日々草子 暖炉の写真

暖炉の写真

「でっけー家。」
直樹は門の前で家を見上げていた。
表札には『船津』とある。
その傍のインターホンを押した。
軽やかなチャイムの音がした後、
「はい…。」
と女性の声がした。
「斗南大病院の入江と申しますが…。」
そこまで言った途端、インターホンの中から、
「はい。どうぞお入り下さいませ。」
と声がした後、門扉が自動で開いた。
「へえ…。」
直樹はそう呟くと、敷地内へと足を踏み入れた。

玄関に到着するのと同時に、扉が開き、中から和服を着た上品な老婦人が現れた。
「船津のおばあさんかな?」
直樹はそう思いながら頭を下げた。
「いらっしゃいませ。入江様でいらっしゃいますね?坊ちゃまからお噂はかねがね…。」
老婦人は微笑みながら、直樹を中へ入れた。
「坊ちゃま…。」
笑いを堪えながら直樹は老婦人の後へ続いた。

「坊ちゃまはただいま、図書館へお出かけでして。もう間もなくお帰りになりますので、少々お待ちいただけますか?」
老婦人はお茶を出しながら、申し訳なさそうに言った。
「わかりました。」
時間はあるので、別に構わない。
老婦人が応接間を出て行った後、直樹は改めて部屋の中を見回した。

部屋の片隅には暖炉がある。
「…うちだってないぜ。」
そう言いながら、傍へ近寄る。
暖炉の上には、たくさんの写真が飾られている。
「いずこも同じか。」
独り言を呟きながら、写真を順番に見て行った。
写真は船津の幼稚園の入園式から、T大の入学式までがきちんと並べられていた。
それぞれの校門前で両親とおさまっている。
そしてそれらの写真の横には、必ず自宅前で先程の老婦人とおさまっている船津の写真が並べられていた。
恐らく、それぞれの入学式が終わった後、帰宅して老婦人と二人で撮るのが習慣となっていたのだろう。
直樹はそれらの写真を見て、船津が先程の老婦人をいかに大切にしているのかが分かった。

ソファに戻り、お茶を飲みながらのんびりしていると、応接間のドアが開いた。
「…何か用ですか?」
直樹の顔を見た途端、船津が失礼極まりないセリフを発した。
「用って…。これ忘れたから届けてやっただけだ。」
直樹はちょっとムッとしながら、封筒を渡した。船津が来週の学会の準備に必要な書類だ。
「…失礼。わざわざ悪かったですね。」
態度を少し反省したのか、船津は直樹の目の前に座りながら、書類を受け取った。
「…お前の家って。」
直樹が口を開いた途端、船津が強い口調で叫んだ。
「ただの公務員だよ!」
「…ま、確かに大使は公務員だよな。」
直樹の言葉に船津が目を見張った。
「な、何で…。」
「あそこの暖炉に飾ってある写真の親父さんの顔、新聞で見覚えがあるから。」
「新聞?」
首をかしげる船津に、直樹は続けた。
「大使クラスになると、人事異動の時に新聞に写真入りでプロフィールが出るから。」
そんなものまでこの男は覚えているのかと、船津は内心舌を巻いた。

「…品川さん、知ってんの?お前の家のこと。」
「言ってない。親は親、僕は僕だから。」
船津の言葉に、直樹は頷いた。
「…そうだな。」
しばらく二人は黙ってお茶を飲んでいた。

「君のお父さんは…何やってるの?」
船津が口を開いた。
「…サラリーマン。」
社長だってサラリー(給料)を貰っていればサラリーマンだろうと、直樹は思いながら答えた。
「あ、そ。」
直樹の返事に、船津は大して興味を持たなかったらしい。

「じゃ、用事が済んだので俺はこれで。」
直樹が立ち上がったその時、応接間の扉が再び開き、先程の老婦人が顔を出した。
「まあ、もうお帰りですか?お夕食を一緒にと思ってご用意しておりましたのに。」
「でも…。」
直樹は船津がそれは嫌がるだろうと思った。しかし、船津の言葉は意外なものだった。
「…せっかくだから食べていけば?時間があるなら。わざわざ届けてもらったことだし。」
老婦人もそうしてくれと言わんばかりの顔をしている。
二人の好意を、直樹は素直に受け取ることにした。

