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ステイホームする後輩





「うーむ。」
この日、琴子ちゃんは食堂で難しい顔をして考え込んでいた。
「琴子ちゃん、天ぷらそばが伸びちゃうよ。」
目の前の湯気を立てているどんぶりを見ながら、僕は話しかけた。
「あ、そうだった。いや、どうしたものかなあ。」
ズルズルとそばをすすりながら、琴子ちゃんは眉を寄せ考えている。
「何かあったの?僕で良ければ相談に乗ろうか?」
「西垣先生かあ…。」
僕を見て溜息をつく琴子ちゃん。お前じゃ役に立たないんだよと顔に書いてあるのがありありと分かった。
「ま、いっか。」
なんか僕、すごく軽く扱われるようになったなあ。
「実は悩んでいることがあるんですよ。」
「どうしたの?」
もちろん、僕はそんな琴子ちゃんの態度に左右されることなく、誠実に対応するいい先輩だ。どこぞの生意気な後輩とは全然違う。
「あのですね、なんて言うんですかね?いみょうでしたっけ?」
「いみょう?」
「むーぎわらのー」って歌っているのはあいみょん。いみょうって何だ?
「知りません?ほら、なんとかの貴公子とか、その人の特徴をあらわす呼び方。」
「ああ、異名ね。」
僕は宙で異名と漢字で書いた。
「ん?異名?」
「そうなんです。どっちがいいか迷っているんですよ。」
「どなたの異名?」
ていうか、なんで異名で琴子ちゃんが悩んでいるわけ?
「私たちです。」
「私たち?」
「一応、候補は二つに絞ったんです。ええと、まず一つ目は。」
そこまで話すと琴子ちゃんは、えびの天ぷらをがじがじと囓った。僕はそれを黙って待つ。
「斗南大病院不動のWセンター。」
「ダブル…センター…。」
「二つ目は。」
そして琴子ちゃんはズズズとそばをすする。僕はまた黙って待つ。
「外科病棟永遠のツートップ。」
「ツー…トップ…。」
「どっちがいいですか?」
「いや、ちょっと待って。」
「何です?」
「あのさ、ダブルとかツーとかついてるけど、異名ってもしかして。」
「もちろん、入江くんと私の異名ですよ。他に何があると?」
琴子ちゃんは食べ終えたどんぶりをトレーごと横にどかして、僕を見つめた。
「いや、二人一組なの?」
「だからそう言ってるじゃないですか。」
「何で二人一組なの?」
「え?まさか西垣先生…。」
琴子ちゃんが目を丸くして、僕を見る。
そりゃそうだ。斗南大を代表する二人組ならば僕と入江じゃないの?いや、入江と並ぶことは正直納得いかないけど、まあここは先輩らしく懐の深いところを…。

「いやいや、そんなおこがましい!」
琴子ちゃんが笑いながら手をブンブンと振った。
「そんな、私が入江くんを差し置いて単独トップに立とうなんて、そんな!そんなことできませんよ!!」
その自信はどこから来るのさ、琴子ちゃん。
「入江くんと私は一心同体。だから二人一組でいいんです。」
「…だったらトップとおみそとか、さ。」
「ああ?」
ポツリと呟いた僕の言葉に、琴子ちゃんの目が吊り上がった。
「…何でもないです。ツートップでもタンクトップでも琴子ちゃんの好きな方で。」
「何ですか、タンクトップって。あ、いいのが思いついちゃった!」
琴子ちゃんがポンと手を叩いた。
「斗南大外科病棟伝説のツートップ。これよくないですか?伝説ってかっこいいですよね!」
「ああ、そうねえ。というかさ。」
「まだ何か文句があるんですか?」
「いや、あいつってセンターとかトップとかいう感じじゃないなあって。」
「自分がビリドクターだからって僻むのやめていただけます?」
「いや、ビリまでいかないでしょ!」
「どうかしら?」
そこまで僕の評判落ちてるわけ?
「入江くんの実力に嫉妬しているのは知ってますけど。」
「嫉妬はしてない…とはいえないけれど!いや、そうじゃなくて!」
「じゃ、何です?」
「だから、あいつはセンターとかトップとか、そういう呼ばれ方で人の前にドーンと出る感じじゃないんじゃない?」
「誰よりも輝いてます。」
「うん、すごい自信たっぷりな琴子ちゃんの気持ちは分かる。確かに実力もある。だけどそれは何というか、裏で発揮するような?」
「裏?どこの裏?病院の裏?体育館の裏?」
「そういう現実的な裏じゃなくて。なんていうかなあ、影の実力者?」
「影の実力者?」
「そう!自分は表に出てこなくて、裏で人を動かすみたいな。ほら、昔からトップを支える頭脳派の人間とかいるじゃん。わかるかな?」
「うーん、なんとなく。」
「軍師みたいな。」
「軍手?」
「軍師ね。そういう感じ。影の宰相とか影のリーダーとか闇の権力者とか、真のボスはお前だったか!と指摘されるような感じじゃない?」
「…だんだん、悪役めいてきてませんか?」
ドキッ。ちょっとばれた?いや、あいつラスボスって表現がピッタリだなと密かに思ってたんだけど。
「気のせい、気のせい。それよりどう?影で人を操る男とかかっこいいじゃん。」
「うーん、格好悪いとはいいませんけれど。入江くんが影の男ねえ…。」
顎に拳を当てて考える琴子ちゃん。
「そうなると、私は影の女…あっ!日陰の女!」
「日陰の女!?」
「ちょっとミステリアスでいいかも!うん、私は日陰の女!影の男の妻は日陰の女!いいかも!」
「いや琴子ちゃん、その使い方は間違ってるかと。」
「日陰の女~私は日陰の女~。」
高らかに歌う琴子ちゃん。そんな堂々と名乗る日陰の女はいない!
「違うって。日陰の女はそういうことしないの!」
「あ、もう時間だ!」
琴子ちゃんはパタパタと走って食堂を出て行った。やれやれ、忙しい子だな。
さて、僕もそろそろ…。
「西垣先生!食べたらちゃんと食器戻して!ここはセルフなんですよ!」
食堂の人の声に僕は「え?」となった。僕、何も食べてない…あーっ!!
僕の前には、琴子ちゃんが置いて行ったどんぶりが。琴子ちゃん、食べたものはちゃんと戻さないと!
「先生、ちゃんと戻す!」
「はい、はい。」
僕は琴子ちゃんの後片付けをしたのだった…。




