日々草子 水面に映る蓮の花 38
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水面に映る蓮の花 38

体調の面でお気遣いのコメントありがとうございました。
おかげさまで二週間とちょっとで治りました。
どうしようもない替え歌に反応して下さりとても嬉しかったです。というか、替え歌が話より拍手数が多いってどうしたことだろうか(笑)
でもそういうのって凄く嬉しいんですよね、私のしょうもないプライベート話に笑ってもらえたってことで!

こちらのお話も残すところ数話となりました。何とかゴールできるよう邁進したいと思います!
最後までお付き合いいただければ幸いです。



☆☆☆☆☆






「こちらにいらっしゃると聞いたので。」
春也が訪ねてきた時、裕樹は好美と絵の道具の手入れをしていたところだった。
「このたびのこと、お礼を申し上げに参りました。」
いつになくかしこまっている春也だった。
「兄上と琴子に聞いた。よかったな、治るって。」
「はい。本当に。」
「兄上と琴子の元へは?」
「こちらに伺う前に。東宮妃様も東宮様の御殿にいらしたので。」
「最近、二人一緒のことが多いんだ。」
そう話す裕樹はとても嬉しそうであった。

そして三人は裕樹の御殿へと移動した。
「丁度よかった。これをお前に渡そうと思ったんだ。」
裕樹が春也に、筒状になった紙を渡した。美しい紐で開かないよう結ばれていた。
「これは…。」
春也が開くと、そこに描かれていたのは少女の絵であった。
「もうすぐ相手の姫が療養へ出発するのだろう。お前も寂しいのではないかと思って。」
裕樹が描いた、春也の許嫁の絵だった。
「僕は顔を知らないから、兄上と琴子に聞いて描いてみたんだ。」
春也には言わないが、裕樹は何度も二人に顔の特徴を聞くために足を運んだのだった。それを何枚も何枚も描いて漸く納得のいくものが仕上がったことを、好美は知っていた。だから、春也がどのような反応を見せるか不安だった。
「…。」
春也は絵を見つめて、何も発しなかった。
「…似てない、か。」
裕樹は怒ることもなく呟いた。それは裕樹も薄々感じていた。自分の腕がまだ未熟だということを一番知っているのは裕樹だった。
「やっぱり、師の君にお願いして描いていただいた方がいいな、うん。」
明るく裕樹は言った。そして春也の手にしている絵をつかんだ。
「事情を話してお願いすれば、きっと描いていただけるだろう。だよな?」
師の君の娘である好美に裕樹は同意を求めた。好美は裕樹の気持ちが分かるだけに何も返答ができなかった。
「…似てますよ。」
春也が絵をすぐに裕樹から届かぬ位置に動かして答えた。
「これは私の許嫁の絵です。」
「そ、そうか?気を遣う必要はないぞ。遠慮はいらぬ。」
「気を遣ってません。これは私の部屋に飾り毎日眺めます。これはとても素晴らしい絵です。」
春也は目をごしごしとこすって、言った。
「ありがとうございます。大事にします。」
「そう言ってもらえると描いた甲斐がある、うん。」
あまりに真っ直ぐな春也の言葉に裕樹もやや顔が赤くなった。が、嬉しくてたまらないとばかりの表情であった。

