日々草子 中華料理 直琴軒 2

中華料理 直琴軒 2

今日も繁盛している中華料理・直琴軒。
料理の腕は天下一品だが、無愛想で口数が少なく、しかし男前の店主とそれをカバーするかのように愛想のいい、でもちょっとドジで抜けている可愛い奥さんが二人で切り盛りしている。

「いらっしゃい…あ、裕樹くん!好美ちゃんも!」
店に入ってきた客の顔を見て、琴子が歓声を上げた。
「こんにちは!琴子さん!食べに来ました!」
そして二人は空いているテーブル席へと通される。

「すごいお客さんだね。」
店内の混雑ぶりを見回しながら好美がそっと裕樹に囁いた。
「そりゃ、お兄ちゃんの腕なら当然だろ。」
裕樹はちょっと自慢気に好美へ返事をすると、壁に張られたメニューに目をやる。
「早く決めろよ。お前、本当にトロいんだから。」
「はーい。」
そう言って、好美もメニューを見た。
「何にしようかな…でもほとんど読めないんだけど。」
メニューは中華なのでほとんど漢字。それも振り仮名が振られていない。
「あ、これにしよう!」
好美はメニューの一箇所に目を止めて、声を上げた。

その時、琴子が水を持ってやってきた。
「決まった?どれもお勧めよ。」
「はい。あたし、しゃぶしゃぶ定食にします。」
好美の言葉に裕樹は目を丸くする。
「はーい。しゃぶしゃぶ定食一つね!」
琴子も普通に伝票に記入する。

「ちょっと待て!」
裕樹が二人の間に割って入った。
「…どこにそんなメニュー書いてあるんだ?」
裕樹の目にはどこにもそんな名前は入ってこない。
「え?あそこ…。」
好美が指をさす。そこには…
『回鍋肉定食』
と貼られている。
「あれ、しゃぶしゃぶ定食だよね?鍋の中で回すお肉って、しゃぶしゃぶでしょう?」
「お前は馬鹿か!」
裕樹は兄譲りの罵声を好美に浴びせた。
「しゃぶしゃぶは、鍋の中で肉をこう揺らして食べるものだろうが!鍋の中でぐるぐる回すか!」
裕樹はしゃぶしゃぶをする手付きをしながら説明する。
「あ、そっか。」
好美はエヘヘと笑った。
「お前もお前だ!」
裕樹は今度は琴子に向き直る。
「自分の店にしゃぶしゃぶがあるかどうか、知らないのかよ!中華料理店にしゃぶしゃぶがあるなんて聞いたことないぞ!」
「え?だってあるのかなあって。実はあたしもこのメニュー、ほとんど読めないんだよね。」
琴子も好美同様エヘヘと笑う。
裕樹は溜息をついた。
「じゃ、琴子さん、あたしそれでお願いします。裕樹くんは?」
「僕もそれでいいよ。」
琴子は厨房へ向かって声を上げた。
「入江くん、それ二人前!」
「それじゃ何だか分からないだろうが!」
しかし琴子は裕樹の言葉に耳を貸さず、スタスタと厨房へと歩いて行った。

驚くことに直樹はきちんと回鍋肉定食二人前を用意した。
「はい!しゃぶしゃぶ定食!」
そう言いながら琴子は回鍋肉定食をテーブルに置く。
裕樹と好美は一口食べ、同時に、
「おいしい!」
「うまい!」
と声を上げた。

裕樹は食べながら店内を見回した。琴子がさほど広くない店内をコマネズミのように動き回っている。その時、琴子の腰に眼鏡の男が手を回そうとしていた。
「あいつ…。」
と裕樹が腹立たしく思った時である。
ドスッ!
眼鏡の男の傍に何かが刺さったのが、裕樹の目に飛び込んできた。
…中華包丁だった。
その瞬間、眼鏡の男を含め、周囲の客が静まり返った。

「すごい!今の見た?裕樹くん!」
どうやら好美も見ていたらしい。
「ああ…。」
周囲の客同様、裕樹も青ざめている。
「あれってお客さんを喜ばせる、直樹さんのサービスよね?」
好美の口から出た信じられない言葉に、裕樹はあんぐりと口を開けた。
「よく外国料理のレストランなんかであるじゃない?ショーとか見せるの。これもそうだよね?」
ショーだったら周囲の客から歓声が起きるだろうと裕樹は言いたかった。が、言う気力がなかった。好美がそう信じているのなら信じさせておこう。
「常連さんになればサービスしてもらえるのかな?」
あんな目に合うのなら常連なんかになりたくない。

「あれはだな…。」
あまりに信じ切っている好美が哀れになり、「お兄ちゃんが琴子に男が近寄らないよう牽制しているんだ」と、裕樹が説明しようとしたその時、
ドスッ!
裕樹と好美の間に今度は刺身包丁が刺さった…。

「すごい!裕樹くんが身内だから特別サービスしてくれたのね!」
手を叩いて喜ぶ好美。
一方、更に青ざめながら裕樹はそっと厨房を覗いた。すると、「余計なことを行ったら…」と言わんばかりの冷たい目をした直樹が睨んでいた。
「そ、そうかな?」
その視線に怯え、裕樹は本当の理由を言わなかった。ただ、
「なぜ中華料理店に刺身包丁があるのだろう…。」
という疑問は残ったが。

