術館にて直樹は、沙穂子に問われるがまま、展示されている絵の説明をした。
「すごいわ。何でもご存知なんですのね。」
沙穂子は心から感心している。
「直樹さんは絵をお描きになられるのでしょう?」
「ええ。」
「画家になろうと思われたことはありませんの?」
大泉家は、恐らく直樹が帝大生のままだと思っている。美術学校へ通っていたことなど直樹の口からも言っていない。
「…ないですね。難しい世界ですから。」
直樹は嘘を言った。
「そうですわよね。簡単に成功するような職業じゃないですものね。めざすって言われると、きっと周りも困ってしまうでしょうし。趣味の範囲で続けるのが無難ですわよね。」
沙穂子の言葉に、直樹はまたもや琴子のことを思い出してしまっていた。

琴子は初めて直樹の絵を見た時から、「画家になれ」と言ってくれた。直樹が学校へいくために自分も働き始めたりと協力を惜しまなかったことを直樹は思い出す。
「二人で絵を集めるという楽しみ方もありますわよね?見ることもとても楽しいですもの。将来は、画家を支援するなんて素敵かもしれないわ。」
支援か…。直樹は「パトロンになる」と大真面目な顔をしていた琴子をまた思い出した。

「もう俺のパトロンはいないんだな…。」
思わず直樹は漏らしてしまった。
「何か仰いまして?」
沙穂子が不思議そうな顔をして訊ねた。
「いえ。次に行きましょうか。」
直樹は沙穂子を促して歩き始めた。

どうして琴子と二人で出かけた場所ばかり、今日は巡っているのだろうと直樹は不思議だった。
家に帰る前に、少し外を歩きたいという沙穂子に付き合って歩く。
「あら?何か聞こえるわ?」
沙穂子が足を止めた。耳をすませると、懐かしい声が聞こえてきた。
「ああ、あれは焼き芋屋でしょう。」
「やきいも…?」
初めて聞く言葉に沙穂子は首を傾げる。
直樹は琴子に教えてもらって、初めて焼き芋を食べた時のことを思い出しながら説明する。
「芋を焼いて売るんです。結構おいしいですよ。食べてみますか?」
直樹の勧めに、沙穂子は笑った。
「まあ。嫌だわ。外で食べ物を食べるなんて…お行儀が悪いですもの。」
そして沙穂子はもう帰ると言い、直樹は遠くへと去っていく焼き芋屋の声を聞きながら、琴子と沙穂子は別世界の人間で、自分は沙穂子と結婚することで、琴子から遠く離れた場所へと行くのだろうということを思い知らされていた。

直樹が沙穂子と出かけている間…。
琴子は入江家で久々に父親と会っていた。
入江家に到着した後、真っ直ぐに重雄は重樹の寝室を見舞っていた。紀子は所用で出かけている。

「すまなかったね。ずっと放りっぱなしで。入江家の皆さんにもお世話になりっぱなしで。」
詫びる重雄に琴子は首を振った。
「お父様、お仕事で忙しかったんですもの。」
そんな琴子を、重雄は優しい顔で見つめた。
「今日、来たのは他でもないのだが。」
重雄が話を切り出した。
「直樹さん、婚約が決まったそうだね。」
その言葉に琴子は胸を痛めるが、父に悟られまいとすぐに冷静さを装った。
「ええ。」
「もうすぐお嫁さんをお迎えになるこの家に、いつまでもご厄介になっているわけにもいかないだろう?」
「それって…。」
琴子は父が次に口にする言葉を待った。
「この家から出て行かないとな。」
それは琴子の予想通りの言葉だった。確かにいつまでも身内でもない、それも独身の女性がこの家にいるわけにいかないだろう。
「それに…。」
重雄は言おうかどうしようか迷っている感じだったが、意を決して話した。

