日々草子 万華鏡 10

万華鏡 10

休みの日。
直樹は玄関にていつもの制帽、制服姿で琴子を待っていた。
「ごめんなさい!待たせちゃって!」
琴子の声に直樹は「遅い!」と言おうとしたが、現れた琴子の姿を見て口をつぐむ。
いつものお下げ髪を今日はほどき、背中に垂らしている。そして大きなリボンを飾っている。
そして和服ではなく、今日は洋装だった。琴子が和服を脱いだのは今日が初めてである。
いつも洋装の直樹に合わせたことと、以前見た裕子の姿が忘れられなかったことが理由だった。
直樹の無言の態度に、もしかして似合っていないのか不安になり、琴子は、
「あの…せっかくたくさんお洋服を作っていただいたから、着てみようかと思ったんだけど。やっぱり着替えてきます。」
と、慌てて自室へ戻ろうとした。その姿に直樹は慌てて、
「いや。もう時間ないから。」
と止める。本当はいつもと違う琴子の姿に見とれていたのだが、そう言うわけにはいかない。
結局、琴子はそのまま出かけることにした。

「ここ!友達に教えてもらったの!」
琴子が見たがっていた活動写真館に二人は到着した。
「とても面白かったって。」
笑顔を見せる琴子とは対照的に、直樹は、
「くだらない。」
と思っていた。が、今日は琴子の頑張りに対する御褒美の外出なので文句は言えない。

活動写真はやはり直樹にとって面白いものではなかった。退屈し始めた直樹の隣では大声を立てて琴子が笑っている。
「女がそんな大口開けて…。」
と呆れる一方、不思議と嫌ではなかった。
その後、琴子は笑ったり、起こったり、泣いたりと忙しい。直樹は活動写真よりも琴子の表情に惹きつけられ、目が離せなくなっていた。こんなに表情がクルクルと変わる女性は初めてだったから。琴子の方は活動写真に夢中になり、直樹の視線に全く気づいていない。
結局、直樹は琴子を見ることで時間をつぶしていた。

「どうだった?活動写真。」
その後入ったあんみつ屋(もちろん、琴子が誘った)で琴子は直樹に訊ねた。琴子に訊かれ、直樹は一瞬言葉につまる。なぜなら琴子の顔に夢中で内容を全然見ていなかったのだった。
「…まあまあ。」
そう言って直樹は誤魔化した。琴子はその言葉を大して疑いもせず、
「そう?私は楽しかったけどな。」
とおいしそうにあんみつを口へ運ぶ。よくそんな甘い物を食べられるものだと直樹は思いながらお茶を啜った。

「じゃ、帰るか。」
直樹がそう言った時、琴子は、
「えー!まだ行きたい所があるの!」
と騒ぎ始めた。
「活動写真が見たいって言ったのは、お前だろうが!」
「だけど、せっかくのお出かけなのに…これだけで帰るのは勿体無いじゃない。」
琴子は口を尖らせる。どうやら他にもいろいろと計画を立てているらしい。
「今度は直樹さんも楽しめる場所なの。」
そう言う琴子に、直樹は結局負け、今日は一日付き合うことを観念したのだった。

次に琴子が直樹を連れてきたのは美術館だった。
「直樹さん、絵を見るの好きでしょう?」
琴子は嬉しそうに言った。
「わざわざ俺の好みに付き合わなくても…。」
せっかくの御褒美なのに、自分を気遣う琴子にちょっと直樹は申し訳なくなってきた。
「ううん。私も直樹さんと色々な絵が見たいから。」
ここは自分が持つからと、琴子は嬉々として入館料を払いに行った。が、すぐに戻ってきたので直樹は不思議に思った。
「どうしたんだよ?」
「…お金足りなかったの。」
結局、入館料も直樹が払うことになった。

中で琴子は画家についてあれこれと直樹に訊ねる。直樹も嫌いではないので丁寧に説明してやる。幸い、あまり人はいなかったので二人の会話を騒がしいと思われることはなかった。
直樹が真剣に絵を見ている時、琴子は何も訊ねず、黙って直樹の横顔を見ていた。
「きれいだなあ。口は悪いけど。でもこうやって付き合ってくれるし、優しいところもあるのよね…。こうやってずっとこの顔を見ていられたらなあ。」
そこまで思って琴子は、
「今、私、ずっと見ていられたらとか思った?何で?」
と首を傾げる。そして首をまたもやブンブンと横に振る。
「何やってんだ?」
挙動不審な琴子を見て、直樹が声をかける。琴子は何でもないと慌てて誤魔化した。

「あ、この間裕子さんに絵を出さなかった理由を聞いたの。」
琴子は話題を変えた。
「なんかね、喧嘩になってしまったんだって。それで仕上がらなかったみたいよ。」
「あの二人のやりそうなことだ。」
直樹はさして興味もなさそうに言った。

美術館を出た後、二人は町をぶらぶらと歩き始めた。直樹も今日を楽しんでいることに気がつき始めている。ふと隣を見ると琴子の姿がなかった。
どこへ行ったのかと周囲を見回すと、一軒の店先に琴子の姿があった。
「おい、何してるんだ?」
背後から声をかけられて、琴子は驚いて振り返った。
「あ、ごめんなさい。これ見てたの。」
そう言って琴子が差し出した物は、万華鏡だった。
「綺麗なのよね。万華鏡って私、大好き。」
そう言いながら、琴子は自分の目に万華鏡を当ててクルクルと回す。
その様子を見ながら直樹は、次々と色々な表情を見せる琴子が万華鏡みたいだなどと思っていた。

