日々草子 中華料理 直琴軒 3

中華料理 直琴軒 3

「本当にうまいんだろうな…。」
啓太は今日三度目のセリフを呟いた。
「本当だってば!口コミで結構評判になってるのよ!それに…。」
幹は顔を赤らめながら言った。
「このお店のマスターが、とってもいい男らしいの!」
「顔が良くても、味が悪くちゃね。」
啓太は溜息をついて、店の扉を押した。

「いらっしゃいませ!二名様ですか?こちらへどうぞ!」
琴子が二人を空いたテーブルへと導く。二人は言われるがまま座った。
幹は一生懸命、体を厨房へと体へ伸ばしている。
「何やってるんだよ。」
啓太が尋ねると、
「マスターの顔が見えないかなって。」
という答えが返ってきた。
「マスターって柄かよ。こんな店で。」
またもや啓太は溜息をつく。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
琴子が水を運びつつ、注文を取りに来た。
「そうね…。アタシは…酢豚定食にするわ。」
壁に貼ってあるメニューを見ながら幹が琴子へ言った。
「じゃあ…俺は炒飯。」
幹の言葉を今一つ信用できない啓太は、一番無難なメニューを選ぶ。
「はーい。えーと…トンカツ定食と、炒飯一つずつ。」
琴子が厨房へかけた声に、幹は目をギョッとさせた。
「ちょ、ちょっと…アタシ、トンカツなんて頼んでないわよ!」
「俺は合ってる…。」

料理が来るのを待つ間、二人は店内を見ていた。
広くないが、ほぼ満席。どちらかというと男性客が多い。
「西垣さん、お待たせ!焼売定食!」
琴子はそう言いながら、餃子定食を西垣と呼んだ男性客の前に置いている。
「お、餃子、餃子!」
琴子の言い間違いに大した反応を見せることなく、西垣は餃子を食べ始めた。

「あの子…焼売と餃子の区別もつかないのかしらね?」
幹が心配そうに琴子を見ている。
「まあ…どちらも皮で包んだ料理だからな。」
「そういう問題かしら?」
果たして自分たちの料理は、注文どおりのものが届けられるのかと二人はドキドキしている。

「でもどうせならチャイナ服着ればいいのにな、あの子。そうしたら、もっと野郎の客が増えるのに。」
啓太が琴子を見ながら呟いた。琴子は白い服を着て忙しそうに立ち回っている。
「馬鹿ね。それは中国料理でしょ?ここは中華料理よ。」
中国料理と中華料理ってどこが違うんだと啓太が首を傾げたその時…。

ドスッ!

二人の間に、中華包丁が刺さった。

「な、何だ、一体…。」
啓太が青ざめながら呟く。
「ど、どこから飛んできたのかしら?」
啓太以上に幹も青ざめている。

「ごめんなさい!」
そこへ琴子がニコニコしながら現れた。
「うちの主人、また手元が狂っちゃったみたいで。」
そして、よいしょと言いながら琴子は包丁を壁から抜いた。

「あの…主人って。」
幹は琴子へ訊ねた。
「あ、私たち、夫婦でこのお店やってるんです。」
琴子はそう言って、顔を赤らめながら包丁を両手で握りしめた。
「夫婦…。」
啓太も思わず呟く。

「ええ。二人で頑張って、やっと小さいけれど、二人だけのお店を持てたんですよ。あ、主人の腕前は世界一です。腕前だけじゃなくて、もう顔も、頭も、どこもかしこも素敵で…。」
琴子はそう言いながら両手で包丁を握りしめたまま、自分の世界へと入り込み、時折体を動かす。その度に包丁の刃先が啓太と幹の目の前へ出されるので、二人は体を避けることに精一杯だ。

「わ、わかったから、とにかくその包丁を下へ下ろしてもらえる?」
幹が言って、ようやく琴子は気がついたらしい。
「あ、ごめんなさい。お料理、もう少し待っていて下さいね。」
琴子は包丁をぶら下げて、厨房へと戻って行った。

「はーい。カツ丼と炒飯です。お待たせしました!」
琴子が酢豚定食と炒飯を運んできた。
「だから、何でこれがカツ丼なのよ。」
幹はそう言いながら、割り箸を割った。
啓太は不安そうに炒飯を口へ運ぶ。

「おいしーい!こんなおいしい酢豚初めて!」
途端に幹が感動の声を上げた。
「まあまあだな…。」
口ではそう言いながら、啓太も味の良さを認める。
そんな二人を見ながら、琴子は微笑んだ。

「二人合わせてえーと…。」
レジで相変わらず琴子が指を使いながら、計算する。すると、
「1400円!」
と厨房から声が飛んできた。
すかさず、幹が背伸びして、厨房を覗いた。すぐに顔を赤らめて、
「ちょっと!声だけじゃなくて、顔もとても素敵!」
と啓太の肩をバンバン叩いた。
「痛えな。」
啓太は顔をしかめながら、琴子からお釣りを受け取る。
その隙に琴子の顔をそっと見ると、啓太の視線に気づいた琴子がまたもやニコリと笑った。啓太はすぐに横を向いて店を出てしまった。

