日々草子 カムバックする後輩
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カムバックする後輩

このシリーズ名をタイトルに見つけた時の皆様の溜息が聞こえるようです…申し訳ありません。
しかし私は書く!なぜならこのシリーズが好きだから!(笑)

☆☆☆☆☆








「何ですか、貴重な休憩時間に呼び出して。」
桔梗くんと鴨狩くんが不満あふれんばかりという顔で、僕の前に座っていた。
「僕は決心したんだ。」
「病院を辞めることですか?」
「医者を辞めることですか?」
「いや、どっちも辞めないって!」
何で僕をそう追い出したがるんだ。まったく、どこぞの後輩にくっついているとこういう思考回路になるんだな。
「じゃ、何です?」
「…琴子ちゃんにあいつの正体をばらそうと思う。」
僕は二人の目を見つめた。

「何でそんな命を大事にしないんですか?」
二人がが呆れた顔を向けた。
「いくら枯れ葉一つの重さもない命といえど。」
「ルビーの指輪をあげる相手もいないくせに。」
「誰が昭和歌謡の歌詞をそらんじろと?」
あまりな言いようじゃないか。枯れ葉よりは重いよ、松ぼっくりくらいの重さはあるよ。あと指輪をあげる相手の有無はこの問題に関係ないし。
「だってさ、琴子ちゃんはあいつがボランティア精神にあふれた崇高な男だって信じ込んでいるんだよ。」
「いいじゃないですか。」
「よくないよ。琴子ちゃんの純粋無垢な心を君たちは利用してるんだよ?僕はもう彼女をこれ以上騙せない!」
「入江先生の正体をばらしたって無駄だと思いますけど。」
鴨狩くんが人差し指に髪の毛をまきつけながら、つまらなさそうに言った。
「そうですよ。琴子は幸せなんです。」
「偽りの幸せなど、琴子ちゃんが可哀想だ!」
僕はテーブルを叩いた。
「まあ、好きにしたらいいでしょう。」
鴨狩くんが枝毛を探しながら、あくびをした。いや、もうちょっと真剣に話を聞いてくれてもいいんじゃない?
「行動に移す前に医局の先生の私物、片付けていって下さいね。」
「そうですよ。あたしたちが片付けるなんてごめんですから。」
「俺たち忙しいんで。」
「できれば宅配伝票まで書いておいて下さいね。宅配の人をお願いするくらいはしょうがないからしてあげますから。」
「送料も置いておいて下さいね。」
「何で僕が追い出される前提なのさ!」



まったく失礼な二人だ。いいよ、もう一人で行動するから。
「あ、琴子ちゃん。」
「西垣先生、お疲れ様です。」
エレベーターホールでタイミング良く、琴子ちゃんとでくわした。
「いけない、離れるんでしたね。」
エレベーターに乗り込んだ琴子ちゃんが、後ろに下がった。念のために言っておくけれど、琴子ちゃんは僕を避けたわけではない。あくまで昨今の事情を考えてのことだ。
「あのさ、琴子ちゃん。」
「はい。」
「君の旦那、何でいつも壁際に立つか知ってる?」
「ええ、もちろん。」
琴子ちゃんは頷いた。
「あれですよ、ファイナル・ディスタンス。」
「ソーシャル・ディスタンスね。」
それは宇多田ヒカルの曲名だよ、琴子ちゃん。
「いや、そうじゃなくて。」
いけない、琴子ちゃんのペースに乗せられるところだった。
「あいつ、この騒動が起きるずっと前、何年も前から席につくときは奥に座る、壁際に立つって行動とるでしょ?何でか知ってる?」
「だから、ファイナル・アンサー。」
それはみのもんただよ、琴子ちゃん。もうソーシャルもディスタンスもなくなっちゃってるじゃん。
「そんな昔からファイナル・アンサーじゃない、ソーシャル・ディスタンスとってるわけないじゃん。」
「それは入江くんだからです。」
真っ直ぐな、曇り一つない目で断言する琴子ちゃん。
「入江くんはこうなることが分かっていたんです。なぜなら頭がいいから。」
「いや、それじゃ予言者だよ。」
だめだ、あいつを信じきっている。

僕は違う角度から攻めることにした。

「じゃあさ、じゃあさ。あいつって自分の後ろ通られると睨んだり、ひどい時は手や足が出るじゃん?あれ、何でだと思う?」
「無言で通ろうとするからでしょ。」
琴子ちゃんが何をバカなことをとばかりに返事をした。
「私たちの仕事は声かけも重要ですからね。無言で通った時に危ない時も多いし。当たり前のことです。」
「でもさ、そこまでしなくてもっていうあるじゃん?」
「最近の若者は口で言っても通用しませんからね。命にかかわる仕事なんですから、痛い目に遭って体で覚えてもらうことも必要なんですよ。」
可愛い顔でブラック上司みたいなことを平然と口にする琴子ちゃん。だめだ、こりゃ。完全にあいつを信じ込んでいる。まるで怪しい予言者を崇拝している信者みたいだ。

