日々草子 万華鏡 14

万華鏡 14

新しい年が明けた。
直樹は余裕で帝大に合格し、琴子も女学校の卒業を待つのみとなった。
琴子はギリギリまでことあるごとに、直樹に「美術学校に進め」と勧めたが、父親の言うとおり、帝大へと直樹は進むことにしてしまった。でも絵は趣味で続けるらしいのでそれだけは琴子は胸を撫で下ろしていた。

琴子は学校で裕子と話す機会がたまたまあった。もうあまり会うことがないだろうということと、裕子は卒業後どうするのだろうと気になっていたこともあり、思い切って訊いてみた。
「…松本さんは卒業後どうするの?」
「そうね。教師になるのも向いてないから女子師範には進まなかったし。外国へでも留学しようかしら?日本は狭苦しくて息が詰まるわ。」
「松本さんのお家は華族様でしょう?…その縁で直樹さんと縁談を進めようとか思ったりしないの?」
裕子は自分にはない“身分”というものを持っている。それが琴子には気になる。
「冗談じゃないわ。」
裕子の答えはきっぱりとしたものだった。
「確かに親の言いなりになって結婚する人が多いわよ?でも私は嫌。親の力を借りて結婚なんてまっぴらよ。そんなことで結婚したって嬉しくないわ。自分の力で振り向いてもらわないと。」
琴子はそう言い切る裕子を、惚れ惚れと見つめた。直樹を好きな者同士なのに、なぜだか裕子を憎めない理由が今、琴子には分かった気がした。

そして琴子と直樹は卒業し、それぞれ新しい生活が始まった。
琴子は紀子から家事全般を教わる花嫁修業にいそしみ、直樹は帝大へと通う。直樹は密かに絵を描くことを続けており、仕上がった作品を琴子が見せてもらうという生活も変わらなかった。

春が過ぎ、夏が過ぎ、まもなく秋が来ようかという頃、直樹の帰宅が遅くなり始めた。
家の者には、「大学で勉強している」と言っているようだが、何だか疲れている様子で琴子は直樹の体が心配でたまらない。

そんなある時、紀子に頼まれた買い物をした帰り道、琴子は珍しい人間に声をかけられた。
「居候ちゃん!」
それはちょうど1年くらい前に入江家を訪れ、絵の勝負をするはずだった須藤だった。
「あ…須藤さん。」
何とか琴子は須藤の名前を思い出し、挨拶をした。
「あいつ、最近疲れてない?」
「あいつ?直樹さんのことですか?」
須藤の言葉に琴子は首を傾げた。
「あ、いや…。あいつ、やっぱり絵の道に進みたいんじゃないかなと思っただけ。」
「それはそうだと思いますけど…。」
何だか歯切れの悪い様子で須藤は琴子の前から立ち去った。
何か知っているのかもしれないと思ったが、琴子も一度しか会ったことのない人物に深くは訊ねることはできない。
とりあえず、その場はそのままとなった。

11月になり、直樹の誕生日が近づく。琴子は何か贈り物がしたくてしょうがなかった。
昨年は誕生日の贈り物というわけではないが、着物を縫って贈った。今だ、直樹は袖を通してくれないが。せめて寝巻きとしてでもと琴子は期待しているが、まさか深夜に部屋に忍び込んで確認するわけにはいかない。

「美術関係の本とか…どうかしら?」
琴子はそう思い、書店へと足を運んだ。が、思った以上に値段が高くて琴子には買えなかった。
溜息をつきながらトボトボと歩くと、一軒の古書店が目に飛び込んできた。何となく琴子はその店へ入る。
あまり広くない店を琴子は見て回った。いろいろな種類の本が置かれていて面白い。
その中で琴子は綺麗な絵が描かれた画集を見つけ、これだと思い、買うことにした。値段も手ごろでちょうど良かった。
「これ、くださ…。」
そう言いかけ、琴子は目を丸くした。
そこにいたのは、直樹だった。

「直樹さん、なぜここに?」
琴子が驚いて訊ねると、直樹は面倒な奴に見つかったという顔をした。
「…働いてるんだよ。」
渋々直樹は答える。
「学校は?」
「学校が終わった後に。」
「何のために?」
矢継ぎ早に来る琴子の質問に、直樹は観念して説明を始めた。
「来年、美術学校を受験することにしたんだよ。その為に今、須藤さんに紹介してもらった絵の先生に教わってるんだ。その教授料と…あと、受かった後の学費のため。」
その瞬間、琴子の顔が明るく輝いた。
「じゃあ…やっぱり絵の道に進むのね!」
直樹の手を取って琴子がはしゃぐ。
「絶対に家の人間には言うなよ。」
直樹は琴子に手を取られたまま、釘を刺す。
「え?だってすぐにばれない?」
「ばれないようにするんだよ!」
「いつまで…?」
「卒業するまで!」

それはかなり難しいのではないかと琴子は思ったが、今はとりあえず、自分が本心から進みたい方向へ進む決心をしてくれた直樹が嬉しかった。
「で、お前、こんなもん買って、どうすんだよ?」
直樹は琴子が置いた画集を手にして訊ねた。
「あ、それ、直樹さんのお誕生日の贈り物にしようかなと。」
「…お前は古本を俺への祝いの品にするのかよ。」
直樹の嫌味にも、琴子はめげずに笑った。とにかく嬉しくてたまらなかった。

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♪あとがき
忘れたころに登場する男、須藤さん…。
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comment

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琴子の健気な想いがだんだん直樹に通じてきたね。頑張れ琴子!!
一つ一つのエピソードがきちんと原作にリンクしてるあたり・・・さすがだ、水ちゃん先生!

水玉さん、こんばんは。直樹は親の意見を聞いて帝大受けて合格して大学生です。琴子は花嫁修業中です。でも直樹は夢を琴子の言った美術学校をを受験すると。そのために働いていると。家族には内緒にと。琴子にだけは直樹素直に打ち明けてくれたのですね。ガンバレ直樹。ばれないように。琴子も秘密守ってね。

実は。。。

仕事中に、このお話の妄想がとまりません。
水玉さんの素敵な話の足元にも及びませんが…
はぁ~~!これからどうなるのかしら?
楽しみです。リクはメールで送りますね。
実は、凄く嬉しくて、嬉しくて♪

琴子は本当に自分の気持ちに正直ですね。
そしてシチュが違うのにしっかり原作とシンクロさせるなんて水玉さんホントにスゴイ!
でも今回のツボは「あとがき」でした(^。^)

ありがとうございます

コメントありがとうございます♪

アリエルさん
先生は恥ずかしい~!!
まあ…少々無理あるなと自分で思いつつ強引に描いていたりしるんだけど(^^ゞ
それにしても、琴子よ、なぜそんなにお金がないのだろうか(笑)仕送りしてもらってないの?と自分で突っ込んでいます(笑)

tiemさん
大丈夫!琴子は口が堅い子だから絶対秘密を守ります!

チェンさん
チェンさんの妄想、どんな感じなのでしょうか^^
リクエスト、お待ちしております。
お暇なときで大丈夫ですからね♪

ラテさん
あとがき、ツボに入ってくれてありがとうございます^^
けなげな琴子は書いていてとても楽しいです♪

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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