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2009.03.13 (Fri)

万華鏡 16


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念願の美術学校に直樹は通い始めた。
いつか絶対ばれると琴子は再三忠告するが、琴子の忠告に耳を貸すような直樹ではない。
とりあえずは、ばれないように協力しようと琴子はしばらく静観することにした。

「楽しそうだね、直樹さん。」
琴子は絵を描く直樹に声をかけた。
自分の部屋で描いているとばれる可能性が高いので、直樹は主に描いた絵を置いている例の部屋で描くことが多い。勿論、琴子も相変わらずこの部屋に入り浸っていた。

「学校、楽しい?」
琴子の問いに、直樹は、
「そりゃ、まあね。今までやりたくもない勉強に費やしていた時間を、全部絵に描く時間に当てることができるんだから。」
と手を止めずに答えた。
「よかったね。生き生きしているもの。」
琴子は心底からそう言った。本当に最初に会った頃と比べて、最近の直樹は何だかとても楽しそうに見える。

とにかく家族にばれないように細心の注意を払う直樹が絵を描く時間は、どうしても深夜に及ぶことが多い。
その夜も、直樹は夢中で描いていると、いつものように琴子が入ってきた。が、何か手に持っている。
「お夜食作ってきた!」
ニコニコしながら琴子が手拭いを被せた皿を直樹の目の前へ出した。そして得意気に手拭いを取った。
「…何だこれは?」
「蒸かし芋。」
皿の上には、半分に切られた蒸かしたサツマイモが載っている。
「私の得意料理なの!お父様もおいしいってこれだけは仰ってくれたのよ?」
芋を蒸かすだけで料理と呼べるのだろうかと直樹は思ったが、満面の笑顔を浮かべている琴子にそんなことは言えなかった。
「前に直樹さん、焼き芋をおいしいと言っていたから、どうかなと思って。」
せっかくの琴子の好意なので、直樹は口にすることにした。
「どう?」
心配そうに見つめる琴子に直樹は、
「うまい。」
と一言だけ言う。それを聞き、琴子は手を合わせて喜んだ。
「良かった!」
確かにおいしい。この間食べた焼き芋よりも甘い味がすると直樹は思った。
そして琴子の前に、もう半分の蒸かし芋が差し出された。
「どうせお前も食いたいんだろ?」
直樹の言葉に琴子は遠慮せず、蒸かし芋を受け取る。そして頬張った。

それから琴子が夜中に芋を蒸かし、直樹と二人で食べながら、直樹が学校で描いた絵や、教わった話などを見たり聞いたりするようになった。直樹も面倒くさがりつつも、琴子に問われるまま、話をする。
それは誰も知らない、二人だけの大切な時間となった。

ある日、琴子は父親に手紙で、金之助が独立して自分の俥屋を開いたことを知らされた。早速お祝いに出かけることにし、一人で外出をすることにした。
お祝いを買い、金之助の元へと向かっていると、途中で人だかりに出くわした。何だろうと琴子が思っていると話し声が耳に入ってきた。
「可哀想に。自殺だってさ。」
「格好からして芸者だよな。」
芸者さんが…と琴子が少し驚いていると、
「身分違いの男に捨てられたらしいぜ。」
という声がはっきりと耳に入ってきた。
「馬鹿だよな。その辺りをわきまえないと。」
琴子は呆然とその場に立ち尽くしてしまった。「身分違い」という言葉がやけに琴子に耳に残る…。

「あ、お嬢さん!」
金之助の店に琴子はどう歩いたのか覚えていないが、いつの間にか着いていたらしい。金之助の声で我に返った。
「おめでとう!すごいじゃない!こんなお店持てちゃうなんて。」
気を取り直して琴子は笑顔を浮かべ、祝いの言葉を述べた。
「まだちっぽけな店ですけどね…。」
そして琴子は金之助から独立するまでの経緯を簡単に説明してもらった。今の所、前に働いていた俥屋から金之助を慕って二人の男がついてきたらしい。そんな話をしていたらそのうちの一人が戻ってきた。
「あ、旦那!とうとう身を固める気に…。」
その男が琴子を見て話しかけてきた。金之助は途端に真っ赤になり、
「馬鹿!こちらは俺が昔書生をしていたご主人のお嬢さんだ!」
と怒鳴りつけた。そして琴子に謝る。
「そういや…お嬢さん、まだあの華族様の所に?」
金之助がお茶を入れ替えながら琴子に訊ねた。
「うん。」
琴子の返事に、金之助が露骨に嫌な顔をする。
「あのいけすかない男も一緒ですか?」
直樹のことかと思い、琴子は赤くならないよう、注意を払いつつ答えた。
「勿論。あの家のご長男だもの。」
「そうですか…。」
やっぱり顔が赤くなってしまっただろうかと琴子は心配した。

