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2009.03.25 (Wed)

万華鏡 19


【More】

「さ、直樹さん、お代わりは?」
まるで妻のようにトヨは直樹の給仕をしている。琴子は玄関に腰かけたまま、その様子を黙って見ている。
「その役目、私がやりたいのに…。」
そんなことを考えていると、
「ちょっと、あんた!」
とトヨに声をかけられた。
「ぼさっとしてないで、これ洗う!」
そして直樹が食べ終わったお膳を押しつけられた。
「何で私が?」
琴子の言葉にトヨは、
「後から取りにくるからね!ちゃんと洗っておくんだよ!」
と言い残し、直樹には「またね、直樹さん」と甘い声を残し、外へと出て行った。

「何で洗い物だけ私がやるのよ…。」
最初は不満でいっぱいだった琴子だったが、そのうち、
「何か、こうしていると…。」
と妄想の世界へと入っていく。
「私は直樹さんを支える奥さんで…たすき掛けなんてして、傘貼りの内職とかするの。それで、直樹さんが“済まないな”と声をかける度に、“いいえ、あなた。これくらい苦でも何でもありませんわ”って明るく言って…。」
お碗を握りしめたまま、現実から逃避している琴子へ、
「おい!」
と直樹が声をかける。おもわず、
「いいえ、あなた…。」
と言いそうになり、慌てて琴子は口を押さえた。
「な、何?」
琴子は直樹の方へ振り返った。
「お前、どうやってここに来たんだよ。」
やっぱりそこを突くかと琴子は思った。
「…須藤さんが教えてくれたの。」
正直に話す。それを聞き直樹は溜息をついた。
「やっぱりあの人か。」
「おば様も、裕樹くんも心配してたから。直樹さん、ちゃんと食べているかなって。」
「おかげ様で食事には全く困らないね。」
「…でしょうね。」
洗い終わった食器を見ながら琴子は呟いた。

直樹が言うには、
「毎晩邪魔する人間もいないし、コソコソ隠れて描く必要もないので家を出て良かった」とのことである。
「毎晩邪魔って、私?」
琴子がちょっと怒ると、
「他に誰がいる。」
と相変わらずの返事。でもそのやりとりが琴子には嬉しい。
久しぶりに直樹が学校で描いた絵を琴子が見ていたら、琴子の前に何かが差し出された。
それはサツマイモだった。
「来たんだから、作っていけ。」
琴子はちょっと驚いたが、すぐに笑顔を見せ、楽しそうに芋を蒸かし始めた。

帰る道が分からないという琴子に頼まれ、直樹は仕方なく途中まで琴子を送ることになった。
夜道を歩きながら琴子は、
「生活費とか…大丈夫なの?」
と訊く。
「前に働いていた古本屋で働いているし…後は時計を質に入れたからしばらくは大丈夫だな。」
と直樹は答えた。その答えを聞いて琴子は仰天した。
「時計って…あの時計!?」
直樹が質に入れた時計は、高校卒業時に成績が一等ということで記念に贈られた金時計のことだった。
「あれを入れてしまったの?」
「もう必要ないしな。」
全く時計に未練がない直樹に琴子はかける言葉が見つからない。

「…ねえ、直樹さん。」
歩きながら琴子は先程から気になっていることを切り出した。
「…私の名前、知ってる?」
先程、大家に紹介してもらった時の“これ”呼ばわりがちょっと引っかかっている。思い起こせば、直樹から名前を呼ばれたことがないことに気がついた。
「…イモ娘。」
直樹の言葉に琴子は深いため息をついた。
「ちゃんと親からつけてもらった名前があるのだけれど。」
「いつも芋、芋と騒いでいるからそれで十分だろ。」
「いや、琴子さんとか、琴子ちゃんとか…。」
“琴子”と呼び捨てにしても…と言いたいが、そこまでは恥ずかしくて口にできない。
「毎晩、毎晩、人の勉強を邪魔する奴にさんづけなんて嫌だね。」
直樹の冷たい言葉に、琴子は名前を呼んでもらうことを諦めた。

