日々草子 ミスター円周率に負けた春
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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最新記事

高校2年生の春、俺はサッカー部でレギュラーを勝ち取り、充実した高校生活を送っていた。

「啓太、ファミレスで食べて行こうぜ!」
部活帰り、友人が俺を誘った。
「面白いファミレスがあるんだよ。」
「俺、ファミレスで食べるほど、金ないぞ。」
しがない高校生。せいぜいファストフードで食べるくらいしか金はない。牛丼屋…あれから行ってないな。

「大丈夫、大丈夫。これがあるから。」
友人が俺の目の前に出したもの、それは、ファミレスの株主優待券だった。
「昨日、親父からこっそり貰ったんだ。これで食べれば金はかからないからさ。」
そういうことなら、と俺は友人とファミレスへ向かった。

「ここのファミレス、面白いんだよ。」
席に着いた俺に、友人が声をかけてきた。
「まず、バランス女がいるんだ。」
「バランス女?」
友人の説明に寄ると、このファミレスで働いている女性ウェイトレスのバランス感覚が客の間で話題になっているらしい。
「俺も見たんだけど、その人、2メートルもの高さに食器を積み重ねて歩くんだよ。全然落とさないの。見ている方がハラハラドキドキしちゃって。」
「…その人、日本人?」
「どういう意味?」
「いや、中国雑技団の人かと思ってさ。」
それは一度見てみたいような、見たくないような。
「今日はいないみたいだな。残念。」
友人が店内を見回して言った。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
ウェイターが注文を取りに来た。
「俺はサーロインステーキのセット。啓太は?」
「俺は…ハンバーグと海老フライのセット。それから…チョコレートパフェ!」
プッ!
ん?今、このウェイター笑わなかったか?
「サーロインステーキセットお一つ、ハンバーグと海老フライのセットお一つ、チョコレートパフェをお一つ、以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
「チョコレートパフェは、食後でよろしいでしょうか?」
「はい。」
ウェイターは注文を取り終えると、消えた。
何か、感じの悪いウェイターだな。チョコレートパフェがそんなにおかしいか?俺は甘い物が好きなんだよ。

「今のウェイター。」
友人がまた話かけてきた。
「あの人、すごいんだぜ。」
何がすごいんだと聞こうとした時、友人は黙ってあさっての方向を手で示した。
その先には、先ほどのウェイターが集団客の注文を取っている。
驚いたことに、その集団がああでもない、こうでもないと騒いで注文したメニューを、そのウェイターは一字一句間違えずに復唱していた。これには集団も、俺達も目を丸くした。
「…な、すごいだろ?」
「う、うん…。」
「あの人、“ミスター円周率”って呼ばれてるんだぜ。」
「ミスター円周率?」
「円周率、全て暗記していそうだからって。」
なるほど。俺はあのウェイターが円周率をペラペラと喋る様子を想像した。

「啓太、またファミレス、寄っていこうぜ!」
友人がまた俺をファミレスに誘った。俺は優待券に負け、一緒に例のファミレスに向かった。バランス女ってのも見たかったし。

「いる?バランス女。」
「今日もいないな。啓太、タイミング悪いな。」
友人が答えた。本当、俺はタイミングが悪いんだよ。今も昔も。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
またミスター円周率が現れた。
「俺はミックスピザ。啓太は?」
「そうだな…。」
「本日はイチゴとヨーグルトのパフェなどいかがですか?」
ミスター円周率が言った。
…こいつ、俺が甘いものが好きなことを完全にからかってやがる。腹が立つ!
「おい、優待券はまだあるな?」
俺は友人に確認した。
「あ、ああ。」
なら、見てろ!

「和風ハンバーグ、ビーフシチュー、スパゲティカルボナーラ、海老ドリア…。」
俺はメニューを最初のページから見ていき、目についたものの名前を片っ端から口にしていった。
「お、おい啓太…。」
心配する友人の顔を横目に次々とメニューを読み上げていく俺。
「…チョコレートパフェ、ショートケーキ。以上で!」
合計何個口にしただろう?俺も数えていない。何を注文したかも覚えていない。
どうだ、さすがに覚えられまい。
「申し訳ございません。もう一度よろしいでしょうか?」って言い出すだろう。いい気味だ。

「はい、和風ハンバーグ、ビーフシチュー、スパゲティカルボナーラ、海老ドリア…。」
ところが、表情を変えずに、ミスター円周率は俺の注文を復唱していく。
「…チョコレートパフェ、ショートケーキ。以上でよろしいですね?」
「はい!」
ミスター円周率は、結局、一度も俺に聞き返すことのなく、全ての注文を受けた。
もっとも、聞き返されても同じメニューを口にする自信は、俺にはなかったけれど。

