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大蛇森の研修





独身の天才脳神経外科医が、休日に何をしているか君たちはご存知だろうか?
『頼られる中堅医師のアップデート講座へようこそ』
タブレットから流れてくる音声が聞こえるだろうか。どこかの能なし役立たずナースと違い、寝て食ってとダラダラ過ごしているわけではない。
「紅顔の美少年」と呼ばれた僕も、そろそろ渋みを増したダンディな年頃になった。医師としても中堅と呼ばれる年頃。手術の腕がいいだけでは務まらない年齢だ。
そこで僕は休暇を利用し、オンラインで講座を受講しているわけだ。まったく本当に僕という人間は勉強が好きだ。勉強以外の趣味に費やしてもいいとは思うのだが、あの入江先生だってきっと今頃は勉強をしているだろうから一緒、一緒。
『共に働くナースとの接し方を見直してみましょう』
ハンッ!!見直す必要もないがね!共に働きたくて働いているわけじゃないわっ!でもまあ、見ておいた方がいいだろう。ここでちゃんと学んでおいて実践すれば入江先生も感心してくれるかもしれない。

―― 大蛇森先生、ナースとの連帯が素晴らしいですね。
―― いやあ、入江先生。そんなことないよ。
―― 最近は色々と誤解されるから、僕など接し方が難しくて。
―― ああ、そうだねえ。
―― 先生、どうか僕にご教授下さいませんか?
―― もちろんさ。
――…今夜は一晩空いているんです(ポッと頬を染める入江先生)。
―― いいんかい?


くぅっ!!!最高じゃないか!!いつ先生が来てもいいように部屋はピカピカに磨き上げている。そう、あの幼児が得意げに作る泥団子のごとくピカピカなツルリンパなチンチクリンの脳みそにも負けないくらいピカピカ!
あ、ベッドメイクを忘れずに。ええと、シーツはこっち、枕は二つ…バスローブと。

『ここで飽きたそこのあなた!中堅医師として頼られたくないのですか!』
「す、すみません!」
さすが人気のあるオンライン講座。ちゃんと受講生が飽きるタイミングを見計らって掛け声を忘れない…危ない、危ない。



ということで、翌日。
早速あの講座の実践をする時がやってきたようだ。

「…遅い!」
僕は時計を見て足をパタパタと動かした。検査の時間が過ぎているじゃないか!いつまで待たせるんだ!患者はどこへ行ったんだ!!

「す、すみません!!」
「また君か!」
車椅子の患者と共に姿を見せたのはチンチクリンだった。まったくまたかよっ!
「すみません!あのちょっと迷ってしまって。」
「迷ったって…。」
「いえ、私も新人とは違って把握しているんですよ?でも、最近病院少しずつ工事しているじゃないですか。いつもの通路が通行止めになっていたりして迂回することになって、そうすると分からなくなって…。」
あれこれと言い訳をするチンチクリン。
「工事で通行止めってそんなの…いや、確かにそれは迷うだろう、うん。」
危ない、危ない。いつものように怒鳴るところだった。僕は大人の渋さを醸し出す中堅天才脳神経外科医。昨日の講座を実践せねば。
「大蛇森先生?」
ほら、見るがいい。チンチクリンが僕を尊敬の眼差しで見つめている。フフフ、これがお前と僕の出来の違いだ。
「とにかく、こちらの患者さんは検査は午後ということで…。」
「えっ!それはちょっと待って下さい!」
「あ?」
遅れたくせに何をのたまっているんだ、このチンチクリンは。
「患者さん、ずっと朝から食事してないんです。せめて、午前の最後には…。」
「午前の最後って君ねえ!…いや、まあそうだな。食事抜きはきついものだ。」
危ない、また怒鳴るところだった。
「…まあ、1時間後に何とかねじ込めそうだ。」
スケジュールを確認して僕が答えると、「ねじ込める…」と患者さんが呟くのが聞こえた。患者の前ではちょっと言葉遣いが悪かったか。
「そうですか!よかった、鈴木さん!大蛇森先生が何とかねじ込んでくれるどうです!」
「ねじ込むってその言い方は!!…って僕が先に言ったから仕方がない。」
「…大蛇森先生?」
フフフ、漸く僕の本当の姿がこの脳みそツルリンパのチンチクリンにも見えてきたらしい。どうだ、僕は出来る医師なんだ。
「時を戻そう。」
僕は話を元に戻すことにした。うん、しゃれた言い回しだな。
「鈴木さんは午前の最後の検査に。今度こそ遅れないように。」
「はい、分かりました。」
何と、チンチクリンと出会って以来初めて事がスムーズに進んだじゃないか。研修はぴったりだったのだ!


