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2009.03.07 (Sat)

万華鏡 7


【More】

「ねえ、直樹さん。」
直樹のことは人間的に好きにはなれそうもないが、彼の描く絵は好きなので琴子は相変わらず、例の部屋で絵を見る日々を送っていた。
今日も絵を見ていたら、またもや直樹を一緒になったのだった。
「どうして風景画しか描かないの?」
琴子はずっと疑問に思っていたことを直樹にぶつけた。
この部屋に置かれた絵は全て風景画しかない。家族の絵が一枚くらいあってもよさそうなものだと琴子はずっと不思議だった。
「別に。」
そして素っ気ない返事も相変わらずである。
「どれもこれもきれいな絵なのだけど…景色しかないなあと思って。」
最近はその素っ気ない返事にもすっかり慣れたので、琴子もいちいちこだわらなくなっている。
「文句あるなら、見にくるなよ。」
「別にないです。訊いてみただけ。」
琴子は舌を出した。相変わらず腹が立つ男だとおもいながら。見せてもらっている立場の割に、図々しい。

「あ、明日俺の客が来るから。結構大勢。」
思い出したように直樹が言った。
「そうなの?直樹さん、お友達がいたんだ?」
琴子の容赦ない言葉に、直樹は冷たい視線を送ることで返事をする。
「もしかして…出てくるなって意味?」
同じ年齢の女と一緒に暮らしていることがばれ、噂にでもなったらさすがにまずいかと琴子は察する。
「いや。邪魔するなってこと。」
それだけ言うと、直樹は部屋を出て行ってしまった。
「邪魔なんてしませんようだ!」
琴子は閉められたドアに向かってまた舌を出した。

翌日、直樹に張り合うつもりで琴子も学校からまっすぐに友人宅へ寄り、いつもより遅い時間に帰宅した。
「ああ。琴子さん!」
ちょうど紀子が女中にお茶を運ばせようとしていたところだった。
「よかったわ。悪いんだけど直樹さんの所にお茶を持って行ってもらえないかしら?」
何か思惑ありげな紀子の様子に、琴子は気が進まなかったが珍しい客の顔も見たかったこともあり、引き受ける。
お茶は三人分。ということは来客は二人ということらしい。応接間までこぼさないようにそっと運ぶ。
ドアをノックし、返事を受け、中へ入る。
「あら?可愛らしい女中さんだこと。」
声をかけられて琴子が顔をあげると、客の一人は女性だった。それもかなりの美人。
女中と言われたショックより、琴子はその顔に見とれてしまう。
「女中じゃない。」
直樹の声でようやく琴子は現実に引き戻された。
「あら、そうなの?ごめんなさい。妹さん?」
どちらにしても見た目とは逆に、かなり失礼なことをズケズケという女性だ。長い髪の毛を琴子のようにお下げに結うこともなく、背中へ垂らしている。そして服も琴子が見たことがないような、お洒落なデザインで、彼女によく似合っている。
「あ、あたしは…。」
何て自己紹介しようか琴子が迷っていると、
「下宿人。」
と直樹がいつものように素っ気なく言った。
「お前の家って下宿屋していたっけ?」
今度は男性の声だ。
「してませんよ。下宿人といっても下宿代払っていないから…居候か。」
「居候?」
女性がその言葉に目を見張る。
琴子は恥ずかしくて、お茶をさっさと置くと、一礼して部屋を飛び出した。
「そんなに下宿代がほしいなら…払うわよ!」
と言いながら。

「どうだった?中の様子は?」
居間に戻ると紀子が興味津津という感じで訊ねてきた。
「おば様!」
とうとう琴子は耐えきれずに紀子に泣きついた。

「そんなこと言ったの?直樹さん!」
琴子の話を一通り聞き終わり、紀子は憤慨した。
「おば様…あたし、父にお願いしてお金送ってもらいます。」
「いいのよ!そんなことしなくても!琴子さんはうちの娘も同然なんだから!娘からお金を取る親がどこにいますか!」
紀子は琴子の頭を撫でながら言った。
「でも…直樹さんが気を悪くしているみたいで。」
何も他人の前でそんな“居候”呼ばわりしなくてもと、また琴子は涙が止まらなくなる。

「…ねえ、琴子さん。」
泣き続ける琴子に、紀子が優しく話しかけた。
「その失礼な女は女中だと、琴子さんのことを言ったのよね?」
「…はい。」
しゃっくりあげながら、琴子はやっとの思いで返事をする。
「それで、直樹さんが居候だの、下宿人だのと言ったのよね?」
「…はい。」
またその時のことを思い出しそうになり、慌てて思い出すのをやめる琴子。
「それって…もしかして直樹さんの優しさかも。」
「ええ!?」
紀子の口から出た思いがけない言葉に、琴子は思わず大声を上げた。
「だって、琴子さんのことを本当に嫌いなら、そのまま女中だってことにするわよ。あの性格なら。もし女中と言われて何も言い返さないような息子なら私が引っ叩くところだけど。」
確かにそうかもしれないと琴子は思う。
「それなのに、わざわざそれを否定したってことよね。言葉は悪いけれど。」
「そういう…ことになる…のかしら?」
「じゃ、やっぱりそんなに琴子さんのこと、嫌ってないのよ。直樹さんは本当に嫌いなら助けたりしないわ。」
さっきまで怒っていたのはどこにいったのか、今度は一転して紀子は、はしゃぎ始める。
「あとは…琴子さんがその気になってくれれば。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!まだそうと決まったわけでは…。」
慌てて琴子は紀子を止める。

「それにしても…腹が立つのはその女ね。琴子ちゃんに何てことを!」
紀子は怒りの矛先をあの女性に向けたらしい。
「あの人…直樹さんと親しい方なんですか?」
琴子も漸く泣き止んだ。
「今日初めて来たのよね。松本さん…とか言ってたけど。」
「そうですか…。」
あれだけの美人なら、女中呼ばわりされても仕方ないかと琴子は溜息をついた。
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*Comment

水玉さん、こんばんは。相変わらず琴子は毎日直樹の絵を見に部屋を訪問しているのですね。なぜ人物画は描かないのかと聞くと、見に来るなと言われてしまいましたね。その後明日客が来るからと。時間を費やして帰宅すると紀子ママ(奥様)が、お茶を部屋にと頼まれ直樹の部屋に。入るなり女中さんと言われてしまいました。しかし直樹が女中ではないと、下宿人と紹介しかしお金払ってないから、居候かだって。琴子泣きながら紀子奥様に言いましたが。奥様はそれは嫌いじ無いと言うことだと喜んでいます。後は琴子次第だと。しかし紀子ママ(奥様)は訪問している女性に怒りを表しています。さぁこれからの二人どういう展開になるのか楽しみです。女性が松本女史、だと男性の方は?まさかねぇ。
tiem |  2009.03.07(Sat) 19:35 |  URL |  【コメント編集】

「直樹さん、お友達がいたんだ」
ツボでした^^吹きました^^
風景画しか描かない直樹いいなぁ♪
○ッセンのようにイルカを描く直樹も以外と
素敵かも^^
でも、ベレー帽にちょび髭はいまいちかも^^;
あ、ごめん。つい絵を描く直樹の妄想に入ってしまいました^^;さっ、次の回に行ってきまーす♪

さあや |  2009.03.07(Sat) 22:15 |  URL |  【コメント編集】

コメントありがとうございます。

tiemさん
何かそうまとめていただくと、話の展開がおかしいところだらけで恥ずかしいです(>_<)

さあやさん
ああ…●ッセン…。そういう絵描きそうかも!
今回も小ネタ(のつもりなの(笑))に気づいてくれてありがとうね!
水玉 |  2009.03.08(Sun) 16:23 |  URL |  【コメント編集】

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