「…デザートは食後で?」
「はい!」
ミスター円周率はさっさと厨房へと消えて行った。
「啓太…。」
俺はようやく、友人の存在を思い出した。
「大丈夫だよ!部活で腹が減ってるんだ。二人で全部食べちゃうよ。」
俺は自分と、友人を励ました。

「お待たせしました。」
ミスター円周率がビーフシチューを運んできた。これくらいなら軽い、軽い。俺は余裕でビーフシチューをたいらげた。
「お待たせしました。」
ミスター円周率は、ハンバーグを運んできた。これも余裕だな。
ところが、ハンバーグを食べ終わらないうちに、ミスター円周率は次々と料理を運んでくる。友人と手分けして食べるが、スピードが追い付かない。

「わ、悪い。啓太…。俺、ギブ…。」
友人がソファに倒れ込んだ。
今、どれくらい来たんだろう?まだ注文は残っているのか…?
食事を口にしながら、俺は意識が朦朧としてきた。
とうとう、俺も、
「トイレ…。」
と、トイレに足を運んだ。

トイレからはい出した俺の目の前に、ミスター円周率が立っていた。
「お客様、御気分はいかがですか?」
「…大丈夫です。」
本当に俺って奴はカッコ悪い。
「あの…注文、あとどれくらい…。」
「あれで最後だよ。」
「えっ!?」
最後って、俺もっとたくさん言った気がするけれど?
「絶対食べきれないだろうし、何か俺に挑戦しているみたいだったから、君が口にしたメニューの後半は入力しなかったんだ。」
見抜かれていたのか…。
「あのさ。」
ミスター円周率は冷たい顔で言った。
「お前はお遊び気分で注文するだけで済むけど、こちらはサービス業だからね。お前の遊びに付き合う身にもなれよ。お前のふざけた注文で、調理担当がどれだけ苦労したか。」
返す言葉もなかった。
「お前の遊びのせいで、どれだけの食材が使われると思う?そこまで考えて注文しろよ。」
ミスター円周率は本当に正しい。バカは俺だ。穴が入ったら入りたい。

「少し休んだら、友達連れて帰れよ。ちゃんと送ってやれよ。お前の遊びに付き合わされて気の毒に。」
そう言うと、ミスター円周率はさっさと持場へと戻って行こうとした。
「あ、あの…!」
俺はミスター円周率の背中へ声をかけた。ミスター円周率は振り返った。
「俺がデザート頼むの、そんなにおかしいですか?」
俺はなぜミスター円周率が笑ったのかだけ、知りたかった。
「君、顔に似合わないものを食べるからさ。」
そう答えて、ミスター円周率は去って行った。
…やっぱり、こいつ、ものすごく腹が立つ!

その後、俺たちがあのファミレスに足を運ぶことはなかった。
ミスター円周率に叱られたことも恥ずかしかったが、友人が優待券を母親に取り上げられたのだ。どうやら父親は息子にだけ優待券を渡していたらしい。
結局、バランス女も一度も見られなかった。

「それが、アンタの恥ずかしい話?」
幹はゲラゲラ笑い転げながら、俺に訊いた。
「そう。今まで生きていた中で一番恥ずかしい話。」
俺はまた、ポーカーで幹に負け、罰ゲームをさせられていた。今日の罰ゲームは「恥ずかしい話をする」だ。
「アンタも若いというか…本当にバカなことをしたのね。」
「だって…ミスター円周率がバカにしたからさ。」
「でもそのミスター円周率って、今頃何してるのかしらね?」
「さあな。友達の話だと、その後そこを辞めたらしいから。」

そう、それから半年くらいしたころだろうか。友人の報告によると、ミスター円周率はバイトを辞めたらしい。後を追うように、バランス女の姿も見られなくなったという。
「絶対、ミスター円周率とバランス女は付き合ってたんだ。」
友人が言っていた。俺は想像した。ミスター円周率がブツブツと円周率を暗唱している横で、バランス女が2メートルもの高さに物を積み上げ、歩いている所を。

「あら、入江さん。」
幹が窓の向こうへ目を向けた。入江直樹が歩いている。
「ねえ、入江さんも円周率全部、言えるわよね。」
「そりゃ、言えるだろう。」
そういえば、ミスター円周率ってどんな顔をしていたっけ?
全く記憶にない。どうやら、人間というのは、自分に都合の悪い記憶は消去してしまうらしい。

あとがき
「牛丼小町に捧げる愛」の続編…になるのかな?
啓太の青春編第二弾です。
ミスター円周率の正体…誰だか分かりますか?
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