日々草子 万華鏡 8

万華鏡 8

琴子は何とか落ち着き、顔を洗いに洗面所へと向かった。
応接間の前を通りながら、つい中で何を話しているのか気になってしまい、琴子は立ち止まってしまった。

「…だから、勝負しようって言ってるんだよ。」
「…嫌です。」
何だか直樹と先程の男性が言いあっているみたいだ。琴子はドアの傍に近づき耳をつける。立ち聞きは行儀のいいことではないと思いつつも、気になって仕方がない。
「だから…裕子さんが…。」
「私が!?」
あの人、裕子さんっていうのかと琴子は思いながら耳をすませる。
そのうち、中の足音がこちらへ近づいてくることに琴子は気づいた。
「え?どうしよう…。」
慌ててドアの前から体を離したことと、ドアが開いたことはほぼ同時だった。

「…いたじゃないか。」
中から現れたのは、客の一人の男性だった。男性は琴子を見るなりそう呟く。
「え?」
何が何だか分からない琴子だったが、男性に腕を引っ張られて応接間の中へと連れてこられてしまう。
「この子!お前の家の下宿人!この子に描いてもらえよ!」
男性が叫んだ。
「描く…?」
「はあ!?」
琴子と直樹が同時に声を発した。
「お前の顔を、この子が描くんだよ。で、おれの絵を裕子さんが描く。賞を取った方が勝ち。」
「ええ!?」
男性の説明に、琴子は叫んだ。
「か、描くって…もしかして絵!?」
直樹も叫ぶ。
「こいつが!?」
「そう。いい考えだろ?」
男性が胸を張って答えた。

「無理だ、絶対無理だ!」
いつもの冷静な態度はどこへ行ったのか、直樹が取り乱して抗議する。琴子は珍しいものを見るかのように、直樹の様子を見ていたが、自分にも無関係じゃなかったと思い出し、一緒に抗議を始めようとした。が、何を思ったのか、
「か、描きます!直樹さんの顔!」
とつい叫んでしまった。
「おい!」
何を言うとばかりに、直樹が琴子を見た。
「大丈夫!あたし、こう見えても小学校の頃、絵で一等取ったことあるもの。そりゃ直樹さんほど上手じゃないけど、頑張る!」
一番驚いているのは、喋っている琴子だった。何でこんなことを…と思いつつ、口が止まらない。
「じゃ、決まりだな。勝負は一カ月後の展覧会でということで。」
そう言い残し、男と不満そうな裕子は部屋を出て行った。

「えーと…。どうしてこんな話になっちゃったのでしょうか?」
琴子がおずおずと直樹に訊ねる。
「…俺が聞きたい。」
直樹は溜息をついて答えた。
「おい。」
直樹がいたたまれずに部屋を出ていこうとする琴子に声をかけた。
「お前、本当に自信あるんだろうな…?」
「自信…少しなら…。」
「俺は今まで人に負けたことがないからな。」
ああそんな感じだわと琴子は思ったが、恐ろしくて口には出せない。
「とりあえず、今夜、お前の実力を見せてもらおうか。」
「こ、今夜!?」
「夕食が終わったら、俺の部屋に来いよ。分かったな?」
直樹は琴子を押しのけて、部屋を出て行ってしまった。
「今夜…。どうしよう。」
今更ながら、自分の行動を琴子は後悔し始めていた。

夕食後、琴子は恐る恐る直樹の部屋をノックし、促されるまま中へ入った。
「よろしくお願いします…。」
初めて入る男性の部屋で緊張が高まっている上、これから何がどうなるのか不安でたまらない。
「じゃ、まず、一等の腕前を見せてもらうから。」
そう言って、直樹は紙と鉛筆を琴子へ渡す。
「何、これ?」
受け取りながら、琴子は直樹の顔を見た。
「とりあえず、俺の顔を描いてみろ。ラフでいいから。」
そう言って、直樹は部屋の片隅の椅子に腰を下ろした。
「いきなり?」
「一等取ったんだろ?」
その言葉に逆らえず、琴子も傍の椅子に腰を下ろし、何とかやってみようと紙に向かい始めた。

1時間後。
「描けた?」
直樹が琴子に声をかけた。琴子は夢中になって紙に向かっている。
「おい。」
直樹が椅子から立ち、琴子の傍へと近づく。
「おい!」
耳元で叫ばれ、漸く琴子は直樹の存在に気が付いた。直樹はそのまま紙に目を向けた。が、その瞬間、
「何だ!これは!?」
と叫んだ。その声の大きさに琴子は思わず耳を塞いでしまった。
「何だって…直樹さんの顔。」
「これが、これが俺か!?」
直樹の手には、直樹とは似ても似つかない顔が描かれた紙が握られている。