「あ、ごめんね!こっちにまで飛んできちゃったのね。もう入江くん、二本も飛ばすなんて珍しいなあ。」
笑いながら琴子が包丁を抜いた。
「たまに手元が狂うんだって。ごめんね、好美ちゃん、驚いたでしょう?」
手元が狂った時は、大抵自分の指を切ったりするもんだけどなと裕樹は思ったが、また飛んでくると怖いので黙っていた。
「ううん。面白いです!」
その言葉に琴子は安心したようだった。
「入江くんってね、最近包丁集めに凝ってるの。いろいろ集めて大変なんだよね。」
それは投げる回数が多いってことなのかと裕樹は思ったが、やはり口にはしない。
琴子は包丁を二本ぶら下げて厨房へと戻って行った。

「入江くん、やっぱりメニューに振り仮名ふってよ。」
その夜、店を閉めた後、琴子はテーブルを拭きながら直樹に頼んだ。
「お前が勉強すればいいだけの話。」
直樹は包丁を丁寧に研ぎながら返事をする。
実のところ直樹は、毎回琴子がメニューをどんな風に言い間違いをするのか楽しんでいる。しかし、客の要望にはきちんと答えねばならないので、しっかりと客と琴子との会話にも耳を傾けているのだった。
「ケチ…。あ、また包丁買うの?」
包丁を研ぎ終わり、直樹は包丁のパンフレットを見始めていた。
「もう。余計な物ばかり買わないでよね。そんなにいらないでしょうが。」
琴子は頬をふくらませた。
「…もうちょっとよく跳ぶ奴がいいんだけどな。」
「え?何?」
琴子は直樹が何を言ったのかよく聞こえなかったらしい。
「いや。何でもないよ。」
直樹は注文書に購入する包丁の品番を記入し始めた…。

-------------------------------------------
☆あとがき
おかげさまで55555番超えましたので、またもや書いてみまいした。
何だかこの話は、節目に書きたい気がします^^
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comment

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節目ごと!?

よっしゃあ!!!水ちゃんちは節目がすぐ来るもんね~~~へっへっへ 楽しみ楽しみ!
今回ももれなくツボ処では噴かせていただきました!はずしてないはずです!

お腹すいたよ~

ついさっきまでお仕事で腹ペコのヒロイブは、電車から今晩は(^-^)/です。しゃぶしゃぶのくだりでマフラーに顔を埋める、傍から見るとかなり犯罪者チックでした。ニヤニヤしてるし…(;^_^A
ホイコウロウでもしゃぶしゃぶでも入江君の作ったもんなら何でもいい!今すぐあたしに食べさせてくれ~!いくら美味しいコーヒーがぶ飲みしてもお腹は膨れません(;_;)あぅ今日もまた、真夜中に食事をしてしまうわ…年を考えないと……こんなんじゃ入江君に嫌われてしまうわ

祝!シリーズ化!

先生最高です!!!!!
そうか・・・直樹の趣味は包丁集めだったのね(笑)
きっと厨房には色んな種類の包丁がズラッと・・・
想像すると笑いが止まらない

入江直樹
右の者、盗み聞き・地獄耳帝王の称号を与える。

客のために振り仮名ふってほしいです。
しかし、回鍋肉の解釈がしゃぶしゃぶに笑いました!そして妙に納得したり。

涙が止まらないよ!!

水玉さん、おはようございます。早朝からお腹抱えて一人で笑いこけています。直樹&琴子もですが、裕樹&好美ちゃんコンビもう最高ですね。漫才のツッコミとボケの感じで。もう本当に面白いです。中華料理は本当に判りにくいのもありますが。しゃぶしゃぶには参りました。目のかゆさも何処か今飛んでいきました。又次回も宜しくお願いします。又包丁の数が増えているのかなぁ?と期待しつつ。

おはよう(*^_^*)

万華鏡ではしっとりと優しさと可愛らしさいっぱいの直樹と琴子に堪能させてもらって、そのあとは甘い甘いにお話にテンションがあがってね。そして直琴軒には爆爆爆

肉を回す鍋って
さすが水ちゃん♪
さあやは激辛にして食べるのがすきだわ。
直樹の研いだ包丁!切れ味最高だろねんほしーぞっ♪

ありがとうございます

読んで下さってありがとうございます^^

アリエルさん
いやいや、そんなことないです(^O^)/
…そしてすでにネタ切れなんですが、どうしよう…(^_^;)
アリエルさんのツボがどこなのかが非常に気になります~(笑)

ヒロイブさん
私もこれ書きながら、回鍋肉が食べたくてたまらなくなりました。頭の中で中華鍋が音を鳴らしている様子がぐるぐる回っていましたよ(笑)

ミルクさん
そうです。料理一筋の彼の唯一の趣味は包丁コレクターに違いないです(笑)
そしてイチローが毎日グラブを丁寧に磨くことと同様、入江くんも毎晩包丁を丁寧に研いでいるに違いありません(笑)

はぎさん
うるさいと思われる厨房にてすべての言葉に耳を澄ませているんでしょうかね?
それにしても聖徳太子みたいな人です…笑

tiemさん
裕樹&好美ちゃんはめったに書かないですが、たまに書くと面白いです♪
でも私が好美ちゃんを書くとやや天然ボケすぎる気が…(^_^;)

さあやさん
通信販売で購入した後、厨房の引出し(赤い布が敷かれている)にずらりとさまざまな種類の包丁が並んでいるのかも…笑
でもこんなに包丁投げるのが上手だったら、ダーツも上手なのかなあとそこまで妄想が広がっております^^

笑える

初めての訪問ですがかなり笑えました
まだ2話目だというのに
ヾ(^▽^)ノかなりの爆笑です
私のツボにひいりまくり
これからも読まさせていただきまーす
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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