「これ、いくらですか?」
直樹は店主に値段を聞き、言われたとおりのお金を払った。
「いいの?」
突然の直樹の行動に、琴子は目を見張った。
「こうでもしないと、お前、いつまでもここから動かないだろう。」
そんなぶっきらぼうな直樹の態度だったが、琴子は嬉しさを隠せない。
「ありがとう!」
そう言って、大事そうに万華鏡を胸に抱き店を後にしようとしたその時、
「えー、もうないの?」
という女の子の声がした。
二人が振り返ると、店先にて小さな女の子が泣いている。
どうやら万華鏡が欲しかったらしいのだが、琴子が買ってもらった物が最後の一つだったらしい。もう店にないと知り、泣き出しだのだった。
その子を見た後、琴子は買ってもらった万華鏡をじっと見つめた。そして、店に戻り、その女の子に、
「はい。」
と渡した。女の子は一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔になり、その万華鏡を受け取った。女の子と一緒にいた母親が恐縮しいいのかと琴子に訊ねたが、琴子は笑ってすぐに直樹の元へと戻ってきた。
「いいのかよ。あれ、あげちゃって。」
直樹の問いかけに琴子は、
「いいの。」
と答えた。が、すぐに、
「あ、ごめんなさい。せっかく直樹さんに買ってもらった物なのにあげてしまって。」
と直樹に謝った。
「それは別に構わないけど。」
直樹は琴子の人の良さにまたもや呆れ半分で答える。
「もうそろそろ日も暮れるから…最後にもう一か所付き合ってもらえる?」
一応訊ねつつも、琴子は一緒に行ってもらえるものだと思っている。
直樹も拒否せず、琴子の後についていくことにした。

--------------------------------------------------
♪あとがき
花粉症で生活に多大な支障がきたされているので、好きな事でもしてれば気が紛れるかなあと…連続更新しちゃいます^^
しかし私もいい加減学習しろって感じですね。
突然更新しまくる癖、これもう治りそうにないです(^_^;)
関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

なんだかとっても・・

いい雰囲気な2人じゃないですか!!
花粉症で苦しくて憂鬱なのも更新のおかげで
気が紛れちゃいます~ありがとうございます
続き楽しみにしてます!

その癖治す必要なし!
いっぱい読めて大歓迎です♪でも花粉症は早く治るといいですね。
せめて症状が楽になればいいですね。

琴子の表情を万華鏡にたとえるなんて、やっぱり水玉さんスゴイです\(^o^)/どちらが先に自分の気持ちに気づくのか?楽しみです♪

一気アップ万歳!v-428
一気読みしたわン。浪漫じゃのう・・・なんか、初々しくっていいわぁ・・・。「直樹さん」って呼び方がまた何ともツ・ボv-398
頭の中で、コスプレイリコトが動き回ってるわv-344(←主に琴子)

水玉さん、おはようございます。更新されていたのですね。ありがとうございます。ご褒美の活動写真一緒に。いつもの和装から、洋服姿の琴子を見て先制パンチ、写真館で又パンチ表情がコロコロ変わるから、美術館では普通かなぁ。お店で万華鏡直樹に買って貰ったのに泣いている女の子に購入した万華鏡をあげている琴子にパンチ。本当にめまぐるしく表情が変わりますね琴子は。でもそれを見ている直樹の心も少しずつ変化してきているのかなぁ。琴子によって。楽しいですね、直樹の表情が変わるのが。次は何処に行き琴子の変化を直樹の心の動きが気になります。花粉症とは縁が無いと思っておりましたが、最近メチャ目だけがかゆいかゆい。まさかねぇと自分では思っていますが。

連続更新メチャメチャ嬉しいです!!
そして、退屈なんて・・・楽しみで楽しみで仕方ありません!!
万華鏡のタイトルがでてきてビックリでした。ホントすごい文書力ですね。改めてすごい!!!!!と思ってしまいました。
水玉さんの書く入江君(直樹さん)はホント大好きです。
完全に恋してます(笑)
続き楽しみにしてます。





ありがとうございます

読んでくださってありがとうございます♪

ミルクさん
私も花粉症ピークで、ひたすらこれを書くことで気を紛らわせている状態です(ーー;)外に出ないで楽しめますからね(笑)

ラテさん
気を遣っていただき、ありがとうございます。
突然やたらとスピード上げる癖、直らないとそろそろ諦め始めました(^^ゞ
三月はこんな調子ですね…(汗)

アリエルさん
この時代、「入江くん」はちょっと無理があるし、「入江様」だとそれこそ女中さん(笑)だから「直樹さん」にしたんだけど。浪漫を感じてもらえてよかったわ♪

tiemさん
それは恐らく花粉症ですね(笑)
結構デビューする方多いんですよね。あまり症状が悪化されないことを祈っています^^

うーちゃんさん
文中に万華鏡を出したことで、とりあえず第一関門クリアした感じがします^^
嬉しいお言葉ありがとうございます。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク