日々草子 中華料理 直琴軒

中華料理 直琴軒

ここは都内のとある中華料理店。
腕は確かだが愛想は今一つの店主と、ちょっとオッチョコチョイだが愛嬌たっぷりの店主の妻、二人だけで切り盛りしている、小さな店。

「ここ、クチコミで広がっているらしいぜ。」
店の前で男性(仮に名前をAとする)が、連れてきた友人(仮に名前をBとする)に説明している。これもこの店でよく見られる光景の一つだ。
そして、二人は店の中へと入った。

「いらっしゃい!お二人様ですね!こちらへどうぞ!」
入るなり、元気あふれた女性の声が店内に響いた。これが噂の奥さんかと、二人は思う。年齢二十代くらいだ。長い髪の毛をお団子に高く結い上げている。
二人はと通された席へ座った。店内は広くないが、全席が埋まっている状態だ。
壁に貼られたメニューを見て、注文するものを考える。

「お決まりですか?」
店主の妻が水を運んできた。ニコニコ笑っていて感じがいい。
「えーと、俺は…レバニラ定食。ご飯大盛りで。」
「俺は…中華丼にしようかな。」
二人は注文をする。
「はーい!えーと…ブタタマ定食とサンマ定食!ご飯大盛り!」
女性が厨房に向かって声を張り上げた。それを聞き、二人はギョッとした顔をする。
「ブタタマって…お好み焼きじゃないんだから。」
「俺は中華丼だけど?」
「え?そうでしたっけ?」
女性がペロッと舌を出した。
「…ったく、レバニラ定食、ご飯大盛りで、中華丼だろ?」
厨房から男性の声が響いた。
「あ、そうでしたっけ?じゃ、それで。」
そう言うと、女性は厨房へと消えていった。

「…なあ。本当にこの店評判いいのかよ?」
Bが小声で連れに囁く。
「そうだよ。味は文句ない。信じてくれ。」
二人はとにかく、店主を信じることにした。

「はい!お待たせ!ブタタマ定食、ご飯大盛り!」
手にしているのはどこから見てもレバニラ定食だが、女性は相変わらず「ブタタマ」と言った。
「で、こちらが親子丼ですね!」
こちらもきちんと中華丼が置かれた。
二人は店主に感謝しつつ、口にする。
「うまい!」
二人同時に声を上げた。それを見て女性が嬉しそうに笑った。

「よ!琴子ちゃん!今日も可愛いね!」
「んも、西垣さんはいつもそんなことばっかり!」
常連客のからかいにも、女性は愛想よく答えている。どうやら店主の妻は琴子というらしい。二人のやりとりを他の客も微笑ましく見ている所から、琴子はこの店のアイドルいや、看板娘だろうということは、今日初めて来た二人にも、すぐに分かった。

「どうですか?うちの味は。」
琴子が水のお代わりを注ぎながら、二人に尋ねた。
「おいしかった!」
「本当にうまい!」
その言葉を聞き、琴子は、
「そりゃ、うちの主人は世界一の中華料理人ですもん!」
と胸を張った。

「お姉さん、琴子さんって言うの?」
Aが琴子に名前を確認する。
「ええ。」
Bが「まずい」という顔をした。Aは女性に目がなく、気に入った女性にすぐに声をかける癖があるのだった。
「お姉さん、今度僕と遊んでくれませんか?」
その瞬間、AとBの間に何かが飛んできて、壁に刺さった。…包丁だった。

「もう。入江くんたらまた手元が狂ったのね?しょうがないんだから!」
琴子はそう言いながら、手馴れた様子で包丁を壁から抜いた。
二人は青ざめてそれを見ている。
「ごめんなさいね。主人、たまにこういうドジをやらかしちゃうの。」
そう言い残して、琴子は包丁をぶら下げて厨房へと入っていった。

「またって言った?」
Aがまだ青い顔をして言った。
「たまにとか…ドジとか…これってドジレベルなのか?」
そんな二人に、先程、琴子をからかっていた西垣という客が声をかける。
「お兄さんたち、良かったね。」
「え?良かったって?」
二人はこんな恐ろしい目に遭って、何が良かったのかさっぱり分からない。
「いや、飛んできたのが今日は普通の包丁で済んだからさ。」
すると、別の客が言った。
「西垣さんが琴子ちゃんの肩を抱こうとした時、何が飛んできたんだっけ?」
「中華包丁!」
そう言って西垣は「ハハハ」と面白そうに笑った。
「中華包丁飛ばされて、何でそんなに笑ってられるんだよ…。」
AとBは引きつった顔をしながら、そんなことを思っていた。

「おい!見ろよ!」
Bが壁を指した。よく見ると、壁には無数の瑕がついている。しかも包丁が刺さった後らしい。
つまり…過去にこの店でどれくらい琴子に声をかけた男がいたのかをその瑕は物語っていた。
「何で誰も今まで怪我しなかったんだろう…。」
店主の見事な包丁さばき(?)に、AとBはすっかり圧倒されたのだった。

