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2009.02.27 (Fri)

新人弁護士 後編

ある日の放課後…。

【More】



誰もいない教室で、連中がこそこそとやっているのを、日直で職員室から戻ってきた直樹がこっそりと見ていた。
どうやら、またもや渡辺の教科書等を隠すつもりらしい。
「…お前ら、ガキかよ?」
直樹が声をかけると、連中はビクッとして振り返った。
「い、入江…まだいたのか。」
「そんなことして楽しい?」
直樹の言葉に連中は一瞬怯んだが、すぐに口々に騒ぎ出した。
「だって、いきなり入ってきたやつに二番になられるなんて…!」
「何であいつがうちのクラスなんだよ!」
「あいつのせいで俺は順位が下がったんだ…!」
好き勝手なことを述べ始める連中。
直樹は溜息をついた。
「そんなことしたって、お前らは絶対渡辺に勝てねえよ。」
「そんな…!」
「たとえ、勝ったとしても、お前らが一番になることはない。俺がいる限り。」
直樹の自信たっぷりな言い方に、連中は口をつぐんだ。
「そんなくだらないことしている暇があったら、勉強すればいいだけだろう。」
更に直樹は話し続けた。
「馬鹿だね、本当に。」
何をやっても誰もかなわない直樹に冷たく言われ、連中は逃げるように教室を去っていった。

直樹が誰もいなくなった教室に佇んでいると、
「いいの?そんなこと言って。」
という声がした。直樹が振り返ると、渡辺が心配そうに見ていた。
「帰ったんじゃなかったのか。」
「教科書とか探してたんだ。…見つからなかったけど。」
渡辺が頭の後ろに手をやりながら、笑った。
「あの人たち、入江くんの仲間だよね?あんなこと言って、今度は入江くんが困らない…?」
渡辺の言葉に、直樹は笑った。
「仲間なんかじゃないさ。俺が先生に一目置かれているから、あわよくば自分らも見てもらおうと思って俺に纏わりついていただけだよ。本当に俺を慕っているわけじゃないし。」
そう言って、直樹は自分の席へ戻り、カバンを手にした。が、すぐにカバンを置き、中からノートを数冊取り出した。
「よかったら。」
「え?」
渡辺にノートを差し出しながら直樹は言った。
「教科書がないから、授業大変だろ?いくら完璧にノートを取っているとはいえ、足りないところもあるだろうし。」
「…いいの?」
「俺のノートと、君のノートを合わせれば最強だろ?」
「あ、ありがとう。」
渡辺はノートを受け取った。

「…それから教科書を買いに行ったんだよな。あと上履きも。」
渡辺が懐かしそうに言った。
「あれからいつもお前と一緒だったもんな。」
「腐れ縁だな。」
直樹も面白そうに言った。
「…僕、あの時弁護士になろうと思ったんだよ。」
渡辺の言葉に、直樹が驚いた。
「何で?」
「あの時、お前が助けてくれただろ?お前が言ってくれたおかげでいじめも止まったしな。あの時のお前みたいに、困っている人間を助けたくてさ。」
「何、言ってんだか。」
直樹は笑った。
「本当だよ。」
渡辺は笑いながら答えた。

「お前は…あの頃から弁護士の素質はあったよな、思い出すと。」
直樹の言葉に、渡辺が、
「本当かよ?」
とからかった。
「俺がいつも言葉足らずで琴子を困らせた時、お前が俺に代わって代弁してたじゃないか。あの頃から、お前は俺の立派な代理人だったよ。それから…。」
「それから?」
「俺と琴子が喧嘩して、琴子が家出した時もお前が仲裁してくれたようなもんだったし。」
「ああ。琴子ちゃんが食堂で働いていたときね。」
「お前、弁護士に向いている、絶対。」
直樹は渡辺の目を見つめて断言した。
「ありがとう。」
渡辺も笑顔で答えた。

「今度、飲みに行こうぜ。空いている日、ある?」
渡辺がカバンからシステム手帳を取り出しながら訊いてきた。
「それ…使ってくれてるんだな。」
直樹が手帳を指差した。
「当たり前だろ。司法試験の合格祝いにお前がくれたプレゼントだもん。」
その黒革のシステム手帳は直樹が贈ったものだった。
「あ、ペン…あれ?ペンは?」
渡辺がペンを探し始めた時、直樹が自分のペンを渡した。
「…お前も使ってくれてるんだ。」
渡辺がペンを受け取りながら微笑んだ。
「当たり前だろ。俺が国家試験に合格した時、お前がわざわざ家に訪ねてきて渡してくれたんだから。」
それはやはり黒色の多機能ペンだった。

「医者と、弁護士と、あと坊主がいれば人生困ることないんだって。」
渡辺の言葉に、直樹は、
「じゃ、あとは坊主か。」
と笑った。
「坊主は…いないな。」
「裕樹でも坊主にするか?」
「だめだよ。裕樹くんはパンダイの跡取り息子なんだから。」
そんなくだらないことを言って、二人は大笑いした。

「入江…。」
そろそろ席を立つ頃だなと二人が思い始めた時、渡辺が直樹に話しかけた。
「ん?」
「お前の医療過誤事件の代理人になることだけは勘弁してくれよ。」
渡辺の冗談に、直樹は、
「バカ。俺がそんなこと起こすか。」
と、笑いながら返事をした。
「そうだよな。お前に限ってそんなことはないよな。」
渡辺も安心したように言った。
「じゃ、離婚調停とか起こさないでくれよ。僕、お前の方も、琴子ちゃんの方につくのも勘弁してほしいから。」
「…それはわからないな。」
「うそつけ!」
直樹の冗談に、今度は渡辺が笑った。その時、渡辺の携帯が鳴り響き、渡辺は直樹に「ごめん」と断り、電話に出た。
どうやら事務所かららしい。そろそろここを出なければいけない時間だと、直樹は食器をまとめ始めた。

「お前、携帯のアドレス帳、さすがに今は琴子ちゃんが一番なんだろ?」
話し終わった後、携帯を手に渡辺が直樹に訊ねた。
「違う。」
直樹が微笑みを浮かべながら答えた。
「え?」
「俺のアドレス帳、今でもお前が一番だよ。」
その答えに、渡辺は少し驚いたが、すぐにいつもの優しい笑顔になった。
「僕もだ。僕が携帯を持って、お前に一番に番号を教えたんだよな。確か。」
「ああ。俺が持ってないといったら、お前、結構驚いたもんな。」
「ま、お前は知り合いの電話番号を全部暗記するから必要ないだろうなと、その時は思ったけど。」
渡辺が面白そうに話す。
「…違うよ。電話番号まで知りたい友達がいなかっただけだ。」
二人は口にはしなかったが、同じことをその時考えていた。
「お前はずっと一番の友人だ。」

「じゃ、そろそろ行くか。お前も忙しそうだし。」
「ああ。今日は本当にありがとうな。」
そんなことを言いながら、二人は食器片づけ口へとトレイを手に歩き始めた。

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♪あとがき
読んでくださってありがとうございます。
…ああ!「肩透かしくらった」という皆様のお声が聞こえてきそう!
深く書けなくてごめんなさい。
カテゴリ通り、「気まぐれ」で書いたものなので!
もう、渡辺ファンの皆様、どうか読まないで下さい!←今頃言っても遅いけど。
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