「坊ちゃまから入江様のことはしょっちゅう、覗っております。」
給仕をしながら、老婦人が嬉しそうに言った。
「いつも入江様に勝つんだって、勉強されていて…。お二人はよきライバルなんでございますね。」
ライバルだなんて思ったことは一度もないけれどと直樹は思ったが、そこは場の空気を壊さないように、黙って微笑んだ。

「おいしかったでしょ?ばあやの料理。」
食後のお茶を出しに、老婦人が部屋を出て行った後、船津が自慢気に言った。
「ばあや」という言葉と船津のあまりのギャップに、直樹は噴き出しそうになったが、耐えた。
「ああ。」
「ばあやの料理は日本いや、世界一だから。」
船津が更に鼻を高くして言った。
「…今度は、うちに食べに来れば?うちのメシもうまいと思うぜ。」
直樹は誘ってみた。
「君の家…ってまさか、琴子さんの手料理?」
それはちょっと…という顔を船津はした。
「違う。お袋が作る料理。琴子の手料理なんて食ったら、お前1週間は寝込むぞ。」
「…なんで君はピンピンしているの?」
青ざめながら、船津は尋ねた。
「…慣れだよ、長年の慣れ。」
直樹は答えた。

直樹が自宅の玄関に入った時、何とも言えない匂いが充満していた。
「何の匂いだ…?」
直樹が思っていると、エプロン姿の琴子が現れた。
「お帰りなさい!」
「これは一体…?」
直樹の問いに、琴子がしょんぼりしながら説明した。
「今日は私が一人でグラタンを腕によりをかけて作ったの。でもみんな遅くなるからって…。」
恐らく、野生の勘で家族は何かを察したのだろう。それは正解だと直樹は思った。
「入江くん、夕食は?」
琴子が最後の希望とばかりに、目を輝かせながら聞いてきた。
「…まだ。」
その目に直樹は逆らえなかった…。
「本当?じゃ、すぐに用意するから手を洗ってきてね!」
直樹の言葉を聞き、琴子はキッチンへと戻って行った。
「…やっぱり船津を呼ぶ時は、琴子がいない時にしよう。」
直樹はそう思いながら、覚悟を決め、洗面所へと向かった。

----------------------------------------
☆あとがき
全部書きあげてからUPしたはずが、何がどうなって途中のままUPされてました。
ごめんなさい!
教えてくれたAさん、本当に助かりました!
昨日、ふとしたことがきっかけで、久しぶりに書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
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comment

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最高サイコーさいこぉぉぉぉぉぉ!
このスピンオフ、実はこっそり待ってたのよンv-392

そして、やっぱり水ちゃんの直樹はやさしいねぇ~v-344
琴子の目がどんなだったかはっきり見えるよ、アリエルには。ふふふ・・・そりゃあ、逆らえないよねぇ~~v-398

こちらも、断然シリーズ化希望です!!プリーズ!!

アリエルさんに便乗して、σ(`ε´) にも琴子の入江君を見つめる目が…姿が…はっきり浮かぶなぁ!
そりゃ逆らえないよね。

入江くん優しいなあ~。そーよねー琴子に見つめられたら♥♥
逆らえない!!惚れている弱みですね。

船津くんの口から「ばあや」だなんて、そりゃあ直樹じゃなくても笑っちゃうでしょ確実に。我慢できた直樹が凄い・・・。
琴子のグラタン食べてあげるのね~、優しい直樹GOODです。女の手料理に男は弱いっていうけど、違うのよね直樹は。琴子に対する直樹の愛って深いわ~~。

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます。
…驚きました。船津話にこんなに拍手&コメがいただけるとは(笑)
かなり想定外です(笑)その分、すごく喜んでいます^^

アリエルさん、ヒロイブさん、chieさん、くみくみママさん
琴子が目を輝かす様子が浮かびました?
よかったよかった^^
しかしどんなグラタンだったのか…。
焦がしたことは間違いないだろうけど、本当に入江くんの胃袋は頑丈にできているなあと思います(笑)



プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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