日々草子 天使と悪魔 4

天使と悪魔 4

「薫くんの名字は、岩田…。お父さんの名前は岩田哲也…。」
カルテを見ながら琴子は一人ブツブツと言っていた。
「…同性同名だよなあ。」
そう言いながら、薫の病室のドアを開けた。

「あ!琴子ちゃん!」
琴子の顔を見て、薫が笑った。傍に座っているのは直樹だ。
薫の笑顔とは対象的に、直樹は疲れた顔をしている。
「…またうまくいかなかったんだ。」
琴子は直樹に気付かれないよう、そっとため息をついた。

「あのね、あのね、琴子ちゃん。パパからお手紙来たの!」
薫は手紙を琴子に見せた。
「パパ、明日来てくれるんだって!」
薫はとっても嬉しそうに叫んだ。
「本当?よかったね。」
「うん!」
薫はそう言って、琴子へ抱きついた。
「パパに琴子ちゃんのこと、いっぱいお話したんだよ。この前電話で。」
「えー?何て?」
「とっても可愛くて、優しくて、天使みたいだって。」
「やーん、薫くんてば!」
笑い合って、抱き合う二人を横目に直樹は、
「なあにが天使だか。…夜は堕天使になるくせに。」
とボソッと呟いた。
「何か言いました?」
琴子が直樹に聞いた。
「…別に。」

翌日、薫の父、哲也が直樹の前に現れた。
薫に会いに行く前に、直樹に挨拶と経過を聞きにきたのだ。
さすがに息子と違い、直樹のことを「悪魔」とは呼ばずに「入江先生」と呼んでくれた。
が、外見に直樹は驚いた。
顔は髭に覆われ、服装もどこか薄汚れている。本音を言えば病院へ来て欲しくない格好だった。
「あ、すみません。仕事から直行したもので…。」
そんな本音が伝わったのか、哲也が謝った。
「仕事って…カメラマンでしたっけ?」
「はい。あちこちの自然や動物を撮影してます。」
そう言って、哲也は笑った。

二人で薫の部屋へ入った時、薫は琴子と一緒だった。
「あ、パパ!」
薫の声に哲也は、
「久しぶり!」
とベッドへ近寄り、薫を抱きしめた。
薫は憎たらしいが、顔はとても可愛い顔をしている。
そんな2人の様子を見て直樹は、
「息子は別れた奥さんに似たんだろうな…。」
などと、失礼なことを考えていた。

「パパ、琴子ちゃんだよ!」
しばし父親と抱き合った後、薫が哲也に琴子を紹介した。
「…琴子ちゃん?」
哲也が琴子の顔を見た。
「こんにちは。お父さん。」
琴子もにっこりと挨拶をした。
「俺への紹介はなしかよ。」と、傍らで直樹は薫をこっそりと睨む。
「琴子ちゃん…。」
哲也がもう一度、琴子の名前を呟いた。
「子供じゃないんだから、苗字で呼べよ、苗字で。」と直樹は更に面白くない。

すると、琴子の口から意外な言葉が飛び出した。
「…哲ちゃん?」
琴子の言葉に直樹が驚く。
「やっぱり、哲ちゃんだ!」
「じゃ、琴子ちゃんか!」
今度は琴子と哲也が抱き合う。
「そうじゃないかって気がしてたのよ!」
「まさか、琴子ちゃんが看護師になってたなんて!」
二人はキャーキャー騒いでいる。
直樹は何が何だか分からなかった。

「薫くんって、哲ちゃんにそっくりだよね!」
「よく言われるんだよ!」
「このむさくるしい男に?」と、直樹は再度驚き、薫の顔を見た。
薫と目が合う。すると薫は「ふふん」という顔をした。
…一体、俺が何をしたっていうんだ?直樹はこの場の状況が全然理解できずにいた。