「入江くん、お疲れ様!」
その日の午後、僕は処置を終える入江先生を待ち伏せしていた。が、一足早くチンチクリンが来てしまった。
全く検査には遅れてくるくせに、あいつはこういう時はきっちりタイミングを合わせてくるんだな!
「お前は仕事はいいのか?」
「うん、今ちょうど一息ついたところ。あのね、ちょっと相談があるんだけど。」
「相談?」
「大蛇森先生のこと。」
何だと?僕は耳を顔よりも大きくして構えた。あのチンチクリンが僕の相談を入江先生に!

…なるほど、なるほど。これはこういうことだな。
午前中、僕の懐の深さに感銘を受けたチンチクリンは決意したのだな。

―― 大蛇森先生、私の愚かな過ちを全て笑顔で許してくれたの。
―― あの先生の優しさに今ごろ気づいたのか、本当に愚か者はお前だ。
―― そうね。私って本当に愚かだったわ。とても大蛇森先生にかなわない。性格も技術も顔も。
―― ああ、そうだ。鏡をよく見て来い。
―― 見なくても分かるわ。私って心の醜さが顔に出てきているの、こんな顔で堂々と外を歩いていたなんて恥ずかしい。
―― まあ、そんな顔なんだからしょうがねえだろ。で、何だよ、懺悔をしに来たのか。
―― 違うわ。もうこんな私は入江くんの側にいる資格がないと思うの。だから…別れましょう。ううん、別れて下さい。
―― …いいのか?
―― いいわ。私には入江くんの側にいる資格はない。今になって気がついたの。入江くん、私と一緒にいてくれたのはボランティア精神からなんでしょう?自分が引き取らないと私の被害者が増えると思って犠牲になってくれたのよね?
―― いいんだ、俺は。
―― よくないわ。入江くんは入江くんの幸せを見つけるべきよ。大蛇森先生と幸せになって。さようなら、入江くん。

チンチクリン、やっと分かったか!!!よっしゃあ!!僕はサイレントガッツポーズを取った!
よし、よし、よし!!早く、早く言え!!早く言えぇぇぇぇぇ!!

「大蛇森先生がどうしたってんだ?」
ああ、きっと今ごろ入江先生の心臓ははちきれんばかりに激しい鼓動を打っているんだろう。
「あのね、あの先生なんだけど…。」
続き、続きをカモーン!!!
「漫才を始めたんだよね?」
「漫才?」
漫才?
僕もつい、入江先生と同じことを繰り返してしまった。
「何を言ってるんだ、お前?」
そうだ、何をいってるんだ、チンチクリン。
「だって、今日も私のこと叱るかと思ったら変な言い回ししてさ。」
「また叱られることしたのか。」
「それは後で説明する。」
いや、今説明しろよ。
「それは置いておいて。とにかく突然漫才始めたのよね。どこかで聞いた言い回しだと思ったらあれよ、あれ。ぺ○ぱ!」
「ぺこ○?」
○こぱって、何だよ、おい。
「そう!あの突っ込まない漫才ってやつ?そんな感じなの。あの人、今度は何を見たのよ。いや、私たちがこんなに忙しいのに呑気にお笑い見てたわけ?休みとはいえ勉強しなさいよ!」
お前にだけは言われたくはない!!
そもそもなんだよ、ぺ○ぱって?訳のわからないことを言ってるのはお前だ、チンチクリン。誰が漫才してるって?僕は休みを費やして研修を受けて…叱るばかりがいいわけじゃない、怒鳴りたいのをぐっと堪えろって言うから、堪えた結果があれだ!
「時を戻そうとか、言ってるし。」
「言わせておけばいいだろ。」
ああ、入江先生。やはり僕の本心を分かってくれている。チンチクリンのふざけた訴えに耳を貸さない。
「そう?まあ、いいけれど。それで相談なんだけどね。」
よし、本題へ入るか?
「大蛇森先生がああ言うなら、私も“琴子でーす”ってポーズ取って合わせた方がいいのかしらね?」
チンチクリンは両手を交差させ、それぞれの人差し指を頬へ近づけておどけていた。

…知らねえよっ!!!!!

結果としてあの能みそ泥団子ツルリンパのチンチクリンには僕の気持ちが何一つ理解されていなかったわけで。本当にあの研修、全く役に立たなかった。
いや本当は役に立つのだろう。が、チンチクリンのような低能の中の低能ナースには意味をなさないのだろう。スーパーウルトラ研修が出来上がるのを待つしかない。
今日帰宅したらあのオンライン講座は早速解約しよう…と、忘れるところだった。
僕は先生が置いて行ったボールペンを、指紋も何も付けぬよう、いつも持ち歩いている白手袋でそっと持ち上げた。それを密閉ポリ袋へ入れる。まるで犯行現場から遺留品を集めているかのようだ。
危ない、危ない。入江先生の使用済みボールペンを手に入れるのを忘れるところだった。
さ、貴重なコレクションを肴に今日はワインで疲れを取ろう。



☆この話を書こうと思った前に、時を戻したい…。




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