「もう!もうちょっとマスターの顔を見ていたかったのに!」
幹が慌てて啓太の後を追ってきた。
「ねえ…アンタ、あの奥さんがちょっと気になってない?」
面白そうに幹が啓太の顔を覗き込んだ。
「馬鹿!んなわけあるか!」
ムキになって啓太が言い返した。
「そう?また来るでしょ?このお店。」
その言葉を啓太は否定できなかったが、つい強がりを口にした。
「こんなスットコドッコイな夫婦がやってる店なんかに誰が来るか!」
そんな啓太の頭を目がけて、何かが飛んできた。傍の幹が何かと確認できないうちに、物体がスコーンと啓太の頭に命中し、啓太はそのまま道へ突っ伏した。

「だ、大丈夫…?」
気遣う幹に、啓太は頭を押さえながら立ち上がる。
「痛え…!どこのどいつが、何を投げやがった!」
「…これだわ。」
幹が啓太の傍に落ちていた物を拾い上げた。それは下駄だった。

「ごめんなさーい!」
そこへ琴子のあの元気のいい声が響いた。見ると、琴子が店から出てくる。
「ごめんなさい!主人、今日は手元だけじゃなく…足元も狂っているみたいで。」
そう言いながら、幹の手から下駄を受け取る。

「また、懲りずに来て下さいね!あ、大丈夫ですよ。主人、水虫じゃないですから。下駄も毎日履いている割にはとても綺麗ですから!」
琴子はそう言って、駆け足で店へと戻って行った。
そんな琴子を二人は呆然と見ていた…。

「入江くん、今日はいろいろ飛ばしたね。」
割り箸を箸立てに入れながら、琴子は直樹へ話しかけた。
「そうか?」
直樹は包丁を研ぎながら素っ気なく答える。
「あんまり飛ばすと、お客さん来なくなっちゃうよ。」
琴子は心配そうに言うが、直樹は返事をしない。
そんな直樹の態度に、琴子は話題を変えることにした。

「ねえ…。あたしの服もちょっと変えない?」
その言葉に直樹がようやく顔を上げた。
「ほら…。チャイナ服なんてどう?中華料理店らしくていいじゃない?」
「…チャラチャラ着飾る暇があったら、正しい注文を俺の耳に届けられる努力しろ。」
直樹の冷たい言葉に琴子は頬を膨らませ、「ケチ」と一言言うと、今度は醤油の補充を始める。

「…絶対そんな服、着せるかよ。」
直樹はボソッと呟いた。
「え?何か言った?」
醤油差しへ醤油を注ぐ手を止め、琴子が直樹へ訊ねた。
「別に。」
直樹はそう言うと、再び包丁を研ぎ始めた。

--------------------------------------------
☆あとがき
文章って、少しの間書かなかっただけで、書き方を忘れちゃうんだなと思いました。…私の場合ですが。
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comment

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シリーズ化ですよね?!

ほんと、おもしろいです。今度は下駄まで飛んでるし!! Coolな直樹がボソッと言う一言に、くぅぅ~~っときちゃいます。ボキャ貧なので、こういう表現しか出来ないのですが、伝わるでしょうか??次は誰が登場するのかも楽しみにしてます!

やっぱり

もう本当に最高です!!
しかも今度は下駄ですか?
次は何を飛ばすんだろうウキウキ(すでに飛ばす事を前提)
次回も楽しみにしてます。

面白かったです (≧▽≦)/ 今までは包丁が飛んでくるだけ・・イヤイヤ 当たったら犯罪なんやけど ・・ 下駄は当てましたねぇ(^_^;) 痛そう・・・(>_<) 次のお客は誰で何が飛んでくるのか楽しみです

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

くみくみママさん
シリーズ化…どうなんでしょう(笑)
一応パターン化させてますが…。とりあえず、直樹が一度は包丁を飛ばすという(笑)
ボキャ貧なんてとんでもないです!お気持ちはとても伝わっています。本当にありがとうございます。

ミルクさん
私も何か飛ばすこと前提で書いてます(笑)
下駄を飛ばす時、「…鬼○郎?」と一人突っ込んでました。飛ばしますよね?

yumikoさん
当たったら本当、お縄ですよ(笑)
当たらないギリギリの線で止める、それが入江くん(笑)
私ももし、次書くとしたらお客誰にしようかと悩みそうです。

今度はそれか!

いったいどこからどうやって飛ばしたんだ、下駄・・・(笑)
「あーしたてんきになーあれ」みたいに飛ばしたのか、脱いで手で投げたのか、その辺興味津々です(←そこ??) いずれにしても、店の外に出てきて・・・だよね?その執念、恐ろしい(笑) 
そしてやっぱり、西ガッキーがツボ。
次ねぇ・・・女性ってのも面白いかもよ。琴子がどう出るか・・・ふふふ

どもども!

勿論、天気占うように飛ばしたのよ^^
サッカー日本代表もびっくりなキック力で(笑)
ちなみに、厨房から投げつけたのよ(笑)
西ガッキーに気づいてくれてありがとう♪
彼を密かに出すことが楽しい。

入江君ついに下駄かぁ…長靴ぢゃなくて良かった(^^ゞ私も鬼○郎を想像しちゃいました。
琴子がお箸補充してるとこがなんだかカワイイ♪

そしてわざわざ返礼コメありがとうございます。
まだこちらに書くのちょっと恥ずかしいのですが(^^)

腰は油断するとすぐやっちゃいますからね!
くしゃみでギックリ腰になった事もあります。
水玉さんもクシャミする時は気をつけて下さいね♪

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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