日々草子 万華鏡 5

万華鏡 5

琴子が入江家へやってきて三カ月が過ぎた。
入江夫妻は琴子を実の娘のように可愛がってくれ、生活に困ったことは何一つない。
息子二人は…相変わらず琴子には冷たいままだった。
兄直樹がとにかく琴子に冷たく、それを見習う弟裕樹に琴子はほとほと困り果てている。
でも持ち前の明るさで、時に裕樹に反撃をしたり、琴子はそれなりに兄弟とも付き合っていた。

そんなある日のこと。
「えーと。おば様に言われたお茶道具が閉まってある物置の部屋ってどこかしら?」
琴子は紀子に頼まれたものを探しに、屋敷内をうろついていた。
「ここのお屋敷、広すぎ。どの部屋なのよー!」
琴子は悲鳴を上げながら、ここかしら、それともここと一人ごとを呟きながら部屋のドアを開けたり閉めたりして、該当する部屋を探していく。

「…ここ、怪しい。」
琴子は屋敷の奥の部屋に目を付けた。
あまり広くなさそうである。ドアノブに手をかけ、そっと開けてみる。
「あ、開いちゃった。」
そう言いながら、ちゃっかりと部屋へ琴子は入った。

「何、これ…!」
その部屋は琴子が想像したとおり、広くはなかった。その広くない部屋に所狭しと、キャンバスが置かれていた。
「何でこんなものが…。」
琴子はそのうちの一つを手に取って眺める。風景画が描かれていた。
「上手…。」
そして、他の作品をどんどん見ていく。たくさんあるので見飽きることはない。
「誰が描いたのかしら…。」
夢中になって見ていると、ドアが突然開いた。
「何でお前がここに…。」
「え?」
突然の声に琴子が振り返ると、直樹が立っていた。

「あ、えーと、おば様にお茶の道具を探してきてほしいって頼まれて…それでこの部屋を偶然見つけてしまって…。」
琴子はしどろもどろになって言い訳をしたが、直樹が手に何かを持っていることに気がついた。
「あ、それ、絵…?」
直樹はそれに答えずに、黙って琴子の傍を通り過ぎて絵を無造作に置いた。
「鍵をかけ忘れたのが失敗だったな。」
置いた後、直樹は一言だけ言った。

「もしかして…これ、全部直樹さんが描いたの?」
琴子は訊ねた。
「すごい!本物の絵描きさんみたい!直樹さん、絵が得意なのね!」
「別に…趣味で描いているだけだし。」
琴子の言葉に直樹は素っ気なく答えた。
「直樹さんの趣味って、お金を数えることだけじゃないのね!」
「は?」
琴子の言葉に直樹は首をかしげたが、そんな直樹の様子に目もくれずに、琴子は絵を楽しそうに眺めている。

「ねえ!この絵、1枚ちょうだい!」
やがて琴子が目を輝かせて、1枚の絵を直樹の目の前に差し出した。それは湖が広がる美しい風景画だった。
「…だめ。」
「お願い!」
「だめ。」
「お願い!」
結局、琴子に根負けして直樹はその絵を渡すことになった。
「それ、絶対部屋に飾ったり、他の人間に見せたりするなよ。」
貰えることになって大喜びの琴子に、直樹は冷たく言い放った。
「何で?」
「何でも。」
理由が分からなかったが、貰える以上その言葉に琴子は従うことにした。

直樹は琴子を部屋から追い出し、自分も後に続き、鍵を厳重にかけた。
「いつも鍵をかけてるの?」
「そうだよ。お前もこの部屋の存在は忘れろ。」
直樹はそう言うと、自分の部屋へと戻って行った。
琴子も自分の部屋へ戻り、絵をよく見た。
「いい絵よね。あたし、絵のことさっぱりわからないけれど。守銭奴もこんな絵が描けるのね。」
琴子は相変わらず直樹を守銭奴だと思い込んでいた。

数日後、直樹の部屋のドアがノックされた。
開けると琴子がニコニコと笑いながら立っている。
「何か用?」
「また絵が見たいなあと。」
琴子は再び、あの部屋で絵を眺めたくなり、開けてくれるよう頼みに来たのだった。
「あれきり忘れろと言ったよな…?」
「忘れられなかったの。」
あっけらかんと言う琴子に、直樹は溜息をつく。
「あの部屋のことは誰にも秘密にしておくから。お願い!また開けて下さい。」
両手を合わせて拝む琴子に、直樹は鍵を渡した。
「後で必ず返しに来いよ。」
「はい!」
琴子は嬉しそうに鍵を手にし、小走りで去った。
「物好きな奴。」
琴子の後ろ姿を見ながら、直樹は冷たい視線を送っていた。
「ま、そのうち飽きるだろ。」

