日々草子 花嫁とカウンセラー

花嫁とカウンセラー

結婚を目前に控えた女性は、マリッジブルーになるという…。

そんな言葉、こいつには永遠に無関係だろう。
僕はそう思いながら、琴子を見た。

琴子とお兄ちゃんの結婚まで、あと1週間だ。
6年(すごいよな、これ)のストーカーを見事に成功させ、琴子はお兄ちゃんを手に入れた。
「入江くんの奥さんよ~」とか目をハートにさせて、地に足がついていない状態…のはず。

今日もママと一緒にエステに出かけた。結婚を控えた女はあちこち磨く必要があるらしい。
大変だね、女ってのも。もっとも琴子は磨いても、もう遅いと思うんだけど。ま、本人の気の済むようにやればいいさ。

「おお!」
リビングに入って、僕は驚きのあまり声を上げた。
そこには琴子が電気もつけずにソファに座っていたから。
「な、何やってんだよ!」
僕はとりあえず、スイッチを入れ、リビングを明るくした。
「…ああ、裕樹くん。」
漸く僕に気がついたらしい。いつもボケっとしているけど、今日は更にボケに磨きをかけた顔を僕へ向けた。

「ひでえ顔。」
目をハートどころか、死んだフナみたいなドロンとした目をしている。
「そんな顔じゃ、お兄ちゃんに捨てられるのも時間の問題だな。」
僕だって、フナ女にお兄ちゃんをとられるのはごめんだ。
「…捨てられる?」
「そうだよ。」
そして、こうなるんだよ。「何ですって!?」とか叫んでさ。いつものパターンだ。
「ねえ…裕樹くん。」
あれ?違うみたいだな。
「…何だよ?」
調子が違うので戸惑うじゃないか。僕のペースまで乱すのはやめてほしい。
「…あたし、結婚していいのかなあ?」
「…はあ!?」
何を今更!?そ、それはお兄ちゃんが言うならともかく、お前が言うセリフか!?
「不安でしょうがないんだけど。」
その言葉を聞いて、僕は数日前にテレビで聞いた言葉を思い出していた。
“マリッジブルー”という言葉を…。

「ふ、不安って?」
ちょっとこれはかなり心配になってきた。あの後先考えない、計画性のない琴子がこんなことを言い出すなんて大事件だ。
「だって、結婚が決まってたったの2週間よ?もうあと1週間しかないけど。来週の今頃は、あたしは入江くんの奥さんで入江琴子になっているのかと思うと…。」
実は来週の今も“入江琴子”にはなってないんだけど、それは後の話だ。
「それがお前の望んでいたことじゃん。」
「それはそうだけど…だってあたしは入江くんとおしゃべりしたり、一緒に出かけたりそういう関係になりたかっただけで…それらをすっ飛ばして奥さんって…。」
「いや、お前にぴったりだと思うけど?」
「あたし、入江くんの奥さん務まるかなあ…。」
「む…」
無理だと言おうとして、僕は止まった。今それを言うと、こいつ、悲観して何をしでかすか分からない。
「大丈夫だろ?多分。」
何とかなるだろう。そう思うしかない。
「大丈夫…かなあ?」
琴子は深い溜息をつくと、自分の部屋へと戻って行った。

僕の心配は見事に的中した。
その言葉から一番遠くにいるはずの琴子は、ものの見事に“マリッジブルー”になったらしい。
今日も結婚式の打ち合わせの後、ママとの買い物を断り、一人で帰ってきた。
そしてソファに座って“フナ女”になっている。
「…琴子。」
僕は話しかけた。フナがゆっくりと振り返った。
「…チビの散歩へ行ってくる。」
「ああ、行ってらっしゃい。車に気を付けてね。」
「お前も一緒に来い。」
「え?」
「いいから!」
大体、一人でボケッとしているから、くだらないことばかり考えるんだよ。
こういう時は体を動かして、環境を変えた方がいいに違いない。
それに少しは動かないと、デブッって当日、みっともない姿を晒すことになるぞ?

