日々草子 天使と悪魔 1

天使と悪魔 1

「薫くん、調子はどうかなあ?」
琴子がにこやかに病室へ入っていくと、そこには男の子がいた。
「あ、琴子ちゃん!」
薫と呼ばれた男の子は、琴子の姿を見るなり、嬉しそうにベッドへ起き上がった。
「今日はね、ごはんもちゃんと全部食べられたよ。」
「本当?えらいなあ!」
琴子も薫の頭をなでる。

薫は5歳の男の子。
最近になって、琴子が担当になった。
両親は離婚していて、父親の顔もまだ琴子は見ていない。

「はい!琴子ちゃん!」
薫が琴子へ1枚の画用紙を差し出した。
「あ、また書いてくれたの?」
「うん!」
琴子が薫から受け取ったもの、それは薫が描いた琴子の似顔絵だった。
薫は絵を描くことが大好きで、これまでも琴子の顔を何枚か描いていた。
「そっくり!ありがとうね、薫くん。」
琴子は薫を抱きしめた。

「…そろそろ診察させてくれるかな?薫くん。」
抱き合っている二人の後ろから直樹が声をかけた。
「あ、ごめんなさい!薫くん、先生にちょっと診てもらおうね。」
慌てて琴子が薫から体を離した。
すると、薫は今まで琴子に見せていた愛らしい笑顔を消した。
「まだ、いたんだ。」
これまた琴子に対する声とは違う声色で、薫は呟いた。

「いたって、先生は薫くんの病気を治してくれるんだよ?」
琴子がなだめる。
「いつまでいるの?悪魔先生。」
薫は言った。

「悪魔先生」
それは薫が直樹につけたあだ名だった。
早い話、薫は直樹のことが大嫌いなのである。
初対面の時、開口一番、薫が言った言葉が「悪魔」だった。
琴子がなだめすかして(本当は笑いをこらえながら)、なんとか「先生」だけは付けてあげてと、薫に頼んだ結果、「悪魔先生」で薫は妥協してくれたのだった。

「いつまでって、先生はここで働いているから。」
直樹は慣れたもので、薫の悪口をさらっと受け流す。
「ふうん…。早く地獄へ帰る日がくるといいね。」
薫は直樹に冷たい声を出しつつ、琴子へは笑顔を向けた。
「琴子ちゃんは、天使だもんね!」
「本当?嬉しい!」

…5歳で女を喜ばす術を知ってるのかよと内心呆れつつ、直樹は診察を続ける。
それにしても、何でここまで嫌われるのか、理由が分からない。

最初に悪魔と呼ばれた日の夜、琴子はゲラゲラと笑い続けたものだ。
『い、今まで入江くんのことを悪魔みたいだと思ったことは、そりゃ私だってあるけど、口にしたことはないわ!』
そう言って、自宅でお腹を抱えていた。
『お義母さんくらいよね?入江くんのことを悪魔とか呼んだのって!』
そう言って、ヒイヒイ笑い続ける琴子。
『…知らない。』
さすがに面と向かって、しかも子供から呼ばれたことにショックを隠しきれない直樹だった。
『ま、子供は正直だものね。でもあの子、私には懐いてくれているんだけどなあ。』
琴子は首をかしげた。
『私と入江くんが結婚しているって、気づいているとか?』
『知らない。』

…結局、今でも嫌われる理由は分からないままであった。


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☆あとがき
大変遅くなりましたが、お世話になった方のリクエストです。
お、覚えていらっしゃいます?
『秘密』っていう話の続編になります…。
「この二人、まだ研修してんの?」「まだ結婚してること秘密なの?」とか、いろいろ突っ込みはあるかと思いますが、書いている私が率先して突っ込んでいますので(笑)。
しかも、リクエストは短編でいいとのたった一言だったのに…勝手に連続物にしちゃうし。
これも短くまとめられない私のせいです(汗)
そして、ラブラブな雰囲気が書けるのか…もうリクをこちらからさせておいて、勝手に突っ走っている私を許して下さい。
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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