「あ、西垣先生。先程はどうも。」
「ああ、お疲れ、琴子ちゃん。」
それから1時間後、僕は琴子ちゃんとスタッフステーションで再会した。もちろん、琴子ちゃんの食器を片付けたことをチクチクと言ったりはしない。僕は器の大きな外科医だから。
「そういえば今日は入江は休みだったね。」
「そうなんです。さっき、何をしているかなって連絡したら写真送ってくれました。」
写真って遠距離夫婦じゃあるまいし。帰ったら顔を合わせてウフーン、アハーンってするくせに。
「入江くんがステイホームしてるところ、見ます?」
と言いつつ、見ないという答えをする余地はない雰囲気。
「どれどれ。」
僕は琴子ちゃんが出した写真を見た。
「ええと…これは一体?」
僕は目が点になった。そこに写っていたものは、あの後輩がソファでくつろぎながら、アーマライトM16を手入れしていた!
え?あいつ、カミングアウトしちゃったの?俺、時々依頼されて患者のお尻にスナイパーしてるってカミングアウト?
「琴子ちゃん、これ何をしてると…思う?」
僕は恐る恐る琴子ちゃんに聞いた。
「何って…猟銃の手入れでしょ?見れば分かるじゃないですか。」
「猟銃!?」
これが?
「入江くん、ボランティアで時々出かけるからどんなボランティアなのって聞いたんです。そしたら依頼を受けて害獣駆除してるって。それで猟銃使ってるんですよ。ほら、そばにちゃんと猟犬もいるでしょ?」
琴子ちゃんが指をさした先には入江家の愛犬、チビが鎮座している。
「もう入江くん、本当にボランティア好きなんですよね。国際的な医療ボランティアにも参加してるし、こうやって害獣駆除ボランティアも。」
誇らしげな琴子ちゃん。
いや、琴子ちゃん!猟にこんな自動小銃は使わないし!あとチビが猟犬できないし!チビは猟犬の反対、遭難救助犬だから!
あとさ、大事なところ!ボランティア!?あいつ、ボランティアなんて全然してない!ボランティアの正反対、高額な料金せしめて患者の尻にアーマライトぶっぱなしてるんだってば!
「琴子ちゃんが何も知らないからと言って…すごすぎる。」
「ああ?」
再び琴子ちゃんがギロリと僕を睨んでくる。
「いえ、その…立派だなあと。はい。」
「でしょう?少しは見習った方がいいですよ。」
「そうですね、はい。」
何も言ってはいけない。余計なことを言ったら明日、僕の身に恐ろしいことが起きることは間違いない。
「日陰の女~私は日陰に生きる日陰の女~。」
琴子ちゃんは自作の歌を歌っている。

「あ、そうだ。入江くん、そろそろ健康診断とか言ってたな。」
「健康診断?職員の健康診断はまだ先じゃ。」
「違います。入江くんは誰よりも体調管理に気を配っていて、自分でお医者さんを探して来て受けているんです。」
「自費かよ。」
やっぱり稼いでいる奴は違うな。
「入江くんが真剣だから、相手も真剣で。」
「だろうね。」
「何年か前、入江くんの歯が虫歯じゃってことがあったんです。」
「へえ。」
「でも誤診だったんですけどね。そしたら、その歯医者さん閉院しちゃって。」
「閉院!?」
「入江くんの誤診の責任取ったみたいで。そこまでしなくてもいいのにねえって言ったら、入江くんはフッと笑ってました。」
そ、それって…あいつの体を診察した医者は異常を発見したら口止めの意味を込めて消され…いやいや、それ以上言ったら僕の身に危険が及ぶ!ゴルゴ入江の健康はトップシークレットってことか。
「だから西垣先生も、入江くんの体に何か変なことしたら消えちゃいますよ。」
「その言い方、誤解を生むからやめて。」
なんか僕があいつに邪なことをするみたいじゃないか。あいつの体には指一本触れたくないね!

とにかく、今日も斗南大外科病棟の影の男と日陰の女は元気だということだ。
…ていうか、今思いだしたけどさ!あいつはもう「ゴルゴ入江」という立派な異名があるじゃんよ!



☆どうでもいい豆知識
本家のゴルゴが次回から休載で、その代わりに再掲される作品は「病原体・レベル4」という話なのですが、これはゴルゴが船内でエボラ出血熱に感染しちゃうけど、乗り合わせていた猿から血清を作って自分を治療した上、その使用済み注射器を残して立ち去り、「ゴルゴ13は身をもって1240名の乗客を救ったのかも」と医者に言わしめるエピソードでございます。
あと、ゴルゴはプライベートタイムに船に全ての診療科の医師を集めて健康診断しております。何か異常があったらその診断をした医師を秘密を守る為に…ということらしいです。

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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