「ほら、持てよ。」
僕はチビのリードを琴子へ手渡した。琴子は言われるままにリードを手にした。
そして僕たち二人と1匹は、散歩へと向かった。

「大体、結婚したって今までと何一つ変わらないよ。」
歩きながら僕は言った。
「お前は家事なんてできないから、ママがやるだろうし。お前が今までどおり大学行く生活なんだから。そもそも大学行く意味ある?お前の頭で?」
僕はいつも以上に軽く喋った。少しでも琴子の気持ちを軽くしようと。
「家事…。」
「何だよ?」
「あたしって家事もできないダメな女なんだ…。」
おい!
「…何でこんなダメ女、入江くんはもらってくれる気になったのかなあ?」
それは僕が聞きたいよ!でもそのダメ女がいいってお兄ちゃんが言うんだからしょうがない。
「ダメ女にも、いい所があるってことだろ?」
そう言うしかない。これ以上落ち込まれて、式の当日にお兄ちゃんに恥をかかせるわけにいかない。

その日から、結婚式までの間、僕は琴子の“カウンセラー”を務めることにした。

「ほら!琴子!行くぞ!」
カウンセリングの場所は主に近所の公園だ。もちろん、表向きはチビの散歩。
琴子も渋々付いてくる。
「あ、赤ちゃん。かわいい。」
公園で赤ちゃんがニコッと笑いかけてきた。琴子もニコッと笑い返す。
いいぞ。ちょっとは症状が改善されてきたか?
「お、お前もやがてお兄ちゃんの子を産む日がくるよ。」
よし!いいこと言った、僕!
「あたしと入江くんの赤ちゃん~」と目を輝かせて、琴子は妄想ワールドへと旅立つだろう。
「あたしと入江くんの赤ちゃん…。」
そうそう。さあ旅立て!今日は大目に見てやる!
「…あたしなんて育てられるかなあ。」
え?
「生まれたとしても、うまく育てられなくて…。“お前にこの子の母親は向いてない”とか入江くんに言われて、追い出されたり…。」
何だ?その妄想ワールド?
お前が走り出す妄想ワールドは、そこじゃなーい!!
「大丈夫だよ。お前が育てられなくても、お兄ちゃんが育てるからさ。」
何とかして、そのネガティブな世界からこいつを連れださねば…!
「お兄ちゃんはああ見えて、子供には慣れているんだから。」
「入江くんが?」
「そう。僕が生まれた時、お兄ちゃんがおむつを替えてくれたってママがよく言ってた。」
「うそ!?」
琴子が笑った。
やっと笑った。ふう。
「そうだよ。お兄ちゃんじゃないと、僕はだめだったらしい。」
何で自分の恥ずかしい話を、こいつにしなきゃいけないんだ?
「本当に!?」
更に琴子が目を輝かせた。ちょっとプライドが許さないが今は時間がない。

どうやらこの患者にはお兄ちゃんの幼少話が一番効き目があるらしい。
その日から僕は散歩に出ては、お兄ちゃんの話を琴子に聞かせた。
琴子が段々と明るさを取り戻していくのを見るとホッとする。

そして結婚式が明日になった。
「裕樹くん…。」
前日にもかかわらず、僕たちはいつもの公園にいた。
「何だよ?」
もう症状は改善されたよな?
「あたし、緊張して…。明日、教会から逃げ出しそう…。」
「ええっ!」
何だ、それ!
そんなことされたら、僕の今までの苦労が…いや、何よりお兄ちゃんが傷つくだろう!
「お、落ち着いて臨めば、大丈夫だよ。」
「でも、心臓が口から飛び出しそうなくらいバクバクしてるんだけど…。」
まさか、な…?

とうとう当日を迎えることとなった。
僕たちは教会に入った。
ママは琴子につきっきりだ。
僕はお兄ちゃんの控え室をノックした。
「お兄ちゃん。」
「よお。」
お兄ちゃんのタキシード姿は決まってる。僕が見ても惚れ惚れする。琴子なら…卒倒するかもな。ぷぷっ。
「…裕樹。」
「ん?」
「…いろいろ世話になったな。」
「え?」
「あいつのお守、大変だったろ?」
何だ、ばれてたのか。
連日仕事で忙しいお兄ちゃんに心配かけないようにと、こっそりとカウンセリングしてたのにな。
やっぱりお兄ちゃんの目はごまかせなかったか。
「ううん。」
僕は何も気づかないふりして、首を横に振った。
僕を見て、お兄ちゃんは笑った。

さて、患者の元へと行くか…。
僕は琴子の控え室へと向かった。
…だめだ。
琴子を一目見るなり僕は溜息をついた。
もうカチンコチンだ。
つついたら、ピシッとヒビが割れて粉々になるんじゃなかろうか…。
このままだと…。僕は想像した。
お兄ちゃんを置いて、トンズラする琴子…。目を見張るお兄ちゃん、開いた口が塞がらない参列者…。僕は頭を振った。冗談じゃない!
よし、ラストカウンセリングだ。
「琴子…ちょっと耳を貸せ。」
僕は特効薬を処方した。

特効薬が効いたのか、その後式はきちんと行われた。
ヴァージンロードを歩く時の琴子は、今までと打って変わった自信にあふれた表情をしていた。
そして…調子に乗りやがった!