「西垣先生、到着しましたよ。」
「え?ああ、そっか。」
いつの間にかエレベーターが目的地に到着した。
「まったく、いい加減入江くんの粗探し止めてもらえます?」
「僕は真実を…。」
「真実は私が一番知っているんです!」
ギロリと琴子ちゃんが僕を睨んだ。確かに奥さんだからそうなんだろうけど…ん?
「どうしました?」
「いや、ごめん、またね!」
僕は到着したばかりのエレベーターに再び乗り込み、『R』のボタンをグイグイと押した。



「ちょっと、言ってよお!!」
屋上に着いて、僕は叫んだ。
「何であなたに言わなければいけないんですか。」
後輩がいつものアーマライトM16の支度をしていた。何だか久しぶりだなあ。
「これ以上自粛したら色々困りますからね。」
「え?お前、一応営業自粛してたの?」
「自粛したところで補償はびた一文もらえませんけれど。」
まあ、スナイパーに休業補償してくれる知事はさすがにいないだろうねえ。東京はおろか大阪も北海道の知事も「え?す、スナイパーですか?」って聞き返しそうだし。
「琴子に無駄なことを吹き込んでいたようですね。」
「何で知ってるの!聞こえたの!」
「あなたのくだらない思考回路はお見通しです。琴子は俺だけを信じて生きていればいいんです。」
「洗脳の間違い…おっと!」
後輩がM16を僕に向けた。
「いや、何でもありません!」
「フンッ」とどこぞの深夜ドラマの家政夫のごとき鼻音を立て、あいつはM16を正しい方向へ向けた。
そして、数ヶ月ぶりの銃声が斗南大病院の屋上に響いたのである。



「いやあ、ありがとうございます!さすがゴルゴ入江です!」
本日座薬を入れられた依頼人が後輩の両手を取ろうとした。
「あ、そうでした。今はだめなんですよね。」
そう、握手禁止。
「本当にありがとうございます。先生に助けてもらった命、大事にします!」
いや、あなた、ただの座薬挿入ですから。
「生まれかわったつもりで!」
だから座薬入れてもらっただけでしょうが。あと、とりあえずパンツ履いてもらえます?座薬入れてもらう体勢のままなんで。同性でも目のやり場に困るんだよ。
「ところで、これを渡しておく。」
あいつはノーパン患者の前に、札束を一つ置いた。
「これは私がお支払いした3千万円のうちの1千万円ですか?どうして?」
「今回は依頼を受けてから時間が経ってしまった。それはこちらの都合だ。だから規定の料金はもらえない。」
「いやいや。先生のせいじゃありません。この御時世ですから仕方のないことです。どうぞお受け取りを。」
「いや、それは俺のポリシーに反する。」
「入江先生…さすがです。分かりました、ではこちらは返金ということで。」
ノーパン患者はなぜかその札束を下半身に…。
「あ、いけない。まだパジャマのズボン履いていなかった。」
よくわからないが、ズボンの中にしまうつもりだったらしい。その前にパンツ、パンツね。
「また何かあったらよろしくお願いします。」
「医者にそういうことは言わないものだ。医者とは顔を合わせない方が幸せなのだから。」
「あ、そうですね…さすがです!」
こうしてまたあいつは信者を増やしていく…。



「お前、休業補償いらねえじゃんよ!」
あんな大金受け取っておいてさ!
「本業ができなくて、副業で食っていたのは事実です。」
「副業って…あれ!お前、本業座薬挿入で、副業が正規の医療行為なの?」
僕の質問に答えることなく、後輩は仮眠室へ入った。

「入江くん、また休業補償?もうそんなこといって!」
すでに中で待機していたらしき琴子ちゃんが笑っている。何だよ、あいつ。琴子ちゃんから「休業補償」という名の奉仕活動をしてもらってるんじゃんかよ!

「星空の下のディスタンス…!!」
琴子ちゃん、それはソーシャル…いやもういいや。うん、ディスタンスが戻ってきただけ充分ってことで。
「…燃え上がれ、愛のレジスタンス!!」
それ以上燃え上がってどうするんだよ、もういっそ灰になっちまえ、お前ら!
お前ら二人とも、完全に濃厚接触だからな!ソーシャル・ディスタンスも意味ないし、そしてこの部屋、換気してないくせに!
離れろ!2メートルといわず500マイル離れろ!!

「あ、お世話様です…って、ちょっと待って!」
琴子ちゃんの「Baby Come Back!」を聞き終え(いったいどこのBabyをComebackさせてるんだか!)、医局へ戻る途中に宅配の人とすれ違った。その荷物を見て僕は叫んだ。
「何で運んでるの!」
「何でってご依頼があったから。」
「それ僕の荷物!まだ使うの!ここで使うの!」
世話する暇がないとかいって、あの二人…僕の私物を段ボールにまとめやがった!そして宅配を手配しやがった!
「すみません」と謝りながら、僕は段ボールを受け取った。それを抱え医局へ戻る。
…西垣もカムバックするんだよお!!



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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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