その晩、琴子が事情を説明した。
「哲ちゃん…薫くんのお父さんは、私の幼馴染なの。」
「幼馴染?」
「そう。家がお隣さんだったの。」
それで「哲ちゃん、琴子ちゃん」と呼び合う仲なわけかと、その点は直樹は納得した。
「あたしが生まれて、お父さんが家を、あ、あの地震で崩壊した家のことね。その家を建てて引っ越すまでの18年間、お隣さんだったの。でも途中で哲ちゃんは留学しちゃったんだけど。」
琴子の説明を直樹は納得した。
「まさか、神戸で会うことになるとは…。世の中って狭いよね?」
一人で琴子は頷いている。
とりあえず、2人が知り合いだった理由は分かったので直樹はちょっと安心した。

「…これ?」
その時、ベッドの下にあるものを直樹は見つけた。それは琴子が薫からもらった数枚の絵だった。
「飾らないのか?」
いつもの琴子だったら、「嬉しい!早速貼っておかなきゃ!」とはしゃぐはず。それが隠すように置かれていることが直樹には不思議だった。
「ああ、それ?」
まずいものを見つけられたような顔を琴子はした。
「…だって、ここ賃貸だから、壁に穴を開けたらだめでしょ?」
そう言って、直樹の手から絵をひったくると、琴子は再びベッドの下へとしまった。
琴子にしてはまともなことを言うなと、その時直樹は思ったのだが…。

「それにしても、あの高校入試の時の琴子ちゃんときたら…。」
あれから毎日、哲也は息子の顔を見に、病室へと来る。そして琴子とひとしきり思い出話に花を咲かせる。
「すごい勉強っぷりだったよな。」
「哲ちゃんの家庭教師が良かったから。」
「…家庭教師?」
薫の診察をしながら、さりげなく直樹も話に加わる。
「あ、俺、琴子ちゃんの家庭教師してたんです。受験勉強の。」
「そうなんです。哲ちゃん…薫くんのお父さん、T大生だったから。」
T大生って…そんなにすごい人物だったのかと、直樹は改めて哲也の顔を見た。(琴子がらみの)事情があったことからT大の受験はしなかったが、想像では船津のような人間がウヨウヨしているのだろうと、直樹は思っていたので、こんな気さくな人間がいるとは思わなかった。

「哲ちゃんがいなかったら、あたし、高校落ちていたもの!」
琴子はそう言って笑った。
つまり“哲ちゃん”がいなければ、俺たちは出会ってなかったというわけかと、直樹は複雑な思いを感じていた。
そんなことより、自分の知らない琴子を知っている男の出現に、心中穏やかではない。

「そういえば、俺は途中で留学しちゃったけど、引っ越した後の琴子ちゃんの家、大変だったんだろ?」
哲也が話を変える。
「そうなの。地震でね…。」
「帰国して、訪ねてみたらびっくりしたよ。何か苦労したらしいじゃない。」
「苦労?」
何のことだろうと琴子は首を傾げる。
「家がなくなって、引き取られた先で苦労したって。意地悪な兄弟にいじめられているらしいとか。」
「…それ誰に聞いたの?」
「お前の友達の関西弁の男の子。早くそこの家を出たくて、必死だったんだろ?苦労したよな。」
金之助…!今度見つけたら殺すと、直樹は思った。
「哲ちゃん!違う、違う。よくしてもらったのよ。そこのお家では!」
直樹の手前、琴子が必死に弁明する。
「変わらないね。琴子ちゃんはいつもそうだよな。」
哲也は琴子が気を遣っていると信じている。
「いや、本当に!いじめられもしなかったし!」
とにかく、琴子は必死になって哲也を止めようとする。

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☆あとがき
また変なキャラ作っちゃいました…(汗)
UPする前に読み返してみたのですが…会話多すぎ!!
できるだけ、会話に頼らず書くように頑張ります(^^ゞ
本当に、こんな会話だらけの文章を読んで下さっている方、大感謝です!
読んでくださって有難うございますm(__)m
…久しぶりに某サイト様を訪れたためか、反省モードにスイッチが入りました。
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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