式が終わり、僕たちは外へ出て新郎新婦が出てくるのを待った。
出てきた。
この1週間が嘘みたいだ。僕は琴子の顔を見てそう思った。

「裕樹くん!」
突然名前を呼ばれて、僕は顔を上げようとしたその時。
バサッ!
何が飛んできたかと思ったら…ブーケ!
僕が二人を見ると、二人が微笑んでいた。
僕も微笑んだ。

ようやくカウンセラーはお役御免だな。
お兄ちゃん、患者は返すからね。
琴子、もう2度と僕に治療させるようなこと、するなよな。

----------------------------------------------------------
♪あとがき
考えたのは昨年の11月頃なんですが…。
『硝子細工』とかぶってますね、見事に(^_^;)
自分が書いた話なら、かぶってもOKってことで!(←いいのだろうか…?)
そして原作ともまた変えちゃいました。
原作では松本姉がもらってたのにね、ブーケ。
…最近、文章修業に出かけたいです。本当に。
どこかでさせてくれる方、いらっしゃいませんか(笑)
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はぅーー><もう最高だわ、水ちゃんの隙間埋めのお話♪
かなぁーりツボです^^
だって、この二週間は妄想が拡がる二週間だもの…
原作になかったし、直樹の誕生日もなかったものね^^;
そっか、琴子はマリッジブルーになっててそこで裕樹の特効薬
『耳かせ』があって『ザマーミロ』になったわけね^^
裕樹の温かい気持ちにジーンときたわ><
そのカウンセリングに気がついていた直樹がまた素敵><
この兄弟愛って素晴らしいよね^^
水ちゃんのSSは本当凄いよ♪
ありがとう☆

裕樹お疲れ様。

みずたまさん、こんばんは。                                         そうなんだぁ。あの元気な琴子が、マリッジブルーですか。                      それに気づいた裕樹。余りの琴子の変貌振りに驚いて対策を練り、チビと散歩ですかぁ。    赤ちゃんを見せて直樹が僕の面倒を見ていたことを話したりして克服。それでも当日、緊張し  てしまい、2回目のキスの話をして、全て上手くいったんですね。                  直樹は弘樹に面倒を見てくれて有難うと。皆が皆なるわけではないと思いますが。でも裕樹  君ご苦労様。しかし、ブーケが裕樹に???。

裕樹なんていい子なのー!心あたたまります!
ブーケは裕樹で有りです☆有りです☆にっこり笑ってるイリコトと、ちょっと照れた裕樹が目に浮かびますww

だめ!

水ちゃん、修行なんか行っちゃだめぇ~~。そのままのあなたがアタシは好きなんだもん!
はい、気持ち悪いですね(笑)
冗談抜きで、水ちゃんのSSは素敵よ。
琴子の不安そうな顔、裕樹の小生意気だけどお兄ちゃんとよく似たちょっとわかりずらい優しい顔、全部目に浮かぶよ。
いつもいつも素敵なお話読ませてくれてありがとう!

う~ん、祐樹くん好きだな

なんだかんだ言っても祐樹くんて琴子の事をちゃんと見ててフォローしてくれる良い弟ですよね!
さすが入江直樹の弟だわ!!!
水玉さんのSSは大好きです~
次回も楽しみにしてます

素敵なお話ですね。
裕樹くんはやっぱりいい子です!
入江くん同様なんだかんだ言いながら、琴子の面倒をみてしまうのですね。
琴子にマリッジブルーは似合いません!裕樹くんカウンセリングお疲れさまでした。

ありがとうございます

さあやさん
ああ!入江くんの誕生日もあったんだ!(←今頃何を…)
この2週間っていろいろな方が素敵なお話を書いていらっしゃいますよね…。
無謀な挑戦をしてしまいました(^_^;)

tiemさん
ブーケが男の子に行くのって確かに…って感じですよね(^_^;)
でも書いているうちに、琴子なら裕樹にあげるかなって思ってそういう結末にしちゃいました。

haさん
まさにhaさんがおっしゃってくださったようなシーンを、私も思い浮かべて書いたんです!
よかった~伝わって!ありがとうございます!

アリエルさん
いやあん(笑)嬉しい♪
大丈夫、変わりたくても変われないことに早々と気づいたから(笑)
こんな私についてきてね(←気持ち悪すぎ)

ミルクさん
裕樹くん、大人気ですよね!
嬉しいお言葉ありがとうございます!励みになります!

chieさん
なんだかんだいっても、琴子の花嫁姿を一番見たいのは実は裕樹くんだったり…なーんてね(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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