「結構、うまく描けたつもりなんだけど…。」
そう言って、琴子は笑う。
「いいか。もう一度描いてみろ!」
そう言い残し、直樹は椅子に戻った。恐らく緊張してうまく描けなかったに違いない。二度目なら慣れて勘を取り戻すだろうと直樹は楽観していた。
が…。

「お前、本当に一等取ったのか!?」
二度目も悲惨な出来上がりだった。
「取ったわよ!」
琴子も自分が一生懸命描いたものを否定され、ムキになって言い返す。
「今度は結構似ているはずよ!描きながら思い出したのよね。先生が“人の似顔絵を描く時は、その人の特徴を大げさだと思うくらいに描け”って言ってたことを。」
自分が描いた絵を見ながら、琴子はこれのどこが不満なのかといった感じだ。
「で、どこが俺の特徴だと…?」
「ここ!眉間の皺!直樹さん、いつもここに皺寄せているから!あとこの目!吊り上った感じがなかなかいいと思わない?」

自慢気に話す琴子が、直樹は腹立たしい。
「お前、一等取った時、何描いたんだ?」
「私の好きなものっていうお題だったけど?」
「お前の好きなものって何描いたんだよ?」
「…大福。」
その瞬間、直樹は琴子に描かせると決めた自分を呪いたくなっていた。
「あ、大福もちだけど、豆大福よ?」
「どうでもいい。」
最早、言い返す気力もない。
「だって大福も直樹さんも白い所は似ているでしょ?大福に目、鼻、口を描けば直樹さんにならない…。」
「なるわけないだろうが!」
直樹は怒鳴りつけた。

「大体、お前さっきから俺のこと全然見て描いてないだろう?」
気を取り直し、直樹は琴子を徹底的にしごくことにした。
「だって…。」
直樹の綺麗な顔をじっと見つめて描くなんて、恥ずかしいと琴子は言えなかった。なぜだか知らないが、二人きりでいるだけでもたまらないのに、じっと見つめるなんて無理だと琴子は思っていた。
「こうやって描くんだよ!」
直樹が琴子の手に自分を合わせて、描き始める。琴子は心臓がドキドキしてとても直樹の話など聞いていられない。
「…分かったか?」
ほとんど聞いていなかったが、これ以上直樹を怒らせるのは控えたかったので、琴子はとりあえず頷いた。
「じゃ、今夜はここまで。また明日の夜。」
そう言って、直樹は椅子を片付け始めた。
「はーい…。」
絵を描くのは不安でたまらないが、また明日と直樹に言われ、琴子はうきうきする自分が不思議でしょうがなかった。

---------------------------------
★あとがき
出し惜しみするほどの話でもないので(^_^;)、さっさとUPします(笑)
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水玉さん、連続更新ありがとうございます。絵で勝負。直樹の顔を琴子が、松本女史が男性のを。1ヶ月後の展覧会で決着をと。女史の方は不満そうな顔をしていましたが。しかし豆大福を描いて1位ですか?直樹は負けたことがないと言っていますが。どうするの琴子。直樹は絵を見てやり直しを命じます。俺を見て描いていないと。毎晩練習するからと。琴子は喜んでいますが。はたして、直樹の顔を見て描けるのでしょうか。心配ですね。ましてや二人きりで部屋で描くのですから。

直樹の顔を見て描くなんてー(汗)
さ、さあやにはできない(照照照)手汗^^;
←心配しなくてもいいことでした^^;

しっかし、今回は大福に吹いたよぉー^^
しかも豆大福…(笑)
さーやは、某和菓子屋さんの塩大福なら唯一食べれます
^^あ、勿論お豆入りよん♪

続けてup嬉しいです。
原作と離れてるのに、原作の直樹と琴子でイメージそのままな作品ですごいです!!やっぱり水玉さんはみなさんの言うとおり天才ですね!
これからどうなるのかすごく楽しみです。

大福(豆)に眉間の皺と吊り目…(`´)琴子画伯の絵見てみたい♪

ありがとうございます

コメントありがとうございます

tiemさん
もう本当に無理のある展開で申し訳ないですが、とにかく最後まで書くつもりです^^

さあやさん
私だって絶対描けない(笑)←絶対描くことはないけれど(笑)
某和菓子屋さんって巣鴨…?私はどら焼き&お団子は食べるけど、大福はあまり食べないの…(^_^;)
いつもコメントありがとうね♪

うーちゃんさん
天才だなんて…全然違います!なんてことを(笑)!
もう自分で自分の首を絞めているなあとつくづく後悔しているんです…(涙)
一応原作をベースにしているつもりが…やっぱり自分に見合ったことをやるべきですね…。

ラテさん
…もしかしてあの数分だけUPして引っ込めたアレをご覧になったとか…?
いえ、気にしないでください(笑)

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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