「じゃ、ここからは一人で帰れるな。」
「また…来てもいい?」
おずおずと琴子は直樹に訊ねた。
「来るなって言っても来るんだろう?」
その言葉を琴子は、来てもいいという意味に解釈した。
そしてその言葉を前向きに解釈した琴子は、次の日からせっせと直樹の元へ、時間の都合がつく限り、通い始めた。

「これと時計を引き換えにしてほしいんですけど。」
琴子はある物を手に、質屋と交渉していた。
その時、
「あんた、今度は何をやってるんだい?」
と後ろから声をかけられた。直樹の住む長屋の大家のトヨが立っている。聞けばトヨはこの辺りの土地持ちで、質屋ともよく知った間柄らしい。
琴子の説得の甲斐あって、琴子が新たに持ち込んだ質草と引き換えに、直樹が預けた金時計を質屋は戻してくれた。

「あれ、結構大事なものなんじゃないのかい?」
質屋を出て、琴子はトヨと並んで歩いていた。トヨの問いかけに、
「いいんです。おかげでこれを取り戻せたし。」
と、琴子は時計の箱を大事そうに抱きしめた。
「この時計を直樹さんが頂いた時、直樹さんのご家族、みんな大喜びで手に取って見ていたんです。特にお父様が大喜びで…。今は直樹さんとお父様、ちょっと気持ちが離れてしまっているけれど、絶対いつか元に戻る日が来るから。またあんな風に家族が仲良くなれる日が絶対来るから。その時にこの時計がないと、駄目だもの。」

琴子の話をトヨは黙って聞いていた。琴子は突然声を上げた。
「あ!そうだ。大家さんにお願いがあるんです。」
「何だよ?」
琴子は時計の箱をトヨへ差し出した。
「これ、大家さんから直樹さんへ渡して下さい。」
「あんた、自分で渡せばいいだろうが。」
「私が渡すと、余計なことをしたってまだ怒鳴られちゃう。大家さん、あの質屋さんとお知り合いだったみたいだし。脅したとか何とか言って取り戻したって言えば、直樹さんも素直に受け取ってくれるでしょう?」
「脅すって…あんた、私を何だと。」
トヨは呆れたが、琴子に必死な願いにその役目を引き受けることにした。といっても引き受けないといつまでも琴子に付き纏われそうだったからだが。

長屋へ寄らずに帰るという琴子を見送りながら、トヨは、
「本当に…欲のない娘だね。これで直樹さんが私に惚れたらどうするつもりなんだろ?」
と、絶対あり得そうもないことを呟いた。

それからしばらくは、時間に都合がつく限り、琴子はせっせと直樹の元へ通い、大家と直樹をめぐって戦う日々を送った。それは琴子にとっても楽しい日々だったが、それは長くは続かなかった。

その夜もいつものように、直樹は遅くまで絵を描くことに没頭していた。すると戸を激しく叩く音とともに、
「直樹さん!」
という琴子の声が聞こえた。驚いて直樹が戸を開けると、そこには真っ青な顔をした琴子が立っている。
「こんな時間に…。」
と直樹が驚いていると、琴子は、
「おじ様が倒れたの!家にすぐに戻って!」
と叫んだ。その声を聞くや否や、直樹はすぐに飛び出し、琴子も後を追った。

---------------------------------------------------
♪あとがき

スピードUPしよう…いくらなんでも遅すぎてこれじゃ退屈ですよね…
「退屈でごめんなさい」と言うくらいなら、せっかく読んで下さった方がいらっしゃるのですから、退屈されないように頑張って書けばいいと前向きに考え直しているところなのですが^^
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*Comment

★YES!

前だけ見てて下さい~後ろにはフアンがぞろぞろワイワイ付いているで~す
エヘっ!今日は私が先頭集団に紛れられたよ~
お~い付いてきてますか?みなさん
美優 |  2009.03.25(Wed) 23:49 |  URL |  【コメント編集】

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