一人で歩いて帰れるという琴子を金之助はどうしても、人力車で送って行くと聞かなかった。仕方なく琴子は人力車に乗せられることになった。
「金ちゃん、上手になったね!前に乗せてもらった時と全然乗り心地が違う。」
琴子の誉め言葉に金之助は素直に喜ぶ表情を見せる。
やがて入江邸に到着し、門の前で琴子は下ろしてもらった。すると、そこに学校帰りの直樹が現れた。
「どうも。」
目が合ってしまったので、金之助は仕方なく、それもかなり嫌そうに直樹に挨拶をした。が、直樹は無視して門の中へと入ってしまう。
「何だ、あいつは!」
金之助が顔を真っ赤にし、カンカンに怒った。琴子は、
「あ、直樹さん、私にも同じような態度を取るの。金ちゃんだけじゃないのよ?」
と必死で宥める。
「俺たちみたいな下々の者にはかける言葉もないってことですかね?華族様だからって偉そうに!」
金之助の言葉に、琴子はまたもや胸を痛めた。“俺たち”“下々”という言葉がやけに引っ掛かる。
直樹の非礼も含めて、琴子は丁寧に金之助にお礼を言った後、入江邸へと戻った。

「直樹さん!」
家の中で琴子は部屋に入りかけた直樹を捕まえる。
「あの人…覚えてる?私がこの家に来たばかりの頃に会っているんだけど。」
「さあ?余計なことは覚えないようにしているから。」
直樹はいつも以上に冷たく言い放った。
「あのね、金ちゃん…金之助さんといって、最近独立して俥屋を始めたの。すごいでしょ?下にも働いている人がいて…。」
琴子の話を途中で遮る形で直樹は言った。
「俺には関係ないから。」
そして琴子の目の前で部屋の扉を閉めた。
琴子は、
「やっぱり直樹さんも私とか金ちゃんを、そういう目で見ているのかしら?」
と少し悲しくなり、暫くその場に立ち竦んでいた。

------------------------------------------
♪あとがき
忘れた頃に登場する男Part2、金ちゃん。

いつも読んで頂いてありがとうございます。
ごめんなさい。直樹ファンの皆様。…直樹にお芋を食べさせて。
「似合わない!」って思われているでしょうね…。
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19:16  |  万華鏡  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

大丈夫^^直樹は何しても何食べててもカッコイイもの♪
お芋を頬張る琴子がかわいいなぁ^^

うーーーん。二人だけの秘密の時間にうっとり♪
それに久々の金ちゃん^^
原作そのものを読んでるみたいで水ちゃんには
脱帽だよ^^
さあや |  2009.03.13(Fri) 22:03 |  URL |  【コメント編集】

★不釣合い?

水玉さん、こんばんは。美術学校の件は二人だけの秘密の状態なんですね。部屋で絵の方描いているのですね。夜食を運んだりして甲斐甲斐しくしているのですね。そんなある日自殺の現場に。身分違いで、女性が無くなったのを目のあたりにしてショック状態。そこに金ちゃんがお店を開店して琴子を直樹の自宅まで。直樹はメチャ機嫌が飼ったようです。金ちゃんのことを褒めると関係ないねと。琴子はやはり自分も直樹とは身分違いなのかと・・・・。可哀想な琴子ですね。直樹は琴子のこと嫌いなのでしょうか?
tiem |  2009.03.13(Fri) 22:19 |  URL |  【コメント編集】

金ちゃん、かっこいい。リキシャマンってことはきっとアリエル好みのお身体なのよね・・・ふふふ
しょんぼり琴子が切ないね。身分っていやな言葉っ!!!
「身分違い」てたしかに浪漫感じるけど、「身分」ていうのは好きじゃないわ。
人間は平等だもの。だから、琴子がんばれ!!!
アリエル |  2009.03.13(Fri) 23:08 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

さあやさん
そう言ってもらえるとうれしい♪
最近、原作のイメージとかなり離れ過ぎているのでちょっとまずいなあと心配しているの…。
読み返す時間ないしなあ…。うーん…(笑)

tiemさん
嫌ってはいないと思いますよ^^

アリエルさん
リキシャマン(笑)、受け入れてもらえてよかった♪実は私、人力車好きで、いつか載るのが夢だったりする…。この時代はまだ身分が生きていたよね(表向きは平等と謳われていたけど)。今は平等で本当にいい世の中になったものだ。ま、裏テーマが身分違いの恋(のつもり)ということで(笑)

水玉 |  2009.03.18(Wed) 08:58 |  URL |  【コメント編集】

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