ところが。
「今日もあの部屋に…。」
「今日も絵が見たい…。」
と、琴子は飽きるどころか、毎日のように直樹に鍵を貸してくれと頼みに来るようになってしまった。
その度に琴子に鍵を渡す時間が、直樹にはもったいなくなった。
「ちょっと来い…!」
ある日とうとう、直樹は琴子を連れ、例の部屋までやってきた。
そしてその扉の傍に置いてある壺の中に、鍵を落とす。
「え!」
何をするのと琴子が驚いていると、
「この壺の中に鍵を入れておくから、お前好きな時にここから出して開けろ。」
と直樹が説明した。
「本当?」
「その代わり、必ず部屋を出る時は鍵をしめて、この中へ戻しておけよ。俺も使うんだから!」
「わかりました!ありがとう、直樹さん!」
琴子はお礼を言うと、早速壺の中へ手を突っ込み、鍵を取り出して、ドアを開けて中へと入っていった。

それから一週間が過ぎた。
直樹は絵を手に例の部屋へと向かった。
壺の中に手を入れなくても…部屋の中に琴子がいることは何となく分かった。
そして、予想通り、琴子が部屋の中にいた。
「あ!新しい絵?」
琴子は直樹の姿を見るなり、顔を輝かせた。
「…お前、まだ見飽きないのかよ。」
あれから何日経っているんだと直樹は呆れた。
「だって、何度見ても飽きないんだもの。」
琴子はそう言って見ていた絵を丁寧に、元の位置へ戻す。
「あ、痛い!」
立とうとして、琴子は腰に手をやった。床に直接座る訳にいかず、長時間中腰で見ていたので腰が痛くなったらしい。
「調子に乗って見ているからだ。バーカ。」
直樹は慰める言葉一つ、琴子にかけない。
「意地悪。」
琴子は腰を叩きながら、何とか立ち上がった。そして鍵を直樹へ渡すと出て行った。

翌日、琴子は部屋の鍵を開けて驚いた。
部屋の中央に椅子が一脚置かれていたからだ。
「昨日までなかったよね…?」
椅子を見ながら、不思議そうに呟く琴子。
「もしかして…直樹さんが?」
直樹が置いてくれたのかと思うと、琴子は嬉しくなった。
「優しいところ、あるじゃない。」
その椅子に座って琴子は笑った。
「ということは、この部屋に居続けてもいいってことよね?」
嬉しそうに琴子は呟くと、また絵を手に取って眺め始めたのだった。

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♪あとがき
本当に月に一度の更新ペース…。
もう覚えていてくださっている方もいないと思います…。
そして…。
絵心のない私が、なぜ絵の話を書くなどと無謀なことを…(涙)
いや自分が決めたことなんですが、書いてみると「うわー!これどうしよう!」って焦っています。
何か間違っていたら、そっとメールか何かでアドバイスください。

ということで、大反省会をこれから自分の中で開催します(笑)
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と~でもない!

しっかり覚えてますよ~あれもこれもと欲張りな水玉フアンは・・・ダハっ!
ど~なるのかな?なんて愉しみ々|・ω・`)キタイ~v

反省会?

何反省すんの??
いいね、絵を描く入江くん。原作だとアート方面の才能はよくわからないもんね。まぁ彼のことだから完璧には違いないんでしょうが(笑) 粘り強い(?)琴子に、それに根負けしちゃう直樹…の取り合わせが原作に忠実なせいか、やっぱりリアル画像が脳裏に…。凄いわ、水ちゃんマジック!

新たな展開

新たな展開ですね。2人だけの秘密がいいですね。
先が楽しみです。

No title

なんかうっとり^^
いいなぁー、直樹の絵をずっと見ていても飽きない琴子♪
確かにいいものは絶対飽きないし美しいものをみていると
時が経つのをあっという間にわすれるんだよね^^

素敵だね♪

てか、直樹のあの細長いスラッとした指先で繊細な絵を描く
直樹の妄想してまたまたウットリ♪はうーー

続き楽しみにしてました!
やっぱ椅子置いておくなんて、ホント入江君優しいんだよね。
水玉さんの書く入江君
の優しさ大好きです。絵を書く入江君も素敵ですねっ。

ありがとうございます

コメントありがとうございます。

美優さん
覚えていて下さってありがとうございます。
覚えていて下さっているうちに、更新しますね(笑)

アリエルさん
絵にしちゃった…(汗)
あの頃、自分で絵が描けないから、入江くんに描かせちゃえ!って思ってこのストーリーにしたのだけど…
難しくてちょっと苦闘しております(~_~;)
信じてもらえないかもしれないけど、一応原作ベースよ(笑)

KEIKOさん
そろそろ進めないと、飽きてしまいますよね(笑)
そして、きっとまた、終盤になるとスピードが上がるんです、私ってやつは(汗)

さあやさん
…ねえ!妄想するならぜひ(以下省略)(笑)
キャンバスに向かって立つ入江くんを私も想像しながら描いてます♪

うーちゃんさん
よかったです。優しいって言っていただけて♪
いつも優しいコメントありがとうございます!
とても嬉しいです!

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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