会計をするために二人はレジへ向かった。
その時、そっと厨房を覗いてみる。店主が中華鍋を見事な腕で動かしている。そしてその店主があまりにも美形なので、二人は驚いた。こんなきれいな顔をした人が調理していたことと、かなりの嫉妬深いことに…。

chinachina.png

二人の視線に気づいたのか、店主がジロリと二人を睨んできた。今度は中華包丁が飛んでくるかもしれないと、二人は慌ててレジへ向く。

「えーと…レバニラが850円で、中華丼が650円だから…えーと繰り上がって…。」
どうやら琴子は計算が苦手らしい。一生懸命指を折って計算している。すると、
「1,500円!」
またもや厨房から声が飛んできた。調理しながら琴子の会話を全て耳に入れているのかと、二人はまたもや店主の凄さに声を失う。
「あ、そっか。ありがとう。入江くん!1,500円です!」
Aが2,000円を出した。
「はい!お釣り、50,000円です!」
その言葉に一瞬二人は驚いた。が、渡された500円玉を見て琴子の冗談だと気づき胸を撫で下ろす。「この奥さんなら50,000円渡されても不思議じゃない」などと思っていたから…。

「ありがとうございました!またどうぞ!」
琴子の声に見送られて二人は店を出た。
「お釣り50,000円って…八百屋のおっちゃんかよ。」
二人は笑いが止まらなかった。
そして、また来ようとお互い思っていた。
「店の名前、何ていうんだっけ?」
二人は振り返って看板を見た。
そこには、
『中華料理 直琴軒』
とあった。
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ハイハイハイハイ!!!!

ハイっ、水玉先生っっ、これシリーズ化希望です!!!!面白すぎるので責任とって下さい!!!!!

はい!!!

私もシリーズ化を希望します!!!
楽しすぎです!!!どうしよう~好きだ!!!!

アリエルとミルクさんにさあやも賛同だよ^^
直琴軒チョぉーーー面白いよ♪
ここに西垣先生が登場してきたところがツボだわ♪
しかし直樹ったら包丁さばきと料理の腕だけじゃなく
包丁飛ばしも凄いとは^^
このコントラーに天晴れ^^そして神田川さんも顔負けだ^^
さあやの下手くそ絵に水ちゃんファンからクレームが
きそうだわ><
今回も飾ってくれてありがとう♪

水玉ファンさん、ごめんなさいです><

水玉さん、おはようございます。もう朝から一人パソコンでコメント打ちながら抱腹絶倒です。ここでも直樹の独占欲嫉妬がでますか。包丁で判断ですね(^_^)ここに来られたお客さんは怖いけどまた来たくなるんでしょうね。きっと。何回も打ち直しです。笑いすぎて涙まで。水玉さんにはもう頭が下がります。天才ですね。

思わず 「なんでやねん」 ムフフッ(笑) 「こっわっ」(汗) と関西人丸出しのツッコミを携帯にしてしまいました(^-^;) 1人でゲラゲラ笑わせてもらいました でも直樹~ほっ包丁はやめましょう?(笑)

こんにちは。本当、おもしろいですね。
オーダーをまちがえたり、会計をまちがえたりする琴子をフォローしたり、嫉妬で包丁をとばす入江君の姿が目にうかびます。私も皆さん同様、シリーズ化を希望します。
「直琴軒」あったら、是非食べにいきたいです。

今日は久々に早く帰宅出来たので遅ればせながら恩師1から一気読みしてますが、泣いたり、笑ったりしてます(*^_^*)途中まで笑いをこらえて頑張っていたのですが、さあやさんの挿絵が出て来たとたん堪えきれず噴出してしまいました(^o^)丿私もシリーズ化希望です♪

本当にありがとうございます!!

皆様、コメントありがとうございます!!!
まず、この話はさあやさんの絵を見ることがなかったら、絶対に浮かびませんでした!ですのでさあやさんにもう一度感謝させてください!ありがとうございます!

アリエルさん&ミルクさん
先生って…恥ずかしいです!!!
シリーズ化…できたら面白そうですね!

さあやさん
クレームなんて絶対来ない来ない!!
本当にありがとうね!!
そして、西垣先生に気づいてくれてありがとう(笑)
ひっそりと出してみました♪

tiemさん&yumikoさん
きっと常連客はこのスリルが堪らなくて、またリピーターしちゃうんだと思います♪

るんるんさん
いや…書いてみて思ったんですが、今時「~軒」って中華料理店あるんでしょうか(^^ゞ
レトロでごめんなさい~

ラテさん
うわ…一気読みされると、欠点が目立って恥ずかしいです(^^ゞ
さあやさんの絵、本当に楽しいですよね♪
こんな美形な店主が作る店なら私も常連になります♪

にんまりと一人笑いながら読み終えました。
面白い。この先まだまだ続けてください・楽しみに待っています。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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