「宮様、お願いがあるのですが。」
「何だ?」
「絵をもう一枚、描いていただけないでしょうか。」
「何だと?」
「私の顔を描いて下さい、宮様。」
春也は頼んだ。
「それを許嫁に渡します。」
「なるほど、お互いの絵姿を毎日見たいというわけか。」
「素敵です。」
好美が春也の考えを褒めた。
「きっと許嫁の姫君も喜ばれましょう。」
「ま、いいけどな。」
口とは裏腹に裕樹は自分の絵を認めてもらえたようで嬉しかった。
「ならば、好美、もう一本紐を編んでもらわねば。」
「紐?もしやこちらの飾り紐ですか?」
絵に巻かれていた紐を手に取り、春也は好美を見た。
「そうだ。僕が春也に絵を贈ると話した時、贈り物ならば飾り紐をつけたほうがいいのではと言ったんだ。それで頼んだ。」
「美しい細工だと思っていました。好美殿の考えでしたら納得いたしました。」
「どういうことだ。僕が思いつくようなことではないということか?」
「女人ならではの考えだということですよ。」
「何か色々気になるが…まあ、いい。」
「あ、私の顔を描かれる時は、やや美形にお願いできますか。」
「しれっとお前は図々しいことを言うな。」
「未来の妻に贈るのですから、それくらいは。」
「正直な顔の方がいいと思うぞ。僕は真実しか描かない主義なのだ。」
「宮様の場合、実物より意識して美化して描かれた方が真実に近くなるかと。」
「遠回しに下手くそと文句をつけやがって。」
「私は好きですよ、宮様の絵は。」
春也が真面目な表情で言った。
「宮様はいつも心を込めて、誰かのために描いていらっしゃいます。そのお気持ちが籠もっているから大好きです。」
「そうです、私も大好きです。」
好美が春也に従った。
「とても楽しそうに描いていらっしゃいます。そのお姿を拝見するのがとても好きなのです。」
「なんだ、二人とも。」
裕樹は照れて笑いが止まらないと、袖で顔を隠した。
「ったく…しょうがないな!好美、お前も何か希望があったら描いてやってもいいぞ。」
「…宮様のお顔がいいです。」
ポツリと好美は呟いた。と、すぐに「いえ、失礼いたしました!!」と頭を下げた。つい、本心を打ち明けてしまったことが恥ずかしい。
「僕の顔?なぜだ?」
裕樹は目の前で頭を下げている好美を見ていた。
「分かった、お前、僕の顔に落書きしたいんだろう!」
「えっ?」
思わず好美は顔を上げた。
「日頃の恨みつらみを晴らす気だろう!そうだろう?」
「そんなこと!」
「…全く気づいていない。」
好美を責める裕樹に、春也は溜息をついた。
「宮様、好美殿は人物画を宮様が極めるためには自画像からと思われたのでしょう。」
春也は助け船を出した。
「自画像?そうなのか?」
「そ、そうです。」
「まあ、そういうことなら描くか…お前、大事にしろよ。落書きするなよ。」
「はい!」
どの紙に描こうかと裕樹が色々選んでいる間、春也はそっと好美に目配せをし、好美もそっと黙礼したのだった。



仲を戻した直樹と琴子は、この夜も共に過ごしていた。
「指輪はしていないのか?」
琴子の左手薬指に何もないことに直樹は気づいた。
「傷ついたらいけないので。」
勿体なくて箱に入れ、大事にしまっていると琴子は答えた。
直樹はそれを出してくるようにと言った。琴子が出してきた指輪を直樹はやさしく付けてやった。
「指輪をつけると、俺のものだって感じが増していいな。」
「まっ。」
そのまま直樹は琴子の体を抱き上げて寝台へと運んだ。
「…まだ、一緒に過ごす夜は決まっているのではと気にしているんだろ。」
「だってそれは…。」
宮中の占い師が子が授かる夜を決めてのことだと二人は知っている。特に子ができない事を気にしている琴子にとっては心配なことだった。
「そんなの、あてにならないだろ。」
琴子の衣装を脱がせながら、直樹が言った。
「それを信じて行動したってできない時はできない。そんなもんだ。」
事もなげに言いながら、直樹はあっという間に琴子を下着姿にしてしまった。
「俺はお前と過ごしたい時は過ごしたい。お前は違うのか?」
「私は…。」
恥じらいながら、琴子は答えた。
「…私も同じです。」
琴子の返事を聞いて直樹はニヤリと笑った。
「そうだと思っていたよ。」
そして琴子の最後の一枚に手をかけようとした時、「ああ、忘れていた」とフッと明かりを吹き消したのだった。