「金之助が手紙を寄越したんだ。お前と結婚したいって。」
「金ちゃんが!?私と!?」
さすがに琴子はそれには驚いた。まさかそんなことを金之助が考えているとは少しも想像していなかったから。
「考えてみれば、お前もそろそろ嫁に行く年だもんなあ。金之助は家にいた時から知っている人間だし。何といっても、わずかな期間で一人で俥屋を開いた男だ。将来性があるとも言える…。悪い話じゃないと思うんだが。」
どうやら重雄は金之助と琴子を結婚させてもいいと思っているらしい。琴子は突然の話で頭の中が整理できなかった。
「返事は…急がなくてもいいと言っているが。」
重雄に琴子は言った。
「少し考えさせて。そして…私の口から金ちゃんにお返事する。」
その言葉を聞いて、重雄は頷いた。
重雄は帰る前に、再び重樹に挨拶をし、そして宿泊しているホテルへと戻って行った。

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♪あとがき
一応、ご報告させていただきます。
最長記録を更新することが、確定的になりました…。
それでも読んで下さる優しいお方を募集します(笑)
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comment

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応募します

もうそんななの?そんなに長い印象が無いんだけど、アタシには。楽しい時間はあっという間ってことね、きっと。
今回も見事に原作とシンクロ。拍手喝采ですわ。俥屋金ちゃん、そろそろ登場かなぁ??と思っていたところだったので、嬉しいですわン♪

応募します2

最後までお付き合いさせてください。毎日どれほど楽しみにしてることか....あぁ今夜も眠れない(続きが気になって)

-応募します3-

もちろんです!長さは気にしなくっていいと思いますよ^^本当にせつなくって、琴子に笑顔が戻ってくれるのをまってます。楽しみにしていますね。

最長記録大いに大歓迎だわ(舞舞舞)
よくぞ言ってくれた水ちゃんよぉー^^
って感じです♪
水ちゃんの名作はどれもこれも大好きだけど、
この万華鏡は大のお気に入り♪

安心して更新を待ってまぁーす^^

応募します5

うぐ~切ない~(そこが堪んね~)
マサカですが!ハッピーエンドじゃないよ~とか言わないですよね?イヤダヨ ぜ~たい反対
幸せな結末の更新待ってま~す

応募します6

もちろん、大歓迎ですよ。
「万華鏡」大好きなので、楽しみに待ってます。
今後の展開を期待して、最後までお付き合いさせてくださいね。

ありがとうございます

お、応募して下さってありがとうございます(笑)
嬉しいです!でも最長といっても、数回オーバーする程度になりそうです、どうやら(笑)

アリエルさん
そりゃ、登場ですよ(笑)!ここで登場してもらわねば、出した意味がないもの(笑)
でも標準語の金ちゃん…書いていておかしいんだけど!

さくやさん&るんるんさん
そうですか、ではぜひ最後まで御一緒に(笑)
そんなに楽しみにしていただけて、とてもうれしいです。

emiさん
そう仰って頂けると嬉しいですが、なんせ、20オーバー(汗)。あまり長すぎて、読んでくださる方がうんざりしないかがとても心配なんです…。

さあやさん
よかった!そう言ってもらえて!
あの時物置行きにしないでよかったわ!さあやが止めてくれたからよん♪ありがとうね。

美優さん
今回もせつなかったですか?よっしゃっ!って気分です(笑)なかなかこういう切なさを出す文章は難しいです。

拍手コメントのお返事
かおちゃんさん
そういう風に想像していただけて、とてもうれしいです!
なかなか入江くんの天才ぶりが書けないのが難点ですが…(^^ゞ

いたさん
予想していただいた話と違う展開になったら、申し訳ないですね…(^_^;)
その辺がちょっと難しいのかも…。

tiemさん
波乱万丈…まあ、私ごときが書く話ですので、あまりご期待なさらずに、気楽にお待ちいただけると嬉しいです^^
きょまちゃんさん
ダメです!そういうこと言われちゃうと、私が図に乗ってとんでもないことをしでかします(笑)
余韻…ありますか?私が書くものって、どうも余韻が残らない、その場限りの話になっている気がしているので、そう仰っていただけると、嬉しいです。

皆さま、コメントありがとうございました!

もちろん応募します

そりゃもちろん応募しますよ
もう続きが気になって気になって仕方ないんですから
ぜひぜひ読ませてくださいませ~
直樹!!!!はやく自分の心に正直になるんだ!!!

No title

ついに金ちゃん登場(手紙だけど)で役者が揃いましたね!やっとじっくり読めるので今から27話まで行ってきまーす♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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