日々草子 恩師 4
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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恩師 4

「失礼します。」
直樹の神戸での研修医としての生活が1年を過ぎたころ、前田教授に呼ばれた。
「やあ、入江先生。また呼び出して悪かったね。」
今日も教授は新しい似顔絵を壁に貼っているところだった。教授に促されて座り、いつものようにコーヒーを御馳走になる。
「入江先生、1年前とずいぶん変わったよね。」
「そうでしょうか?」
そう言いながら、直樹も自分でも変わったなと気づいていた。
「うん。最初にここに来た時は、どうなるかと思ったけど。」
「え?」
教授の意外な言葉にちょっと驚く。
「いや、東京の斗南大の先生に、100年に1度の大天才が小児科を志望していると聞いて、ちょっと天才ってどんなものかと興味を持って、うちに誘ったんだよね。」
まるで珍獣のように扱われてたんだと直樹は思った。
「初めて君の顔みたとき、いやあ、これまたハンサムで驚いたじゃない?顔よし、頭良し、背が高い。これって男の敵みたいだよね。」
教授が笑う。直樹はどう反応していいのか分からない。
「でもさ、天才ゆえに何か足りない気もしたんだよね。」
「足りない…」
「そう。君の顔見たとき、君は今まであんまり人間に興味がなかったのかなあと。本当に医者としてこれからやっていけるのかと正直、心配した。」
教授は直樹の過去まで見透かしていたらしい。やはり、只者ではない。

「だから、僕にできるのは、君が小児科医としてやっていけるよう、人とのコミュニケーションの取り方を教えることだと思ってね。大人だったら、君もそれなりにうまくやっていけるだろうけど、子供は無邪気な顔をしながら大人の心をズバッと見抜くからね。」
そうだったのかと教授の言葉に直樹は驚きを隠せない。
「でも、君はこの1年で本当にいい小児科医になれたよ。」
「まだまだです。」
本当にまだまだだと、直樹は思っている。

「てことで、君、もう東京へ戻りなさい。」
教授の突然のセリフに、直樹はさすがに驚きを隠せなかった。
「は?」
「いや、もう教える事ないから。」
あっさりと教授は言った。

「だって、君、天才なんだもん。僕なんかよりずっと。」
教授の言葉に直樹は、「ふざけてるのか?」と一瞬思ったが、冷静な表情を崩さずに教授に言った。
「…少なくとも僕は教授の下で数年は勉強させていただくつもりで、この大学病院に来ましたが。」
「いやいや勘違いしないでほしいんだけど。」
教授はいつもの笑顔のまま言った。
「今の君に教えることはないということ。だからこれから何か君に手伝ってもらいたいことができたら、君を呼ぶよ。」
「ですが…。」
不満そうな直樹の顔を見ながら、教授は似顔絵であふれている壁のもとへ歩いて行った。

「…僕ね、子供いないんだよね。」
教授の言葉に直樹はまた驚いた。あんなに子供への接し方が上手なのに子供がいないとは思わなかったからである。
「僕は子供が昔から大好きで大好きで、それが生じて小児科医になったんだけれど。」
教授は直樹に背中を向けているので、どんな表情でしゃべっているのか分からない。
「僕の妻は子供ができない体だった。僕の子供好きを知っていた妻はそれこそ、もうこのまま、立ち直れないのではないかというくらいに落ち込んでしまって…。」
直樹は黙って聞いている。

「僕もその事実を知った時はショックでショックでたまらなかった。でもだからといって妻と別れる気は毛頭なかったけれど。」
琴子との間にこの先、もし教授夫妻と同じことが起きても、自分も絶対に琴子と別れないだろうと直樹は思う。
「だから、妻に言ったんだ。これからは患者の子供たちが自分たちの子供だって。そうすればたくさんの子供を持つことができる。だから子供が一人でもここから退院できるように僕たちは努力しようって。あ、今、妻は小児科の研究医として大学の研究室にいるんだけどね。」

相変わらず、教授は絵から目を離さない。
「僕と妻も君と同じ学生結婚だったんだ。妻とは医大の同級生。」
教授の妻が医者だったことにも驚いたが、学生結婚だったことも直樹は驚いていた。
「妻は大学でも優秀で、美人で、僕にとっては高嶺の花だった。僕は医大でも落ちこぼれで、運動も苦手、見た目もこのとおりさえないしね。せめて、妻に近付きたいと必死で勉強したよ。そんな僕を妻が選んでくれた時は嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。」
どこかで聞いた話があったようなと直樹はちょっとおかしかった。

「でも卒業後、妻が1年海外へ留学するといったときはショックでね。僕は研修医として残りたかったし。結局送り出したけど、毎日寂しくて寂しくてたまらなかった。男のくせに情けないだろ?」
「そんなことは…。」
直樹が神戸へ行くと告げた時の琴子の泣き顔を思い出しながら、直樹は答えた。直樹だって神戸に行くと決めた時、琴子と離れて暮らすと決めた時は辛くて離れたくないと思った。だからこそ、一度は琴子も一緒に神戸へ連れて行こうと決めたくらいだ。
「帰国した時は嬉しくてね。もう何があっても、絶対に離れたくないと思ったよ。帰国した後、子供ができないという事実が分かっても、妻が傍にいてくれれば何でも超えられる気がした、いや、超えられた。今、僕がここで教授として一応、権威と呼ばれるようになったのは妻のおかげなんだ。」
そこまで話して、教授は直樹の方へ振り返った。

「だから、夫婦って、出来る限り傍にいた方がいいというのが僕の持論なんだ。入江先生、奥さんの元へ帰りなさい。」
「まだ、先生に教えていただきたいことがたくさんあるのですが。」
まだ直樹は不満だ。
「だから、さっきも話したとおり、君が必要になったら、必ず僕は君を呼ぶよ。約束する。」
教授はいつもの茶目っ気の笑顔で言った。
「…わかりました。」
教授の心をこれ以上、無にするわけにはいかない。直樹はそう思った。
「短い間ですが、お世話になりました。」
直樹は立ち上がって、教授へ頭を下げた。
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