朝になり、二人が共に朝食をとっていた時であった。
「失礼いたします。」
桔梗が部屋に入って来た。朝食を運ばせた後はできるだけ邪魔をしないようにしている桔梗らしからぬ行動であった。
「お食事中申し訳ございませぬ。」
直樹と琴子は何があったのかと顔を見合わせ、箸を置いた。
「どうした?何かあったか?」
「欅宮様が近々、宮中をご退出されるそうでございます。」
「欅宮様が?」
琴子は驚いた。
「ま、屋敷が完成すればここにいる理由もないしな。」
直樹はつまらぬことという感じであった。
「元はといえばあの婆さんがごちゃごちゃ口を出して来たから俺も惑わされた。それで琴子を傷つけてしまったんだ。惑わされた俺も悪いがな。」
改めて直樹は言った。
「本当に悪かった。」
「とんでもございません。」
こうして直樹と共に過ごせるようになったことで、琴子は幸せなのである。しかし、直樹の欅宮へ対する言葉が琴子の心にひっかかった。それに直樹は気づくことなく、「さあ、食べよう」
と箸を手にしたのだった。



「欅宮が宮中を出るって話、聞いているか?」
自分の御殿へ戻った後、直樹は鴨狩に尋ねた。
「はい。それで欅宮様よりのお言葉がございます。」
「何だ?」
「東宮様からのご挨拶は辞退されるとのことでございます。」
「頼まれたって行かないぞ。」
直樹は鼻で笑った。
「待て、桔梗はそのようなことは言っていなかったな。」
「左様でございますか。」
「やはり琴子を相手にしないつもりなのか。謝罪もしていないというのに。」
引きずって土下座させてやりたい直樹であった。琴子と過ごした楽しい気分が欅宮のことで消えてしまって不愉快であった。


「桔梗、欅宮様のところへご挨拶に行くので支度を。」
「何でございますと?」
桔梗は耳を疑った。
「なぜゆえでございます?東宮様に挨拶は不要と連絡があったとのこと。東宮妃でいらっしゃる姫様も同様でございませぬか?」
「私の元へは何も言われていないわ。」
「それは…。」
「分かっているわ。私のことを認めていらっしゃらないから。」
「正直、どの顔をして姫様にお会いされるのかと。」
「桔梗。」
琴子は忠実な女官長を睨んだ。
「そなたの言うとおり、欅宮様はとても居心地悪くいらっしゃるのでしょう。」
「自分が蒔いた種ですもの。」
また琴子に睨まれ、桔梗は口をとがらせた。
「誰にも見送られずに去られるというのは寂しいことではないのかしら?」
「自業自得」とまた言いかけた桔梗は、琴子から叱られるのを避けるため口を閉じた。
「…本当にお出かけになるのですか?」
「ええ。」
「かしこまりました。」
琴子の決意は固いと分かり、桔梗は渋々支度を始めた。



久方ぶりに訪れる鴎殿、欅宮の滞在する御殿はどことなくわびしい感じがした。宮中から忘れ去られたかのような雰囲気に、琴子はかつての自分の御殿を思い出していた。
御殿の前に立っていた女官の一人が、琴子に気づいた。
「これは…。」
一応、頭を下げたがその目は相変わらずといったところ。この御殿の女官達に君臨していた柘榴が去った今も、相変わらず琴子への態度は変化がないところが桔梗は憎らしかった。
「東宮妃様が欅宮様へのご挨拶にいらっしゃいました、取り次ぐように。」
桔梗は琴子が肩身の狭い思いをせぬよう、東宮女官長の威厳を持って命じた。女官はその迫力に押されたかのように「ただいま」と飛んで行った。
女官の態度が変わらないところから、琴子と桔梗はまた追い返されるのだろうと思いながら待っていた。
少しした後、女官が戻ってきた。
「どうぞこちらに。」
その返答に、琴子と桔梗は思わず顔を見合わせた。どうやら通されるらしい。
「参りましょう、桔梗。」
「はい、東宮妃様。」
琴子は桔梗を連れ、鴎殿へ足を踏み入れたのだった。




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最高です!!

仲睦まじい東宮夫妻いいですね~❤
めっちゃ待ってました。
春也くんの許嫁のお姫様も体調が回復して
本当に良かった。
そして小さな恋の予感も?

水玉様も体調が回復されたようで本当に良かったです!

いよいよ出てきた?ラスボス。。。
次も楽しみに待ってますね~

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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